『伊織順平へ


 ちゃんと進級できてるか? なんか単位落としてダブったりしてないか?
 これ読んでる時、お前がちゃんと三年に上がれてることを祈ります。まあ、俺は死んじゃってるんだろうから、頼りにならないだろうけど。ごめんな。
 俺が死んでも、あんまり気にするなよ。チドリの時みたいにものすごいへっこんでるお前を見るのは、なんか嫌だ。俺は男だし、チドリみたいにお前の彼女でもないから、あんなには悲しまないと思うけど、とりあえず俺は今まですごくお前といて楽しかったし、これからは綾時がまた一緒にいてくれるから、寂しいことなんかなんにもないってだけ、知ってて欲しい。ほんとに、全然悲しむことない。前はいろいろ泣いたりして困らせてごめんな。





 この一年、はじめて学校の同級生の友達ができたり、勉強したりして、昼間は普通の学生やったり、街中歩きまわったり、いろんな人に優しくしてもらったり、すごく普通の学生生活みたいなことができて、俺はすごく幸せだったと思う。
 順平は俺の交友関係がなんか変だって言ってたけど、実は俺もちょっと思います。あいつら変だよな。あ、内緒な。
 でもみんなすごくいいやつばっかりです。友近はラーメン食わせてくれるし、宮本はカロリーフレンド半分くれるし、ほかにもみんな俺に食べ物くれたり優しくしてくれます。





 前はずっと、俺が死んでもきっと空気みたいに消えてくだけなんだろうなって思ってたけど、最近はそうでもないのかもしれないなって思うようになったんだ。
 みんなたぶん俺のこと覚えててくれるよな。俺ひとりじゃないんだなって思ったら、すごくほっとした。
 多分俺もチドリみたいに、ちゃんと人間の墓に埋めてもらえるよな。そうだといいな。





 でも俺のまわりには大好きな人がいっぱいいて、みんなもたぶんだけど俺のこと好きでいてくれるんだって思ったら(違ってたらごめんな)、なんか一人で死んでくのがすごく怖いです。
 みんなに会えなくなるのが、怖いです。
 俺もみんなと一緒に大人になって、成人式出てお酒呑んだりしたかったな。
 学校の先生もやってみたかった。
 まだ生きて、順平と一緒にいっぱい遊びたかった。
 でももう約束の時間みたいだから行かなきゃ。すごく残念。





 なんか俺すごいダメな奴だから、長い間順平に嫌われてたと思うけど、今は優しくしてもらえてすごく嬉しいと思う。
 帰ってきた時に全部忘れててもずっと友達だって言ってくれてありがとう。俺たちずっと友達だよな。
 俺頑張るから、順平絶対長生きしろよ。身体に気を付けて、元気で。





 俺が怖いのは死ぬことじゃなくて、好きになった人たちに会えなくなることだったんだって、ようやく最近気付きました。ちょっと遅いよな。
 




 じゃ、また。さよなら、俺の友達。
 いろいろしんどかったと思うけど、俺なんかと仲良くしてくれて、ほんとにありがとう。俺は順平が大好きです。
 メジャーリーガー、なれるといいな。きっとお前ならなれるよ。がんばれ。
 英語教えてやれなくてごめん。





2010年1月31日 黒田栄時より』




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