にいさまがくれた空で にいさまが憧れていたレンジャーになりました
今はもう見せてもあげられないけど
きっと笑ってくれたろうにいさまはなんにも言わないで目を閉じたままなので

にいさまのとなりで眠るたびに花のような香りがします
それは ホルマリンの臭いは どんどん強くなってにいさまの匂いを消してゆきます
いよいよそのからだが朽ちてゆくので
あんまり悲しくて我慢ができなくて
あたらしい ちいさなにいさまをつくりました

任務へ出ていくたびにちいさなにいさまは寂しいと泣きます
おいてかないで兄ちゃんと泣きながらずっと追い掛けてきます
にいさまがあんなに好きだったレンジャーなのに
もう一度あんたに笑ってもらうためなら俺はなんだってするのに
どうすればにいさまはよろこんでくれますか
俺にはわからない

はい なかないなかない
ん? ごまかしたってだあめ
兄ちゃんバカだけどなんだって知ってるんだから
ほら泣かないで こわいものなんにもないから
兄ちゃんがまもってあげる
兄ちゃんつよいんだから
ずーっと手をつないでるんだ こわくないよ
ん? ねえきこえてない? おれ見えない?
でもちゃんとそばにいるんだ
ずっと見てるんだよ なんでも知ってるよ
だからニーナにいじわるしちゃだめ
リンとけんかしないで
みんなにやさしくしてあげて
世界一かっこいいレンジャーなんだから

ハオチーきらいなのちゃんとなおそうね
おいしいから
おなか出して寝ちゃだめ
あったかくして かぜひかないで
おしごとあんまりがんばりすぎないで
今のままじゃからだこわしちゃうよ
おれとちがってあんまり丈夫じゃないんだからきをつけて

かわいいボッシュ あいしてるよ
ずっといっしょ てをつないでようね
おれはいつもきみのそばにいるよ

だから泣くことなんか なんにもないんだ

おはようにいさま ごきげんいかが
俺のジャケットはそろそろくたびれてきたけどにいさまのはきれいなままだな
できれば一緒に任務についてあんたを相棒って呼んでみたかったけど
まあ贅沢は言わないよ
あんたのかわいいジャケット姿を拝めたんだし
でも俺のほうがかっこいいだろ
にいさまはかわいいんだ かっこいいとはちがうよ


俺もうすぐファーストなんだぜ すごいだろ
うんにいさまもいっしょ
俺と揃いでジャケットつくって着せてあげるからだいじょうぶだって置いてかないったら
きっと俺たちによく似合うよ
世界一かっこいいレンジャーなんだからさ
あ でもにいさまは「かっこいい」じゃないんだっけ
なんでもいいけど


ああ時間だ やべえ急がないと


じゃあいってきます いい子で待っててくださいにいさま
それでできれば夜になって俺が帰ってきたときに
おきて「おかえり」って言ってくれますよう
できればでいいんで


ほんとに


できたら

さむいねにいちゃん
おそらからなんかしろいのがおちてきたよ いっぱい
たべても味しないの へんなの
ゆき? へえー、にいちゃんはものしりだ すごいや きれいななまえだね

あのねえにいちゃんかえってくるのさむいとおもって
いっしょにてをつないでかえろうとおもって
ずうっとまってたの ね、おててつなご…あっ、いや? つめたい? まっててねすぐふーってしてあっためるから

な、なんでぶつのお?!おれなんもわるいことしてないよ!
えっ なんでなかにはいってまってなかったのって…なかでまっててよかったの?でもおれちっちゃいからじゃまだよおこられるもん
わわ、だっこしてくれなくってもちゃんとあるけるったら えっだめ? うー

なんでおうちでまってないのって だってにいちゃんさみしがりだもん
おれがいないとないちゃうもん
おっきいおれもにいちゃんひとりにしたらだめっていうよ
うん だからねえおろしてあるきたい て、つないで
だめー? うー、じゃあいいもん にいちゃんにつめたいのうつしてやるんだもん
ね、つめたいかなあにいちゃん
にいちゃんはあったかいね
ねえもっとぎゅーってしてよお ふふすごくあったかいやきもちい

ねえ にいちゃんだいすきー
えーなんでへんなかおするの
うーにいちゃんおれのこときらい? すき?
そうよかった えへへ
おれねえもうにいちゃんひとりぼっちになんてしないからね あんしんして さみしくてないたりしたらだめだよ ぜったいだよ おっきいおれもいってるよ
あいしてるよボッシュ ずっとずーっと
1000年だってそばにいるよ おれたち兄弟なんだもの

…ねえなんでなくのにいちゃん? おれへんなこといったかなあ
うー ごめんね
なかないで
なかないでってば あいしてるのに

俺は空の下であんたとレンジャーになりたかったんだにいさま
約束したろ いつかあんたと一緒に空の下で

この空には朝がきて夜がきて空の色が変わって地上には雨が降って雪も降って大体は晴れた日が続いて
時間はゆっくり流れていく
みんな俺のこと全てを手に入れた栄光のオリジンだなんて言うけど 一番俺の欲しいものはこの空のどこにももうない

にいさまあんたが俺と一緒に揃いの家紋のレンジャージャケットなんか着てさ
あんたの作った飯を食って 多分あんた不器用だからあんまり美味くもないんだろうけど でも俺はめちゃめちゃ嬉しそうな顔をして焦げたハオチーとか食ってるんだろう
あんたは俺を見て嬉しそうに笑うんだろう
俺たちは幼い約束を引っ張り出してくるんだろう
つまり あんたを俺の嫁さんにするとかさ そーいうこと
それが偽物の空だったとしてもさ きっと俺たちは世界で一番かっこいいレンジャーだよ
世界は俺たちのものだった
あんたさえいれば俺はそれがどこだって良かったんだ あの空気の澱んだ下層区の偽物の空の下でも

こんな綺麗な空なんて俺は欲しくなかったよにいさま
あんたがもう一度笑ってくれるなら 俺は迷いなくこの空を閉じるだろう
ああ

後悔なんて あるわけ ない

差し伸べて手を繋ごうって笑ってるあんたのもう片方の手は誰の手で塞がってるんだ

「なに、兄さま。腰抜けちゃってるの?」
「ぬ、ぬけてない! ていうか、なんでボッシュはそんなに強いの? 邪公とか、あんなに顔怖いのに平気だし。おれお荷物になってるよ…」
「1/64だし」
「うう」
「ほら、いつまでも座り込んでるとディクが来るよ、相棒。さっさと済ませて帰ろうぜ」
「あ、あ、相棒って言った? 今」
「言った」
「うわあ…あのね、おれがんばるからね!」
「ハイハイ、期待していますよ、お兄様」
「えへへ」
「…あんたはホントかわいいね」

こうなるはずだったけど
二人でレンジャーになってリフトに行くんだ
でも朝起きて夢から覚めた時に
隣にいるあんたはもう動かない

おれにはわかるんだ
きみがだんだんだんだん近付いてくるのが
おれはきみに空をあげよう
青いどこまでもどこまでも続く天井を見せてあげよう
昔 幼い子供の頃約束したように
きみがおれに読んでくれた絵本の空を

きみはきっとここへ来てくれる
おれには確信があるんだ
でもボッシュ
空の下できみのとなりにおれがいる未来が
どうしても見えないんだ