いつだったか、彼とこういう話をしたことがあった。僕が、「昔のことも先のこともどうでもいい。今さえ楽しければいいんだ。大人になんてなりたくない」って言った時のことだった。
 彼は「でも君っていつも楽しい楽しいって言うけど、にこっとも笑ったことないよね。変なの」と言った。
 僕はなんとなくやり込められたような気分になって、癪だったから、「うるさいな。もうお前とは喋ってやんないからな」と言って、顔を背けたのだった。
 あの後は確か、何日か経って、お互い忘れたふりをして仲直りをしたんだったか。良く覚えていない。ともかく僕は「ごめんね」を言っていない。彼も僕を変だって言ったことに「ごめんね」は言わなかったから、おあいこってことになるんじゃあないかって思う。うん。
 実の所、彼の言うことは正しかったんだと思う。だから僕は言葉に詰まったのだ。今さえ良ければいい、今さえ楽しければって、僕は口癖のように言っていたけど、僕は十七年間生きてきて、良かったことなんて一度も無かったのだ。本当は。
 でも「ごめんね」も「あの時お前が言った通りだったよ」も、もう僕は言うことができない。伝える相手はもういない。
 この世界でたったひとりだけの友達は、きっと先に死んで灰になっちゃうはずだった僕よりも先に、消えてしまったのだった。
「ファルロス、おい」
 僕はベッドの上でしばらく呆然としたあと、自分の頬を抓ってみた。痛かった。
「どこだよ。消えるとか、なんでお前はいつもそんな、僕がなんか不安になっちゃうような帰り方すんだよ。おいってば、出てこいって。遊んでやるから。今日だって後でお前にチーズケーキ盗……買ってきてやろうと思ってたんだって。ほんとに。お前、甘いもん好きだろう?」
 僕がかなり下手に出てやってるっていうのに、彼ときたらまるで反応なし。いい度胸だ。ちびのくせに生意気だ。僕の方が背が高いし、頭もいいし、年上だから偉いってのに。
「そういうの、止めろって。お前、僕がお前しか友達いないって、知っててこういうことすんのかよ。ちょっとひどいぞ。後で覚えてろよ――





 でも、『あと』は来なかったのだ。二度と。





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管理人:ゆりんこ 2007年04月29日〜