……(目次にかえる


壬生怪談・百物語




〇四二・偽神・三(スズラン)


 あーあ、狒々くん退治されちゃったねぇ。南無釈迦牟尼仏。
 自業自得が九割だけどさぁ。やっぱ女の子の扱い最低だったよ君。
 生まれ変わったら善い人間に生まれてくるんだよ。

 嫌だ嫌だ、人間がいい、だっけ。狒々くん。
 頭ではわかっちゃいたけど、いざ現実突きつけられちゃうと辛いもんだねぇ。
 人は人と、獣は獣と。男同士以前に獣と人じゃ、つがいになんてなれっこない。

 神さまみたいなソウゲンちゃんも、僕が四つ足の毛むくじゃらだと知ったら、狒々くんを拒んだお姫様やアキラちゃんみたいに、いやらしい目で見られて気持ち悪いとか、生理的に受け付けないって感じちゃうのかしら。
 同じ人間だと思ってたから恋仲になったけど、狐に化かされてたとなれば話は違う、やっぱぜんぶナシ、お付きあい云々はなかったことに、じゃあサヨナラって具合で……。
 まあ、ふつうはそうなるよね。ははは……。はぁ……。

 やっぱこの世は不平等だよねえ。
 ソウゲンちゃんのことずっと見ていたいし、もっともっとたくさんお喋りしたいのに、彼と同じ生き物に生まれてこらんなかったってだけで、大好きなお人に添い遂げることできないんだよね。くわ……。
 せめて何度も命を助けてくれた恩人に、ありがとうって返せたらいいんだけど、ソウゲンちゃんってひとりでなんでもできちゃう。
 つくづく恩返しの難しいお方。そこが素敵なんだけど。

 それにしても、伝承にあった人食いの大狒々は、ずっと昔に退治されて死んでるはずなのに、どうして今になってまた神社に現れるようになったのかしら。
 うーん。ご子孫の方、とか。血を受け継いだ獣が、伝承をなぞっているのかな。
 僕もお父さんの、微妙にパッとしない白蔵主伝承を聞いて育って、こうして今お坊さんしてるわけだしねえ。家業、的な。
 この狒々くんは、僕と同じ紫の毛色をしてる。僕と同じで人の言葉を喋る。僕と同じで人のことを好きになった……最悪な口説き方はともかく。
 似てるかも。きみが仏さまになる前に話が聞けたら、最近のお山に起こってる異変について、何かわかったかもなのに。
 ちょっと生き返らない? 無理か。死んでるし。当たり前だよね。

 あら? こんな時間に大名行列。生きてる人か死んでる人かわかりゃしない。
 どうも生きてるっぽい?
 お偉いさんかしら。女の子と遊ぶお店もないのに、変わってるわね。
 なにか、唇が動いたのが見えた。

 ──あれがほしい?

 えっ。なになに。誰きみら。
 僕、あやしい人間じゃないんですけど。
 いやあやしい人間か。夜中に女装して川べりで念仏唱えてる男。
 大きな首無しの狒々を埋めてるのも、暗いところじゃ人間を埋めてるように見えるかもだし、あ、ダメだわ。言い訳できない。

 むぐっ。口に布をかぶされて……。
 これ知ってる、ソウゲンちゃんの使うお薬の匂いだ。
 麻酔薬の匂い。
 えっ。僕もしかして、眠らされてこのまま攫われちゃう?
 助け呼ばなきゃ。あ、だめ、意識が。
 おち

 …………………………。




前の話にもどる ・ 次の話にすすむ ・ 目次にかえる

この小説は二次創作物であり、版権元様とは一切関係がありません。無断転載・引用はご容赦下さい。
−「壬生怪談・百物語…
紫鈴堂・えしゅ 2023」−