タイカノ




 翔がノートとペンを持って走り回っている姿を良く見掛けると思ったら、どうやら校内新聞の製作に忙しいらしい。今日も十代のところへ来て何やかやと質問をしている。
「学園のカリスマ達の素顔に迫る、ってテーマなんっスよね、今回は。アニキとか吹雪先輩とか……」
「お前の兄ちゃんは? オレが見た感じじゃ一番カリスマ! って感じじゃーん」
「お兄さんは素顔なんか晒しちゃダメッス。ああ見えて隙だらけなんだから。変な虫がつかないようにボクが責任持って記事を捏造するッス」
「ふーん。ねつぞー? ってなんだぁ? よはーん?」
 十代が首を傾げてヨハンを見上げる。そんな事が分からない訳がない。なにせあの容姿端麗、才色兼備(だった)元アカデミア暗黒校の女帝である。ヨハンは目を閉じて頭を振り、ノートに目を戻した。今日の授業で出された課題を片付けなければならないのだ。
「呆れられてるじゃないスか。ともかくアニキに聞きたいことがあるんッス。好みのタイプとか、相手にされて胸キュンするポイントとか、誰かと付き合うつもりはあるのかとか、今日のパンツは何色なのかとかっ!」
「おい」
 さすがにヨハンは低い声で翔を窘めた。人の姉にいかがわしい質問を投げ掛けるとは良い度胸だ。しかし十代は、
「あん? 赤。ファラオの」
 一番答えなくて良いところに澱みなく返事をする。
「おい……」
「最高だよアニキ! アニキはいつもボクの予想の斜め上をいく。まさか一番難しい砦から崩していくなんて……ボクはアニキを心底リスペクトする! 赤! ファラオのワンポイント!」
「おい、それ書くなよ」
 ヨハンの言葉を、目を必要以上にキラキラさせている翔が聞いた様子はない。兄のカイザーはまともな男なのに、何故弟はこんなにちびのくせにドスケベなんだろう? わからない。
「アニキ、好みのタイプは? 自分よりも背が低い人とか、歳下とか、弟属性とかっ」
「好みいー? んー、デュエルが好きなやつなら誰でも好きだぜオレー」
「ストライクゾーンはショタからジジイまでってコトッスねアニキ! さすが心が広いッス!」
「おい、それ書くなよ」
 再び忠告する。でもやっぱり、翔に聞いた様子はない。
「じゃあ次。アニキの胸キュンポイント」
「むねきゅんってなぁ、よくわっかんねぇんだよなぁー。デュエルに勝った時は嬉しいぜ。あれが胸きゅん?」
「もうちょっと突っ込んでみようか、アニキ」
「えー、うー、デュエルに勝って、そんで、……あー、強い奴が勝ったオレの言うことなんでも聞いてくれるって言ってくれる時」
「ちょっと待て姉貴」
 なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「結構女王様なとこあるんだねアニキ。意外だよ。そこのところもっと詳しく!」
「うーん、すっげー強い奴に無理な我侭言って困ってる顔見た時とか、ゾクゾクして濡れ……や、えーと、きゅんってするなー」
「今なんて言おうとした姉貴」
 ヨハンは立ち上がり、微妙に素が零れ出ている十代の肩をがしっと掴んだ。
「お前なー! もっと自分の身体を大切にしろー!」
「な、なにが」
 十代はさっとヨハンから目を逸らして、『あっやべえ』という顔をしている。馬鹿でがさつなアホの子のふりをしていても、染み付いた女王根性はそう簡単には抜けないのだ――が、バカのふりをしているうちに、最近では本物のバカになってきたのではないかという感じもする。
「俺はすっげー強いぜ! 俺にも我侭言えよ!」
「え? そっち? ばっかだなぁヨハンはー。オレはお前の姉ちゃんなんだから、姉ちゃんは弟の我侭聞いてやる方なんだぜ!」
 十代が胸を張って言った。ヨハンは面白くない。
「ちくしょー、何かにつけて姉貴風吹かせやがって〜!」
「だって姉貴だもん」