『泣かないで』
『痛くない』
『ひとりじゃない』
『さみしくない』
『ここに、オレはずっとついてますから。マスター。貴方のそばにいます』
*
沢山、言えなかった言葉を残してきた。
後悔ばかりだ。
貴方は大人になって、オレは何も変わらない。
貴方が誰かを心から愛して、オレの事なんか顧みなくなる。
いつかカードは貴方の手を離れ、博物館のショーケースの中か、競売の眩いスポットライトの中か。
そんな未来はいらない。
なるだけ綺麗なままで、なるだけ傷が目立たないうちに。
思い出されるのは、一番輝いていた姿で。
みにくい竜になったオレにも、宝石の王としての最後の意地が残っていたらしい。
「マスター」
何度も何度も馬鹿みたいにそう繰り返していたつもりだったけど、実際にヨハンの事をそう呼ぶのは、初めてだった。ヨハンが驚いた顔をする。
お前、知らなかっただろ。オレの気持ちなんか、なんにも。
扱い辛い、みにくい悪魔だって、きっとずっと思ってただろ。
……違いないけど。
「はじめて貴方を見た時から……」
ヨハン。
「貴方を選んだ日から……」
ずっと、ずっと。
「貴方が大好きでした。ヨハン様。オレのたったひとりだけの大切なマスター」
ヨハンは悲しそうな顔をして、頭を振るばかりだった。
拒絶か。
わかりきった事だ。後悔する。
(だまっときゃ、よかったなァ)
ヨハンの唇が動く。だけど声はもうなにも聞こえない。
目を閉じると、暗い闇ばかりが広がった。
とても馴染んだものだったはずなのに、今は無性に寂しいもののように思えた。
(一度だけでもいいから、触って、抱き締めて欲しかった)
それは声になっただろうか。もうならなかっただろうか。
わからない。
初めて会った時から分かっていた。
きっと報われることはないんだろうという達観は、その通りになった。
王は道化に過ぎなかった。
今頃あの忌々しい神も笑っている事だろう。
それでもオレは全然構わなかった。
構わない。オレがただずっと好きなだけなんだから。
この子はオレを救ってくれたんだ。
この子の幸せのためなら、オレはできる事でもできない事でも何でもできる。
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