なんか変だ。
 あれはライトの明かりじゃない。
 真っ赤で、ぎらぎらしてて……少なくとも、おれたちに支給されたゴーグルは、白くて冷たい光を放っていた。あんまり似てない。
「うーん、ここからじゃあ良く見えないなあ……」
「暗いし」
「うん、そうね」
 暗視スコープもいっしょに支給してくれれば良かったのに、とエリーナが言った。
 おれにはなんのことだかわからなかった。
「暗視……その、なんとかって、なに?」
「うん、暗いところでも、ものが見えるようになる機械よ」
「へえー……すごいのがあるんだなあ」
 おれは感心してしまって、頭のゴーグルをしげしげと眺めた。
 こんなぴかぴか光るゴーグルとか、マップナビとか、やっぱりレンジャーの装備ってかっこいいものばかりだ。
「あ、あれっ?」
 ゴーグルの脇にあるスイッチに触ったら、なんだかライトの裏側に見える画面が変わった。
「な、なにこれ?」
 スイッチを回すと、景色の見え方が変わる。おれは二人にそれを見せた。
「ね、これ、なに?」
「あ」
「なんか変なのついてるね」
 エリーナとメアリもおれとおんなじようにスイッチをいじって、ゴーグルをメガネみたいにかけた。
 おれもおんなじようにした。
 すると、真っ暗な中なのに、遠くまで良く見える。
「スコープ……って、これ?」
「たぶん、そうじゃないかなあ。あ、ズームもきくんだね。リュウのお顔がおっきく見えるよ」
「う……あ、あんまり見ないでよお」
 おれは恥ずかしくて、顔が真っ赤になってしまった。
 顔を拡大されて見られるっていうのは、ちょっと緊張する。
「ね、ねえ」
 外を見ていたメアリが、なんだか震え声で言って、ぺたっと床に座り込んでしまった。
 どうしたんだろう?
「どしたの?」
「あ、あれ……あれっ」
 メアリが指差してるのは、どんどん近付いてくる赤い光だ。
 あれはレンジャーの光じゃあなかったんだろうか?
 おれにはなんでメアリがそんなにぶるぶるしてるのかわからなかったけど――――ゴーグル越しにズームアップされた光景を見て、理解した。おんなじように、ぺたっと床に座り込んでしまった。腰が抜けたのかもしれない。
 そこには、数えきれないくらいのディクがいた。
 すごく怖い顔をしたやつがいっぱいだ。
 それが規則正しくこっちへ向かってくる。
 まるで訓練されたレンジャーみたいな進み方だった。きちんと隊列を組んでいる。
「あ、わわわ、わわわわ」
 口からは、あわあわした声しか出てこなかった。
 どうしよう。勝手にこんなおっきなお屋敷に入ったから怒ってるのかもしれない。
 おれの家にも、悪い人が入ってこないように守ってくれてるディクがいる。
 やっぱり人の家になんて、勝手に入っちゃいけなかったんだ。
 おれたちは怖いおじさんに無理矢理連れてこられちゃいました、って言っても、あんまり聞いてくれそうにない顔をしている……。
「も、もうやだあ! た、食べられちゃうよう!」
「う、うえ……パパあ……」
 メアリがわあっと泣き出してしまった。あの強いエリーナまで、じわっと涙ぐんでる。
 おれも、兄ちゃん助けて、って泣き出しそうになった。
 でもおれが泣き出す前に、部屋のドアがいきなり乱暴に開いた。
 そこにいたのは、さっきのトラジマのおじさんだ。その後ろにもいっぱいいる。
 見つかっちゃったんだ……!
 おれは慌てて、さっき入ってきた窓を見た。
 また枠を伝って逃げられれば――――でも、外はディクでいっぱいだ。
 どうしようもない。どうしよう……どうしよう?!
「手間掛けさせやがって、見付けたぜガキどもが……」
 「ユーカイ」のおじさんたちは、手に剣を、銃を持ってた。
 エリーナは、「ユーカイ」っていうのは、攫ってきた子をお金と交換しようとする悪いことだって言ってたけど、今のおじさんたちには、そんなふうな気配がなかった。
 何をどうしたって、今ここでおれたちを殺しちゃうぞ、っていうような顔をしている。
 おれの予想は、嬉しくないけど当たってたみたいだ。
 錆びた剣をおれたちに突き付けて、トラジマのおじさんが言った。
「死ね」




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