『ストレガフォースのリーダーを拘束して拷問しよう』
……パラレル、ストレガえーたんが優しく拷問されたり陵辱されればいい!
(※性的表現を含みます。十八歳未満のかたは見ちゃだめですよ)


一日目、まだまだ


 影時間を悪用して復讐代行とかいう犯罪を行っているらしい。インターネット上で匿名で依頼を行うと、代行人が憎い相手を事故に見せ掛けて殺してくれる。依頼人が疑われることは一切ない。証拠も殺人の痕もなく、削除対象が消えてしまうんだそうだ。
 彼らはストレガと呼ばれている。ネット上ではすごい有名人らしいジン、毎回何を言っているのかいまいち良くわからないタカヤ、順平くんが一目惚れしちゃったチドリ(さん)、それからいまだ謎に包まれている彼らのリーダー。たぶん、四人。
 なにかにつけて僕ら特別課外活動部の邪魔をする彼らにはすごく手を焼いている。大型シャドウの討伐は阻むし、仲間に変な薬を横流しするし、何より殺人集団だ。さっきも順平くんが、「あいつら全員捕まえて土下座するまでボッコボコにしてやる! チドリ以外!」と言っていた。僕も非常に同感だ。
 そう思ってた。
 彼らのリーダーなんてやってるのは、あからさまにキてる、電波系の、物凄い怖そうないかついやつに違いないって。




 さっき、までは。




「動くな。武器を棄てろ」
 僕の首筋に、冷たい金属が押し当てられている。ぎらっと光る鋭いナイフだ。僕には成す術がない。おとなしく剣を棄てて、手を上げる。僕のサーベルが、コンクリートの床にぶつかって、乾いた音を立てる。
 今日は新月だ。影時間の空に、月が見えない。そう、影時間なのだ。
 今を過ごすことができるのは、適性があるペルソナ使いだけだ。普通の人間は皆象徴化してしまって、棺のようなかたちに変わってしまう。
 でも僕の背後から、僕に抱き付くような体勢で、僕の咽もとに刃物を突き付けている人は、いつもと何にも変わらない。抑揚のない声、冷たい目、口癖は「どうでもいい」、――僕の、クラスメイトだった。
「く、黒田くん? あの、これ、どういうことかな」
 僕は怖々声を上げる。僕の友達で、今日のお昼も色々話をして、まるっきりいつも通りだったのに、なんで僕は今彼にはがいじめにされて刃物を突き付けられているんだろう。
「あの、何か僕、やったかな。今日の体育で、君のお尻ばっかり見てたのが悪かったのかな。それともこっそり君のリコーダーを隠れて吹いちゃったことがばれたとか……」
「お前そんなことやってたのか?! 殺す!!」
 黒田くんがかなり真剣に怒り出したものだから、僕は慌てて「ごめんごめんね」と謝った。この子は怒らせると怖いのだ。泣いちゃったら可哀想だし。
 彼は「人畜無害だと思ってたのに」とか恨みがましげにぶつぶつ言っていたけど、ちょっと口篭もって、静かに切り出した。
「お前が、現場リーダーなんだな。毎晩塔に入ってシャドウを狩ってるペルソナ使いの集団の。――まさか順平がリーダーなはずがないとは思ってた。チドリもちょっと考えれば分かるだろうに、あいつはとんだバカだな」
「え」
 僕は驚いて、目を見開いて振り返ろうとして、「動くなって言ってる」と怒られた。
「チドリさんって……ストレガの、君が彼女を知ってるってことは、」
「話が早くて助かる。殺されたくなければ部下に命令しろ。チームを解散し、今後一切こちらの活動の邪魔をするな」
「……いや、無理だよ」
「なんだ、死にたいか。それもいい」
「い、いやそうじゃなくってね! その、僕がなんか言ってみんなが聞いてくれるとも思わないし……特に女の子に命令なんてできないし」
 ぐっとナイフに力を入れられたから(彼は本気だ)、慌てて弁解しようとしたところで、ようやく僕の仲間たちがやってきた。タルタロスで解散した後、どうも帰りが遅い僕を心配してくれたみたいだ。
 彼らは僕と黒田くんを見て、唖然としたようだった。
「く、黒田くん?」
 学園中の人気者な彼のことが少なからず気になっていたらしいゆかりさんや、風花さんがぽかんとしている。
「エージ! おま、何で影時間なのにこんなとこで、何やってんだよ!」
「うるさいな。――望月綾時、さあ言え。もう二度と俺たちの邪魔はしないと誓えば、命は助けてやるよ。……できれば、お前は殺したくない。順平はどっちにしても事故に見せ掛けて消してやるが」
「君なんでそんな順平くんと仲悪いの?」
 僕がどうしようどうしようと思っていると、ふいに背後からふっと大きな影が落ちてきた。そおっと顔を上げると、大きなシャドウがぐわっと勢い良く襲いかかってくるところだった。
「く、黒田くん、上!」
「チッ……」
 どん、と強く背中を押されたと思ったら、僕を庇うようなかたちでシャドウにぶん殴られた黒田くんが軽々と吹っ飛んで、地面を転がっていく。
「黒田くん!」
 僕は彼の名前を呼んで、召喚器を頭に押し当てる。撃つ。身体が、変わる。





◆◇◆◇◆





「どういうことか説明してもらおうか」
 後ろ手に腕を縛られて、ラウンジのソファに座らされている黒田くんは、いつものそっけない顔のままぷいっと横を向いた。あからさまに「お前らの言うことなんか聞くかよ」って顔だ。
 美鶴さんが溜息を吐いて、「お前は一体何なんだ」と言っている。
「同じ学園の、生徒会のメンバーがまさかストレガのリーダーとはな。おい、何とか言え。ストレガとは何なんだ。お前が作ったのか? 何が目的だ。どういうつもりで望月を襲った」
「…………」
 黒田くんはなんにも言わない。真田先輩が焦れたように、彼の胸倉を掴んで引っ張り上げる。でも何の反応もない。
 チドリさんの時と同じだ。彼らは人の言うことを聞き流す才能があるのかもしれない。僕ならこの状況、絶対怖くて「ごめんなさい」って言ってしまいそうだ。
「おい、何とか言え!」
「真田さん! ここはひとつ拷問を! 水責めしたり、鞭で引っ叩いたり、無表情無関心の宇宙人でもうっかり泣き出しちゃうような奴を!」
「……いや、何でそんな乗り気なんだお前」
 やっぱり順平くんは黒田くんと仲が悪いみたいだ。僕は慌てて仲裁に入る。あんまり可哀想な目に合わせるのは駄目だ。
「ま、まあまあ、落ち付こうよ! この子悪い子じゃないからさ、ほらゆかりさん、風花さんも知ってるじゃない。ちょっとぶっきらぼうなトコがあるのは確かだけど、いい子なんだよ。さっきも僕をシャドウから守ってくれたし――
「お前は甘過ぎるリョージ! こいつあのストレガのリーダーなんだぞ?! もれなく正座させて膝の上に石を積んだり釜茹でにしたりするべきだッ!」
 順平くん、君どれだけ黒田くんが嫌いなの。
「……ともかく、だんまりでは話にならない。病院……は、先日脱走されたばかりだし、どうしたものかな」
「屋上で飼えばいいんじゃないスか! 屋上! 屋上!」
 順平くんが嬉々として手を上げている。黒田くんは『こいつうざいな』ってあからさまに顔を顰めたけど(僕も同感だ)、「敗者に人権はねーんだよ!」とプレイヤーを取り上げられた途端、顔を真っ青にして「返せよ!」と叫んだ。
「あーん? 喋れるじゃねえかよ。ダメダメ、返しませーん。コレオレっちもーらい。いやー、実はプレイヤー欲しくってさ。でもカタチがちょっとなー、売っぱらって新しいの買っちゃおうっかなー」
「か、返せっ! ――かえ、せって、それ、ぼくの大事な、」
「はぁ〜? ボクぅ〜?」
 まるっきり苛めッ子の口調で(そりゃもう少々わざとらしいくらいに)順平くんが言う。ちょっとやりすぎじゃないかなって僕が思った、ところで、黒田くんが俯いて、声を殺して泣き出してしまった。泣いて、しまった。
「あー! 泣いちゃった! 駄目なんだ! イジワルしちゃだめなのにー!」
「う、うるせーよリョ―ジっ! こ、こんな奴はな、」
「いーけないんだぁー!!」
「…………」
 僕だけじゃなくて、ゆかりさんと風花さん(とちょっと美鶴さんと真田先輩も)にまで責めるような視線で見つめられて、順平くんはぐっと詰まって「すみませんでした」と黒田くんにプレイヤーを返してあげている。まったく、ひどいやつだ。
「く、黒田くん、大丈夫かい? もうひどいことさせないからね」
「あ、あのさ、彼置くとこないんなら、作戦室とかどうかな……その、寮の中とか。そしたら、その、私が手料理とか……」
「そうですよね。一番目が届き易いし。あ、僕の部屋に来れば良いですよ。明日の朝には全部洗いざらい喋りたくなっているはずですから」
「む。いや、俺の部屋に来い。同じペルソナ使いだ。他のストレガは気に食わんが、こいつなら腹を割って話せば、あるいは――
「だ、駄目! 君らこの子に何をするつもりなの! この子は僕の部屋に連れていきます! 武器も召喚器もないから、大丈夫だよね?」
 僕は「え?」って顔をしている黒田くんをぎゅーっと抱き締めて、そう宣言した。





◆◇◆◇◆





「狭いとこだけどごめんね」
 僕はちょっと申し訳なく思いながら、黒田くんをベッドに座らせたげた。チドリさんと違って、この子は男の子で、ペルソナが無くても油断はできなかったから、依然腕は後ろ、縛られたままだ。
 不便を掛けて申し訳ないなって思うけど、しょうがない。彼は僕らの敵なのだ。まだ上手く信じられないけど。
「その、腕痛くない? 大丈夫?」
「……痛いって言ったら外してくれるのか」
「あ、喋った」
「…………」
「さっきはごめんね、順平くんが嫌な思いさせて。後で君の分ちゃんと仕返ししとくからね」
「……お前」
 黒田くんは、わけわかんないってふうな顔をしている。僕を見て、「なんでだ」って首を傾げている。
「なんで何にも聞かない。お前はリーダーなんだろう。敵の尋問も拷問も、仲間に命令しなくていいのか?」
「うん、確かに美鶴さんには尋問とか拷問とかされてみたいよね」
「いやそうじゃない。だから、俺は敵なんだって。……今のうちに殺さなくて良いのかよ」
「き、君を殺すなんて、そんなことできっこないでしょ?!」
 僕が慌てて言うと、黒田くんは馬鹿にするように目を閉じて、「甘い奴だな」とか言っている。
「お前だって、俺が憎いだろう。今まで騙してたんだから」
「そ、そりゃびっくりはしたけど。でも憎くはないよ。君だって何か事情があったんだろう?」
「事情って……お前の言うことは良くわからない」
 彼が溜息を吐く。でも敵だとか言う割に、彼自身が僕を憎んだり疎んじたりしている様子はない。さっきだって、僕を助けてくれたのだ。
「ねえ、君さっき僕を助けてくれたよね。どうして?」
「…………」
「あ、答えたくないのかな。ならいいや。でもお礼は言わせてね」
「……いらない。お前な、馬鹿にしてるのかよ。危機感ってものがないのか? 俺はお前を殺そうと、」
「でも君は優しい人だもの。僕は友達だから知ってるよ」
「…………」
「ねえ、僕が嫌いかい?」
「…………」
「うん、いいや。またこんど。あ、喉乾いてない? 何か買ってこようか。君はモロナミンGが好きだよね? それともお茶のほうがいいかな」
「あ、いや」
 黒田くんは大分戸惑った顔で、「お構いなく……」とか言っている。どうも敵のボスってイメージじゃない。大体彼はここに来るのは初めてじゃない。僕が何度かご招待したことがあって、いつかは不健康な食生活を送っている僕を怒って、夕飯まで作ってくれた。
 本気で僕を殺そうと思えば、あの時にほんのちょっと毒を入れるだけで良かったのに。
 部屋を出て、廊下の突き当たりのロビーに置かれてる自販機で目当てのジュースを二本買って戻ると、なんでか黒田くんはものすごく苦い顔をしていた。
「……調子狂うから、こういうの止めろよ」
「どうして?」
「……友達な訳ないだろ。僕はずっとお前らを監視してたんだぞ。近寄ったのも、それが理由で、」
「え、そうなの? じゃあはじめから、僕と仲良くしたいなあって思ってくれてたんだ。嬉しいなあ」
「……お前、絶対馬鹿だろ」
 彼がまた溜息を吐く。でもさっきこの寮へ連れて来られた時よりは、大分柔らかい顔をしている。僕はそのことにちょっとほっとする。
 僕はふと、気付く。黒田くんは手を後ろで縛られたままだ。このままじゃなんにもできない。トイレにもお風呂にも行けないし、着替えもできない。ジュースだって一人じゃ飲めないのだ。
 僕はモロナミンGのフタを開けて、一口飲み、そのまま飲み込まずに、黒田くんに口移しで飲ませてあげた。自分じゃ飲めないからって思ったんだけど、黒田くんはあんまりびっくりしたらしくて、喉を詰まらせたらしく、むせてしまった。僕はちょっと後悔する。ああ、炭酸が染みちゃったのかもしれない。お茶にすれば良かった。
「ご、ごめん、むせちゃったね」
――は、え、ええ? おま、お前今何をした……」
「うん? 手、使えないでしょ君。あ、シャツべたべた。ごめん、僕のでいいかな」
「な、なんでそんな普通に……き、キスだろ、今の?! お、男相手にお前、」
「大丈夫。僕君好きだから」
「いや、そうじゃ……お、お前は女子にもててるからいいけど! 僕は、は、はじめて……」
「え、ファーストキス?! やったあ!!」
「…………」
 黒田くんががっくり項垂れる。僕は嬉しくってにやにやしている。「君可愛いね、大好きだよ」って言ったら、彼はぐったりした声で、「いっそ殺してくれ……」とか言っている。そんな事するわけないのに。




二日目、ハジけた




「君大分強情だねえ」
 僕は、ちょっと呆れてしまった。栄時くんってば、すごく強情なのだ、ほんとに。僕がさっきから頑張ってくすぐりの刑にしてやってるってのに、全然音を上げない。
「だれがっ……こんな、ことで、情けない……」
 栄時くんはもう息も絶え絶えだ。彼ってば結構敏感で、ちょっとの刺激にもぎゅーっと目を閉じて、やめろー!って大騒ぎだ。
 どうやら痛いのには慣れているらしいんだけど、くすぐったいのとかは全然駄目らしい。あ、あと気持ち良いのも多分弱い。僕がさっき頭を撫でてあげたら、「やめろってば!」とか言いながらも、ちょっと顔が赤かった。
「ねえ、さっさと吐いちゃいなよ。そうすればラクになれるから」
 僕はさっき見た刑事ドラマの台詞そのままに言う。栄時くんは僕からぷいっと顔を背ける。ほんとに意地っ張りだ。
 逃げられないように、両手はベッドの枠に手錠で繋いである。左足首もベッドの脚と繋がっている。あんまりこういうことはしたくないんだけど、彼ったらちょっと油断するとすぐに逃げ出すのだ。油断も隙もない。こういうところを見ていると、ああこの子はさすがストレガなんだあって思う。
「ほーら、こちょこちょー」
――っ! あ、う、っ」
 お腹を羽箒(美術の時間に使ってるやつだ。これが意外と効果抜群)で、触るか触らないかってとこですうっと動かすと、栄時くんの身体がびくっと跳ねる。これはどう見てもくすぐったがってるだけって感じじゃないけど、気付かないふりをしたまま、彼を責める。
 僕は今、美鶴さんに言われて、栄時くんの拷問中だ。この子、僕と同じ月光館学園2-F学園のクラスメイトなんだけど、どうやら驚いたことに僕らと敵対するストレガってグループのリーダーをやっているらしい。
 他のメンバーの得体の知れなさ(チドリさんは美人だけれど!)から、一体どんな奴が司令塔をやってるんだろって思ってたところにこの子が現れて、あんまりにも意外だったけど(順平くんは「オレっちは何となく読めてた! あいつが一般人のわけなかった!」って喚いてた)、ともかくいろんな情報を聞き出さなきゃならない。
 多分彼とはうちの部中一番親しかった僕ならちょっとは心を許してくれるんじゃないかって、みんなは思ったらしい。この前病院から脱走して行方知れずのチドリさんも、順平くんには色々喋ってくれたって前例もあったし。――彼らの目的とか、そういうのは何にも言ってくれなかったみたいだけど。
「ねぇ、君の名前って本名? 『エージ』って、すごく綺麗な名前だけど。いつもはどこに住んでるの? なんかね、住所録あるじゃない。あそこに書いてあった住所、なんにも無かったって」
「……ん、ん……知る、かよ」
「もー、真面目に答えてよぉ」
 僕はむくれて、栄時くんの胸を擽る。途端に、彼が小さな悲鳴を上げて仰け反る。反応すごいなあ、って僕は考える。すごく敏感な身体をしてる。この子、ちゃんと処女なのかなって、ちょっと心配になるくらい。……僕は別に、彼がはじめてじゃなくたって、なんにも変わらず好きだけど、念の為。
「……君、あいつらとはどういう関係?」
「……答える……かよ、」
「付き合ってるの? それともただの友達?」
「は?」
 栄時くんが「何言ってんだコイツ」って顔になる。僕はちょっとカチンときて、「だからそーいうことだよっ!」て言う。
「き、君その、仲間の誰かと付き合ったりしてないのかなって! だってこんなに敏感だし、エッチだし、まさか毎晩、夜な夜な裸にされて……」
「ちょ、何気色悪いこと言ってんだ! ありえないから! 大体そんなこと、あるわけないだろ?! 僕ら兄弟なんだから……あ」
  栄時くんが「あっまずい言っちゃった」って顔になった。僕は、「ふうんそうなんだあ」って頷く。ちょっとほっとしている。そうなんだ、よかった。
「君、お兄ちゃん? 末っ子? なんかお兄ちゃんっぽいよね、面倒見が良いとことか……」
「んっ……お前には、関係、な……あ、あっ、あ」
 下腹を擽ると、いやでもうっすらした膨らみが目につく。それまで知らないふりをしていた僕も、そろそろかなって思って、栄時くんににこっと笑い掛けた。おもむろにソコに、服越しにそっと触れる。
「ひゃ……!」
「ねぇ、教えてよ。そのくらい構わないんじゃない?」
「……っ、わ、わかったから、そこ、触るな馬鹿ーッ!」
 栄時くんは涙目だ。真っ赤になって、珍しく大声を張り上げている。僕は頷いて、ちょっと笑う。
「うん、嬉しいな。君のこと、もっとたくさん知りたいから」
「……お前、いい奴だと思ってたけど、結構サディストだよ」
「あれ、そう? じゃ、もっと苛めちゃおうかな」
「やめろ……まんなか、俺。兄さん姉さんがいて、俺、それから弟」
「へえ。あ、お父さんとお母さんは?」
「いる訳ないだろ。大体兄弟なんて、勝手に言ってるだけで、血なんか繋がってない――
「え、えええ?! ち、血の繋がりのない兄弟が、ひとつ屋根の下……」
 僕は驚いて、栄時くんに取り縋って、「ねえ、うちおいでよ」と必死に懇願した。
「そんなの絶対駄目だ! 君みたいな可愛い子なんて、いつ間違いがないとも限らないんだからっ……あ、僕結構これでも甲斐性があって、君を一生幸せにしようと……」
「ちょ、待て待て待て、何を言ってる。俺ら敵同士だぞ。なにプロポーズしてんだ」
「て、敵とか味方とか、そんなの関係ないじゃない! もし僕の立場がそんなに気になるんなら、僕君を連れてどこまでも逃げるよ!」
「だ、だからそういうのは駄目なんだ! 俺はお前たちとは考え方から何から違うし気に食わないんだからな。お前のことだって、その、――嫌いなんだからな」
「……え」
 僕は、ひどい衝撃を受けた。栄時くんの口から、あろうことか「嫌い」って言われてしまった。しかも「お前」って、僕の顔を見て言われた。
「そ……そんな」
「な、何泣きそうな顔をしてる。お前は馬鹿か? なんで、」
 栄時くんの声は、途中で急に途切れた。僕が、彼の性器を服ごしに強く握ったせいだ。
「そ、そんな、だって君、僕に優しくしてくれるじゃない。僕が触ったらこんなに大きくしちゃって、」
「ちょ、ちが……」
「き、君はあれかい? 好きじゃない奴に触られて興奮しちゃうようなやつなのっ? そんな、」
「ば、馬鹿! はな、せ」
 僕のなかで何かがハジけた。僕は、栄時くんの服のベルトを外し、ジッパーを、下げて、剥き出しになった下肢に噛みついた。「ぎゃあ」と悲鳴が上がる。
「や、やめろ!」
 栄時くんが暴れて、頭の上で纏められた手枷がガチガチ鳴る。僕は勃ちかけていた彼の性器を舐めながら、「こんなに感じてくれてるのに」と言う。多分、声はすごく恨みがましげなものになってたろう。
「硬くなってるのにっ……」
「ば、言う、なよっ!」
 歯を立ててふにふに噛んであげると、また栄時くんがやだやだって泣きそうになりながら仰け反る。こんなに敏感でえっちなのに、僕を感じてくれてるのに、僕を嫌いだとか言う。
「あ、あっ……ちょ、だめ、もち、づきぃ、」
「続き! 好きな人はいますか?! コレ拷問なんだから、ちゃんと答えてよね!」
「ちょ、ソレ全然ストレガ関係な……あ、あ!」
 ちょっと乱暴に手で扱いてあげると、女の子みたいな声で喘いでくれる。すごくかわいいけど、悔しい。僕のこと全然好きじゃないのに、こんなエッチな声出るなんて反則だ。
「うあ、あぁ、やっ、だめ、やめ、離……!」
「答えて、くれるよね?」
「い、いるわけない! 人なんて、好きになるわけっ、」
「じゃあ次、エッチの経験は?」
「ちょ、ホントにどうでもいいことばっか……あ、あっあ、な、ない! ない、から……」
「はじめてなんだ?」
「う、く」
 栄時くんがこくこく頷く。もう半分泣き顔で、『やめてください』って無言で訴えてる。でも身体の方はびくびく震えてて、『もっとして』って言ってる。
「ひとりエッチ、したことある?」
「……う」
 栄時くんがぐっと詰まる。まあ高校生の男の子だし、ないわけはないだろうけど、恥ずかしいのかなって、思ってたら、フルフル首を振る。ない、らしい。
「……嘘でしょ?」
「だっ……から、お前みたいな、普通のやつの常識で、僕らを考えるなよっ……薬、飲んでたら、……っは、あ、勃たなく……」
「……すっごく元気になってるけど」
 僕はあからさまに勃起してる栄時くんの性器をぎゅっと握る。彼はまた震えて、「ああああ」とすごく色っぽい顔で喘ぐ。
「だっ……め、さわら、ないで、」
 栄時くんは余程辛いらしくて、もう口調が『勘弁してください』みたいになってきている。
「いや……気持ち悪い、こんな、変なの」
「うん、ごめんね」
 彼のスーツをずらして、うつ伏せに寝かせて、お尻に触る。「やだ、」って途方に暮れたような声が上がる。うん、ごめんね。僕も君を苛めたくはないんだけど、これは拷問で、君は僕が嫌いで、僕らは敵同士なんだから、仕方ないことだよね。
「な……なにする、気、て、うわあああっ、やだ、舐めるなそんなトコっ、バカ!」
「いいの? 解さないと痛いよ」
「へ……?」
 指と舌でちゃんと湿してあげてから、僕がジッパーを外して性器を取り出すと、栄時くんはぽかんとして、それから全力で逃げ出そうと暴れ出した。
「暴れると痕ついちゃうよ。ほら、おとなしくして。君を傷つけたいわけじゃないんだ」
「いっ、やだやだ、やだあああ! 犯されるううう! ドクターっ、おっ、兄ちゃ、お姉ちゃーん! ジン、やっ、」
 なんとなく彼の詳しい家族構成が分かってしまった。ドクターって誰だろう。お医者さんか誰かだろうか。
 ともかく暴れる彼を押さえ込んで、性器を埋めていくと、余程辛いのか抵抗を止めて、彼は静かに泣きだした。
「……う、う、っ」
「ごめんね、泣かないで」
「うっ、う、うえ……ひど、すぎる。あんまり……」
「ごめん、ごめんね」
「くるし、いた……お父さん、お母さん……っ」
 この子、復讐代行人でひどい奴らのリーダーなのに、すごく良心を突き刺す泣き方をする。もしかして、騙されてるんじゃないだろうか。ほんとはやりたくないことを、無理にやらされてるんじゃないだろうか。多分、間違ってないと思うんだけど。
「ごめん、動くね」
「うっ、う、ううー……」
 ぎゅっと目を瞑って、ぽろぽろ泣いてる彼の腰を抱いて動くと、すごく悲しそうな泣き声が彼の唇から零れてくる。……僕、これ混じりっけなしの強姦魔だよな、と頭の片隅で考えた。ごめんなさい。でも止まれません。
「すぐに気持ち良くなるからね」
 僕はどうにかして栄時くんを宥めようと、そんなことを言う。栄時くんがフルフル首を振る。『痛いんだよ、気持ち良くなんかなるワケない、大嫌いだ望月なんか』って、声にならない声が聞こえる気がする。……多分、気のせいじゃない。
「……ころ、すぅう……んっ、いた、……やっ」
「ん、ごめんね。僕を恨んで。気持ち良いよ」
「の、ヘンタイ、犯罪者、ぜった……復讐、」
「うん」
 僕は頷くしかない。ものすごく凹むけど、でも彼の身体は気持ちが良かった。融けちゃいそうなくらい。
「可愛いよ」
 彼の身体に入って、出て、そうしながら彼の唇を吸って、精一杯気持ち良くしてあげようって頑張る。はじめのうちは強張っていた身体が、なんとか柔らかくなっていく。
 でもこの子は男の子だし、初めてなのだ。僕はすごくいいんだけど、栄時くんは辛そうに顔を歪めている。美人は苦しんでても綺麗だけど。
――あ、ごめん、」
 気持ち良過ぎて、イッちゃう。泣きながら喘いでいる顔があんまり可愛いとか、中で出されて呆然としてるところにまた欲情しちゃうとか、ああ本当に僕はろくでもないって、思う。




三日目、キレた


――う、あっ、ああぁあ、あ……」
 イッて敏感になっている所に、丸っこい卵みたいなかたちのクリアローターをお尻に挿れてあげると、彼は身体を仰け反らせて震えた。相変わらず敏感だ。
「中で出したの、零れてきちゃうともったいないからね」
「うぁっ、殺す、絶対殺すっ……」
 口ではそんなふうにきついことを言うけど、身体はプルプル震えて、火照ってピンク色になっている。すごく綺麗だなって、僕は思う。
「君ほんと可愛いよ。敏感だね」
「う、うああぁあ……」
 唇からすうっと零れている涎だとか、虚ろに見開かれた目だとか、すごくすごく可愛い。僕はにこにこしながら、栄時くんの頬を撫でて、何度目かの質問をする。
「君のそれ、本名?」
「あっ、ああああ、」
「答えられない? じゃ、もっと強くしようかな」
 ローターのスイッチを、弱から中に切り替える。途端に栄時くんが目を見開いて、「ひゃあ」ってすごく可愛い悲鳴を上げる。
「あっ、あぁあ、や、いやっ……」
「そろそろ素直になってよ。僕、君をいじめたくなんてないんだよ? ほんとは優しくしてあげたいと思ってるんだから」
「っあ、……して、」
「うん?」
「……ゆる、して、……ちづ、きっ……」
 弱々しい声で、彼が言う。
 でも身体のほうは、ぴくん、ぴくんって震えている。こんなに感じちゃってるのに、ほんとにこの子は素直じゃない。まあそういうところも可愛いんだけど。
「じゃあ、答えてくれる?」
「ん、知らな……」
「……まだ駄目かな」
「……っ! ほんとに、知らな……自分の、ほんとの名前なんて、嘘じゃな、」
 スイッチを中から強に切り替える。
 栄時くんの喉から、「ひ」って引き攣った悲鳴が零れる。
――あれ」
 目を閉じて、かくんとベッドに倒れ込んで、動かなくなってしまった彼の頬を叩いて、「おーい、栄時くーん?」って呼び掛ける。でも反応はない。
 しょうがないなって、僕は彼の中からローターを抜いた。中から泡だった体液が零れ出してくる。いっぱい、たくさん。
 せっかく出したのにもったいないなあって思って、彼の脚を抱え上げて、もう一度僕の性器を彼の胎内に埋める。奥まで貫いた衝撃で、栄時くんがはっと目を覚ます。
――あ、」
「零れちゃったんだ。ちゃんと全部呑み込んで。吐き出しちゃダメなんだから」
「あ、あぁあっ、ひ、やっ!」
 目が覚めていきなり、また繋がっていたって知って、彼はまたすごく可愛い顔で真っ赤になって喘ぎ出す。ほんとにほんとに可愛過ぎる。綺麗で、気持ち良くて、お腹の中まで愛してる。
 でもこの子は僕のことが嫌いだって言う。
「あ……あ、あ――
 またお腹の中にいっぱい射精する。今度は零さないでくれると嬉しいんだけど。せっかく僕が産み付けた、たくさんの子供なのに。
「ねえ、君の名前は何ですか?」
 僕は微笑みながら優しく聞く。涙と涎でぐちょぐちょになってる(そんなになっても彼は綺麗だ! びっくりする)栄時くんは、イッたばっかりでびくびく震えながら、「もうゆるして、ください……」って掠れた小さな声で、ぼそぼそ言った。






五日目、反省会
(アパートの一室、ちゃぶ台を囲んで納豆を掻き混ぜながら)



「えー、反省会を開こうと思います。今日の反省メンバーは……カオナシ、というか俺と、チドリです。タカヤとジンは……まあいつもどおり」
「あんたが反省メンバーに入っとるんてめっちゃ珍しいな。今年入って初めてちゃうか」
「ですよねえ。しかも大分憔悴している。貴方がそんなになっているとは珍しい」
「……まあ色々ありました。えーと、まずはチドリ。敵勢力のリーダーを勘違いした後、ふいを突かれて拘束され、その後病室で贅沢三昧」
「だって、毎日メロン食べさせてくれたから」
「メロンやて!? ソレちょ、おかしいやろ! なんなんその破格の待遇! わしも食いたいメロン! メロンメロンメロン!」
「ジン、落ち付きなさい。メロンくらいなんです。一昨日柿を食べたでしょう。裏に住んでるおばあさんちの庭の木の」
「お前ら、俺が死にそうな目に遭ってる時になにを……ともかく、お前ちゃんと反省してるのかチドリ。またわけわかんない絵ばっかり書きやがっ……て……って、なにこれ? なんかスケッチブック一冊丸ごと、あの、」
「……順平」
「陶酔すんな! 気持ち悪い! 見ろ、タカヤの上半身に蕁麻疹が!」
「チドリ! お前なんちうことをっ! タカヤはなあ、お花畑アレルギーなんやぞ?!」
「食中毒です」
「お前反省会なのに全然反省してないな……もういい、お前は勝手にいつまでもヒゲ描いてろ。――そして、俺だ。先日敵勢力のリーダーに襲撃を掛けたが、シャドウの襲撃により失敗。昨日の夜頑張って逃げ出すまで拘束され、敵リーダーに拷問を受けていた。以降このようなことがないように気をつけます。以上」
「そんだけかいな。もっと詳しく――
「い、言えるか馬鹿! 殺すぞ!!」
「た、タカヤああ! カオナシが逆ギレしよったあ!!」
「はいはい、よしよし。ところでカオナシ、貴方のことですから、敵の個別情報の収集は済んでいるんでしょう? 彼らの中に危険だと判断すべきものは?」
「……ああ。リーダーが、厄介だな。一見人当たり良く、周囲にも上手く馴染んでいるが、あいつほんとはかなりキてるぞ。なんか怖い」
「え。お前が怖い言うなんぞ……」
「珍しいね」
「ですねえ」
「お前らも見掛けたら全力で逃げろ。もうほんと危ないからあいつ。卵を産み付けられるぞ」
「え。なにそれめっちゃ怖い」
「近寄りたくない」
「ですねえ」