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壬生怪談・百物語




〇〇八・首級(藤堂)


 スズランが、またうるさく騒いでいたな。
 報告は聞いたぞソウゲン。
 顔の良い男ばかりを狙って、毒を塗った文を送る犯行か。意味がわからん。
 人の顔の美醜なぞ、造作は整っているくせに内面の情けなさが滲みだしているせいで、寝ぼけた狸のような剽軽な顔つきにしか見えんスズランを見れば、送り主の犯人も阿呆らしくなってくるのかもしれんな。

 私のこの傷がなければ、いの一番に被害にあっていたかもしれぬと、サクヤに言われた。
 あやつも上の者にゴマをするようなことを言うのか。意外だ。思ったままを吐く不器用な男だと思っていたが。
 このような傷だらけの顔に向かって、目が悪いのか。まったく。
 なんだ。造作が良い? 貴様まで言うかソウゲン。
 ま、いい。亡き新選組幹部の皆さんが生きておられたときも、かわいいやらなにやら誉めてくださったことを思い出した。
 この傷では、もうかわいいも何もなかろうが。
 首から上が、胴体にくっついているだけ上等だ。皆は、分かたれてしまった。

 首といえば……。
 ソウゲン。貴様は先日、病にかかった壬生の童を診ていただろう。
 屯所は診療所ではないが……。
 いや、咎めてはいない。町の者に頼られれば、応えられるところは応えてかまわん。
 病に怪我にと町の人間に頼られるのは、新選組が信頼されている証だ。我々はよそもの、近隣に住む者に敵視されては仕事に支障が出かねんからな。好きにしろ。

 そうか。童から、夜間に壬生周辺をうろついているという、不気味な首なし男の噂を聞いたと。
 人の噂などすぐに忘れ去られるかと思っていたが、まだ立ち消えてはいなかったのだな。
 ……まあ、私も耳に入れている。むぅ……。
 貴様ならば構わぬか。ソウゲン。
 他言無用だ。とくに一番星には言うな。また子猿がキイキイとわめいて騒ぐに決まっている。
 首のない男が壬生の夜道を徘徊し、人を見つけると、奪った首を返せよこせと追いかけてくる。
 壬生の童のあいだには、少し前からそういう噂がある。親たちも不安に思っているようだが……。
 あれな、私なのだ。

 さる八月十八日の政変。御所において、巨大な異形の化け物の姿をした雑面ノ鬼と戦闘になり……。
 新選組の幹部たちは、私を除いて惨殺されてしまった。
 皆を殺したあの化け物に、刀を投げつけ一矢報いはしたものの……。
 私は左目と、左手足を失って気絶した。
 気がつけば、床の上だった。会津の兵に拾われたのだ。

 その間に、雑面ノ鬼に与する不逞浪士がやって来て、御所をうろついていたらしい。長州藩兵にまぎれていたようだ。
 騒ぎに乗じて新選組幹部の首級をあげようと企み、現場に折り重なったあの人たちの躯から、首を斬りおとして持ち逃げした。
 幹部の皆さんは、命ばかりではなく首まで奪われ、誠も誇りも辱められたという。
 仇を討つのはもちろんのこと、仲間の首をそのままにはしておけぬ。生き残った私が取り戻さねば、弔いもままならん。
 すぐに首泥棒を探しだし、「首を返せ」と駆けずりまわった。その時の姿を、壬生の童が見ていたのだな。
 怖がらせてしまったか。かわいそうなことをした。
 ソウゲン。また診療所で首なし男の噂を聞いたら、「そいつならば新選組が斬って捨てたので、もう出ぬ」と、童に言って安心させてやってくれないか。

 雑面ノ鬼めは、いかがわしい妖力で殺した新選組幹部の皆さんの魂が、うまく奪えなかったことを不思議に思ったはずだ。それであの人たちの首を盗んで持ち帰り、開いて調べようとしたのだろうな。
 むろん許さん。決して渡さぬ。おひとりを除いて取り戻したが……。
 いまだに、斎藤一さんの首だけは戻ってこない。
 せめて開かれたあとの残骸でも、骨だけでもと、思わんでもないが……。

 なぜかわからんが、スズランの顔を見るたびに、もういい、というような気がしている。
 ああ、お帰りになったのだと、そう思うのだ。

 斎藤一さんは、スズランとうりふたつだった。
 スズランのような、だらしのないぶよぶよの腹ではなかったが、顔も声もあまりにも似ている。まるで亡くなった斎藤一さんの生首から体が生えてきて、今も動いて歩きまわっているような……。
 皆で風呂に入っているときに気づいたが、あやつ、何故だか体と首の肌の色が異なるだろう。
 日焼けにしては妙な焼け方をしているなと見ていると、そういうおかしな想像に、とらわれてしまうことがある。

 スズランは、「己は美男ではないのか」と心配そうに騒いでいたが、あやつ顔はいいと思うぞ。
 なにせ、あの斎藤一さんに生き写しなのだ。
 だからこそ、あまり情けない顔をして見せないでほしいものだと思う。気高く凛々しいお方だったのだから。




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