──土佐の高知のはりまや橋で、坊さんかんざし買うを見た。
こん、こんっ。くわーい。
仏道に背いて女の子と恋におち、ふたりで駆け落ちしたものの。
追手に見つかり、好きあうふたりの仲は裂かれて離れ離れに……。
そっかーなるほどねぇ。そういう裏話のある歌なのね。聞くも涙、語るも涙ってやつだね。くわっくわっ。
なんでお坊さんは女の子を好きになっちゃいけないの?
修行の妨げになるからダメなの。へー、我慢しなきゃならないことがたくさんあるんだね。
十戒律。修行中のお坊さんのダメなもの、十個もあるんだ──殺し。泥棒。交尾。嘘。お酒。おしゃれ。お歌。おおきなお家。お金。おやつもダメ。
ぜんぶダメなの? きっつ。とくにおやつダメなの無理。死んでるのと同じじゃない。
なるほど、だから死んでる人のことを仏様っていうんだね。
みんな命が尽きたら平等に、戒律を守るりっぱな仏様になれちゃうってわけ。こんっ。
僕のような獣には、難しくてむりかもしれないって?
そうだねぇ。もうちょっと簡単なのはないの。狐向けの戒律とか。
僕お歌が好きだからさぁ、つい歌っちゃうんだ。坊さんかんざし買うを見たぁ。うふふふ。さっそく戒律破っちゃった。こんっ。
お師匠さんはお坊さんなのに、お歌も好きだしおやつも好きねぇ。
女の子は好き? ……そういうのは、まずはお友達から?
人間はオスとメスが交尾をするのも、まずはお友達からはじめるの。手順を踏まなきゃいけないのね。難しいねぇ。面白いねぇ。
お坊さんなのに厳しい戒律が守れなくて、お師匠さんはお寺から追い出されて破戒僧になっちゃったんだ。
どれ破ったの? 殺しと泥棒は絶対違うでしょ。お酒も違うね。すぐ酔っぱらっちゃうから。お金もそれっぽくないし。
あー女の子でしょ。好きな娘ができたんでしょ。
おっ赤くなっちゃって。これは当たりだね? こんこんっ!
狐が人をからかうもんじゃないって? いやいや、狐は人をからかうもんですよ。
ねぇどんな娘だったの、美人? 毛並みは? 毛色は? どんなにおい? 尻尾はふさふさ? あっ人間は尻尾ないんだっけ。どこまで進んだの? 交尾はした?
なんで怒るの。まずはお友達からって言ってるだろうって? まじめねぇ。
口を吸った……? なにそれ。人間は好いた人の口を食べちゃうの。引くわぁ……。
そうじゃなくて、口と口をこうあわせて……。なにそれ、変なの。楽しいの?
おやおや、うふふふ、お師匠さんたら顔真っ赤だよ。くわっくわっ。
へーへー楽しそうねぇ。そのそれ、恋っていうの? どんなかしら。
僕のお父さんみたいに、いつもシャンとしているお師匠さんが、そんなにふにゃふにゃになっちゃって。俄然気になってきましたよ僕は。
それはお歌よりもアゲアゲで、お酒よりもフワフワして、かすていらよりも甘いもの?
わあっ、素敵だねえ! おいしそう!
それって人はみんなするもの? 狐にもできるもの? 歳はいくつくらいからできるもの? 発情期がきてなきゃだめかな? 痛くない?
ふうん、心があれば皆できるものなんだ。なんだか憧れちゃうね。僕もしてみたい。
こーんこんっ、恋ってどんなものかしら。
僕は、どんな子を好きになっちゃうのかしら。うふふふっ。