<ドラゴン・クォーターズ>03:オカッパへヤー


「ここはどこだったろう」
 首を傾げると、拳骨を頭に食らった。
 なんだかメベトみたいだ。
 レンジャーというものはみんなこんなふうに乱暴なのだろうかと考えると、ちょっと帰りたくなってきた。
「痛い……」
「ふざけるな! ここはどこだ、だと?! 貴様、自信満々で任せろ基地に案内してやると言ったろうが!」
「ああ……任せろ。たぶん、そのうち着く……」
「全く信用ならん。貴様、そっちはリフトだ! どこへ行くつもりだ」
「ああ……そうなのか」
「……。もう我慢ならん。おい、戻るぞ。ついてこい、貴様には任せられん」
「ひどいな」
「……戻ったら首を斬ってやる。覚えておけ」
「それはイヤだ」
「そこばっかりはっきりとものを言うんじゃない」
 ぎゅう、と耳を引っ張られて、引き摺られる――――さすがに、彼は抗議した。
「耳を引っ張らないでくれ……これ以上伸びたら困る」
「知ったことか! まったく、誰だ貴様のパートナーは。同情するぞ」
「ああ、メベトと言って、おれがいないとなんにもできない困ったやつだ」
「……メベト?」
 オカッパへヤーは目を眇めて、ハア?という調子で聞き返してきた。
「ちょっと待て、今メベトと言ったか?」
「ああ……」
「メベトとは……「あの」メベトか? 1/4の、選ばれしもの……」
「どのメべトかは知らないが、おれが知っているメベトは一人きりだ。変な名前だから、多分他にもあんまりいないと思う……」
「……貴様はまさか、あのメベトの従者か? それにしては、偉そうだが」
「ああ……良く解らないが、飯を食わせてもらって、家に住ませてもらって、毎日ごろごろしていたらいつのまにかレンジャーになっていた」
「……。なんだか貴様とは、あんまり深く付き合わん方が良いという気になってきた」
 オカッパへヤーの方向感覚は見事なものだった。
 いつもならリフトに入り込んだり、ライフラインに迷い込んだりして気が付いたらレンジャーに保護され、迎えにきたメベトに2、3発殴られて説教されているところだ。
 そう言って素直に誉めると、オカッパへヤーは何故かげんなりしてしまった。
「……貴様、もう基地についたら俺に近寄るな」
「そうか……残念だ」
 彼は頷き、それから礼を言った。
「ありがとう……。実を言うと、途中から帰れなくなったらどうしようかと思っていたところだ……」
「思っていたんなら、自信満々で進んで行くな」
「下層区なんて、来たことはなかったし……」
「……? 貴様、そんなにポワンのくせに、下層のローディじゃなかったのか。ふん、さては成り上がりの最下層区民だな。メベトに拾われたか」
「ああ、基地が見えてきた、オカッパへヤー」
「おかっ……き、貴様っ、この俺を、何て名で……!」
 オカッパへヤーが頭から湯気を立てて怒り出したので、彼は首を傾げた。
「なにか、悪い事を言ったろうか」
「無礼にも程がある! この剣聖に連なるヴェクサシオンを愚弄して、ただで済むと思っているのか?! そこに直れ、叩き斬ってくれる!!」
 なんだかまずいことになってきた。
 オカッパへヤーは真剣に怒ってしまっていて、彼はどうしたものだかと困り果ててしまった。
 そうしていると――――
「どこほっつき歩いてやがったんだ、このバカ!」
 ごつん、と拳骨を食らわされて、目の前に星が散った。
 メベトだ。
「テメー、人にジャケット取りに行かせといてそのまま失踪? 何様だコラ。何をやってた? あ? 言ってみろ」
 上着の首元を掴まれてがくがくと揺さ振られ、彼はなんとか事情を説明しようとした。
「メベトが……いなくなったので」
「ああ」
「迷子のオカッパへヤーを保護して」
「ああ」
 ここでオカッパへヤーが不満そうに、誰が保護されたんだ、とぼやいた。
「基地まで連れて来てもらった」
「…………」
 メベトは溜息を吐いて、もう諦めきったようにまた彼の頭をごつっと殴った。
「痛い。あんまり殴るな。バカになったらどうするんだ」
「大丈夫だ。オマエはもう、それ以上バカになりようがない」
「わからないじゃないか」
「あーくそ……えーと、そこの……」
 メベトは、オカッパへヤーに向直り、世話を掛けた、と言った。
「うちのバカが迷惑を掛けた。できればここに連れてこずに、コンクリ詰めにして廃物遺棄坑あたりに捨ててきてもらえればありがたかったんだが」
「俺も何度もそうしようと思った」
 何故かメベトとオカッパへヤーは、妙に同調したふうに頷いた。
「俺はメベト=1/4。あんたの事は知ってる、剣聖に連なるヴェクサシオン=1/4。実際に顔を合わせるのは、初めてになるか」
「ああ。こっちこそ、貴様は知っている、メベト=1/4よ。クォーターの名は全て記憶している。同期にあと一人いたはずだが、もう会ったのか?」
 メベトが、ここでひどく困った顔をした。
 オカッパへヤーはそれには気付かず、腕組みをしながら、続けた。
「確か、名をエリュオン=1/4……。類稀なる魔力を持った、最強の魔法使いになり得る存在だと聞いた。入隊式には出ていたのか? ふん、あんなローディの集会に俺たちが出向くことはないがな」
「いや、あー、その」
「時に、メベトよ……差し出がましいようだが、そこの従者は首を斬った方が良いと思う。貴殿には相応しくない下僕だと見受けるが?」
「何ていうか……非常に、言いにくいんだが……」
 メベトはそうして、ひょいと彼、エリュオンの首元を掴んで、家畜ディクにするようにぶら下げて、オカッパヘヤーの前に差し出した。
「こいつが、俺たちとおんなじクォーターだ」
「…………ハア?」
 オカッパへヤーはぽかんとして、あんまりそういう冗談は好きじゃないというふうに顔を顰めた。
 メベトは、目を閉じて、沈痛に首を振った。
「オイバカ。挨拶」
「……エリュオン=1/4だ。よろしく、オカッパへヤー」
 オカッパへヤーは目を真ん丸くして、しばらく硬直した後、エリュオンを指差して、叫んだ。
「う、嘘だあああッ!!」
「なんだかおかしな男だな。髪型も」
「ちょんまげのオマエが言えたことか」
 メベトがげんなりと言った。



◇◆続◆◇

今日の父ちゃん:迷子