「非常時以外のドラゴンダイブは禁止です!」
 帰るなり、リュウはクピトに大目玉を食らうはめになった。
 どうも訓練でD化したのが悪かったようだ。ヒトを怖がらせるから駄目なのだそうだ。
 でも、それに関してはリュウはちょっと異議があったので、控えめにぼそぼそ反論した。
「で、でも……あのね、友達、おれのこと怖くないって言ってくれたよ」
「何がなんでも駄目です。非常時以外は使わないこと。いいですね」
「……はーい……」
 リュウはしゅんとした。
 お仕置きで、水がいっぱいに張られたセントラルの備品のバケツを両手に持ち、頭の上にも一個乗っけて、廊下に立たされてしまった。なんだかあんまり昔と変わらないような気がする。
「閉館まで、そのままでいてください。いいですね?」
「う、うー……がんばるよ」
 リュウは頷いたが、その拍子に頭の上のバケツを落っことして、ばしゃん、と上から水を被ってしまった。
 びしょ濡れだ。冷たくて、リュウはへなへなとその場にへたりこんでしまった。
「う……つ、つめたい……ご、ごめんなさい」
「あなた、ほんとにそういうところ、父親譲りですね……もういいですから、シャワーを浴びてきてください。風邪をひきますから……でも、これからダイブはほんとに禁止です。いいですね?」
「う、うん」
 リュウはこくこくと頷いて、気をつけるよと言った。
 じゃあ仕事に戻りますからと言って、クピトはリュウの頭を撫でた。
 良く考えてみるとリュウの方がいくらか年上だとは思うのだけど、生まれた時から面倒を見てもらっているのだ。
 これは子供扱いされたってしょうがないかもしれない。
 リュウはふとクピトの言葉に気になるところがあって、質問を投げ掛けた。
「あの、ねえ? おれの父ちゃんて?」
「ああ、まあ……」
 クピトは、なんだかまずったという顔をしたが、肩を竦めて、そーいう人です、と言った。
 リュウは良くわからなかったが、ふうんと頷いた。
 リュウの父ちゃんは、良く知らないが、バケツを持って立たされて、バランスを崩して頭から水を被ってしまう人だったらしい。


◆◇◆


「た、ただいまー……」
 おずおずと、リュウはボッシュの部屋のドアを開けた。
 ずぶぬれのままなので、こんなところをボッシュに見つかったりしたら――――リュウはひやひやとした。心配性のボッシュのことだ。貧血を起こしてしまうかもしれない。
 間の悪いことに、執務を終えたボッシュは帰っていて、ネクタイを解いているところだったが――――濡れ鼠のリュウを見て、顔色を変えた。
「に、兄さまっ?! ど、どーしたんだよ、それ!」
「あ、え、うん。ちょっと、へまやっちゃって」
 リュウは苦笑いして、なんでもないから心配しないでね、と言った。
 でも、ボッシュはごまかされてくれなかった。
 強張った顔で、あんたの心配しないでとか大丈夫とかぜんぜん信用ならないんだ、と言った。
 ボッシュはぎゅーっとリュウを抱き締めて、肩に顔を埋めた。
「なあ……あんたをベッドに縛り付けてさ。絶対に外へ出て無茶なことをしないようにさせようかって、たまに考えることがあるんだけど」
「う」
 リュウは口篭もって、ごめんね、と言った。
「おれ、こんなにボッシュに心配かけて、だめだなあ……兄ちゃんなのに」
 そして緩く首を振って、シャワー浴びてくるね、と言った。


◆◇◆


 それでまた、こういうわけなのである。
 リュウは既視感を拭えなかった。おんなじことが、今朝にもあったような気がする。
 リュウはベッドの上にいた。手足を広げて寝かされて、上にはボッシュが乗っかっている。
 リュウが硬直していると、ボッシュは、これで満足だろ、と言った。
「文句はないよな、兄さま。夜まで待ったし、シャワーも待った。おあずけだ。邪魔者も今度こそいない。あんたの心の準備も、今日一日あったんだ。充分だろ?」
「ええと……うん、そうだねえ」
 リュウはしどろもどろになって頷いた。
 確かに条件はクリアしているように見えた。どこも問題はない。完璧だ。怖くなるくらいに。
 リュウは視線をふらふらとさせながら、ボッシュを見上げて、むりしないで、と言った。
「あ、あの、おれなんてあんまり美味しくないかもしれないけど……その、あんまり顔も自慢できたもんじゃないし、男だったし……あ、あの、ボッシュ? いやなら、やめてもだいじょうぶだからね。そのっ、痛かったり気持ち悪かったりとかしたら」
「そんなことあるわけない」
 ボッシュは、リュウの額にちゅっとキスをくれた。
 思わず首を竦めてしまうと、ボッシュはちょっと笑って、リュウの耳元であんたほんとかわいいねと囁いた。
そういうふうに、ちょっと掠れた声で、囁かないでいただきたい……ただでさえ、ボッシュは美人で、背が高くて、格好良いのだから。
 弟がそんなふうだと、一応兄であるリュウは、なんだか自分が情けなくなってしまうのだった。
「お、おれ、その、あの……うー、が、がんばるね、ボッシュ!」
 精一杯で意気込んで言うと、ボッシュはなんだかニヤニヤしながら――――ちょっとやらしい顔だと思う――――期待してますよお兄様、と言った。なんだかバカにされてるような気がする。
「ボ、ボッシュ? し、信じてない。おれだって、その、兄ちゃんなんだから……なんだって、できるよ。してあげる」
「ハイハイ、すごく嬉しい」
「うっ、ボ、ボッシュってば」
 リュウは、め、とボッシュのほっぺたをひっぱった。
 ほんとに、ぜんぜん信じてくれてない。
 確かに死ぬ程恥ずかしいけれど、こんなのボッシュが喜んでくれるなら、なんてことはないのだ。
 そうやっている間にも、ボッシュは手際良くリュウの服を引っぺがしていく。
 たまにリュウの髪をかぷっと食んで、いい匂いがする、と言った。
「なんかほんと、限界とかとっくに過ぎてたんだけど。何年待ったんだか」
 ボッシュはちょっと呆れたみたいに言って、でもあんたが帰ってきてくれて嬉しいよ、と言った。
「俺の子供とか、産んでくれるだろ? 兄さま」
「こ、こっ?」
 リュウはびっくりして目を白黒させて、はっと思い当たった。
 そうだ、ボッシュは男で、リュウは兄のはずがなんだか女の子なのだった。おかしなことになっているのだ。
「な、え、あ……」
 そこでふっと気付いた。
 なんで女の子なんだろうと思ってたけど、ボッシュはほんとは、そーいうことがしたかったんじゃあないだろうか。
 つまり、おっきな家に二人で住んで、かわいい子供といっしょに仔ナゲットでも飼って過ごしたりだ。
 お嫁さんにしてあげるって、「ごっこ」じゃなくって、ほんとにそうなってしまう。幼いころの約束のそのままに。
 ほんとにリュウの身体がそういうことに使えるのかは、わからないが――――なにせいろいろといじくられて、まともな身体ではなくなってしまった。
 女の子っていうのも、見た目だけのことなのかもしれない。
 でもリュウはこくこくと頷いて、ボッシュにぎゅーっと抱き付いて、だいすきだよ、と言った。
「おっ、おれ、お嫁さんがんばるよ。ボッシュにごはん、つくったげる……ね、火と包丁、触ってもだいじょうぶだよ。気をつけるし、怪我なんかしない。おれね、お屋敷で、いっぱい頑張って修行したんだ。だがらぜんぜんへいきだよ」
 リュウは、だからおれのことそんな心配しなくて大丈夫だよ、と言った。
「ドラゴンだよ。ボッシュといっしょだ、わりと強いんだよおれ。転んだって階段から落ちたってあんまり怪我とかしなくなったし、もしいつか何かがあってまた死んじゃったとしても――――いやえと、そんなことないからそんな泣きそうな顔しないで。たとえばだよ、ね? もしそうなっても、おれは絶対ボッシュのとこに帰ってくるよ。ぜったい、これは約束する。ぜったいおれはボッシュを独りぼっちにしない」
 ボッシュはあまり信じていないようだったけれど――――無理もない、何年もずーっとすごくさみしい想いをさせてしまったので――――頷いて、じゃあそれ約束してくれ、と言った。
「今度こそ俺を独りにしないって。兄さまが俺とずーっと一緒にいるってさ。今まで守ったものも、守れなかったのも、全部チャラだ。全部、いいから――――
 ボッシュはリュウを抱き締めて、胸に顔を埋めて、言った。
「ずーっとそばにいてくれ、兄さま。俺はほかになんにもいらない」
「うん、約束……」
 リュウはボッシュの頭を、いいこだね、と撫でてあげた。
 そして約束の証明に、ボッシュにちゅっとキスをしてあげた。
 ボッシュは赤い顔でリュウをぽーっと見ていたが(ボッシュは色がすごく白いので、ほっぺたが赤くなると、すぐにわかるのだ)やがてまたのろのろとリュウの服を剥がして、裸にしてしまった。
「うー……」
 リュウは眉を顰めて、ボッシュの手が尻を触って、撫でるのを感じていた。
 きゅっと目を瞑り、弱々しくボッシュの上着の裾を掴んだ。
「やっ、やらしいよお……急に、そんなとこっ……」
「きもちいの、兄さま」
 ボッシュは意地悪な調子で、そんなことを言った。
 リュウはかあっと顔を赤らめた。そういうふうな訊き方をされると、なんだかリュウのほうがやらしいみたいじゃあないか。
 いや、そうなのかもしれないけれど……それでも恥ずかしかった。こういうことは慣れないのだ。
「う、あ……んんんっ、んー……」
 脚の間の敏感なところを、きゅーっと擦られる。そうすると、身体がびくっと跳ねた。
 頭で思っていることが上手く身体に伝わらずに、身体だけで動いている感じだった。
 気持ち良いっていうのかは、わからなかった。
 ただ息がうまくできなくて、もどかしくて、苦しい。
「兄さま……」
 がちゃっとベルトが外れる音がした。
 涙目で顔を上げると、なんていうか、その……ボッシュが成長してるのは、身長とか、体格とか、それだけじゃなかった。大人だ、うん。
 リュウはざあっと頭に血が上ってしまって、首を弱々しく揺らして、震えた。
「えっと……ソレ、おれのっ、おなかのなかにいれるの……?」
 リュウは緊張して、びくびくしてしまった。ボッシュと自分の身体を比べてみると、まるで大人と子供だ。
 頭の中身は大人だけど、身体のほうがついてきていないのだ。
「ぼ、ぼしゅっ……無理じゃ、ないかなあ……」
 リュウは、おずおずとボッシュに訴えた。
「おれっ、その、そんなおっきいの……こ、こわれちゃうと……」
「……なんか俺、ガマンできそうにないんだけど」
 ボッシュはやると言ったらやる子なのだ。
 リュウの頭の中では、がんがんと鐘がなっていた。心臓の音が激しく鳴り響いて、頭骨のなかで響き渡っているのだ。
「駄目?」
「だっ、だめなわけっ」
 ない、と言い掛けたところで、両足を抱え上げられて、リュウはひゃっと息を呑んだ。
「ちゃんと慣らしてあげるよ、兄さま。なるだけ痛くないようにさ」
「う、うん……」
 リュウは俯いて頷いて、注射を待つ子供みたいに顔を強張らせ、目をぎゅっと閉じた。
「ひゃ……」
 まず、身体を開かれるぴりっとした痛みがあった。
 ボッシュの指が、リュウのなかへ少しずつ侵入してきた。
「いっ、い……うー……」
 なんだかもう世界が終わりそうな痛みが、リュウに訪れた。
 身体が割れそうだ。
 でも、まだぜんぜんこの先にすごいことがあるのだ。
 リュウはぎゅっとボッシュにしがみついて、かぼそく訴えた。
「ぼ、ぼしゅっ……い、いや、いた、死んじゃう……」
「指一本もまだだよ、兄さま」
 がんばって、と言われた。
 リュウが息を止めて歯を食いしばっていると、瞼にちゅっとボッシュのキスが降ってきた。
 それで一瞬ふっと力が抜けてしまうと、ボッシュの指が、急に奥までずるっと潜り込んできた。
「わあっ……あ、ああっ!」
 ボッシュは何度かリュウの中で指を動かして慣らして、出したり入れたりしていたけれど、ほんとにこれ、ちょっときついね、と言った。
「あんたの中、ちっちゃ過ぎ。キツイよ」
「うあっ、ご、ごめんねえっ、ぼしゅう……おれ、だめな……」
 だめな兄ちゃんだと言い掛けたところで、唇にキスをされた。
 そのまま、舌を口の中まで入れられて、ぐるぐる掻き混ぜられた。
 リュウは呼吸ができないまま、真っ赤な顔でボッシュを受け入れた。
 柔らかい舌が、口のなかを隅々まで舐めていく。背中が、ぞくぞくした。
 ボッシュの味は、なんだか甘くて……リュウはそこで、眉を顰めた。
 甘い小さなカタマリが、口移しでリュウの喉に流し込まれたのだ。
 目で、これなに、と訴えると、ボッシュは唇を離して、にっと笑った。
 あんまりたちの良くない笑い方だ。
「イイモノだよ、兄さま。効いてくるまでに、もうちょっと柔らかくしといたほうがいいかも」
 ボッシュはそう言って、またリュウの中で指を動かした。
 まだ痛いけど、さっきよりも大分出入りが滑らかになってきたみたいだ。
「あ……はう、うー……」
 ぐちゅっ、と濡れた音が、小さく鳴りはじめた。
 恐る恐る目を開けると、ボッシュがリュウのほっぺたにちゅっとキスをして、濡れてきたよ兄さま、と言った。
「そっ、そん、そんなことお、いわっ、いわないでえ……」
 舌が上手く回らない。
 なんだかぴりぴりしている。
 変だなあと思っていると、ボッシュが、効いてきたみたい、と言った。
「んん……な、なにこれ……・?」
「大丈夫、兄さま。気持ち良くなる薬だよ。そのままじゃ辛いだろ?」
「はう……」
 リュウはこくっと頷いて、足を広げた。
 痛みは、もうあんまりなかった。
 慣らされたのか、薬が効いているのかは良くわからない。
「ぼ、しゅっ、んん、あつい、よお……」
 リュウが潤んだ目で見上げると、ボッシュはぽーっとした顔をして、もうそろそろいいね、と言った。
 リュウの太腿を掴んで広げさせて、股座を摺り寄せて、額と額をこつんと合わせた。
「……きっと、すぐに慣れるよ。はじめはちょっと、痛いかもしれないけど……」
 我慢して兄さま、とボッシュが言った。
 リュウはこくっと頷いた。
 ボッシュのが、まだかたいところを押し開けて、リュウの中へ入ってきた。
 ぐっときつく押し付けられて、挿入はひどい痛みを伴うものだった。
「あ、あううう……! うう、うー……っ!」
 もうほんとうに、世界が二三度終わったって良いくらいの痛みだ。
 リュウは足をじたばたさせたが、ボッシュが許してくれる気配はなかった。
 半ばまで押し込んでしまって、そこで止まった。
「やっぱ、ちっちゃいね、あんた……っ、キツイ、これ以上、入らないよ」
 ボッシュはそこで、腰を動かしはじめた。
 リュウは挿入のショックで、声も出せなかった。
 ボッシュが中を擦り上げるたびに、全身ががくがくと揺らされる。
 なにせ、体格が違い過ぎるのだ。まるで大人と子供だ。
「兄さま……っ」
 でも、ボッシュにしたって余裕はないみたいだった。
 ずうっと我慢してきたんだと言っていた。
 リュウは死に掛けみたいな呼吸を続けながら、奇妙な感覚を味わっていた。
 痛い。死にそうなくらい痛い。いや、もう死んじゃうかもしれない、本当に。
 でも、痛いはずなのに、身体の奥の方にぽっと火が灯ったようにあったかいのだ。
 ボッシュがなかにいるからかもしれない。
 さっきの薬が効いてきたのかもしれない。
 リュウは口を開けて、短い呼吸を繰り返した。
「あ、あ、あっ……ああ」
 擦られて揺らされているうちに、はじめはとても入らないだろうと思っていたボッシュの性器が、根本までリュウの中に呑み込まれて、見えなくなってしまった。
「兄、さまっ……なか、あったかいよ、すごい……」
「あ、んんん、ふあ、あ、あっ」
 奥まで届くと、ボッシュは動くのをやめて、リュウをぎゅうっと抱きしめた。
 繋がっているせいで、それはどんな時よりも、ずうっと近くにいるようだった。
 ボッシュが中にいるそこから、じわじわと熱が生まれて、リュウを支配しはじめた。
 奇妙な熱だった。
 ぽーっとなって、痛いはずなのに、それがなんだか別の感覚に変わっていくのだ。
「あ、いや……ぼしゅ、うっ」
 リュウは腰を動かして、その感触の正体を探ろうとした。
 その答えは、擦れたところが熱く潤みはじめることでわかった。
(おれっ……きもちいいの、これ……?)
 リュウはぼんやりと理解して、ぎゅっとボッシュを抱き返した。
 深く繋がって、すごくボッシュがそばにいるってことを感じられた。
「……兄さま、まだ、痛い?」
「んっ、んんん……」
 リュウはふるふると首を振って、ね、もっと、と言った。
「ぼしゅ……あああ、なか、もっと、きもちよくして……」
「あ、ああ」
 ボッシュが真っ赤な顔で頷いて、兄さまやらしいよ、と言った。
 リュウはなにか言おうとしたけれど、ボッシュが動き始めると、仰け反って悲鳴みたいな喘ぎ声を上げてしまったので、ああほんとおれはボッシュの言うとおりやらしいんだ、と自覚してしまった。
「ああああ、ひゃ、あああん……ああっ、はずか、し、よお、ぼしゅう……」
「兄さまっ……」
 腰を両手で掴まれて、すごく激しく突き上げられた。
 がくがく揺さ振られながら、どんどんなんにも考えられなくなってく、とリュウは思った。
 大好きな弟と、すごく恥ずかしいけどきもちいことをしているんだと思うと、おなかの下のほうがぎゅうっと締まるような感触があった。
 そのままどんどん頭の中が白くなっていく。
「ぎゅーって、締まってきたね……もうイキそうなの?」
 ボッシュの声が聞こえる。
 良くわからなかったけど、リュウはボッシュがもっと奥へ来てくれるように、腰を揺らした。
「あっ、あっ、こんなっ……だめ、おれ、えっ」
 抱え上げられた脚が、ボッシュに貫かれるたびに、がくがくと揺れた。
 リュウはボッシュにしがみついたまま、きもちいよお、と泣いた。
「兄さま、好きだ、かわいいよ……」
 ボッシュの声がすぐ耳の近くで聞こえて、お腹の中にあったかい何かが注がれたのを知った。
 リュウは震えながら、それを感じていた。
 なんにも考えられない頭で唯一思ったことはと言えば、ああこれでおれ、もしちゃんとした女の子なんだとしたら、ボッシュの赤ちゃんできちゃうかもしれないなあ、ってことだった。


 ことが終わっても、ボッシュはリュウを離してくれなかった。
 ずーっと待ってたんだ、と言った。ちょっとやそっとじゃあ満足できない。
「俺、できればあんたとずーっと繋がってたいんだけど」
「……。 おれ、そんな、なったら、ほんとにおかしくなっちゃうよお……」
 ボッシュの膝の上に乗って、まだ身体を繋げたまま、リュウは生気のない声でぼそぼそ言った。ちょっと涙声だ。
 後ろから抱きすくめられて、ぺたぺた胸を触られている――――ぺったんこなので、触ってもなにも面白いところはないと思うが――――リュウは時折乳首を責められ、呼吸を荒げながら、真っ赤な顔でいた。
 ボッシュはそうやってリュウをいじめながら、それもいいかも、と言った。
「おかしくなっちゃったあんたとずーっとこうやってるんだ。きっとずーっとすごく気持ち良いよ。してる時のあんた、すごく可愛いし」
「んっ、んん」
 ボッシュの口調はあんまり、冗談って感じでもなかった。
 リュウは困ってしまったが、頷いて、うん、と言った。
「ぼしゅ、あっ、そ、したいなら……おれっ」
 おれおかしくなっちゃってもいいよ、とリュウは言った。
 ボッシュはにやっと笑って、リュウの尻を掴んで、ぐっと奥まで深く繋げた。
「あ、あああっ!」
「……それもいいけど、あんたの笑った顔も好きだし、あんたの作った飯も食いたいし、いっぱいやりたいことがあるんだ。まあ、そのうち」
「そのうちおれ、おかしくなっちゃうの?」
「さあ、どうだろうね。……もっかい気持ち良くなろうか、兄さま」
 ボッシュはリュウの胸を抱えたまま、うつ伏せに押し倒して、四つん這いにさせた。
「あ……あっ、あ、あああん、きっ、きもち……」
 きもちいよう、とリュウは呟いて、動物みたいな体勢で繋がったまま、よがり、背中を逸らせた。
 ボッシュが満足そうに、こんなかわいいあんたを見れるなら、やっぱり空開いて良かったかもね、と言った。
 その言葉は冗談めいていたが、ボッシュはあんまりそういう冗談は言わない子なのだということをリュウは知っていたので、顔を真っ赤にして、なにいってんの、と言った。


◆◇◆


「だからダイブ禁止だって言ってるじゃあないですか……!」
 クピトの怒声が聞こえるが、今日は目を瞑っていただくことにしようと、リュウは思った。
 ドラゴナイズド・フォームというものは便利なもので、人間形態時に前後不覚に陥るような重症を負っていたとしても、大体は脅威の再生能力で回復してしまう。それがどういう種類の不具合であったってそうだ。
 そんな訳で、朝からリュウは角を生やしてレンジャージャケットに袖を通した。これから仕事だ。羽根は邪魔なのでしまっておいた。
 ボッシュはオリジンの執務に取り掛かり、御印の判子を押している。
 いつもはぶつぶつ文句を言いながら退屈そうにしているのに、今日はやけに機嫌が良いみたいだ。
「兄さま、気をつけて。変なやつについてくんじゃないよ。危ないこともしちゃあだめだ。なんかされたらすぐに言いなよ、それなりの報復はしてやるからさ」
『……うー』
 リュウは原型がベッドから起き上がれないどころか、指一本動かせないひどい状態だっていうのに、ボッシュだけ元気っていうのは、なんだか不公平だ。
『ううう、い、いてきす……』
「そもそもあなた、D化したらまともに言葉も話せないんじゃあないですか……」
「今日一日休みやいいのにさ。誰にも文句は言わせないし」
 クピトが呆れたように言う横で、ボッシュがちょっと口を尖らせて、そう言った。
「兄さまがいなきゃつまんないよ」
『だ、め。おれ、はやくすごれんじゃー、なる』
 もういい大人なのに、子供みたいなことを言うボッシュに、リュウは首をふるふる振って答えた。
『いちば、つよいの……ぼしゅ、まもたげる。おれ、兄ちゃ』
 なんだか声を出しにくい……ちゃんと喋ってるはずなのに、ちょっと気を緩めると「うう」とか「ぐるる」とかいう、獣の唸る声みたいになってしまう。
 ボッシュは肩を竦めて、あんたを守るのは俺の仕事なんだけど、と言った。
「まあ言っても聞きやしないってのはわかってるよ。兄弟だものな」
『うー、うるるる……』
 リュウは、ごめんね、と首を傾げた。
 バックパックを腰に巻いて、さて出ようかとした矢先――――ぺたっと変な感触がお尻に触った。
 今朝までボッシュにいじめられてたところだ。
 リュウはびっくりしてしまって、びくっと震えた。
 すると、なんにもない空間から、にやにやした笑いが出てきて――――笑いっていうものを純粋に顔から抜き出したらこういうものなんだろうなって感じの、にやにや口だけだ――――それは徐々にヒトのかたちを作って、姿を現した。
「こりゃあめったにない機会だなあ……竜の女の子の尻を触れるなんて、そうそうないことだぜー」
 ジェズイットだ。ボッシュの同僚だ。稀少だぜーなんて言いながら、さわさわとリュウの尻を撫で続けている。
 視界の隅で、ボッシュの腕が黒い鍵爪に変形したのが見えたが――――
『は、はうー!』
 それよりも先に、リュウは慌ててジェズイットを振り払おうと腕を振った。
 お尻なんて触られても昨日まではぜんぜん平気だったのだ。
 でも駄目だった。
 ボッシュがすごいことをするからだ。
 今日一日中、昨日の夜のことばっかり考えてしまうに違いない。
 無意識のうちに放ったヴィールヒは、ジェズイットの頭をセントラルの床にめり込ませて沈めた。
 リュウは動転してしまって、そのまま逃げるように、いてきすとだけ言って家を出た。
 なんだかもう駄目だ。みんなえっちだ。
 でもリュウだって人の事を全然言えない。ボッシュとえっちなことができてうれしいなんて、それって充分やらしいことだ。
 もうだめだ。いやになってくる、ぜんぜんだめだ。
(ぼ、ぼしゅ、はずかしいよ……)
 弟になんだかはずかしい格好ばっかり見られて、リュウは死にたくなってきた。
 早く仕事をしよう。
 そうすれば忙しくて、きっとこの変なもやもやをやりすごせるはずだ。
 早く帰ってきてまたボッシュとえっちなことがしたいだなんて、絶対思ってない。……いや、ちょっとだけだ。たぶん。
 リュウは大きく溜息をついて、ほっぺたを両手で押さえて、ああなんでおれ今こんな幸せなんだろとすごく不思議そうにひとりごちた。





おしまい。