* 宝玉の王さま(6) *




 気高い君が、君にとっての下等生物(つまり俺)に振り向くなんて事は、たとえ世界が滅びたってありえない。
 それを知らない程子供じゃないし、気にしない程大人じゃない。
 与えられなくたって構わない。
 ただ俺は惜しみなく与えて与えて与えて与え続けよう。
 君が嫌な顔をしたって、こっちを向いてくれなくたって、知ったことか。


 すきです。俺の大切な宝玉の王さま。


*


「ひでぇ男。好意には好意を、敵意には敵意を10割返しがルールだろ」
「君のナイトメア・ペインを基準にしてものを考えないでくれ」
 年頃になったきれいな男には良くある事なんだろうが、そいつがヨハンだとすると、なんとも変な気がする。
 さっきの事だ。下級生の女子の「好きです」に、この朴念仁はきっかり三秒で「ごめん」を返しやがった。それも爽やかな笑顔で。「ちょっと考えさせて」なんて言い訳すらなく、きっぱりと振りやがったのだ。
「確かにヒト嫌いのヨハンが、ヒトを好きになれる訳なんかねーよな。あーなんか安心した。お前はずうっと空気に話し掛けてる変人だって噂になって、死ぬまでひとりぼっちなんだよ。ざまあみろ」
「とても俺がカードを所持してる精霊の言葉とは思えないな。これでも好きな子くらいいるのさ」
「へえ?」
 珍しい事を聞いた。オレの顔に疑わしそうなところを見付けたのか、ヨハンは笑いながら「信じてないだろうけど」と言った。
「俺にもいるのさ。純粋でひたむきな、誰よりきれいな、俺の大切な人」
「ふうん?」
 オレは断言してやった。
「絶対フラれる。お前みたいな顔だけの電波に本気で惚れるやつなんていねぇ」
「構わないさ」
 ヨハンは清々しくすらあった。
「俺がただずっと好きなだけなんだから。あの子は俺を救ってくれたんだ。あの子の幸せのためなら、俺はできる事でもできない事でも何でもできる」
「へえ」
 これは本気のようだ。
 ――何でだろう。さっきから、ひどく息苦しい感じがする。
 オレは人間みたいに呼吸なんてしてないのに。
「誰?」
「君に決まってる」
 心臓が停まりそうになった。
 嘘だろ。マジかよ。
 オレは、
 ――オレも。
 初めて会った時から、オレはヨハンに触れもしねェみにくい悪魔だけど、きれいなヨハンのことがすきで、すきで、だいすきで――ちょっとだけオレも人間になりたいなんて、魔が差して考えちまうくらいに。
 ヨハンがパチンとウィンクする。
「なんて。冗談だよ」
「………」
 やべえ、すげぇ殺したいこいつ。
「罪深過ぎるぜ。オレその手の冗談嫌いなんだよな。宝玉王侮辱罪でお前の寿命を半分縮める。決定」
「うえぇ!?」
「身のほどを知れよ。ヒトの分際で」
「うん」
 ヨハンは変な顔をして笑った。
 すがすがしい諦め顔。そんな感じ。
 ヨハンはたまにそういう顔をする。線引きの顔。心の境界線を引く瞬間。


 きっと、オレがヒトに似た形なんかをしているせいだ。
 ヨハンを迫害した、人間の。
 俺が他の宝玉獣たちみたいにケダモノの姿をしていたら、少しは――
 ちょっとくらいは、ヨハンはオレの事を気に入ってくれたのかな。


「知ってるよ、王さま。君が俺を軽蔑してるって事は、嫌になる程さ。でも――
 ヨハンはそこで黙った。
 何を言おうとしたのか、オレには見当もつかなかった。





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