ソロー [ 004 ]
ボッシュは良くふらっと姿を消してしまう。それは良くあることで、そういう時は基地の中を探し回ったってまず見つからない。彼はまるで幽霊か何かみたいにふっと消えたり現れたりするのだ。 今日もそうだった。アリッサ教官から何度目かの昇進指令の通達があるとかで、ボッシュを呼び付けてくるよう頼まれたモモとアビーは昼前から彼を探していたが、あの綺麗な顔立ちの同期の男は基地のなかのどこにもいない。昼休憩の頃になると、もういつものように諦めが訪れていた。ボッシュの隠れ方は完璧なのだ。 「教官、いつものように彼見つかりません。どこにもいないんです」 「あら……またなの。警備が朝見たっきりだって言うから外には出てないと思うんだけど」 「ほっときゃいいじゃあないですか。どうせまた昇進書類は紙飛行機ですよ。それより、あんな素行の悪い奴より俺のほうがセカンドにはふさわしいと……」 「アビーうるさいよ。ううん、くまなく探したと思うんですけど。秘密の隠れ場所でもあるのかしら」 「もう、本当彼は何に関しても完璧ね。本部からの特別指令だったから、すごく大事なことだったんだけど……また私怒られちゃうなあ」 アリッサは溜息を吐いてデスクに書類を投げ出した。そこには小奇麗なタイプ文字でこうあった。指令、ボッシュ=1/64のファースト・レンジャーへの昇進を命ずる。 「ふぁっ、ファーストお?!」 「こらあんまり見ないの! まあどうせいつも通り紙飛行機だろうから別にいいけど……」 「なんでですか! そんなの聞いたことありませんよ?! あのタレ目が! エロ顔が! サードがセカンドすっとばしてファーストなんか!」 アビーがひどく憤慨した顔でアリッサに食って掛かっている。アリッサは肩を竦めて、しょうがないの、と言った。 「書類上ではボッシュ=1/64は、ただ本人の署名が無いだけで、既にセカンド・レンジャーってことで登録されてるわ。本当今日こそYESって答えを貰わないと、私来月から減給なんだけどなあ……」 アリッサはもう諦めたような顔つきだ。彼女はボッシュを部下に持った時点で色々な覚悟を決めざるを得ないようだった。既に慣れが見えている。モモもいつものこととは言え、彼女に同情してしまった。 「教官、元気出してください。今日中にボッシュを捕まえれば良いんでしょ? 丸一日消えたことなんて今まで無かったし、大丈夫ですよ、きっと」 「そうだと良いんだけど……」 アリッサは浮かない顔だ。 夜になってもボッシュは見つからなかった。 「……なんか最近のあいつって幽霊かなんかみたいだよな」 夜勤の連中がやってくる頃になって、ようやく先日の任務の報告書を仕上げたアビーがぽそっと言った。彼は気だるそうに背中をパイプ椅子に持たせ掛けて溜息を吐いた。 「得体が知れなくて気持ち悪いよ。ぽっと出てぽっと消えるんだぜ? 警備も結局ボッシュを見てないってさ。あいつまだこの基地内にいるんだよ。でもそんなはずない、俺ら屋根裏まで探したもんな。絶対これおかしいよ。俺たちは断固としてあいつの正体を突き止めるべきだ。ほら、えーとキリエとか掛けてみたり」 「そういうふうに言わないの。大体そんな高位魔法使える人、レンジャーに何人いると思ってんの? 警備の人が見逃しちゃってただけかもしれないでしょ。 ボッシュのことだから抜け道を知ってたり……あ」 ふと思い当たって、モモは手で口元を押さえた。そうだ、この上ない『抜け道』があったのだ。ぽっと現れてぽっと消えるのも頷ける。ボッシュは転移魔法陣を使えるのだ。 「なんだよ」 「……ううんなんでも」 でも確かあれは口止めされたのだった。モモは首を振って、熱っぽく幽霊の退治方法について語っているアビーを呆れた顔で見遣った。どうやら彼はボッシュのファースト・レンジャーへの昇進話が非常に面白くないらしい。 「それでさ、ホーリーメーザーってのがあるんだ。こないだ出たばっかの新作でさ……」 「サードがメーザーなんて使える訳ないでしょ。属性武器の使用はセカンド・レンジャーへの昇進後許可される。武装に関しての規約第12条」 「そんなこと言ってあのアンデッド属性のパツ男をほったらかしにしてると世界が大変なことになるぞ! 俺には解るんだ。絶対ろくなもんじゃないって知ってた。なあモモさ、あいつが苦手なものってなんか知ってる? もう何でもいいんだ、アブラクイでもゾンビでも……」 「それ全部あんたが苦手なものでしょ。知らないよそんなの」 「だってこのままじゃあいつファーストだぞ! 奴にアゴで使われることだけは我慢ならないんだ――いやまあ俺にそれなりの役得ってものがあれば話は別だけどさ。ファーストの後ろ盾とか……」 「あんたはほんとにもう……」 しょうがないねと言い掛けたところで、突然警報が鳴り響いた。 『侵入者あり! 総員ただちに武装、臨戦体勢で臨め! 数は2体、1体は武装ディク『サイクロプス』と確認、もう1体は現在プロファイル中――』 「な、なんだぁ? 基地に侵入って、度胸のあるこそどろだな」 「アビー、ぼさっとしてないの! 武装しろって言ってる」 「わかってるって。どうせ先輩がたがすぐに片付けてくれるさ――」 相変わらず緊張感ってものがないアビーの背後から、急にぬっと大きな腕が突き出てきた。くすんだ緑色の硬い腕だ。 「アビー、うしろ!」 「へっ?」 そいつは軽々とアビーのジャケットの襟を掴み上げて宙吊りにした。人一人分の体重を苦に感じている様子はどこにもない。 「え、て、ぎゃあああ! 俺美味しくないですよ! 腹壊すって! ほんとマジやばいから!」 恐慌状態に陥ったアビーが手足をばたつかせながら悲鳴を上げている。モモは慌てて腰のトールハンマーに手をやった。だが、 「動くなレンジャー」 背後から項に硬い金属の塊が突き当てられた。冷たい感触に、思わず嫌な汗が全身から吹き出してくる。 女の声がした。モモよりも年齢はいくらか上だろう、艶っぽい声だった。 「両手を上げろ。壁に手を付くんだ。お仲間の命は大事だろう?」 「モ、モモ! 早速綺麗なお姉さんの言う通りにするんだ!」 「あんたねえ……」 モモは溜息を吐いて――いつもながらこのアビーという相棒の少年は全くあてになりやしない――襲撃者に従った。 「そう、おとなしくしてれば命までは取らないよ。私が殺さなきゃならないのは一人きりだ――」 女は言った。 「お前たちの仲間のボッシュって奴はどこだ。あのおぞましい化け物だよ」 ◆◇◆◇◆ 省庁区の会議室には見慣れた顔が揃っていた。彼らは静かに席に着き、現れたボッシュをじっと見つめていた。その中で父だけはいつものようにボッシュを見もせずに、静かに目を瞑っている。ボッシュはあからさまに嘆息し、「何の用件ですか」と訊いた。 「できるだけ手短にお願いしたい。俺は勤務中なもので」 「だとよ、おっさん。ボッシュ君が仕事サボってまで来てくれたんだぜ? ゴキゲンを損ねないうちにちゃちゃっと済ませちまおうや」 行儀悪く円卓に足を乗せて頭の後ろで手を組んでいるジェズイットが、いつものように軽薄に言った。彼はニヤニヤしながらひょいひょいと手を振って寄越した。 「おまえさんとリュウくんに話があるんだってよ。全員揃うまでおあずけでさ、誰も口きかねえしもー息詰まるかと思った」 「ジェズイット、少しお黙りなさい」 「はいはい。な、聞いたか? ここじゃ最近俺の扱いほとんどペットみたいでさあ……――わかってるって、おし……オルテンシア。黙りますよ」 「――もういいかね」 円卓の端に着いているメベトが切り出した。 「ボッシュ君、並びに……リュウ君だったもの。今日は君らに知らせと忠告がある。最近街を騒がせている巨大生物の目撃情報を耳にしたことはあるかな」 「単なる噂ならね。人間どもにとっちゃ、地上の生物なんてみんな化け物でしょうよ」 特に興味も覚えず、ボッシュは白けた顔で返事をした。だがメベトは大真面目な顔つきだ。 「地上は全ての人間にとっての未知なるもので構成されている。世界は浄化されているが、危険なことに変わりはない。何がいるのかも解らない――たとえば君らのような竜が」 「もういませんよ。俺以外はみんなアジーンが壊した。アジーンは俺が壊した。もう俺だけです」 ボッシュはちらっと傍らに佇んでいるリュウを見た。彼はボッシュと目が合うと、にこっと微笑んだ。統治者たちはそのことに軽い驚きを覚えたようだったが、リュウは構い付けずにすっと後ろに下がった。 「……驚いたな、まるで本当に生きているようだ。ああ、リュウ君、君も混ざってくれていい。君はどう思う。生き残りの竜の存在について?」 リュウはメべトに問われてもしばらく黙り込んでいたが、少し考えるような素振りを見せたあと――ゾンビのくせに細かい仕草だ――ひょいっと手を挙げてボッシュを見つめた。 「ボッシュ……さま、発言許可をください」 「……ああ。喋れ」 「了解です。地上に竜の反応は今の所ありません。ですが今後何らかのかたちでドラゴン、もしくはそれに似た反応をサーチした際、それがボッシュ=1/64の敵と判断された場合、リュウ=1/8192は最大火力を持ってこれを討伐します」 「ボッシュ君は君が守ると?」 「肯定です」 「……なら心配は無さそうだな。竜が二体。君らを倒せる勢力は世界には存在しないだろう。早いところオリジンの仕事を引き継いで欲しいものだがね」 「……またその話ですか。俺は統治者にもオリジンにもならない。失礼します」 顔を顰めて背中を向け掛けたところで、メベトが苦笑混じりにボッシュを引き止めた。 「まあ待ちたまえ」 「……まだ何か」 「忠告の方だよ。最近反政府組織が活発化しているようだ。何かを探しているようだ――まあ具体的に言えば「誰か」だな」 「お言葉ですが、そういうのはトリニティのリーダーであった貴方の管轄でしょう。俺の知ったこっちゃありませんね」 冷たく言い放ってやっても、メベトをはじめ統治者たちにはまったく堪えた様子が無かった。誰も彼もまるで子供でも見るみたいな目つきだ。ボッシュは口の端をぎゅっと引き結んで、もう帰ります、と言った。 「こんなところに俺を呼びつけたって何の意味も――」 「拉致され、拷問を受けたレンジャーが言うには、彼らは「ボッシュ」というレンジャーを探しているらしい。例の反政府組織――「新生トリニティ」と名乗っているそうだ――彼らのリーダーは女性だそうだ。獣人だよ。そう言えば以前空が開かれた現場にも一人いたな。ひどい傷を負ってメディカル・センターに収容されたが、回復前に脱走、行方不明になった者がいたはずだ」 「……まだるっこしい言い方ですね。見当は付きましたが、ただの人間に何かできるなんて――」 「侮るな」 肩を竦めて話を切り上げ掛けたところで、今まで沈黙を保っていた父が――ヴェクサシオンが、例の重苦しい声で静かに言った。彼はまるっきりいつもの訓練時と同じような調子で淡々と言った。 「敵を侮るな。恐怖と同じく、それは容易に敵を見誤らせる。ボッシュよ、お前はそこにある敗者のなれの果てを一度見誤っている。「それ」はお前を殺したものだ。忘れるな」 「……解っています!」 ボッシュは叫び、ばっとリュウの腕を取った。手を強く握って彼の顔を見た。リュウはいつもよりも少し緊張した面持ちで、「ボッシュのための機械」を演じている。「彼」はそうだった。本部でも、上司を前にすると緊張でがちがちになってしまう。彼は「役割」を相応に演じようとする傾向があった。彼の性質は死んでも変わらないものだ。 「でももう俺のだ。俺たちに怖いものなんかない。何も、誰も、あんたのことだって怖くなんかない。新生トリニティ? 知ったこっちゃない。要するに、俺がそいつらを皆殺しにすれば問題ないんでしょうヴェクサシオン様。ご期待通りにして差上げますよ」 ボッシュは吐き捨て、リュウの腕を引っ張って転移陣を踏んだ。振り返らなかった。どうせ父はボッシュのことなど見てもいないに決まっているからだ。 転移した先の光景はいつもとは少し違っていた。気だるいルーチンに沈み込んでいるあの怠惰な感触が無かった。警報が鳴り、空気がぴりぴりしている。夜が訪れ、白いライトの筋が闇の中をぐるぐると巡っていた。 『侵入者発見! 反政府組織の構成員が潜り込んでいる! 現在エントランス付近を移動中――絶対に逃がすな!』 スピーカー越しにがなり声が聞こえる。ボッシュは肩を竦め、隣でじっと佇んでいるリュウに「なんか大変みたいだね」と言った。 「顔隠しとけよ。お前の顔知ってる奴がいるかもしれないだろ。まったく、面倒なトコに飛んできちゃったもんだ」 「うん、ボッシュ。あれほっといていいの? なんか侵入者とか言ってるけど」 「いいんじゃない。とにかく今日はもう疲れてんだ」 リュウの肩をぽんぽんと叩いて「さっさと帰ろうぜ」と促したところで、ボッシュは覚えのある声を聞いた。 「ボッシュ君! やっと見付けた、後で大事な話が――じゃなくて、そんな場合じゃないの。基地内にテロリストが侵入してるのよ、こっちの方へ来たって……あ」 教官のアリッサだ。彼女はこんな時でもどこかぽやっとしたところがあった。アリッサはボッシュの隣で佇んでいるリュウに気付くときゅっと顔を引き締めて、「貴方は?」と不審そうな声を上げた。リュウはボッシュの言い付け通りコートのフードを被り、顔にはシンプルな硬質のマスクを付けていた。正体は知られやしないが、あきらかに不審者だ。 「隊服を着ていないということは民間人ね? どうやって基地内に入ってきたの? 住民票と名前は」 ちょっとややこしいことになったなとボッシュは考えた。無闇に騒がれては後々面倒だ。何でもないふうに肩を竦め、「俺のカノジョですよ」と適当に言い、リュウの肩を叩いた。 「前にも会っただろ教官、病気のあの子だよ。デート中だったわけ。勝手に基地に入れたのは悪いと思ってるよ」 「……もう、なんだかどこから怒れば良いのかわかんないけどそれどころじゃないわ。ボッシュ君、あなたも来て。エントランスを封鎖するの。優秀なあなたがいれば心強いわ」 「了解。じゃ、お前先帰ってな。メシの用意でもしててくれよ」 「…………」 リュウは答えなかったが――ボッシュ以外の人間の前ではあまり喋らないように命令しているせいだ――ボッシュは彼を残したままアリッサの後について駆け出した。 ◇◆◇◆◇ 「うわあ、攻撃するな! 頼むって! 死ぬ!」 サイクロプスに吊り下げられたアビーが悲鳴を上げている。エントランス前には隊員のバリケードができていた。彼らは例外なく武装していた。人質が民間人ではないため、おそらく何の躊躇いもなく発砲するだろう。 モモは両手を頭の後ろで組んで、顔を青くしたままちらっと横目で侵入者のテロリストを見遣った。二十をいくつか過ぎたあたりだろう、こんな荒っぽい犯行が全く似合わないくらいすごく綺麗だ。背が高くてスタイルも良く、美人の見本のような女だった。 彼女はつまらなさそうにバリケードを見遣り――そこには少しばかりも包囲されたことへの焦りってものが見えなかった――ふと、驚いたように目を見開いた。 気だるそうにバリケードに加わった人影が見えた。アリッサ教官、それから彼女の後ろにくっついてきたボッシュだ。 テロリストの女は彼を視認するなり急にひどく恐ろしい顔つきになって、モモを突き飛ばして拳銃を構えた。 「ティモシー!」 彼女が叫ぶと同時に、サイクロプスがアビーを投げ捨てて、バリケードへ向かって突進していった。巨大な体躯でディクがバリケードを崩すと、女は駆け出した。彼女が見据えるのはただ一人だった。レンジャーも何も気にも留めず、ただ憎々しげにボッシュを見ていた。 ボッシュの方には全く気負いってものが無かった。いつもの白けた顔で突っ立っている。 女がボッシュに届く前に、ふわっと白い影が彼らの間に急に現れた。 誰も反応出来ないうちに、真っ赤に焼けた長い棒のようなものが突き出され、女の拳銃を器用に薙ぎ払った。 「なっ……」 女はひどく驚いたようだった。いきなり現れた白っぽい格好をした人間を、その手に握られている巨大な剣を見つめて、混乱したように頭を押さえた。 「……それ……そのドラゴンブレード、あんたなの?」 「敵、無力化しました。ボッシュ、殺傷許可を」 「なっ、何を言ってるんだい?! 私が解らないのか! なんでそんな奴と一緒にいるんだ、そいつはあんたを――」 女はそこではっとした様子でボッシュを見て、急に激昂して叫んだ。 「――その子を、ここまで辱めるのか!!」 「殺傷を許可する。殺っちまいな」 「了解」 白い人間が軽やかに剣を振るった。 だがその切っ先は女に届くことはなく、彼女を庇って飛び出してきたサイクロプスを綺麗に二等分にしてしまった。並の人間の腕力でできる芸当じゃない。 「リュウッ!!」 サイクロプスが破壊されている隙に、女は転がった銃を拾い、発砲した。銃弾は正確に白い人間の額の辺りに命中した。 仮面が割れる―― モモは息を呑んだ。 そこにあったのは見知った顔だった。 『がんばるよ。おれローディだけど、憧れてたレンジャーになれた』 『悪いひとを捕まえて、困ってるひとを助けるんだ』 リュウ=1/8192。 あの誰より優しい少年。 いつか見た、幼い希望に満ちた眼差しと同じものがそこにあった。でも何も見ていなかった。 「……どうしてなんだ……!」 女は悼むように目をぎゅっと閉じ、足元に発光弾を撃った。周囲の目が眩んでいるうちに、彼女の姿は消えてしまった。 「敵、逃走しました。追いますか?」 リュウが機械みたいな調子でボッシュに訊いた。 「いや、今はいい。ほっとけ。レンジャーがたが適当に捕まえてくれるだろうよ。にしても相変わらずお前のオトモダチはロクなことしないね」 ボッシュがやれやれと肩を竦めた。 ◇◆◇◆◇ 「追え、こっちだ!」 相変わらずレンジャーどもには反吐が出る。しつこいったらない。まるで猟犬みたいな調子で追ってくる。 撃たれた左腕を押さえて、リンは口の中に溜まった血を吐き出した。 まずここを撒かなきゃ始まらない。何が何でもやらなきゃならないことができたのだ。復讐だけじゃない、「あの子」を助けなければならない――。 「いたぞ、追い込め!」 逃げ回っているうちに路地の突き当たりに出くわした。高い壁が目の前を遮っている。リンは舌打ちをして身構えた、どうやら戦闘は回避できないようだ。 ふいにくいっと腕を引かれて、リンは振り向き、ぽかんと口を開けた。何だか今日は驚かされてばかりのような気がする。 「……こっち」 『彼女』が言った。 ◇◆◇◆◇ ボッシュは面倒臭そうな顔つきで何も言わない。リュウと一緒にレンジャー・ルームに出頭を命じられ――彼は既に除隊された身であったはずだ――いささか辟易した様子だった。 モモは何人かの仲間に混ざって、レンジャー・ルームの扉に貼り付いていた。普段なら盗み聞きなんて良くないと突っ撥ねたろうが、今回ばかりは気になって仕方がないのだ。 室内からはアリッサ教官の慣れない尋問の声が聞こえる。 「……それで、階級と名前を――あ、名前はいいわ、知ってるから。あんなところで何をしていたのか答えてくれる? これ一応尋問だから、ちゃんと答えてよ」 「ボッシュ?」 「……いいよ、言って」 「了解。オリジン直属暗部『ネガティブ』隊長、リュウ=1/8192です。勅命に従いボッシュ=1/64の護衛を行っていました」 「……それ、本部に確認するけどいい? 冗談だったら後でややこしいことになるけど」 「はい。統治者様に直接ご確認下さい。用件はそれだけでしょうか?」 「……ああ、まあそう。一応確認が取れるまではここにいてもらわなきゃならないけど」 「勅命によりリュウ=1/8192を拘束する権限を有しているのは、ボッシュ=1/64のみです。ボッシュの命令があればそうします」 「……ま、いいんじゃない」 「了解。待機します」 二人分の溜息が聞こえる。アリッサとボッシュのものだろう。それからちょっと疲れた感触のアリッサの声が聞こえた。 「……ボッシュくん、これどういうことなの?」 「なんか良くわかんないけど、俺反政府組織に命を狙われてるらしいんだ。そんで護衛がついてくれてるわけ。一応勅命らしいから、レンジャー基地の規定――あの隊員以外立入り禁止ってやつ――よりも優先されるらしいよ。こいつはどこでも出入り自由。教官でも口出しできないだろうね。こいつこんなでもあんたより階級上だから」 「なんであなたが……」 「さぁ。一応うちの親父統治者だからね。色んなトコで恨み買ってるみたい。出来損ないのドラ息子でも殺せば見せしめくらいにはなるって考えてんじゃないの?」 「その、なんでリュウくん? が、その、」 「その辺は最重要機密って奴だよ。なぁリュウ」 「肯定です」 「……オマエそろそろその堅苦しい口調止めたら? 馬鹿だから似合わないよ」 「こうて……うん、わかった。やめるよ」 レンジャー・ルームの扉ががあっと開いた。モモたちが慌てて後ずさると、いつもの白けたような顔つきのボッシュが出てきた。その後ろに付き従うように、見覚えのある少年が出てきた。リュウだ。もう白い仮面もコートも無く、はっきりと彼の顔つきを確認することができた。 彼は最後に見た時とほとんど変わらなかった。まるで歳を取ることを忘れたみたいな具合だった。 かなり値の張りそうな上等なスーツを着込んでいる。レンジャーの隊服に良く似ていたが、なんだか礼服のような印象があった。 昔は頭の天辺で結ばれていた髪は下ろされていた。長くて綺麗な青い髪だ。元々造作が整った顔立ちをしていたが、こうやってきちんとした身なりでいると、彼はすごく綺麗に見えた。 「はいはい立ち聞きしないの。みんな散って散って」 リュウの後ろからやってきたアリッサがぱたぱた手を振った。皆じっとリュウを見ていたが、リュウは気にしたふうでもない。ボッシュにくっついてさっさと行ってしまった。 「……ネガティブだってさ」 だれかがぽそっと言った。 「オリジン直属ってすげえエリートじゃないの? なんでサードのボッシュの命令を聞くんだよ」 「ていうか、あいつ死んだって聞いたぞ」 「馬鹿、暗部だって聞いたろ。きっと人に言えないような仕事してんだよ」 ざわざわと騒がしい。モモはなんとなく妙な気分だった。 久し振りに会ったリュウ=1/8192はまるで機械か何かのようだった。 それに―― 「な、てことはさ、あいつもう何人も殺してるのかな。捕まえるとかじゃなくてさ」 あの優しい性質のリュウが? なんだかまるで現実味がない。 ◇◆◇◆◇ 今に始まったことじゃあないが、今日は特別に視線が痛い気がするなとボッシュは思った。右隣にはリュウが座っている。彼は何をするわけでもなくぼおっとしている。左ではジェズイットが、さっきまでは熱心に女の尻を凝視していたが、今はデスクに突っ伏して眠っている。 (……オマエら何なの?) さすがにボッシュはぼそっと訊いた。 講義室内では空の生態系についての講義が行われていた。周りのレンジャーは好奇の目で、レンジャーでもないくせに基地内に入り込んでいるリュウを見ている。 (おいリュウ。俺家で待ってろって言わなかったっけ) (う、今は特別警戒中だから……。昨日の敵はまたボッシュを狙ってくるよ。一緒にいたほうがいいんじゃないかなって思って……) (思いっきり目立ってんだけど) (……か、勝手なことしてごめん。だめだった?) 飼主に叱られた飼いディクみたいな様子でしょぼくれているリュウを見て、ボッシュは溜息を吐き、頭をがりがり掻いた。 (……ま、オマエが俺の為にやってることだもんな。悪くないよリュウ。馬鹿で目の前しか見えないオマエなりに一生懸命やってるんだってのは理解してるよ) (あっれー、お坊ちゃんちょっとリュウくんにだけ甘過ぎやしないか? いつもなら誰かに言うこと聞いて貰えなかったらヒステリー起こして大暴れだろ?) 横から茶化された。睨んでやると、呑気に昼寝を決め込んでいたジェズイットが欠伸を噛殺しながら目を擦っている。彼はぱたぱた手を振って、おまえさんほんとわかりやすいなと言った。 (そうだな、じゃあこれからややこしい用件は全部リュウくんの口から「お願い」してもらおーかな。こう可愛くさあ) (……オッサン、オマエもう黙ってろ) (同意します。ジェズイット様はお黙り下さい。あなたが口を開くとボッシュの不快指数が上昇します) (あぁあ、かっわいくねぇなあ! なぁボッシュくんよ、なんだこの機械みたいなの。リュウくんのおまえさんと俺へのこの態度の違いとかものすごく納得いかないんだけど) (……リュウ、オマエもこんなオッサンと口をきいてやることない。黙ってな) リュウは命令してやると素直に頷いて「うん了解」と言った。 講義が済むと、今まで目に見えてうずうずとしていた隊員たちがわっと押し掛けてきた。 彼らはボッシュの隣に着いているリュウを囲んでわいわいと騒ぎはじめた。見たところ下層区勤務時代から顔を合わせている人間が多い。あの頃のリュウを見知っている者たちだ。 ボッシュとしては正直面白くない事態だが、どのみち今のリュウに何がしかの思い出を期待するのはまるで無駄だ。すぐに静かになるだろう。 「リュウ、ひさしぶりだな! 元気だった? 死んじゃったなんて聞かされてたからびっくりしたぜ! ああオレほら、一緒に警邏に出たこともあったろ、ガンナーの……」 「よぉ、ローディが偉くなったもんじゃねえかよ。へへ、どう上手くやったんだ? 是非教えて欲しいんだけどな、へへ」 「アビーうるさいよ。それにしても元気そうで良かったよ」 リュウはふっと顔を上げて彼らを「見た」。そこには物を見る以上の感慨は無かった。そのことにボッシュは満足していた。リュウにとってはもう人間なんて「自分とは違う生き物」に過ぎないのだ。 「……申し訳ありませんが、覚えがありません。『ネガティブ』は暗部入隊時に全ての記憶を抹消するのが規定になっています。リュウ=1/8192の完全停止以前の記憶は欠損していま――むぐ」 「悪いな、こいつボケちゃってんの。またの機会ってことでいいだろ? 一応仕事中だそうだからさ」 ボッシュは余計なことを喋り掛けたリュウの口を塞いで黙らせて、唖然としている同僚たちから引き離した。そしてごつっと彼の頭を殴り、「この馬鹿」と言ってやった。 (余計なこと喋んな! 黙秘してろ。俺の気ままなサード・レンジャー生活をぶち壊しにするつもりか?) (え? あ、ごめんボッシュ。今のは喋っちゃいけないことだったんだ……て、あ) 具合悪そうに眉を顰めたリュウが、ふいにぐるんと顔を上に向けて空色の目を大きく見開いた。彼の反応の意味するところは知れた。 「起動反応40秒、25、10……――アブソリュードディフェンス発動」 リュウはボッシュにくっついたまま、ひゅっと右手を上げた。光の網が周囲を覆った。 その一瞬後に、爆炎が弾けてはぜた。現れた炎はボッシュとリュウをぐるっと取り囲み、真昼の室内をぱあっと赤く染めた。 「そろそろかなあって思ってたんだ」 「……思ってたんならなんで解除とかしないかな」 呆れたような声でジェズイットが言っている。彼は肩を竦めてデスクに足を乗っけて、「あっついなー」と呑気に言った。彼の周囲にも絶対防御の光の網が張巡らされている。 「一応ご主人様の職場じゃんよ。できるだけ無傷で済ませようって考えないかなー」 「護衛の対象はボッシュ……だけ、で良かったよね? 他は? おれまたへまやったかな……」 「……いや、いいよ。オマエ馬鹿だからそう多くのことは期待してないよ」 「ヒュウ、ボッシュくんってばやっさしいー」 「……オッサン、なんか言った?」 「いいええ」 昨日の女の置き土産ってところだろう、天井裏に仕掛けられていた時限付きの火炎爆弾が爆発したようだ。リュウの防御壁で殺傷力は削がれていたが、建物への衝撃ばかりは取り除けなかったらしい。壁中に罅が入り、ガラスが割れている。とばっちりを受けた隊員たちに死人はいないようだが、彼らはショックと混乱で大騒ぎを始めている。多くが戦闘経験の少ないサードで構成されているせいだろう。 「西に3つ、北に5つ……今日もう帰ろうボッシュ、ここあんまり安全じゃないよ。帰ってごはんにしようよ。おれがんばるから」 「ん……ま、妥当だろうね」 「ほんっとリュウくんのお願いだと聞き分け良いんだなあ坊ちゃん」 「うるさいよこの痴漢者が。オッサンはそのまま投獄でもされてな」 ボッシュは顔を顰めて言った。 ◇◆◇◆◇ これは前々から感じていたことだったが、ボッシュ=1/64は何かの悪い冗談のように綺麗な顔をしていた。そこから以前のようなぎらぎらした貪欲さと高慢が失せてしまうと、その静かな無表情は、まるで良く出来た無機質な彫像のようだった。 そして急にぽっと帰ってきたリュウ=1/8192にしてみても、顔つきや振るまいと言ったものにまるで生気が感じられなかった。彼は以前とは決定的に違っていた。柔らかい微笑みや少し自信の無さそうな表情、そして何よりあの優しい穏やかな目、そう言ったものは彼から完璧に取り除かれていた。彼は急に別人のようになってしまっていた。 ボッシュとリュウ、彼ら二人共がどことなく造りものの人形めいていた。二人が並んでいると、そこには奇妙ながら均衡が保たれているのを感じとることができた。まるで魂のない人形が動き回っているような不気味な光景だったが、彼らは彼らなりに調和を作り上げていた。そこには踏み込みがたい冷涼とした空気が満ちていた。 例の爆発事件から三日が過ぎた。ボッシュはあれから一度も出勤していない。騒動が収まった頃に気がつくと、いつのまにか彼は消えていたのだ。両隣にいたリュウとジェズイットもいない。ボッシュのボディ・ガードのリュウがボッシュと共に消えるのは分かるが、何故かジェズイットまで一緒だ。 基地の屋根裏や倉庫からいくつか火炎爆弾が回収され、焼けた部屋は封鎖され、怪我人はメディカル・センター行きになった。不思議なことにあれだけの火薬が爆発したのに、死人はひとりもいなかった。 夕刻近くになると警邏や探索から戻ってきた同僚たちがぽつぽつ増えて、レンジャー・ルームでは爆破事件の噂で持ちきりだった。犯人はどうやら先日基地に侵入してきたテロリストらしい。最近勢力を増してきている『新生トリニティ』という奴なんだという話だった。 「なあ、それですごかったんだ。あの青いネガティブがさ、こうさっと腕伸ばして『アブソリュードディフェンス発動』! かあっこよかったなぁ〜」 「やっぱオリジン直属のエージェントともなると違うんだろうなあ」 「へえ、聞くには聞いたが大変だったらしいな。そういやここにも何人か『彼』の昔の同僚って奴がいたんだろ? 羨ましいな、そんなすげえのと知り合いなんてさ。アビー、そういやお前もあの人の同期だったんだって?」 「へ? あ、ああ、そうですよ、セカンドさん。いや、今はあいつあんな偉そうな顔してますがね、昔はものすごいへタレで泣き虫のダメダメローディだったんですよ。まぁ俺の舎弟みたいなもんでしてね……」 「お前の話は大体半分に割って聞くのが良いってのは分かってるんだけどな……。でもそれじゃ大変だろ、どうするんだよ昔の気に食わなかった仕打ちの仕返しなんかされたりしたら」 「……え? ……あ。マ、マジだ。ど、どうしようモモ! 俺あいつに恨まれるようなことやった記憶しかないぞ……!」 アビーが顔を蒼白にしてモモに泣き付いてきた。「自業自得でしょ」とそっけなく言ってやってから、モモはちょっと考えて言い直した。 「あんたリュウはそんな奴じゃないよ」 そう、彼は優しく、いつも笑っていた。彼に言うべきことがあったのだが――言いそびれた「あの時はごめんね」という言葉だ――リュウは事件の日以来姿を見せない。 窓の外を見遣ると、空はもう赤く染まっていた。夕日が空の端に掛かっている。じきに夜が来るだろう。ボッシュは明日も姿を見せないのだろうか。彼は家にいるのか? リュウもそこに一緒にいるのだろうか? 基地からはプラントが邪魔をして、ボッシュの住む街のはずれのアパートメントは見えなかった。 「……あれ?」 モモはふと妙なものを見たような気がした。 なんだか急に建物が増えているような気がする。ボッシュの家がある方角だ。プラントの向こうだ。大きいものだ。それがふたつだ。 逆光でディテールは確認できないが、蜃気楼のようにゆらゆら揺れている。 モモは目を擦って相棒を呼んだ。 「アビー?」 「な、なんだよ。今ちょっと思わず許したくなる謝罪の方法を考えてるんだ――賄賂とか……いやオリジン直属なんてすげえ金持ちだよな……」 「ちょっと、あんなのいつの間に建ったっけ? プラントより大きい建物なんか」 「は? 何言ってんだ? あっちは居住区があるだけだろ。うう、うーん……それにしてもなんか引っ掛かるんだよなあ。青い頭、どっか別のとこでも見たような……うーん」 アビーはまるで人の話を聞いていない。さっさと見切りをつけて、モモは友人の少女を手招きして窓の外を指した。 「あれ、変じゃない? なんか動いてるような……」 遠くのほうで、背の高いビルみたいな黒い影がゆらゆら揺れている。それが揺れる度に細かい震動が起きている――ような気がする。 「やだなあ、地震かな」 誰かがなんとはなしに言った。 じっと凝視していると、『それ』はふいに奇妙な変化を見せた。 モモは目を眇めて呟いた。 「なにあれ」 ◆◇◆◇◆ 澄んだ川の水は幾分かボッシュの気分を晴らしてくれた。透明で冷えきっており、ゆらゆら揺れている水草と、水底でじっと蹲っている石の群れがすごくクリアに見えた。街には明確な囲いというものは存在しなかったが、居住区やプラントを離れるとすぐに森にぶち当たることになる。そこはまるで手付かずの空だった。時折レンジャーが探索任務でうろうろしている他は静かなものだ。 「良く来るんだ」 綺麗な水で腕の汚れを落としながら、ボッシュは言った。 「奥地の探索任務でさ。『動物』――例の遺伝子操作されてない生き物だよ。それとあとは旧世界の遺跡だね。そんなもんばっかり探してる。これ、テロリストの鎮圧やってるより金になるんだよな」 「ふうん。それにしてもすごく綺麗なところだねえ」 リュウは川辺に突き出した石の上に腰掛けて、黒っぽいボールのようなものを気楽にひょいひょいと蹴り上げている。縦に長い楕円形で、毛が生えた耳がサイドにくっついていた。ついさっき捕まえて拷問した反政府組織の構成員の頭部だった。リフティングに飽きると、彼は死骸の頭をぽんと真上に蹴り上げた。哀れな肉の塊はしばらく中空に留まったあと落下し、地面に着く前に、大きく口を開けたリュウの「影」に丸呑みにされた。 「腹は膨れた?」 「うん、今日はいっぱい食べれたから……ボッシュは?」 「俺はオマエがもの食ってるとこ見るのが好きなの」 ボッシュはにっと笑って言った。 「優しいオマエがああいうことしてるのを見てるとすごくゾクゾクするよ。ほんと可愛いよ。ただ今日はあの女いなかったよな。残念……」 「こないだのトリニティだね? 次は頑張って探すね」 「よろしく頼むぜ相棒。俺オマエを自慢してやりたくってしょうがないんだからさ」 ボッシュは機嫌良く微笑んでリュウの頭を撫でてやった。リュウはくすぐったそうにきゅっと目を閉じている。彼はボッシュに触れられることが好きなようだった。良く手懐けられたディクのようだ。 反政府組織のアジトを割出し、破壊し、火を放ち、逃げ惑う人間を捕食する。その一連の行為をリュウは無表情でやる。興奮も高揚もなく、ただするべきことを黙ってやるだけだ。その姿はしばらく前のレンジャー時代の彼を思い起こさせた。 リュウは生真面目で、与えられた仕事を文句ひとつなくこなすのだ。ボッシュは彼のそんな姿を見ていると、ひどく安心するのだった。 「……ふう。ちょっとゆっくりしてこうぜ。そう急いで帰ることもないだろ。ただでさえどっかの空気読めないバカどものせいで基地に顔出しにくくなってるし」 「うっ、ごめんボッシュ……」 「そ、ちょっとは反省してろ。まあいいけど。おかげでこうやってオマエと昼間っからデートできるわけだし?」 「デート、これ?」 「そうじゃないの? 俺オマエのことすごく好きだし、ふたりで散策、食事、会話、とりあえず一応最低限の三点は押さえてる。ちょっと内容がマニアック過ぎるような気もするけど」 「ふうん……良くわかんないけど、ボッシュが言うんならそうだね」 「オマエわかんなくてもとりあえず頷いとけと思ってるだろ。これだからゾンビってのはどうしようもない」 ボッシュは肩を竦めて、やれやれと首を振った。 |
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