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あっ、一番星ぃ。よかった。 「屯所の庭の端っこに、なんかキタネェのがあるなぁとは前から思ってたが、これって井戸なのか。そういや、使われてない井戸が敷地のどっかにあるって、家の人から聞いてたっけ」 うん。オデたちが来る前から、木の蓋で覆いをされてたよ。誰かが落っこちないようにだと思う。 「えー。そういや酒屋の喜八っつぁんがよ、酔って迷いこんできた近所の爺さんが、厠と間違えてウンコしたから使うのやめたって言ってたけど」 うえー。そうなの。 「わかんね。喜八っぁん、思いついたテキトーな冗談よく言うし。いやー全部くだらねぇんだよなぁ、逆にすげぇよ。くだらねぇこと言う奴ぁ、くだらねぇこと言う奴なりになんか通じるもんでもあんのか、ウチのくだらねぇ駄洒落ばっかり言ってるスズランのこと、一方的にだけど宿命の好敵手だっつってた」 うえー。そうなの。 「おう。強いぜウチのは。下ネタなんかに頼らなくても、見事にスベッてるかんな」 井戸だけど、普通に枯れてたよ。 「なんだ、枯れ井戸かァ」 オデとギャタ兄が、残念そうな顔をしてると。 「おーい、おーい」 井戸の中から、声が聞こえてきた。 だけどねえ、中の人はずっと「おーいおーい」って言ってて、返事してくれてるような感じじゃなかったマァ。 「この高さじゃ、落っこちたらタダじゃすまねぇだろ。足ヤッちまってるなあこりゃ」 ギャタ兄、「こんな目立たない場所に隠れてる井戸を、わざわざ覗きこむ物好きな奴が悪い」ってブツブツ文句を言いながら、面倒見がいいから「しょーがねーな」っていう顔で、縄の端をオデに握ってるように言って……。 オデは体が大きくて、井戸につっかえるから、下に降りていけないし。 「おーい、おーい。アゲてくれぇ〜」 一番星、「ギャタロウの声がする」って? 「おーい、アゲてくれって。おーーーーい。おーーーーい」 「普通に。普通にアゲてくれぇー」 「普通にぃー。普通にぃー」 うん、そう、一番星も変だって思うでしょ。 「早く普通にアゲろっ。普通にぃー。縄あああ。ふつううにいいいぃ」 ねえ一番星。どうしよう。縄、上げちゃっていいのかな。 |
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−「壬生怪談・百物語…紫鈴堂・えしゅ
2023」−