* 宝玉の王さま(7) *




『泣かないで』
『痛くない』
『ひとりじゃない』
『さみしくない』
『ここに、オレはずっとついてますから。マスター。貴方のそばにいます』


*


 沢山、言えなかった言葉を残してきた。
 後悔ばかりだ。
 貴方は大人になって、オレは何も変わらない。
 貴方が誰かを心から愛して、オレの事なんか顧みなくなる。
 いつかカードは貴方の手を離れ、博物館のショーケースの中か、競売の眩いスポットライトの中か。
 そんな未来はいらない。
 なるだけ綺麗なままで、なるだけ傷が目立たないうちに。
 思い出されるのは、一番輝いていた姿で。
 みにくい竜になったオレにも、宝石の王としての最後の意地が残っていたらしい。


「マスター」


 何度も何度も馬鹿みたいにそう繰り返していたつもりだったけど、実際にヨハンの事をそう呼ぶのは、初めてだった。ヨハンが驚いた顔をする。
 お前、知らなかっただろ。オレの気持ちなんか、なんにも。
 扱い辛い、みにくい悪魔だって、きっとずっと思ってただろ。
 ……違いないけど。




「はじめて貴方を見た時から……」




 ヨハン。




「貴方を選んだ日から……」




 ずっと、ずっと。




「貴方が大好きでした。ヨハン様。オレのたったひとりだけの大切なマスター」





 ヨハンは悲しそうな顔をして、頭を振るばかりだった。




 拒絶か。




 わかりきった事だ。後悔する。




(だまっときゃ、よかったなァ)




 ヨハンの唇が動く。だけど声はもうなにも聞こえない。
 目を閉じると、暗い闇ばかりが広がった。
 とても馴染んだものだったはずなのに、今は無性に寂しいもののように思えた。




(一度だけでもいいから、触って、抱き締めて欲しかった)




 それは声になっただろうか。もうならなかっただろうか。
 わからない。




 初めて会った時から分かっていた。
 きっと報われることはないんだろうという達観は、その通りになった。
 王は道化に過ぎなかった。
 今頃あの忌々しい神も笑っている事だろう。




 それでもオレは全然構わなかった。




 構わない。オレがただずっと好きなだけなんだから。




 この子はオレを救ってくれたんだ。




 この子の幸せのためなら、オレはできる事でもできない事でも何でもできる。





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