・適格者邂逅・女王陛下と姫ねえさま・

 

 目が覚めると、わたしは真っ暗なところにいました。
 変な夢を見て、少しまだ頭がぼおっとしています。
 わたしが乗せられていたリフトはぼろぼろに壊れていて、ぱちぱちと燃えていました。
 燃料が爆ぜていました。
 どうやらすごく上のほうから落っこちてきたみたいです。
 わたしのまわりだけ、どうしたことか、陥没したようになっています。
 この高さから落ちてどうして無事なのかわからないけれど、とりあえず生きていました。
 傷らしい傷も見当たらない。
 少しばかり向こうに、わたしの身体の周りにあるのとおんなじくらいのクレーターがありました。
 でも中は空っぽ。
 なんなのかしら、とわたしは訝りましたが、いつまでもこうしてはいられません。
 わたしは歩き出しました。



 バイオ公社の外にはあまり出たことがなかったので、ここがどこなのかさっぱりわかりません。
 でも落ちてきたんだから、上に上に上っていったら、帰れるんじゃないかな…。
 わたしはそう思って、真っ暗な坑道のなかを手探りで歩いていきました。
 幸い燐虫がいっぱい飛んでいて、所々に電灯も光っていたから、完全に真っ暗闇、という感じでもありません。
 そして扉を開けて、わたしは立ち尽くしました。
 重たい足音がして、巨大なかいぶつが歩いています。
 一つ目で、腕ひとつだけでわたしと同じくらいの大きさがありそうな、そんな大きなディクがいました。
 わたしははっと気が付きました。
 そいつは脇に人をひとり、抱えていました。
 どうやら男の子のようです。
 わたしよりふたつくらい年上に見えました。
 青い髪の、レンジャーの格好をしたやさしそうな子です。
 彼はじたばたと手足を振り回しながら、やだやだ、と暴れていました。
「は、離して! 助けて、ボッシュうー!!」
 悲鳴を上げて、彼は助けを求めていました。
 どくん、とわたしの中で、心臓の音が大きく響きました。
 それは覚えのない鼓動でした。
 次の瞬間、わたしの身体は勝手に動いていました。
 視界がスローになり、床に落っこちていた真っ赤な剣を拾って手に取って、そのディクの背中に突き立てていました。
 生まれてこのかた、剣なんて触ったこともないわたしが、です。
 わたしは自分でもちょっとびっくりしてしまいました。
 でもそのディクは暴れ出して、わたしはとうとう振り飛ばされてしまいました。
 すぐにディクが目の前に迫ってきます。
 とっさに避けて、わたしはそのディクの腕を切り落としました。
 その男の子を救い出しました。
 彼はどうやら気を失ってしまっているみたいで、でも傷はないみたい。
 よかった。
 ずん、ずん、と大きくて重たい足音がします。
 男の子を床に寝かせてあげて、わたしは振り向きました。
 すぐそこまで、ディクが迫ってきていました。
 わたしは杖を掲げました。
 今なら何にだって負けない、そんな気がしました。



 動かなくなったディクを避けて、わたしはその男の子の横に座り込んで、顔を覗き込みました。
 肩を抱いてあげると、彼は瞼をかすかに震わせて、うっすらと目を開けました。
 途端、彼はきつく目を閉じて、震えながらわたしにぎゅっとしがみついてきました。
「――――ボッシュ!」
 よっぽど怖かったみたいです。
 でも、もうだいじょうぶ。
 ぽんぽんと背中を叩いてあげると、彼ははっとして、あ、とちょっと恥ずかしそうに呟いて、ぱっと離れました。
「ご、ごめん……ひ、人違いしちゃって。ええとあの、きみが、助けてくれたの?」
 わたしは頷いて、にっこりと笑い掛けてあげました。
 もう大丈夫、と言ってあげたかったのですが、わたしは残念なことに口がきけないのです。
「あ、あの、ありがとう、おれリュウ」
 はにかみながら、ちょっと俯いて、彼は名乗りました。
 その様子は可愛くて、名前も綺麗で、わたしはちょっとがんばって、自分の名前を名乗ってみました。
「ニ、ニィ……ナ」
「あ……きみ、口が……」
 リュウは、なんだか申し訳無さそうにしました。
 わたしは、いいのよ、というふうに頷いて、手を差し出しました。
 とにかく、安全なところまで行かなきゃ。
 リュウは頷いて、わたしの手を取りました。
 その瞬間、どくん、と奇妙な、まるでさっきあのすごい力が出た時みたいに鳴りました。
 変な感じでした。
 彼は、わたしと同じものみたいな気がしたのです。
 リュウを見上げると、彼も同じことを思ったみたいで、ちょっと首を傾げています。
 変な感じでしたが、でもまずはここを出なきゃあ。
 でも、わたしは全然道がわかりません。
「あ、おれ、レンジャーだから……上までなら、なんとか行けるよ。こんな深いところまでは、さすがに仕事でも来た事なかったけど……」
 リュウはそう言いました。
「それにしても、きみ、強いんだね」
 彼はやさしく笑って、そう言いました。
 その笑顔がなんだかとても可愛くて、わたしは繋いだ手をぎゅっと握り返して、いっしょに歩き出しました。
 なんだかわたし、この子がすごく好きになっちゃうかもしれません。