『タイトル:挑戦者・求むよう!
本文:オーナー、お元気よう?
クラベルよう。
今日は妖精さんの共同体にいろんなものが完成したので、お知らせのメール便よう!
ココホレくんなリュウにも手強いものがいっぱいよう。
挑戦待ってるよう。
送信者:クラベル』
アリさんメール便で、こんなメールが届いた。
「メールって、わざわざアリさんに頼まなくても、電波さえ届けば……」
「共同体には電波が届かないアリ。周りにいろんな電波が飛び交ってるから、むやみやたらと受信するのは危険アリ」
「そ、そう……」
リュウは曖昧に頷いて、へにょ、と笑った。
妖精さんの生態とかそんなふうなものに関しては、あんまり考えないでおくことにしているのだ。
難しいし。
「さっそく共同体へ行くアリ?」
「えっ、ちょっと待って、まだ準備とか……主に心の準備とか」
「確かにリュウひとりでは手強過ぎるアリ。死して屍を届けることになったら、ンジョモは今度こそ排除されるアリ」
「うっ、うわー……なんか、すごく行きたくなくなってきた……」
「引くことは大事アリ……ていうか、ほんとにやめといたほうがいいアリ。あ、妖精さんには内緒アリ。こんなこと言ってたって知れたらクビにされるアリ……」
「うん、しー、だね」
「しー、アリ」
「……なにワーカーアントと意思の疎通を試みてるわけ?」
後ろから呆れた声を掛けられて、リュウはくるんと振り向いた。
ちょっと意地悪そうな声は、間違いない、ボッシュだ。
「あのね、妖精さんの共同体、リニューアルのメールが来たんだけど」
「削除しろ。俺は奴らは嫌いだ。なんか気持ち悪いし」
「これも報告できないアリ……」
「しー、だね」
「だから何アリといちゃいちゃしてんのって聞いてんだけど」
ぐい、と首に腕を引っ掛けられて、振り向かされたと思ったら、ちゅう、とキスなんかされた。
「あ、あう、あわわわ」
「オマエ、結婚式済ませときながら、何だってキスのひとつで真っ赤になるわけ」
「い、い、い、いきなりっ、こ、心の、準備がー……!」
真っ赤になっているリュウの後ろで、アリのンジョモは両手で目を覆っている。
「お熱いアリ。見てらんないアリ」
「おい、ワーカーアント。 それ、なんか景品とかあんの?」
「さあ……ないことはないアリ。妖精さんの共同体は太っ腹アリ。ココホレくんの一番すごい景品はたしか……」
「ニーナのメコムだね」
「……リュウ、世界の平和のために、あいつら潰しといたほうが良くねえ?」
忌々しくぼやくボッシュに、アリさんはじたばたと弁解した。
「つ、潰されちゃ困るアリ! この就職難、やっとの思いで見付けた仕事アリ!」
「じゃあなんか俺専用の店とか作れ。ていうか、なんで俺だけないんだ」
「ボッシュはねえ……おれとお揃いなんだ……」
ぽーっとした顔でリュウが言うと、ボッシュは肩を竦めて、はいはい、と言った。
「で、何くれるんだっつの」
「そ、そ、それは、ンジョモにはわからんアリ〜」
わたわたしているアリをボッシュが締めているところで、急にメール画面がぱあっと光った。
ぽん、と何か、出てくる――――
『よう!』
「よう!」
いまひとつ不条理な現れ方をした妖精さんに、リュウはにっこり笑って挨拶した。
『オーナー、ひさしぶりよう、ホログラフで失礼するよう。今日はココホレくんの称号を持つリュウに、共同体に新しく出現した激ムズダンジョンを紹介するよう……その名も、ココンホレ・パートU!』
「そのままだね」
『名前がうまく決まらないよう。後でリュウが考えてよう。ともかくこのココンホレU、妖精さんがリュウのウェディング記念にみんなでお祝いに用意したよう。是非夫婦で挑戦して欲しいよう』
「わあっ、夫婦だって、ボッシュ! なんかそう言われるとどきどきするね!」
「……うちの嫁はアホで可愛いなあ」
「コメントは控えるアリ」
アリのンジョモは、口元を手で覆っている。
『景品には、それぞれ何でも欲しいものが一個出るよう!』
「わあっ! おれ、新作のホーリーメーザーが欲しかったんだ……」
『メーザーといわず、+9くらいお茶の子さいさいよう』
「オマエオリジンだろ。普通に店で買えば――――」
呆れたように肩をすくめるボッシュの耳元に、妖精さんがふよふよと寄っていき、何故だかちゃっとサングラスなんか装備して、こそこそと話し掛けた。
『へっへっへ、旦那あ、いいのが揃ってるよう』
「いきなりなんだ、テメーは。馴れ馴れしいぞ」
『悪いこと考えてるヒトには、悪い妖精さんで対応するよう。ボッシュ、えっちなこと考えてるよう』
「ハア?」
『たとえば、妖精さん印の媚薬……ボナペティを燻して粉末にして、とても口では言えないアレやソレを混ぜ混ぜしたよう。良く効くと裏の世界では有名よう』
「ふーん」
『「リュウに何でも言うコト聞かせる券」も発行可能よう。普段恥ずかしくてお願いできないことでも、ばっちOKで聞いてくれるよう。妖精さんにできないことはないのよう』
「へえ」
ボッシュと妖精さんの密談は、リュウとンジョモを蚊帳の外に怪しく続き――――
「さて、行こうか、嫁」
「えっ、いいの? さっきまで嫌そうだったのに」
「いつやだって言った? オラ、フェアリドロップ出せ、リュウ」
「うん……」
よくわからないリュウだったが、まあボッシュがその気になってくれたのならいいことだ。
ホーリーメーザー+9なんて、普通じゃ手に入らない。
リュウにはドラゴンブレードがあったが、アジーンでゾンビを斬るのもなんかイヤだし。
アイテムパックからフェアリドロップを取り出して、ころんと口にする。
飴玉はすぐに溶けて、甘い不思議な味が口内に広がった。
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