周りで火が燃えてる。身体の下には柔らかい感触があった。
 黒くて長い綺麗な髪も、目のはじっこに見えた。メアリだ。気を失っている。
 たまに息を吸ったり吐いたりして、おれの肩のあたりに当たってる胸が、ふよふよ浮き沈みするのがわかる。
 ていうか、やっぱりみんな、おれみたいに痩せっぽちでぺったんこじゃないんだ……。
 ちょっと落ち込んだけど、どうやらメアリは無事みたい。ほっとした。
 すぐ隣では、エリーナが倒れている。
 見た感じ、どうやら怪我もあんまりない。生きてるみたいだ。よかった。
「ううん……」
 エリーナは小さくうめいて、のろのろ身体を起こした。
 頭を何回か振った。
 そして周りが火の海だってことに気付いて、顔を強張らせた。
「だっ、だいじょうぶ?! リュウ、メアリ……」
 エリーナはおれとメアリを呼んで、急にぽかんとした顔になった。
 それからあわあわと口を開いたり閉じたりした。
 エリーナの目から、ぼろぼろと涙が出てきた。
 ずうっとすごく強い子だなあって思ってたので、ちょっとびっくりした……泣かないで、って言おうとしたけど、上手く口が動かない。
「リュ……リュウっ。リュウーッ!!」
 エリーナは、おれの身体をゆさゆさ揺らした。
 でもその感触は、ほとんどおれに伝わってこなかった。
 ただ、すごく、寒い。風邪をひいちゃう前の悪寒よりも、ずうっと冷たい。芯から凍えてるみたいな感じだ。
「い、いや……リュウっ、お、起きて。何か言って、ねえ!」
 おれは泣いてるエリーナになんにも言ってあげられなかった。
 口を上手く開けられなくて、早くメアリをおれの下から引っ張り出してあげて、二人で逃げて、って言うこともできなかった。
 最後にリュウ、兄ちゃんにごめんねって言ってたって、ボッシュ兄ちゃんに伝えてって言うこともできなかった。
 おれの身体の半分は、大きな瓦礫の下敷きになっていた。
 顔の半分とお腹から下が潰れてしまっていた。
 血がいっぱい出てて、喉を塞いでいたけど、もうおれは息苦しくもなかった。
 もう息をしていないからだ。おれの心臓はどうやら止まってしまったようで、何の音もしなかった。
 だんだん冷たくなってくのが、わかった。
「リュウ! リュウっ!!」
 エリーナはおれに取り縋って泣いてた。
 おれなんて、兄ちゃんのために造られた玩具なのに、おれが死ぬ時に泣いてくれる人がいるんだって思うと、ちょっとくすぐったかった。
 兄ちゃんは泣いてくれるだろうか。
 泣かないでさっさと新しいおれを造るだろうか。
 今度のおれはもっと良い子だろうか。
 兄ちゃんは、今度こそ、寂しくないだろうか。
 誰か、誰でもいいから、ボッシュ兄ちゃんをもう泣かないようにしてあげて欲しかった。
 寂しいなんて言わせないでほしかった。
 兄ちゃんはドラゴンだから、世界にひとりっきりだってみんなが言ってた。
 そんなの兄ちゃんがかわいそうだ。
 兄ちゃんは一人が平気なひとなんだってみんなは言う。
 でもそんなことぜんぜんない。
 ずーっと、そうだ。
 寂しがりで泣き虫で、ずーっと手を繋いでいてあげなきゃ、また寂しいって泣いちゃう――――
「リュウ!!」
 エリーナの声が、それを最後に聞こえなくなった。
 ずしんって大きな感触があって、真っ暗になった。また岩が落ちてきたんだろうか。おれは埋められちゃったんだろうか?
 死ぬってこういうことなんだよって、おれの中の誰かが、まだ死んだことがないおれに教えてくれた。
 それを最後に、おれは消えてしまった。真っ暗な闇が、おれを呑み込んだ。




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