おれのカラダがそんなふうに使えるなんて、正直なところあまり信用ならなかったし、ていうかふつう、お、お尻に……は、入るなんて、そんなの、誰だって信じられっこないに違いない。
 でもおれのカラダはちゃんとボッシュを受けとめることができて、彼を感じることができた。
 えっちなことをして、眠って、またそうして。
 おれは自分がこんなにやらしい人間なんだって、今まで知らなかった。
 ――――ていうか、ボッシュもだよ……。
 いつも何でもどーでもいい、みたいな顔をしてるくせに、彼はちゃんとやらしい。
 おれは嬉しいんだけど、それ。






 何度目かのあとにまた眠った。
 おれは、横でまどろんでいるボッシュの顔をじいっと見ていた。
 ボッシュはキレイなんだ。
 金髪で、薄くて透き通った目をしてる。
 肌も白い。
 おれみたいな汚れた青い髪とは全然違う、細い髪だ。
 でもおれはこの髪の色、前よりは随分好きになれていた。
 眼の色も、そう。
 あの冴えない色素の抜け落ちた姿よりも大分マシ。
 おれは自分のあの姿が大嫌いだった。






(……ああ、思い出しちゃった)
 おれはうっすらと微笑んでいたと思う。
 恐怖と不安があった。
 これからアジーンとしてやらなきゃいけないこと、それにおれの精神がどこまで持つのかなんてこと。
 でもそれらをひっくるめてさえ、おれは嬉しかった。
 ボッシュが、おれの記憶の中に帰ってきてくれたことが、ひどく嬉しかったのだ。
 おれは生きていて良かった。
 ボッシュが好きだって、また思うことができて良かった。
 ……恋をしていて、良かった。
 これ、おれが消えてしまうと、もう誰も覚えていてくれないから。
 そのまま忘れられて、消えてなくなってしまう感情だ。
(誰か、これ、記憶していてくれないかなあ。セーブトークンは覚えていてくれないかな?)
 おれはちょっと頭をひねってみた。
 でも元々、あんまり頭が良くないので、どうなのか良く解からない。
(おれがどれだけ……いや、やっぱり恥ずかしい。こんなの人に見られたら死んじゃうよおれ。ああもう、不便だなあ)
 おれは溜息をついた。
 どうにもなりそうにない。
 自分のことは自分で、それはレンジャーの基本だっけ?
 じゃあ、おれがおれである限り、いやおれがおれじゃなくなったって、この先自分で覚えてるしかないんだな、うん。
(もし神様なんてものがいたらさあ……)
 便利だったのに。
 でも、いないものはしょうがない。
 オリジンは神ではないし、1/1、はるか遠く昔の、おれたちのオリジナルもそれには当て嵌まらない。
 壊すだけ壊して、それで終わり。
 好き勝手で不器用で、やりたいことやってそれで終わり。
 ワガママなドラゴン。
 ボッシュみたい。
(……て、なにそれ?)
 おれははたとヘンなことに気が付いて、首を傾げた。
 ああ、また記憶が混ざり合っちゃってるんだ。
 ごめんね、アジーン。
 おれ、生き返っちゃった。
「ん……」
 ボッシュが、身体を震わせて寝返りを打った。
 寒いんだろうか?
 おれは彼の柔らかくて癖もない髪を撫でて、ぎゅうっと腕を背中に回した。
 おれにはもう体温もなかったっけ?
 それとも熱いのかな?
 まあどっちでもいいけど。
「……ボッシュ?」
 ゆるゆると、子供にするみたいに(これ、ボッシュ相手にできるなんて思わなかった。なんか感動する)頭を撫でていると、ボッシュは急にぱちっと目を開けて、がばっと身体を起こした。
「わわ」
 彼にくっついていたおれは、振り解かれたみたいになって、金網に転がった。
 ボッシュはまたおれに覆い被さってきた。
 ま、またするのかな?
「ボ、ボッシュ?」
「……まだヤリたい……」
 寝惚け眼でそう言って、ボッシュはおれの胸に噛みついた。
 真っ赤な歯型がついて、そしてボッシュはその痕をとても愛しいもののように舐めて、
「…………」
「……ボ、ボッシュ?」
「…………」
「ね、寝ちゃった?」
 ボッシュは眠ってしまった。
 いっぱいしたし、うん。
 ……でも、ちょっとザンネン。






 あ、そうだ。
 ボッシュが眠っている間に、久し振りに彼に手紙を書こう。
 ゆっくり話してる暇はなかったし(ずうっとさっきから触り合ってるので、まともにものを考えられない)おれは彼にちゃんと、言いたいこともあったのだ。
 おれが好きだってボッシュは言ってくれた。
 ボッシュは、おれと一緒に来てくれるだろうか?
 生きてくれるだろうか。
 おれをひとりぼっちにしない?
 でも、あんまり付き合わせちゃボッシュが可哀想だ。





 ――――でも、おれは。





 勝手だって怒られるかなあ?
 おれは待ってるよ、ボッシュ。
 空の前で、いつまでも、多分君が来なくてもずーっと待ってる。
 そして君に、ひかりを。
 空へ落ちていくあの夢にある、温かで人工のものとは違う、確かな強いぬくもりを。
 君ははじめてあの柔らかな光を浴びる、最初の人間になるんだ。
 プログラムが終了して、その後おれがどうなってしまうかわからないけど、きっと、そうだなあ、多分消えてしまうのかもしれない。
 アジーンが終了してしまえば、寄生しているおれもきっと一緒に消えるだろう。
 記憶に、ヒトに依存しなきゃ、おれはきっと自分の身体も構成できないような希薄なものになってしまう。
 誰の心の中にもいない存在なら、きっとそうなるだろう。
 おれは、消えてなくなるだろう。






 ボッシュは喜んでくれるだろうか。
 あの美しい青を見て、おれと同じようにああ、綺麗だなあって。
 でも、ちょっと冷たい色だなあって。
 ひとりぼっちで見る空って、こんなに寂しいものなんだなあって。
 おれは……。






 おれは、ボッシュが可哀想だった。
 あの青い空の下、一面の草原。
 でも独りぼっちで誰も居ない。
 たったひとりきりで、落ちていくあの感触。
 背中の翼。
 ボッシュは、そうなったらおれを呼んでくれるだろうか?
 おれはその時、ボッシュのそばに辿り付けるだろうか?
 でもおれは、絶対にボッシュをひとりになんてしたくない。







 おれは、今だけまどろむボッシュに嘘をついてあげたかった。
 もう身体、もとに戻ったんだ。
 またサードレンジャー。万年ローディー。
 世界は綺麗だ。
 嘘もなんにもなく、ただ優しい世界。
 空なんてもうないんだ。そんなのただの伝説。
 






 ――――
世界は、壊れたりなんかしないよ。







 おれは、そう、嘘をついてあげたい。
 初めて子供みたいな顔を晒して眠っているボッシュが、安心できるような嘘を。
















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