モモ=1/2048
「なんで男の子ってあんなのばっかりなのかしら?!」
かなり激昂した様子で当然のようにリュウに同意を求めている少女は、そこに何の矛盾も孕んでいないというような単純に怒りのみを映した顔でもって、言った。ねえ。
「女の子のことを、取り替えが効く玩具かなにかみたいに思ってるのよ。ああ、昨日も同期の子がひとり泣かされてた。友達よ、良く喋ってたの。おとなしい子で、綺麗な子でさ、わたしあの子好きだったよいい子だし、なのにあいつ何て言ったと思う? 「誰だっけオマエ」よ?! 仮にも告白してモノにしといて二日経ってゴミみたいにポイなんて、あんまりじゃあない? いつかきっと天罰が下るわよ、本命の子にこっぴどくふられると良いんだわ」
リュウが相槌を打つ隙もなかった。
「あんたもなんとか言ってやんなさいよ、そーいうの良くないよとかさ、なんだっていいから」
「む、無理だよ……オマエには関係ないって言われるのがオチだよ」
リュウはしどろもどろで首を振って言った。
彼女はひどくうさんくさそうな目でリュウを見た後、こう言った。
「ほんとに相棒なの。大丈夫、いじめられてない?」
「うん、大丈夫……だと、思う。ボッシュ、基本的にあんまりほんとにひどいことは言わないし……」
「嘘」
「ほ、ほんとだよ。全部ほんとのことだから、ローディだとか役立たずとかお荷物とか」
「それ、十分ひどいっていうのよ」
同期である彼女は、リュウの数少ない女性の友人でもある。
ピンクのジャケットが薄暗いレンジャー基地の中で一際目立っている。
彼女はモモ=1/2048と言った。
本来穏やかな性質である彼女がこうしてほとんど威圧するみたいにリュウの前に立ちはだかっている理由というのが、リュウの相棒のことだった。
ボッシュ。
彼はどうやらモモの友人の少女に手を出して、ろくに言葉も交わさないまま二日で捨ててしまったそうなのである。
「……でも、変だな。ボッシュ、そういう人じゃないよ……」
「あんたあの男のこと、ぜんっぜんわかってないよ、リュウ。もう何人泣かせたと思ってるの、あいつ」
「でもさ、でもボッシュ、あんまり女の子と付き合ったり、そういうのってあんまり……似合わないなあ」
「何言ってんの。いつも廊下歩くだけでキャーキャー言われてるの、聞いてるでしょ?」
「うん……」
でもボッシュはそのどれも全然知らないという調子でそっけなくしていたので、なんだか好意に応える彼というものが想像できないのだ。
挙句、今度のことは彼からその、告白、なんてものをしたらしい。
何の気まぐれだろうか。リュウは首を傾げた。
ボッシュらしくない。
「でも、泣かせるのは良くないよね……」
「当たり前よ、あの子、ほんとはずうっと前からあんたのことが……なのにあのボッシュが部屋まで口説きになんて来るから」
「……へっ」
「あ……な、なんでもないの! 忘れて!」
「ど、ど、どういうこと、モモ! それって……その、へ、部屋って?」
「ああ……」
彼女はなんでか「なあんだ」という顔をして、頷いた。
「エリートサマ、すごく手が早いみたい……下品。やらしい、えっち。信じらんない」
「……」
リュウはかあっと顔を真っ赤にした。
リュウも馬鹿ではない。
女の子の部屋で口説くってのがどういうことか、わからないわけではない。
「それで、そう言えばそうよ、リュウ。ボッシュ、いつ帰ってくるの? 一発殴ってやろうと思って来たの。ハイディーだって容赦しないわ、あれだけひどいことしてただで済むと思ってるのかしら」
「えっと……あのっ、おれから言っとくからさ。なんとか……だからその」
「……リュウ、どうするの?」
「う……うー……そ、そうだね……えっと、その子に、ごめんなさいって……謝ってもらうとか?」
「ほんとに? できる? そんなの」
「わかんない……無理かな……」
「じゃあやっぱり一発殴って……」
「わ、わー! な、なんとかするから! うん、おれ、がんばるよ! だから任せて、ねっ?」
リュウが必死で言い募ると、モモはリュウがそう言うんだったら、と譲歩してくれた。
「苛められたらいつでも言いなよ。みんなでとっちめてやりましょ」
「みんな……?」
「そ、あのエリートサマにとっかえひっかえされたみんな」
「ボ、ボッシュ……そんなに? モモも?」
「……わ、わたしは、違うよ。ちょっといいかななんて、思ってなかった。知らない知らない、あんな奴だなんて、知らなかったんだもの……」
「…………」
「じゃ……ごめんね、リュウ。なんかわたし、リュウを苛めにきたみたい」
「そ、そんなことない……それじゃ、またね」
扉が閉じた。
リュウは肩を落とした。
なんだか口の中がからからに乾いて、気分が重い。
ボッシュはいつになったら帰ってくるだろう?
あんまり顔を合わせたい気分じゃなかった。
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