・迷宮の邂逅・
「もう少し疑うと思ってたんだけどな」
マークが呆れたように肩を竦めた。
「馬鹿正直で人を疑うことを知らなくて、可愛いなあ、リュウ。昔からこんな感じだったのか? そばかす」
「そーだよ。……そばかすって言うな」
「そ、そうだ! アビーって呼べよ、おまえ何様なんだよ、俺とおんなじD値のくせに!」
携帯飲料の中身が地面にぶちまけられて、甘ったるい匂いが漂っていた。
中に仕込んであった水溶性の睡眠薬で、リュウはぐっすり眠っている。
マークは軽くリュウを抱き起こして、頬に口付けた。
そして、やっぱり良く効いてるや、と嬉しそうに言った。
アビーとヒューは気持ちが悪そうな、険悪な顔をしている。
「さすがメディカルセンターでちょろまかしてきた薬だ」
「……なあマーク、やめない? アビーもさあ、ちょっとやりすぎじゃないかなあ……」
リュウが昏倒するなり、ヒューはおどおどとしてしまって、びくついている。
「ばれたら俺たちがお縄だよ?」
「ばれないさ。リュウは馬鹿だし、きっと起きてもなんにも覚えてないよ」
マークはリュウの髪留めを解いた。
まっすぐで柔らかい、珍しい青い髪が肩口までさらりと流れた。
こんな環境にあるのに綺麗なもので、端整な顔立ちも相俟って、彼を魅力的に見せていた。
「ほ、ほんとにやって、やっちゃうの? リュウを? お、男だぜ、こいつ……」
「でもさ、可哀想だろ。こんなに可愛い顔してるのに、ボッシュの玩具なんて。あいつ、女なんて使い捨てだって聞いたぜ。エリート様の今のところのお気に入りってやつなんだよ、リュウ。飽きたらきっとすぐに捨てられるよ」
「リュウ、馬鹿だから媚び売ったらもっといい暮らしさせてもらえるなんて夢見てんじゃないか?」
「そうそう、一緒に上まで連れてってやるとかなんとかさ。エリート様の常套文句だろ。可哀想だろ、夢はちゃんと覚まさせてやらなきゃ……」
マークとアビーがそうやって遣り取りしていると、ヒューもどうやらその気になってきたのか、言った。
「や、やるよ! やってやるさ、仲間外れはなしだぜ?」
「そうこなくちゃあ」
マークが器用にリュウのベルトを外していく。
かちゃり、と金具の外れる音がして、痩せた身体が露出した。
「あのエリート様もさ、お気に入りを横取りされるなんて、考えもつかないだろうな」
「アビー、ボッシュ嫌いだもんなあ」
「当たり前だろ。あいつのおかげで俺は不名誉なあだ名なんて付けられたんだぜ」
「でもほんとにそばかすだよな」
「アビーに失礼なこと言うなよ、マーク!」
リュウの腹をすうっと撫でると、意識のない彼の身体がびくっと震えた。
心なしか、頬もうっすらと上気している。
「マーク、他になんか混ぜた?」
「あ、ばれた? バイオ公社の払い下げ。すげえトベるってさ」
「……リュ、リュウに副作用とかは、ないんだろうな?」
「大丈夫さ」
マークは愛しげにリュウの頬を撫でて、呟いた。
「せっかくだから、すごく気持ち良くしてやりたいじゃないか。じゃあ手筈通り、俺が先でいいよな」
「俺は別に、エリート様に嫌がらせしてやれりゃ、何でもいいよ」
「で、でもリュウ、初めてなんだろ? 最初か最後かってのは、大事じゃないかな……」
「どうせもうボッシュの慰み者だよ。あいつがいつもいやらしい目でリュウを見てるの、知ってるんだ」
マークは初めて不機嫌そうな顔を見せ、吐き捨てた。
「ちゃんと中から消毒してやらなきゃ」
そうしてリュウの下履きを脱がせて、股座に顔を埋め――――幼い性器を口に含んだ。
途端、ぴくんとリュウが跳ねた。
「……んっ」
呼吸を少し乱して、だがその身体は相変わらず脱力しきったままだ。
眠りに落ちている。
「リュウ、途中で起きたらどうしよう……」
「大丈夫、半日は起きないよ。ヒュー、おまえもする? リュウのこと、好きなんだろ?」
「え、いや……その」
真っ赤になってしまっているヒューだったが、やがておずおずとリュウの胸に触れた。
微かにリュウが震え、喉から小さな喘ぎが零れた。
「お、女の子みたいだ、リュウ……胸はないけど」
「ていうかさ、そばかす。おまえ何固まってんの。もしかして、純情派?」
「ば、ばばっ、馬鹿なこと、言うなよ。誰が、リュウなんか……俺はただ、あの腐れエリートへの嫌がらせができればいいんだ」
「あっそ」
マークはそっけなく頷き、転がっている缶に残っている液体を、リュウの臀部に流し掛けた。
目を閉じたままリュウが震え、液体の触れた場所が火照ったように赤く色付いた。
どうやら、強力な媚薬であるようだ。
「そのうちクスリに慣れたら、俺たちのところに来て自分から脚開くようになるよ、リュウ。尻でイカせてくださいってさ」
リュウは辛そうだった。
赤く色付いた性器の先端からは、透明な滴が零れている。
もどかしげに腰を悶えさせている。
「可愛い、リュウ……」
尻を掴んで広げ、指でほぐしていく。
薬の効果か、そこはすぐに柔らかくなった。
「……けどほら、やっぱり処女じゃないよ、こいつ。こんなにすぐ準備万端になっちまって」
「……ほんとだ」
「リュウ、あのエリートのボッシュと……」
想像したのか、アビーとヒューは真っ赤になっている。
マークは忌々しげに、リュウの脚を広げさせた。
「……すぐに、あんな奴よりずっと良くしてやるよ、リュウ」
マークは呼吸を荒げながら、ベルトの金具に手を掛けた。
◇◆◇◆◇
マーク=1/2048にとって、リュウ=1/8192は崇拝するべき存在だった。
ローディではあったが、候補生となったマークの面倒を見る先輩レンジャーでもあった。
困ったふうに笑う顔やその優しい眼差しに、一瞬で恋に落ちたと言っても良い。
性別やD値なんて関係無かった。
それからはずうっと彼を見ていた。
食事を取る時に不器用に開く薄い唇に、何度も何故その口が頬張るのが自身の男根ではないのかと訝った。
想像の中で何度も犯した。
シチュエーションは何だって良かった。
自宅の一室に監禁してでも、リュウが思い詰めた顔で抱いて欲しいと夜ベッドまで訪れることでも。
リュウはその度にいやらしく腰を振り、もっと、と強請って甘えた。
だが現実には、リュウは彼の名前すら知らなかった。
そして彼は、リュウが同室のボッシュ=1/64に、きっと自分が夢の中でそうするように抱かれているに違いないと想像し、苦悩した。
だがそのボッシュに自分を投影し、またリュウを犯す恍惚に浸るのだった。
リュウはいつも綺麗なままで、潔癖症なところがあるように見えた。
彼の汚れる姿が見たい、とマークは切望していた。
それは自分に抱かれている姿でも、他人に抱かれながらその汚れた姿を見せ付け、うっすら微笑み掛けてくれる淫猥な表情でも同じふうに興奮した。
リュウは確かに崇拝するべきもので、彼にとっては女神よりも魅力的な淫魔だった。
◇◆◇◆◇
ぐちゅう、と濡れた音がした。
甘い、良い匂いがする。
誘うように開かれた脚の間、指でその中はとろとろにほぐされて、ひくひくと待ち遠しげに痙攣している。
「リュウ、そんなに欲しいんだ」
勃起した性器と性器を擦り合わせると、リュウがまた震えた。
きっと良い夢を見ているに違いない。
彼はぴくんと肩を震わせて、薄く口を開いた。
「ん……」
寝言だろうか、可愛い仕草だ。好ましく思いながら、マークは待った。
そこから零れるのは、自分の名前でなければならない。
だが、リュウが呟いたのは、そんなものではなかった。
「う……ふぁ、ぼ……しゅ……」
マークの目が、すうっと細められた。
INDEXTOP / NEXT>>>07:迷宮の邂逅(続)
|