(その後、近況、結束してます) 裏切られた。 信頼していた存在に裏切られるというのは、ひどいショックなことなのだ。それがお互いの信頼関係をまず一番大切にしなければならない、僕がデッキに入れているカードなら特に。 『申し訳ありません、覇王子様。ここで覇王様のご意志に逆らうと、あとで怒られるだけでは済まないのでして……』 ゴルドとシルバが心底申し訳なさそうな顔をして、両側から僕の腕を片方ずつ掴んでいる。「は・な・せ!」と僕は叫んだ。 「ひどいじゃないか! いくら十代にお願いされたからって、お前達の主は僕だろう? これからしばらくデッキに入れずに干してやる〜!」 『で、でも覇王様に逆らうと……!』 『便所に流されちゃうんですっ!』 「僕の十代はそんな非道なことしない! どんな弱小カードもきちんと大切にする優しい人なんだ! ……かよわくは、なかったけど!」 僕が叫んだそばから、巨大な竜が家の壁をすり抜けて出現した。究極宝玉神、レインボー・ドラゴン。僕のパパのヨハンの切り札だ。 レインボー・ドラゴンは大きな口をがばっと開け、まるでショベルカーみたいに勢い良くゴルドとシルバを飲み込んだ。僕のデッキから悲鳴が上がった。 『ゴルドとシルバがレインボー・ドラゴンに食われたあああああ!!』 『良く見ておけ! あれが裏切り者の末路なのだ』 『我々覇王様についても覇王子様についても未来は無くね?』 自由になった僕の腕を、僕を助けに来てくれたヨハンがぎゅっと掴んだ。 「大丈夫かジュニア!」 「ヨハン!」 ヨハンも僕と同じく強張った顔をしていたけれど、僕を安心させようとしてのことだろう、にっこり微笑んで、ぐっと親指を立ててみせた。「大丈夫だ」と彼は言った。 「――ジュニア、ここは俺が預かる。みんな、後は任せたぜ!」 ヨハンが、彼の信頼する宝玉獣たちに人差し指と中指を揃えて突き付けた。ガッチャ!だ。宝玉獣達が頷く。 「俺に構わず行くんだ! ……あいしてる!」 「パパぁ……!!」 僕は涙ぐんでしまう。ヨハンは僕のために犠牲になってくれた。でも時はすでに遅かったのだ。ふっと身体が浮いた。僕のシャツの襟を後ろから摘み上げる者がいる。後ろを振り向くと、 『残念だが、逃がしはしない』 ネオスがいる。 「は、離してー!」 「離せヤンデレええええええ! 他の誰でもなく、お前にだけはいいようにされるわけにはいかないー!」 ヨハンの罵声が聞こえて目を向けると、彼の上には腕を組んだユベルが乗っかっていた。 『ふん、いい気味だよ。奴隷ごときが主人の十代から逃げようとするからだ』 「奴隷じゃねー! 嫉妬は見苦しいぜ!」 『誰が。身も心もいつも十代と一緒、一心同体のボクが、何故ちょっとばかり戸籍を入れてるってだけのお前に嫉妬をしなきゃいけないんだい? ああ、早くお前寿命で死なないかな。死んでくれないかな。死ねばいいのに』 相変わらずヨハンとユベルは仲が悪い。 そうしていると、廊下の奥からパタパタと軽いスリッパの足音が響いてくる。僕は青くなった。ヨハンも真っ青だ。 「ど、どうしようヨハン……来るよ、覇王が」 「くっ……いつもは世界一可愛いし美人だし超愛してるけど、今ばかりはあいつが恐ろしくて仕方がないぜ。……ぶ!」 戦慄するヨハンの顔面に、茶色い毛玉がすごい勢いで激突していった。――ハネクリボーだ。あの人はこの精霊を飛び道具かなにかだと思っているのだろうか。 「――遊城家の禁止三ワードは何だったっけか、ヨハン」 静かな声が聞こえた。恐る恐る顔を上げると、そこには両手を腰に当てた十代が立っている。相変わらず綺麗なちぐはぐ色の瞳は、今はぎらぎらと燃え上がるように輝いていた。これはかなり怒っている。僕は心臓が停まりそうになったが、ヨハンはあっけらかんとした顔で答えた。彼は基本的に空気を読まない。 「『俺が預かる』、『俺に構うな』、『後は任せた』だぜ、十代」 十代がヨハンの胸倉を掴み上げ、睨み付けて、そして殴り付けるのかと思えば――勢い良く胸に抱き締めた。 「……馬鹿野郎、そういうの、言うなって言ってるじゃないか!」 「十代……」 ヨハンが目を伏せて十代を抱き返し、「そんな顔するなよ」と言った。……半端ない嫉妬の目でヨハンを睨んでいるユベルは怖いが、これはこのまま場の雰囲気に十代が流されてくれるのだろうか? だけど、僕の期待は外れてしまった。 十代がふっと顔を上げ、僕とヨハンに、にこっと笑い掛けたのだ。 「――風呂は、毎日入ろうぜ」 『いやだああああ……!』 十代が、この細い腕のどこにこんな、というすごい力で、僕とヨハンの襟首を掴んでずるずる引き摺っていく。行き先は決まっている。バスルームだ。僕らにとっては拷問部屋にも等しい場所だ。 「なぁチビ、新しいシャンプー・ハット買っておいたから」 「そういう問題じゃないんだ、水が駄目なんだよおおお」 「ヨハン、お前こないだ泳いでたらしいじゃん」 「苦手なもんは苦手なんだよおおお……!」 十代は心底不思議そうな顔で、「なんでそんな風呂嫌いなんだ?」と言った。彼は何故かお風呂が大好きなのだ。僕には理解出来ない。ヨハンと同じく水っ気が苦手なアメジスト・キャットとトパーズ・タイガー、ルビーは心底不憫そうな目でヨハンを見送っている。 でも十代に逆らえる人間なんて、どこにもいる訳がない。 ・END・ |