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壬生怪談・百物語




〇三八・五重塔(ボウ)


 祇園を見廻りするときは、八坂の塔を目印にすれば迷わないって、ギャタ兄言った。
 そしたらオデ、ほんとに迷子にならなくなった。ギャタ兄は賢いマァ。

 京の建物は背が低いから、どこにいても五階建ての八坂の塔がよく見える。
 どうしてほかの人は、お家を高く建てないのかな。
 へえー。三階以上の建物は建てちゃダメって、幕府が命令したから。
 でも、オデ、見廻りのときにたまに三階建てを見かけるよ。
 幕府の命令聞かない人が、ちらほら出てきたから……お上が息切れしてきちゃって、住んでる人たちにうまく命令を聞かせられなくなってきたから。へえー。ギャタ兄はなんでもわかるんだね。
 今は自分たち新選組のお侍様は、京の治安を守って人気アゲアゲの毎日だが、お上がこの調子じゃ、そのうち雲行きも怪しくなるかもしんねぇなあ、って?
 じゃあオデたち、もっとみんなの役に立って、信じてもらえるように頑張らなきゃ。
 オデはいつでものんきだ、って? そうなのかな。
 そこがいいとこでもあるって? えへへ。褒められた。

 五階もある高い建物、なんで建てようと思ったのかな。
 地震がくれば、すぐに倒れちゃう。ギャタ兄は知ってる?
 へえ、あれって、お釈迦様のお墓なんだね。一階から上に向かって、それぞれ地水火風に空に見立てて、あの塔ひとつで宇宙を表してるんだ。なんだかスズランが教えてくれそうな感じだね。
 坊主に聞いたんだよって? そっかギャタ兄、オデが先に寝ちゃったときは、スズランと呑んでるもんね。オマ、夜更かしできない。
 スズランは眠くならないのかなあ。へえ、夜のほうが元気なの。真夜中になると、目が夜道で出会った狐みたいにピカピカ光るから、案外本当に狐が化けてるのかもしれない、って?
 もしスズランがほんとに狐なら、オデぎゅーっと抱っこして、おなかをふかふかさせてほしいなぁ。お山の獣は、みんなオデの体が大きいの怖がって逃げて、抱っこさせてくんなかったマァ。

 五重塔の下の四つの階はオマたちの住む世界で、てっぺんは神様たちがいるお空。
 じゃああの人も、神様だったんだねえ。
 オデが見廻りしてるとき、迷子になりそうになったら、目印の八坂の塔を見上げてたんだ。
 そしたらてっぺんに人がいて、楽しそうにピョンピョン飛び跳ねてた。踊ってる。いつもだよ。
 ギャタ兄、お寺の人に呼ばれて塔の上のほう見に行ってたんでしょ。どうだった?
 仏様がいた。そっか。
 塔の五階の屋根裏から、干からびてぺちゃんこになった死体が見つかったんだ。
 あの仏さんは、お空の居心地が快適で、嬉しくなって飛び跳ねてたのかもしんねぇ、って。そっか。
 年も身元もわからなくて、平隊士が調べてるところ……えっ、男の人だったんだ。
 オデが見たのは女の人だったよ。屋根の上で踊ってた人。
 屋根裏にある男の人の死体のちょうど上で、ぴょんぴょん飛び跳ねてたんだマァ。
 男の人のことをぺちゃんこにしたの、あの女の人だったのかな。
 とっても楽しそうで、嬉しそうだったよ。




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