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おっ、スズランにギャタロウ。こんな時間までまだ呑んでんのか。 「ギャタロウちゃん、心配事が増えるとお酒の量が増えるんだよね。意外と細かく気をまわしているんだよ。いろいろ」 ふーん、うちのおっ父と同じじゃん。ガーガーとイビキかいてうるせーところも似てる。 「もー。君より年下だよ」 えっそうなん? あの「ガシャンガシャン」がうるさくてさぁ。 「まだ寒いときに、壬生寺で節分会があったの覚えてるかしら。鬼払いの壬生狂言だけ、何回もやってたやつ。あの時に素焼きの大皿を奉納したでしょ。境内に墨壷の台が並んでて、一番星ちゃんが筆でかわいい猫ちゃんの絵を描いて、藤堂ちゃんに「罰当たりが」って殴られたお皿。あれが炮烙」 「火にかけてお豆を炒ったりすると、金属のお鍋を使うより、香ばしくなっておいしいよ。お茶の道具にも使われることがある」 「お寺ではお盆の迎え火と送り火を焚くときに使ったりもする。おがらをのせて……おがらっていうのは、麻の茎の皮をむいて乾かしたやつね。火をつけて燃やすの。おがらの煙が、お空にのぼった魂をこの世に呼び戻すんだよ」 あの茶色い皿って、いろんな使い方ができるんだな。今度炮烙使って豆を炒ってみるか。うまそう。 高ァく積みあがった皿の山。 「あれ、炮烙のお山がさぁ、崩落するのとかけてるのかな。んっふふ」 ……やっぱスズランって、おっさんじゃね? うん。間違いなくおっさんだわ。 「たしかに、珍しいよね」 なー。 「ところでさぁ、一番星ちゃん。夜は割らないよ。炮烙割りはお昼だけ。こんな夜の遅くまでお祭りやって大騒ぎしてちゃ、ご近所さんから苦情がきちゃうよ」 だよなぁ〜、俺もさぁ、変だなって思ってたんだよ。ひっく。実際うるせーって俺、起きちゃってるし。うぃ〜。 屯所の裏でしゃれこうべがよぉ、集まって騒いで、「がしゃんがしゃん」と、頭の皿を積んじゃ落として割って。 「あらら、一番星ちゃんたら、気持ちよさそうに酔っぱらっちゃって。飲みすぎは毒だよ」 「すぐ近くにあるお寺でお祭りやってて、楽しそうな太鼓や笛の音だけ聞こえてくるんだもの。八月十八日の政変で雑面ノ鬼に殺されてしまった壬生浪士組の、僕らは名前も知らない平の浪士たちも、気になってソワソワしちゃってたんだね。死んじゃうと、ほんのちょっとの距離を歩いていくのも、自由にとはいかなくなるのは不便だ」 「彼ら、新選組存続のために「死んでしまったこと」を隠されて、まともなお墓もないまま土に埋められた不満はいろいろあるだろうけど……。ひとり生き残って頑張る藤堂ちゃんを困らせないように、何も言わずにグッとこらえていたのに、今日ばっかりはどうしても見に行きたかったんだねえ」 へぇー。そりゃ無念だぁ。見に行けねぇなら、てめぇらだけでも楽しもうかってんで、頭の皿でもなんでも、炮烙がわりに割ってやりたくもなるよなぁ。 「酔っ払いは強いねぇ。僕の目には一番星ちゃんが、地獄の亡者たちにしがみつかれてる蜘蛛の糸に見えるんだけど……」 「悪さをされるようなら、全身くまなくちゃんと耳までお経を書いてあげるけど、一番星ちゃんなら必要なさそうだね」 おうセンパイ方ぁ、俺ぁまだまだ呑めるぞ呑み比べだ。 |
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−「壬生怪談・百物語…紫鈴堂・えしゅ
2023」−