* 宝玉の王さま(4) *




 純粋でまっすぐで無邪気な好意を、あるいは戸惑いと、可愛げのある怒りを向けてくれる貴方の口から、この言葉が吐き出される事だけを、あの日からずっと怖れて、脅えて、過ごしてきました。

『よくも俺を騙したな。裏切り者。いいや、知ってたさ。お前を家族だなんて思った事もない』

 もしくはそれよりも、もっと、ずうっと恐ろしい、想像するだけで世界が終わりそうな、こんな言葉を。

『俺は君を赦す。君を信じる。君を助ける。さあ、家に帰ろうぜ。俺の大切な家族、俺の十代』

 マスター。
 どんなに強大な力を持っていても、どんなに人の心の闇に馴染んでいても、痛みも苦しみも感じなくても。





 オレは、こわいよ。


*


 見渡す限りどこまでも、空の端っこまで白い砂漠が続いていた。空の上には次元を超えて届けられた、レインボー・ドラゴンのカプセルを探すコバルトの姿。
「カードに戻ってろって言ってるのに」
 俺がちょっと責めるみたいにして言っても、十代は相変わらず気ままに俺の上を滞空しながら、ツンと顔を上向けた。聞く気が無いらしい。
「俺は本当に君のカードを持ってて良いのか、時々不安になるよ」
「時々?」
「……いや、わりと、いつもかなぁ」
「分かってりゃいいんだよ」
「きついなぁ〜。頼むからさ、レインボー・ドラゴンに俺の悪口言ったりしねぇでくれよな?」
「そんなつまんねェ事、気にするなよ。オレと宝玉神サマははっきり言って水と油ってやつだからさ」
「仲が悪いのか? 王様と神様が」
「良くはないだろうな」
 十代は面白くなさそうに地面に降り立ち、俺の隣をとことこと歩きながら(変な感じだ)、「ベルト」と言った。
「へぁ?」
「デスベルトを付けっぱなしなんだろ。勝っても負けてもデュエルをすると、お前はエナジーを吸われちまう。ならオレを牽制に出しておけばいい。この辺うろついてる奴らのレベルじゃ、オレが寝てても敵わないぜ。この位の簡単な事も考えなかったのか?」
「……君が俺を気遣うような事を言うなんて。今晩は赤飯だ」
「お前アークティックの人間なのに、日本にかぶれ過ぎだ」
 十代はちょっと嫌そうな顔をして、俺から一歩後ろに下がって歩く。ひゅう、とジムが口笛を吹いた。
「オレとしても賛成だ。こんなプリティ・ガールと並んで歩けて、おまけにモンスター避けができるなんてね。ユーのネームを聞いても良いかな。どうやら随分高位モンスターのようだが、その姿、まるでヒューマンみたいだ」
「十代だ。五百年くらい前は人間だった事もある気がする」
「なんだよ。俺そういう話聞いたことないぜ」
「言ってないから」
「家族なのに!」
「馴れ合いはごめんさ。しかも人間と」
 相変わらず十代は懐かない。いつもの事なので、俺は諦めて黙った。ジムはどうやら十代の事が気に入ったようで、アモンとオブライエンも物珍しそうな顔を十代に向けている。
「……十代。お前さ、なーんか、ピリピリしてねぇ〜?」
「こんな状況、ピリピリしない奴なんかいる訳ないだろ。お前だって」
 十代は、なんとなくいつもの十代っぽくない感じがする。あの余裕たっぷりのふてぶてしい顔がない。どこか思い詰めているようだった。
「ヨハン」
「なんだよ」
 十代は、空の上でぐるぐると旋回するコバルトを指差して、なんだか変な顔をした。
「十代?」
「見つかったみてーだ。急ごう」
「ああ」





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