「わあ、今日はなんだかにぎやかだねー」 リュウ1/8192は、のほほんとしたいつもの穏やかな顔でにこにこと笑った。 気の抜けたというよりはネジの抜けたドラゴンスマイルである。 無敵です。 「うー」 「あ、二ーナ。おはよう」 ぱあ、と花を散らして、リュウはニーナににっこりと微笑み掛けた。 彼は、最近とても幸せそうに笑うことができるようになった。 そのことは自覚している。 これもきっとニーナのおかげに違いない。 うん、そうだ。 守りたいものがあるだけで、人間というものはこんなにも満ち足りた気分になれるというものだ。 間違ってももうローディーなんて罵られたり、棚の上の100ゼニーを取るための踏み台にされたり、そのままはいつくばって靴を舐めろなんて言われたりしなくても良いのだ、誰かさんに。というある種開き直りみたいなそんなんじゃなくて。 ……あ、なんだか涙が出てきました。 ここは中層区街。 地震で半分水に沈んでしまっているが、街そのものはまだ生きている。 共同体でナゲットを育てているうちに、気づけば今日は2月14日。 1000年前から脈々と続くセント・バレンタインディである。 ただし、昔は「チョコレート」なんて超高価なものを贈ったり贈られたりしていたらしいが、現在ではそういうのは食料難で無理。 大事なのは気持ち。そういうことである。 「うー。うっんー」 「ん? どうしたんだい、二―ナ。くれるの?」 「うー!」 「そう、ありがとう」 ほわん、と幸せそうに、ちょっと目尻が下がってこの親バカ!という具合にニーナにアマアマのリュウであった。 「んんー」 「うわあ、これ、おれの顔? かっこいいなあ、二ーナは絵がうまいなあ」 「あうー」 その辺の廃材に手書きで似顔絵を描いた、それは冴えない代物だったが、リュウは感動して目をきらきらとさせた。 二ーナへの贔屓目も相俟って、ラブラブモードである。 ただこの場合片方の見た目が貧乳幼女なので、あんまり度が過ぎると危ないお兄さんである。 が。 「そこ!」 ぱん、という銃声と一緒に、リュウの頭にすごい重たいのがキた。 「逃がさないよ」 もう一発キた。 しかもバインド効果付きである。 リュウは地面に足を縫い付けられて、身動きができない。 この特徴的なスキルで思い当たるのは一人しかいない。 「リ、リン?!」 青かったり白かったり、ポケットがついてればドラえもんだったのに、という格好の巨乳の(強調)女が、凄みをきかせて現れた。 リュウはもとより、二ーナも硬直している。 リンはまだ硝煙の立ち昇る銃口にふっと吐息をついて、腰のホルスターに仕舞った。 「ええっと……」 「……う、うーうー」 困惑しているリュウとニーナに向かって彼女は微妙にむずむずとしたような顔で、ほらっ!とトレジャーボックスを投げて寄越した。 あの、うまにくとか投げるのと似たような感じで。 「二人で食いな! ほんの気持ちさ!」 言うなり、彼女は走り去ってしまった。 強がってはいるが、本当はシャイで照れ屋な大黒柱なのである。 そんなパーティー主力。 バインドしているリュウは動けないので、二ーナがちょこちょことボックスに近付き、蓋を開けた。 ら。 「サ、サビクイケーキ?!」 リュウが驚愕の声を上げた。 信じられない!という顔だ。 驚きのあまりちょっとD化してみたりもする(カウンター上昇) そこには色んな意味で伝説のアレがあった。 茶色のサビクイは、まあ見た目チョコとかに見えなくもない。 生クリームを連想させる白い粘液上のものが掛かっているが、その正体はあんまり考えたくなかった。 「うーうー?」 「二、二―ナ! 食べちゃ駄目だ!」 ふっつーに半分くらい口に入れてるニーナに、ペッしなさいぺーッ!と注意しながら、リュウはわなわなと震えた。 「こ、これは一体」 リンなりの家族サービスなのである。 リュウには伝わらなかったようだが。 まだバインドしたまま突っ立っていると、見かねたのか、商店街の店の中からクリオが声を掛けてきた。 「お得意さーん、今日はバレンタインやで〜?」 「ハア?」 最近離れてるうちに、ちょっとついこないだ「死んでいいよ」まで言われた相棒の口調が移ってきたリュウである。 「なにが「ハア」やの。普段お世話になってるあのひとには義理ー、大好きラブラブ愛してるーなあの子には本命ー、なんや、あんた好きな子おらんのかいな」 「いるさここに」 リュウは即座にニーナを指した。 「……あんたロリコンか?」 「違うよ失礼な。リンだってニーナが大好きさ」 「話が通じんのやけど」 「おれ、変なのかなあ」 「どうでもええけど、本命はひとりやで」 クリオが首を傾げて、あんたは浮気性には見えへんからなあ、と言った。 「誰にあげるかよお決めや」 「じゃあニーナに」 「やっぱりロリコンやないの」 「お、おれはニーナがそんな変なふうに好きとかじゃなくて! 大人って汚いよ!」 「うー!」 リュウの真似をして、二―ナも胸の前で拳を握り締めた。 「ただニーナを今のまま優しい子に育ててあげられれば、俺はそれで……」 「あうー!」 「うんうん、いい子に育つんだよー」 「お母さんかいな」 クリオは呆れたように、乗り出していた身体を引っ込めて、道具袋をごそごそ漁り出した。 「まあええんやないの? 家族サービス。ほらほら、ぎょうさん買うてってや」 「……それが言いたかったんですか」 「まあええやん」 「うー」 その頃リンは、中層区の階段付近(※痴漢に遭ったあたりだと思ってください)でひとり凹んでいた。 さーてそのころのBBさんは。
三人家族大好きです。 |