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壬生怪談・百物語




〇三四・花嫁(ギャタロウ)


 また数日、じめついた雨が続くねえ。逆に呑めるわ。
 八木邸の庭のいい感じの苔でも眺めながら、たけのこ料理を食べ比べってのも乙なもんよ。
 今日はたけのこ尽くしだな。へぇ、そっちは長岡京のほうに行ってたんかよ。この辺りはどこへ行っても名物があっていいねぇ。
 オイラは田楽が好みだな。木の芽和えもうまかったが。
 ところで夜も更けてきたが、坊主はお医者先生と、雨の夜の共寝はいいのかい。

「ソウゲンちゃん、仕事に区切りがついたら迎えに来てくれるよ」

「夢見が悪いのはもう大丈夫みたいなんだけど、僕が懐に入ってぬくぬくするの好きだから、今もいっしょに寝てるの」

 カーッ、幸せそうなふやけた顔しやがってよう。アテられちゃ、逆にたまったもんじゃねえや。
 そうだ、坊主に言ってやらねぇといけねぇことがある。
 おめえさんは宴会で、けっこう体張って芸をやる。変顔した時ゃ、「斎藤さんそっくりの顔が、あのような惨事に」と、藤堂の旦那が複雑そうな顔して嘆いてたろう。
 逆に、あれはよくねぇ。見世物小屋の出し物みてぇに服脱いでいくやつ。
 最初は平隊士が二、三人でふざけてやってたら、酔ったやつらが飛び入りでどんどん増えて、おめえさんもいい具合に酒がまわって服脱ぎだして。
 ただなぁ。坊主は見目ばかりはかわいいもんだし、ひょろいのがガタイのいいのに囲まれると、なおさら娘っこみてぇに見えちまう。だから、変な雰囲気になってきちまった。
 オイラが「いよっ、お多福。附子の花でも嫁にもらったほうがマシだい」と、水を差してやったから、あちこちから微妙な笑いが出て済んだが。
 ごろつきの寄せ集めのなかに、女みたいな顔のなよなよしたのを裸で放り込んだら、下手すりゃその場でまわされてたぜぇ。
 若いもんのちんちんは恐れ知らずよ。甘く見るんじゃねぇ。よく今まで無事だったな。

 で、お開きになったあと。オイラはそのへんで雑魚寝してた。
 そのころにはおめえさんは、明日の任務に響くってんで、お医者先生が回収していったんだっけ。
 おめえさんの隙だらけの危なっかしいとこ、オイラでもヒヤリとするときがある。良人ともなっちゃ、さらに目ざとくなるもんだろう。
 いつも涼しい顔してらっしゃるが、案外気が気でねえのかもよ。

 すると、夢を見た。
 敷いたふとんの上に女がいる。
 夢のなかのオイラは、そいつが妻だっちゅーことになってるってわかってんだ。
 白い着物を着た女だ。首から上は、ちょうど頭ほどの大きさの花よ。
 紫色の花びらで、てっぺんが烏帽子かぶったように妙に盛り上がった形をしてる。
 附子の花だった。
 人間なら口のある場所あたりで、おしべがもじゃもじゃとうごめいてやがる。
 口をきくと、そこから音が出る。

「口を吸えますか」

 抑揚のない冷たい声で、夢の中の女房が言った。いや、音になってなかったかもしんねぇ。
 ともかく、ぞくっと体が震えて、オイラは「いや……」とか「うーん」とか「逆に……」とか、煮え切らない返事をする。
 附子の花を口で吸っちまったら、オイラはお陀仏よ。
 するとまた女房が聞いてくる。

「口を吸えますか」

 勘弁してくれ、と思いながら、オイラは女と向き合ってる。女房は許しちゃくれず、何度も同じ質問を繰り返す。
 ふいに体がビクッとなって、窓の外から朝の光が射し込んできてるのに気づいた。ありゃ夢だったんだ、とほっとしたが……。
 窓の外に、ちょうどお医者先生の薬草畑が見えてよ。まだつぼみがふくらんできたばかりのおぼこの附子が、朝露に濡れて光ってやがる。
 オイラが昨晩言った、「附子の花でも嫁にもらったほうがマシだい」って言葉に、怒り心頭、おめえなんかこっちから願い下げだ、ってなもんで、怒ってやがったんだなぁ。
 悪かったって。逆の逆に。

 吸うと死ぬ毒だと知っても、口を吸いたいと思うようなお姉ちゃんがいたら、一度会ってみたいもんだねぇ。
 「さぁねぇと言いたいところだけど、そこは望むところだよ」だって?
 ギャハ、言うねえ。
 「ソウゲンちゃんなら、すぐに解毒の薬をくれると思うし」と。たしかに。




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