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壬生怪談・百物語




〇一八・名前(???)


 ──土佐の高知のはりまや橋で、坊さんかんざし買うを見た。

 こん、こんっ。くわーい。

 こんにちはー。お坊さん、きれいな声で歌うのねぇ。それなんの歌?
 お坊さんがかんざし買うと、それだけでお歌になっちゃうの?
 へー、有名人ってやつねえ。モテる男はつらいねぇ。

 びっくりした? 狐はふつう喋らない? 変なこと言うね。
 人間もさ、海の向こうの国の言葉を喋るのに、四苦八苦してるっていうじゃない。
 でもそれって、相手のお国のことが気になるから、お話ししたくて言葉覚えるわけでしょ。
 それと同じ。僕は人間とお話ししたいの。気になるから。だから四苦八苦して覚えたの。

 ねぇそれなにしてるの?
 お家を直してここに住むの? 変わってるねぇ。
 というかさぁ。ここ僕んちなんだけど。ちがうよー、巣穴とかじゃなくて。土地の権利とかちゃんとした意味で。
 僕のお父さんねえ、えらいお坊さんだったんだよ。
 人間に化けてたの。こんこん。化けてたって言っても、僕ら悪い狐じゃないよ。人間が困ることはしない。お父さんは大坂のお寺の住職として、長いあいだ毎日まじめに働いてたんだから。
 このお堂はお父さんが建てたんだよ。すごいでしょ。
 お坊さん、行くところないの? お寺追い出されちゃったんだあ。かわいそー。
 僕といっしょに住む?

 僕は人間に化けないのかって?
 まだ無理だよー。僕仔狐だもん。そういうのは、大人の狐が何年もかけて、だるい修行を積んでやることでしょ。
 お父さんもあんまりうまくなかったけどさぁ。うちの家系の狐は、代々化けるのが下手なんだよねぇ。

 みだりに人間の言葉を喋っちゃダメって? えーっ。なんでよ。
 出会ったのが世捨て人の自分だからよかったものの、もし悪い奴だったら捕まって、売り飛ばされて、狭い檻に閉じこめられて見世物にされるか、毛皮を剥がれて襟巻きにされてた?
 えっ怖……なんでそんな怖いこと考えつくの。引くわぁ。
 大丈夫だよ。人間は優しいんでしょ。
 お父さんが言ってたもの。

 お坊さんのお名前はなんていうの。
 へえ、いい名前だね。
 ねー。僕もそういう、なんかいい感じのお名前つけてよ。お坊さん。
 お師匠がお弟子にお名前つけてさ、お坊さんってそうやってなれるんでしょ。
 お父さんねえ、僕が生まれてすぐ化け狼に食べられちゃったから、お名前まだつけてもらえてないんだ。

 「鈴蘭」。

 くわーい。くわっくわっ。
 それ今日から僕のお名前ね。やっぱナシはナシだから。
 んっ、なんで鈴蘭にしたの? 僕の毛の色だとさぁ、ふつうに附子とかつけそうじゃない。
 それはひどい名前って? たしかに。
 お坊さんのお名前が、花言葉になってて。それでその意味のあるお花の名前を、僕にくれたの?
 師匠が弟子を名づけるなら、そういうものがいいだろう、って。いいねいいね、こんこんっ!
 へぇへぇ、花に言葉なんてあるんだ。教えてよ詳しく。僕ねえ知りたいの。人間のことたくさん知りたいの。
 僕もお父さんみたいに立派なお坊さんに化けて、人間の友達がほしいのよ。




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