気高い君が、君にとっての下等生物(つまり俺)に振り向くなんて事は、たとえ世界が滅びたってありえない。
それを知らない程子供じゃないし、気にしない程大人じゃない。
与えられなくたって構わない。
ただ俺は惜しみなく与えて与えて与えて与え続けよう。
君が嫌な顔をしたって、こっちを向いてくれなくたって、知ったことか。
すきです。俺の大切な宝玉の王さま。
*
「ひでぇ男。好意には好意を、敵意には敵意を10割返しがルールだろ」
「君のナイトメア・ペインを基準にしてものを考えないでくれ」
年頃になったきれいな男には良くある事なんだろうが、そいつがヨハンだとすると、なんとも変な気がする。
さっきの事だ。下級生の女子の「好きです」に、この朴念仁はきっかり三秒で「ごめん」を返しやがった。それも爽やかな笑顔で。「ちょっと考えさせて」なんて言い訳すらなく、きっぱりと振りやがったのだ。
「確かにヒト嫌いのヨハンが、ヒトを好きになれる訳なんかねーよな。あーなんか安心した。お前はずうっと空気に話し掛けてる変人だって噂になって、死ぬまでひとりぼっちなんだよ。ざまあみろ」
「とても俺がカードを所持してる精霊の言葉とは思えないな。これでも好きな子くらいいるのさ」
「へえ?」
珍しい事を聞いた。オレの顔に疑わしそうなところを見付けたのか、ヨハンは笑いながら「信じてないだろうけど」と言った。
「俺にもいるのさ。純粋でひたむきな、誰よりきれいな、俺の大切な人」
「ふうん?」
オレは断言してやった。
「絶対フラれる。お前みたいな顔だけの電波に本気で惚れるやつなんていねぇ」
「構わないさ」
ヨハンは清々しくすらあった。
「俺がただずっと好きなだけなんだから。あの子は俺を救ってくれたんだ。あの子の幸せのためなら、俺はできる事でもできない事でも何でもできる」
「へえ」
これは本気のようだ。
――何でだろう。さっきから、ひどく息苦しい感じがする。
オレは人間みたいに呼吸なんてしてないのに。
「誰?」
「君に決まってる」
心臓が停まりそうになった。
嘘だろ。マジかよ。
オレは、
――オレも。
初めて会った時から、オレはヨハンに触れもしねェみにくい悪魔だけど、きれいなヨハンのことがすきで、すきで、だいすきで――ちょっとだけオレも人間になりたいなんて、魔が差して考えちまうくらいに。
ヨハンがパチンとウィンクする。
「なんて。冗談だよ」
「………」
やべえ、すげぇ殺したいこいつ。
「罪深過ぎるぜ。オレその手の冗談嫌いなんだよな。宝玉王侮辱罪でお前の寿命を半分縮める。決定」
「うえぇ!?」
「身のほどを知れよ。ヒトの分際で」
「うん」
ヨハンは変な顔をして笑った。
すがすがしい諦め顔。そんな感じ。
ヨハンはたまにそういう顔をする。線引きの顔。心の境界線を引く瞬間。
きっと、オレがヒトに似た形なんかをしているせいだ。
ヨハンを迫害した、人間の。
俺が他の宝玉獣たちみたいにケダモノの姿をしていたら、少しは――
ちょっとくらいは、ヨハンはオレの事を気に入ってくれたのかな。
「知ってるよ、王さま。君が俺を軽蔑してるって事は、嫌になる程さ。でも――」
ヨハンはそこで黙った。
何を言おうとしたのか、オレには見当もつかなかった。
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