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壬生怪談・百物語




〇二九・井戸(スズラン)


 わぁ。本当に僕そっくり。惚れ惚れしちゃう色男。すごいもんだねぇ。
 なんでそんな冷たい目で見てくるの、こっちの僕。
 同じ顔してポンポコ狸みたいなのに違和感がある、って? 失礼だな。

 さっきうちのギャタロウちゃんと、君のところの局長さんが話してたの見てたんだけど、こっちの近藤勇さんは迫力があるよね。
 目つきがカミソリみたいに鋭くて、ならず者どもをとりまとめる局長っていう肩書きが、なるほどーって感じ。颯爽としてるというか。貫禄あるねえ。
 うちのとこはどうって?
 うちの一番星ちゃんも、カッコイイし面白いし頼りになるし、とにかく人と仲良くなるのうまいの。みんなに好かれてるんだよ。
 それはそっちもだって? あはは。どっちの局長さんも人に愛されてるねえ。

 僕の斎藤一さんの魂が入った、このエレキテル錫杖と。
 そっちの僕の斎藤一さんの魂が入った刀とをぶつけあって、僕らの世界の境界線を揺らしてやれば、なにかがきっかけで開いてた道が、もう一度開くんじゃないか、ねぇ。なるほど。
 ほかがどんな感じに違うのか、この世界をいろいろ見物したいところだけど、異物をいつまでも入れてちゃ、どんな影響があるかわからない。残念だけど、さっさと退散したほうがよさそうだねこりゃ。

 それにしてもこっちの僕、僧侶なのに刀振れるの? すっごいね。だるいからなかなか抜かないけど、って? あは、そこは僕と似てる。
 ある程度は何だってそつなくこなしちゃうのね。へえーっ。僕は荒事はからっきし。念仏祝詞オラショ唱えるくらいしかできないから、不思議だねぇ。同じスズランなのに。

 「お前は、ソウゲンと添い遂げる気はないのか」って?
 うーん。どうだろう。それって、僕がどうこうしたくてどうなるもんでもなし。お互いが好きあってても、どうにもならないときだってある。

 たくさんの人たちに出会ってきたよ。大事なものを持ってたり、新しく見つけたり、みんなそれぞれだったな。僕はそれを見守る役目。
 僕のお父さんは仏道を大切に守ってて、人を助けるために化け狼の前に飛び出してった。
 僕に名前を付けてくれたお師匠さんは、死んでも好いたお人が諦めきれずに鬼になったんだ。
 僕が大切に思ってた人は、命が尽きるとき、ほかの誰かのことで頭がいっぱいで、僕のことにかかずらってる暇はなかった。一度も大事なものに選ばれたことはなかったよ。
 どんなに仲良くなって楽しい時間を過ごしても。みんなそうだったから……。
 きっとソウゲンちゃんも、最後は僕以外の誰かのことで頭いっぱいなまま、死んじゃうんじゃないかな。
 せっかくなら、好いた女の子とおててつないで、気持ちよく眠るみたいな終わりだといい。
 念仏祝詞オラショ、僕の知ってる祈り全部盛りで送ってあげよう。僕のことはソウゲンちゃんいつも守ってくれるから、彼の死に目には会えるでしょ。たぶんね。

 いった。なんで殴るの。暴力反対。ていうか、お坊さんは暴力ダメでしょ。
 ソウゲンを見くびるな、って?
 うーん。見くびってはいないと思うけど。

 僕は誰かに寄り添って、祈りで心を支えることはできる。
 でも祈りが必要になるのは、たいていもう命がない人か、それを見送る人か。
 生きて残された人は、後ろで祈りを捧げる僕の声が聞こえれば、仏さまはもう大丈夫って安心して、前を向いて歩いていける。
 たまたま行きあったお坊さんのことなんて、心が救われて祈りがいらなくなれば、みんな忘れてしまうけれど……。
 でも、それっていいことなんだよ。「人を助けた」ってことなんじゃないかなあと思う。

 「人を助ける善い子でいれば、お前もいつかは人に受け入れてもらえる」って、お父さんよく言ってた。
 わかるよ。新選組は、最初は京の町の人たちに怖がられてたけど、困ってる人を助けていくうちに、少しずつみんな信じてくれて、頼ってくれて、好きになってくれている。
 ソウゲンちゃんだって、最初は大きい体と仏さまを開くのが大好きなところ、けっこう怖がられてたけど、人一倍まじめに働いて、病人や怪我人が出れば分け隔てなく診てあげてた姿を見て、今はみんなが信頼してる。
 僕が誰かのためにできることって、祈りを捧げるくらい。必要としてくれてる魂のために、念仏祝詞オラショを唱えるよ。
 僕を受け入れてくれた人たちが、死んでから迷うのは嫌だからね。

 ソウゲンちゃんに添い遂げる気はないのか、って話だけど。
 わかんないな。雑面ノ鬼がいなくなって、新選組の斎藤一役がお役御免となったとして……。
 そのあと彼がどこかの娘さんに、きちんと恋をしちゃったら、僕はまた気分のままに流れていって、どこかで祈りを唱えているよ。
 誰にも何にも執着しないほうが、本当は楽なのにね。これ以上彼のこと好きになっちゃったら、よくないよ。

 ソウゲンちゃんが大切な女の子とめぐりあって恋をして、夫婦になって、彼によく似た頭のよさそうなかわいい子と並んで、幸せそうに笑う顔は見たいけど……。
 それを本当に見ちゃったら僕、お師匠さんみたいに鬼になっちゃうかもしんない。
 それがいちばんいいあり方だと頭でわかってても、好いたお人がほかの人のものになるのは耐えられない。幸せを願っているのに、我欲に負けて想いは呪いになる。
 人間の心ってのは、ままならないよねえ。
 どんなに優しい人だって、恋破れれば誰かを恨んで鬼になるのよ。
 なんでうまくいかないんだろうねえ。

 そんじゃさよなら、こっちの世界の僕。お話できて楽しかったよ。
 ソウゲンちゃんと仲良くね。君たちが末永く幸せに暮らせるように祈ってるよ。

 ──……。

 おー。戻って来られたみたい。
 ギャタロウちゃん見て、井戸の蓋が開いてるよ。
 別の世界の自分と、なんの話してたのかって?
 そりゃ恋バナだよ。別の世界の自分と会えたら、することそれしかなくない?

 よいしょっと。やっほー、みんな。ギャタロウちゃん連れて帰ってきたよ。
 井戸の底でギャタちゃんの声真似してた何かとは、遭わなかったかって?
 見てないな。やっぱり狸のイタズラとかじゃないの。気になるなら、あとで塩でもまいとく?

 あっソウゲンちゃん。
 電話っての、すごいもんだねえ。あっちでもみんなが興味持ってくれて、話しあいが楽になったよ。
 別の世界の僕や君とお話しするの、とっても面白かったな。あとで話したいことたくさんあるんだ〜。

「あなたが無事に戻ってこられてよかった」

 お、おお?
 えっ、……ひぇ。ソウゲンちゃんに、好いた女の子みたいにギュッと抱きしめられちゃってる。
 いたた、力が強い。苦しいよソウゲンちゃん。
 僕が華奢な娘さんなら骨が折れちゃってるよ。もうちょっと優しく。力加減弱めでお願い。
 ……うん、そう。えへへ。いい感じ。
 このアザはどうしたかって?
 うふふ。あっちの僕に、ソウゲンちゃんのこと大事にしろって叱られちゃったんだ。
 いろいろ心配してくれちゃってさ、あっちの僕もソウゲンちゃんも優しいよねえ。君から抱きしめてもらえたこと、今から報告しにいきたいくらい。えへへ。




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