<ドラゴン・クォーターズ>02:レンジャー基地



 まだ寝惚け眼のうちに耳を引っ張ってリフトに乗せられた。
 いつの間に着替えたんだろう、と疑問に思ったのだが、まあいいや、と自己完結した。
 それよりこの耳をぎゅうぎゅう引っ張るのをやめてもらいたい。
「メベト……痛い」
「言える身分か。もう着くぞ、しゃきっとしろ。ローディに馬鹿にされるぞ」
「うー……しかし眠い」
「だから寝るなっつの」
 また耳を引っ張られた。

 下層区に降りるとメベトはさっさとどこかへ行ってしまった――――スーツを取りに行くのだそうだ。
 ぽつんと置き去りにされて、することもないので(隊長室に出頭するべきだろうか、しかし怒られるのはめんどくさい)ぶらぶらと散策することにする。
 下層区に降りたのは初めてだった。
「しかし、空気が悪いな……」
 吸って、吐いて、その基本的な呼吸の動作のひとつひとつを意識して行わなければならないほど、息苦しい。
 酸素が薄いのかもしれない。
 だが、そうやって半分呼吸困難に陥っているのは、どうやら自分ひとりのようだった。
 きゃあきゃあと跳ねまわりながら、レンジャースーツを着た女子が話し込んでいる。
 あんなに喋って、息苦しくならないのだろうか?
 酸素は大切だと思う。
「ね、聞いた? すごいハイディだって。3人も!」
「今年はすごいね。上でなにかあったのかな?」
 すうっと横を通り過ぎようとしたら、急に話し掛けられた。
「あ、ね、そこの子、新入隊員じゃないの?」
「あ……え」
 非常に困った。
 女子に話し掛けられることなどほとんどない……というか最近メベトと彼の家族としか喋ってない。
 どう切り抜けたものだか。
「どうしたの、入隊式は? 迷子?」
「……たぶん」
 頷く。
「友人がどこかへ行ってしまって……多分迷子になっているのだと。あいつはおれがいないと駄目な奴で」
「へえ」
 良くわからなそうに、だががんばってね、と声を掛けられた。
 なんとか切り抜けたようだ。
 あんまり、女子と話すのは得意じゃない……たぶん。

 リフトの方へ出戻っても、メベトはいなかった。
 スーツを取りに行くなんて言っていたくせに、やはり迷子だろうか。
 隊長とやらに届けておいたほうがいいかもしれない。
「おい」
 声を掛けられて、振り向いた。
 着いたばかりのリフトから降りてきたのは、なんだか変な男だった。
 金髪で、ばっちりと真っ直ぐに切り揃えられた前髪、モミアゲ、これは知っている。オカッパへヤーと言うのだ。
「貴様はこの基地のものだな。レンジャーか」
「多分……」
 良く解らないながら頷くと、オカッパの男は尊大に頷いた。
「ローディに名乗る名は持ち合わせていない」
「今日から、サードレンジャーになるそうだ……メイジに」
「その話題はもういい。頭の回転の鈍い男だな。貴様、レンジャーならばこの俺をしかるべき場所へ案内しろ」
「迷子……?」
「……無礼な! なんだ貴様は、ローディの分際で……」
「まあ、任せておくといい……基地へ連れて行けば良いのだな」
「……その通りだ。なんだ、頭の弱そうな男だな。これだからローディは……」
 オカッパ男はぶつぶつとぼやいていたが、こっちだ、と案内してやると黙ってついてきた。

◇◆続◆◇

今日の父ちゃん:無礼