はーあ。なぁにギャってんだろうなァ、オイラたち。
え、坊主よ。こうして寝転がって、酒でも飲まなきゃやってらんねえやい。
ボウのやつ、ちょっとデカめの相撲大会で勝ちあギャって、ガッポリ稼いできやがった。
金一封とは言いながら、おまんま食うにはしばらく困らねーとよ。景気の良いところには、金が有り余ってるんだねぇ。
坊主よ、オメェさんも相方の、お医者先生の夜の仕事のろうそく代の足しにと、毎晩健気にうどんを湯がいていたが……。
先生、手作りのろうそくがダメだってんならと、逆に今度はエレキテルで光る「電灯」とやらァ、作っちまったそうじゃねえか。
自分が使う研究室ばかりでなく、ついでギャからと屯所中を昼間みてぇに光らせて。水車を使うんで、裏手の西高瀬川の水が枯れねぇ限りは夜の明かりがタダ同然だってんなら、藤堂のダンナも大喜びだァ。
すげえお人ってのは、オイラたちみたいなハンパ者の施しなんざァいらねーんだよ。逆にぜーんぶ自分でなんとかしちまわァ。
はーあ。オイラもオメェも、相方の助けになりてェだとか、ダセェこと言ってガンバっちゃってよう。飲んだくれどもがガラにもねーことしても、うまくいぎゃあしねェもんだなあ。
「まあ楽しかったし、いいんじゃない」ってなァ。
んー。そうだなぁ。楽しかったっちゃ、楽しかったなァ。
知らねぇ顔の奴らから面白ェ話ぎゃ聞けるし、常連さんも何人かついて、出した飯をうめぇうめぇと喜んで食ってもらえりゃ、ノリでおっぱじめたが悪くはなぎゃったなァ。
あんな遅い時間にフラついてる若ェやつら、みーんなひょろひょろのガリガリでよう。ギャーッと食えよォ、って気持ちになっちまう。
いつも隅っこのほうで、むっつり黙ってうどんすすってたお月ちゃん、いつか人参食えるようになるといいよなぁ。
なあ、坊主よう。オイラたちァ、こうしてお武家様に化けて刀ァ振り回しちゃいるが、飯炊きのほうぎゃ性に合ってんじゃねえか。サクヤのヤツの言うとおりだよ。
ぜーんぶ終わって新選組はお役御免となったら、大将のオイラに、オメェがおかみさん、ドラ息子のサクヤと組んで、本格的に親子二代のうどん屋でもおっ始めるかィ。
なに。「息子設定のサクヤちゃんが面白すぎてお腹痛いわ」て。オメェもノリにノッて考えてたろうギャよぉ、息子の設定。
気分がノッたら? オメェさんはいつもそれだな。ま、そりゃオイラもそうか、なぁおまえ。「あいよぉ、あんた」……すっかり板についちまったなぁ。ギャハハ!
オメェさん、いつかァ夜鷹の姐さんにコロッとやられた浮気者だとオイラのことォなじったが、逆にそっちだってそうだろィ。
あーあ。オイラみてぇないい男が、長年連れ添った嫁さんに浮気されちまうなんてよぉ。あのお医者の先生も、まじめな顔して間男たぁニクいねぇ。
おうおう、ろくでなしの酔っ払いが、生娘みたいに真っ赤になっちまって。ギャハハ!
安心しなァ、誰にも言いやしねぇよ、おスズちゃんよ。オイラァ、これでも口はかてーんだ。
逆にサクヤに拷問されたって、ちょっとやそっとじゃ吐かねぇよ。
「あっ、これは言いふらすやつ」だって? 失礼な野郎だぜィ、まったく。
夜中にうどん屋台に立って、怪談話ィ集めてると、好きものだと思われたみてぇでよう。
逆に何もしてなくたって、あちこちから入ってくるようになっちまった。
身のまわりで変なこと起こったら、オイラんところに話ィ持ってきて、斎藤先生が「破ァ!」ってしてくれんのを期待してんのかね。一応坊主だもんな、おめぇさんは。
できるか? 「破ァ!」だよ。無理っぽい? ぎゃっぱなぁ。気迫とか全然ねぇもんな、おスズちゃんはよう。
こないだ、ボウ連れてガキどものところに、飯の炊き出しに行ったんだァ。
坊主、オメェさん前に熱に浮かされながら、山童は墨ィ嫌うって言ってたろ。
覚えてない? いやいや、たしかに言ったし聞いたんだよ。
寝泊まりしてる掘っ建て小屋の玄関に、ボウが筆書きで花やら動物やら描いてよ。あいつァうまいもんだろう。ガキどもも大喜び、筆ェ持っていっしょになって、いろんな所に絵を描いたのよ。
夕暮れどきになるとガキどもが、「あの子ら帰ってけぇへんね」と言い出した。
山童だか山の怪だかじゃねぇかってオメェさんが言ってた、赤毛の臭ぇ奴らよ。
すると坊主の言う通り、墨の筆書きが妖怪除けに覿面に効いたかと、オイラぁ安心したんだが……。
集まってるガキどもの数が、ごそっと減ってやギャる。
一目見てわかるくれぇだァ。日が沈んでも戻ってこない。
山童に気に入られて、仲間にされちまったガキどもも、退散した化け物どもにいっしょについて、どっか引っ越して行っちまったか。
──それとも、本物のガキは山の物の怪に、もうとっくの昔に襲われて食われちまってて……。
山童が食ったガキの皮ァかぶって、何食わぬ顔して家に帰ってきて、次の餌は誰にするかを吟味してやギャったのかもしれねぇ。
……いやいや。ンなわけねぇやな。
怪談話なんて辛気臭ェものを毎晩聞かされているからよ、つい悪い想像しちまったよ。
忘れてくれェ。
昨日、またガキどものところに顔出したんよ。あれからどうなったか気になってたからな。
やっぱ、いなくなったガキどもは、まだ帰ってきちゃいなかったがよ。
山姥だか山童だかなんだか知らねェが、気のあうそいつらだけで集まって、誰もいねぇ山ン中とかで、きっと仲良く元気にやってらァ。
墨書きのおかげか知らねェが、薄気味悪い奴らはみんないなくなっちまった。坊主に礼を言わなきゃなァと思ってたんだが……。
またよ、変なものを見かけたんだィ。
オイラたちが炊き出ししてっと、顔見知りのガキのあとを妙な女がついていく。
手がねぇんだ、両腕ともな。遠目で見ると棒が立ってるように見えるんだィ。白い着物を着てたな。
「からからから」とか口でブツブツ言いながら動きまわってやギャるから、おかしなヤツが来たなと、そう思ってたのよ。
よく見ると、顔が独楽みてぇにグルグルと回ってやがる。いや、何だありゃ?
額がグイッとまわって、アゴのある場所を通って一回転。それをずっと続けているんだィ。風に吹かれて風車が回るみてぇにな。
「なんだィそいつは」と、うっかり声に出てた。やべえもんはやり過ごそうって、オイラァ決めてんのによ。
ガキのほうはなんでもねえ顔で、
「きれいな風車やろ。もろうてん」
と笑って答えやギャる。「誰に」と尋ねると、そこは「誰やったっけ?」と要領をえねぇ。
炊き出しやってるぞと知らせると、はしゃいで走っていった。
からから女は、オイラにゃ風車にゃどうしても見えんが……ガキには、なんの変哲もねぇ風車に見えてるみたいだった。
女ァ、「からからから」口で言いながら、首ィグルグル回しながら、すうーっと、滑るようにガキのあとをついてく。
「なんなんだありゃ」と、またうっかり声に出てた。
ほかのガキがそれ聞いて、「せやせや」とはやしにオイラの横に来る。
「なんや風車なんか。ガキのおもちゃやないか。わしのでんでん太鼓のほうが、立派やしかっこええわ」
そう言うガキの後ろには、長い影が立ってる。
両腕のねぇ女がいた。赤い着物を着てたな、こっちは。
面の皮が太鼓みてェに張ったソイツが、「でぇんでぇん」言いながら頭を上下に振ってやギャった。
両目の穴から、白い組紐みてぇなもんが伸びててよ。先っちょについた目玉をギャンギャン振り回して、なかが空洞になってる顔面叩いて「でぇんでぇん」音を出してやギャんだ。
「なっ。ええ音鳴るやろ、ギャタ兄」
ガキがよ、邪気のねぇ顔でニコニコ笑いやギャるから、オイラァさすがに小便チビりそうだったわ。
なんとも答えねぇでウニャウニャゴニョゴニョ言いながら、早々に帰ってきたっつう訳よ。
なあ坊主。得意のとんちで、何かあいつら追っ払う方法教えてくれよ。
山童のときみてぇに、苦手な墨ィ使って線引くとか、すぐに効果が出るやり方があるんじゃねェのか。幽霊の正体見たり枯れ尾花、とはいうが、逆に正体が知れねェままだと、気色悪くて仕方ねえのよ。
なんならおめえさんが来て「破ァ!」ってしてくれて、派手にパーッと化け物やっつけちまってくれていいからよ。
「なにそれ、わかんない……こわ……」じゃねえよ。
坊主がお化けにサジ投げちまったら、オイラァ一体どうしたらいいのよ。