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壬生怪談・百物語




〇九九・「報告」(ソウゲン)


前略 父上殿

 そういうわけで小生は、生き別れの双子の妹、お武と思わぬ再会を果たしました。
 残念ながら望んだ形ではなく、今度こそ今生の別れとなりましたが……。
 人を襲って食らわねばならぬ業も、人を傷つけぬよう山深くの巣穴にこもり、ただ餓死を待つ孤独も、人の身と心を持って生まれた者には、背負いきれるものではないでしょう。
 人喰いの化け狼の身となってしまったお武の首を刎ね、安楽死をさせてやったことを、小生は悔いてはおりません。このような不肖の兄ではありますが、最期に身内がそばについていて見送ってやれたので、そのことは安堵しております。
 父上殿が、もし末の娘を救えず殺めたことを恨まれるのでしたら、小生を恨んでいただきたく思い、介錯をつとめていただいたお方の名はここには記しません。

 妻のスズラン殿は、一時は安倍晴明という大元の動力源を失い、記憶の混濁を起こすほどに衰弱しておりました。
 しかしながらご本人の仰る通り、気が向いたことには、驚くほどのやる気を見せるのです。
 今は技を磨かれて、雑面ノ鬼の生み出した妖刀にからむお力を失っても、見事に人に化けることができるほど。
 そんなわけで、こちらは日々つつがなく過ごしております。

 父上殿へのご報告が遅れましたこと、誠に申し訳がありません。
 言い訳になりますが、雑面ノ鬼との戦後処理のさなかに、小生とスズラン殿のあいだにややこができました。
 小生は医者ですが、人と狐の子を取り上げた経験がありません。立ちあいのときに不安がないよう、あれこれと忙しく準備をしていたのです。
 そのため、妹のお武にまつわる顛末をお報せするための文を、なかなか送ることができずにいたのです。

 生まれたややこは、うちの一族の者に多くある髪色のような、若草色の毛をした仔狐です。
 まだ目が開いたばかりで、見るものすべてが珍しい様子。猫の子のように鳴きながら屯所のあちこちを歩きまわるので、高いところから落っこちぬか、危ないものに触れてはならぬと、気が気ではないのです。
 ここしばらくはお体に負担がかからぬよう、化けることを休んで過ごしておられるスズラン殿と寄り添っている姿が、そっくりで微笑ましく、あまりにも愛らしいので、銀板写真に収めようと思い立ちました。
 気まぐれなおふたりなので、長い時間ひとところにジッととどまっておられることは少なく、こうして眠っている写真ばかりになりました。
 同封いたします。(※布団に突っ伏して眠る二匹の狐の写真)

 此度のいくさで怪我人が多く出ましたので、家の者は皆忙しいでしょうが、お時間ができましたら、孫を抱いてやってはもらえますまいか。
 スズラン殿も喜びます。

草々

踪玄ヘ

 お前は昔から、そういうところがよくないと思う。
 妹のお武のことは、残念だし悲しいが、これ以上の苦痛を与えぬよう楽にしてやりたいという、兄のお前の判断を尊重したい。おそらくこの父でも、同じようにしただろう。
 しかし申し訳なく思うべきなのは、孫が生まれたという一大事は、「言い訳になりますが」などではない、ということだ。
 祖父になったことを今知った、この父にとっても一大事だ。
 いや、お互いに知らぬことだったとはいえ、お前とお武の息子がつがって生まれたというのだから、生まれたややこは、この父にとっては曾孫でもあるのか。
 お前のおかげで、我が家の家系図は、ずいぶん複雑怪奇になってしまった。

 人と狐で子が生せるものなのか。男と男で子が生せるものなのか。
 つがった相手が生き別れの双子の妹の息子であったとか、娘婿がこの父の旧知の友人だったとか、そのような偶然の積み重なりがありえるのか。
 どういうことなのだ。
 もう何もわからぬ。
 お前のかかわることについては、考えるのをやめた。元気で世のため人のため、正しい道を歩いてくれるのならば、何も言わぬ。なんでもよい。
 ただ、くれぐれも妻子を悲しませるような真似はせぬように。

 それはそうとして、写真の同封をありがとう。
 お前の子も、お武の子も、わたあめかと見まごうほどにふわふわで丸っこく、どちらも等しくかわいらしい。

 お前が嫁にもらったスズラン殿のことなのだが、この父の孫でもあるわけだし、今度からはスズランと呼んでみようかと思うのだが、どうだろう。
 急に距離を詰めたら戸惑われるだろうか。あとで、こっそり教えてくれ。
 では明日、さっそく孫たちを見に壬生屯所へ行きます。

父より




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