大応援CHU☆

 


・すさんだまま・


 下層区レンジャー基地、メディカルルーム。
 夜通し明かりの途絶えることのないそこは、今日も急患で埋まっていた。
 ふいにドアが開き、ひどく大きく足を踏み鳴らし――――不機嫌である証拠だ――――基地一のエリートが顔を見せた。
 腕に抱えているのは、相棒のリュウだ。
 ボッシュのグリーンのジャケットを掛けられ、血まみれで、死んでいるんじゃあないかと訝ってしまうほどに力なく、ぐったりしている。
 メディカルルームの患者連中が唖然としていると、ボッシュはがんと乱暴に薬品棚を蹴り付け、忌々しげに言ったのだった。






「全員、出ていけ」
 






◆◇◆◇◆







 横暴だあんまりだとドアの向こうから声が聞こえるが、無視してロックし、リュウの体を寝台に横たえた。
 触れた時に思ったのだが、リュウの身体は熱かった。
 熱を出していた。
 甘ったるい匂いが鼻についた――――さては一服盛られやがったな、とボッシュは冷静に分析した。
 そう、できる限り冷静になるべきだ。
 隊服はぼろぼろで、ほとんどその機能を残してはいなかった。
 びりびりに破けたジャケットを剥がしてやる。
 引き裂かれたアンダーは、固まった血といっしょくたになって皮膚とくっついていた。
 裂傷が多いのは、例の小柄なディクに引っ掛かれた痕だろう。そう推測する。
 まずはシャワーブースで血とヘドロを流し落とし、消毒液をたっぷりと含ませたガーゼで肌を拭き、殺菌してやるべきだ。
 ボッシュ=1/64ともあろうものが他人の面倒なんか見る必要はないとは思うが、だがメディカルルームで常駐のドクターにこのリュウを任せてやるのは気に入らなかった。
 そしてあんまり気は進まないが、下半身を露出させて、観察する。
 足首のあたりに、大きく爪で抉られた痕がある。
 ディクに掴まれてできた傷痕だ。
 そこ以外は比較的綺麗なものだった。
 太腿をべたっと汚している、腹の中から零れたらしい血と精液の他は。
 脚を広げさせて、赤く鬱血しているそこを開くと、どろっとした液体が流れ出してきた。





――――まず思ったのは、こいつ女じゃなくて本当に良かった、なんていうことだ。





 バイオ公社でそういう実験なんてものがあると聞いたことがある。
 真偽のほどは定かではないが、ヒトに限りなく近い、あるいは同じ遺伝子を持つらしいディクと人間とは交配が可能らしいのだ。ぞっとしないが。
 リュウは男だった。
 女のようにして抱いてやりたいとは考えたことはあったが――――ボッシュは苦々しく自覚した――――孕むことはない。
 それにしたって、ディクごときが犯して良い身体じゃない。
 リュウ=1/8192はボッシュのものであって、ディクもさっきの変態ローディも(とりあえずディクの巣に放り込んでおいた。おそらく数日のうちに骨くらいは発見されるだろう)触ることすらかなわないものだ。
 そうであるべきだ。
「リュウ……」
 シャワーブースに運び込み、名前を呼ぶが、リュウは応えない。
 もう死んでいるのかもしれないくらいに、彼は静かだった。
 体液は止まることなくどろどろと流れ出してくる。
 どれだけ長い時間陵辱されていたのかと思うと、頭に血が上った。
 ボッシュは予想外の事態、逆境に強い方ではない。
 コックを捻ると、冷たい水が出た。
 そう言えばもう消灯時間なんかとっくに過ぎていて、朝が近い。
 あまり勢いのない水が、リュウとボッシュを濡らしていった。
 べったりとくっついてくるジャケットに、ボッシュはそう言えば服を着たままシャワーってのも変な話だ、と今更ながら気付いたのだった。
 だがそんなことはどうだって良かった。
 弛緩しているリュウの尻に触って、中の汚れた体液を指で掻き出してやっていると、なんだかひどい虚しさが訪れた。
 リュウがこんなかたちで汚されることがあってはならない。
 彼はボッシュのそばにあるべきもので、そう、一緒に上まで連れて行ってやって、昔そう望んだように配偶者にしてやれることはないが、ボッシュの身の回りの世話をしたり、食用ディクの管理をさせたっていい、雇ってやって、仕事を与えてやる。
 生涯忠誠を誓わせてやれば、リュウはそうするだろう。
 ボッシュだけを主として、そこには配偶者と何の違いもなかった。
 リュウはきっといつまでも綺麗なままで生きるだろう。
 こんなところで汚されるべきではない。
「リュウ、おい、リュウ……」
 ひととおり洗い流してやっても、鬱血した痕や腹の中の裂けた傷はそのままだったし、なんにもなかったことになるわけでもない。
 悔しさがそうさせたのかもしれない。
 あるいはただ単純に欲しかったのかもしれない。
 ボッシュは呆然とした無表情のまま、リュウの身体を開かせ、身体を交えた。
 男相手にどうしてやるかなんてことは、もう理解してしまったのだった。
 リュウの身体はまるで女みたいにボッシュの性器を呑み込んでしまって、虚ろに快楽を与えてくれた。
 挿入して、出して、擦れる感触は確かに気持ちが良かったし、ともすると女よりもずうっと具合が良かった。
 意味のない性交だった。
 リュウは相変わらずぴくりとも動かず、目を覚まさず、何の反応も見せず、まるでリュウのかたちをした抱き人形を使って自慰に励んでいるような錯覚も覚えた。
 ボッシュは痛々しくリュウを見つめ、彼の名を呼んだ。
――――リュウっ、ルー……」
 幼い時分の恋心は確かにそこにあって、ボッシュを戸惑わせた。
「ルー、好きだ、好きだよ。ずーっと一緒に、手、繋いで行くんじゃなかったのかよ」
 なんだかいつのまにか泣けてきた。
 ボッシュはリュウを抱き締め、その穢れた身体に縋った。
 こんなになっても綺麗なままのリュウが、なんだか物悲しかった。
「……なんで、俺のこと、覚えてねえんだよ……」
 男だとか女だとか、大事なことはそんなことじゃなかった。
 ルー、リュウは男でも女でも可愛いことに変わりはなかった。
 一番重要なのは、リュウがボッシュのことをなんにも覚えていないことだった。
 幼い頃の約束も忘れ果ててしまっていたことだった。
 そう約束にあるふうに好きだなんて一言も言ってくれないことだった。
 そうしているうちに、リュウは得体の知れない化け物に犯され、穢されてしまった。
 何の反応もないリュウをこうして犯していると、なんだか自分もあの化け物と一緒なんじゃあないかとまで思えてきて、あまりに滑稽で、笑えてきた。
 冷たい水が止まることなく流れて、まぐわっている音を、身体を交える卑猥な濡れた音を覆い隠していた。
「……るうっ、なあ、好きって言えよ。約束しただろ、俺と……」
 唇がわなないて、上手く喋れない。
 ローディひとり守ってやれなかった。
 あの時手放さなきゃ、リュウはまだ綺麗なままでいたはずだった。
 ボッシュは死体みたいなリュウを抱き上げ、無理矢理顔を笑いに歪めながら、耳元で囁いてやった。
「レンジャーになって、ずうっと一緒にいるんだ。一緒に……リフトに行くってさ……」
 身体の奥に精液を注いでやっても、リュウは何にも応えず、ただざあざあ言う水音だけが狭いシャワーブースに響いた。









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書いた人:あずみゆうり − あるかん仮設(ドラクォボリュ) ー 6/4 → 8/1/9/2