あーあ、狒々くん退治されちゃったねぇ。南無釈迦牟尼仏。
自業自得が九割だけどさぁ。やっぱ女の子の扱い最低だったよ君。
生まれ変わったら善い人間に生まれてくるんだよ。
嫌だ嫌だ、人間がいい、だっけ。狒々くん。
頭ではわかっちゃいたけど、いざ現実突きつけられちゃうと辛いもんだねぇ。
人は人と、獣は獣と。男同士以前に獣と人じゃ、つがいになんてなれっこない。
神さまみたいなソウゲンちゃんも、僕が四つ足の毛むくじゃらだと知ったら、狒々くんを拒んだお姫様やアキラちゃんみたいに、いやらしい目で見られて気持ち悪いとか、生理的に受け付けないって感じちゃうのかしら。
同じ人間だと思ってたから恋仲になったけど、狐に化かされてたとなれば話は違う、やっぱぜんぶナシ、お付きあい云々はなかったことに、じゃあサヨナラって具合で……。
まあ、ふつうはそうなるよね。ははは……。はぁ……。
やっぱこの世は不平等だよねえ。
ソウゲンちゃんのことずっと見ていたいし、もっともっとたくさんお喋りしたいのに、彼と同じ生き物に生まれてこらんなかったってだけで、大好きなお人に添い遂げることできないんだよね。くわ……。
せめて何度も命を助けてくれた恩人に、ありがとうって返せたらいいんだけど、ソウゲンちゃんってひとりでなんでもできちゃう。
つくづく恩返しの難しいお方。そこが素敵なんだけど。
それにしても、伝承にあった人食いの大狒々は、ずっと昔に退治されて死んでるはずなのに、どうして今になってまた神社に現れるようになったのかしら。
うーん。ご子孫の方、とか。血を受け継いだ獣が、伝承をなぞっているのかな。
僕もお父さんの、微妙にパッとしない白蔵主伝承を聞いて育って、こうして今お坊さんしてるわけだしねえ。家業、的な。
この狒々くんは、僕と同じ紫の毛色をしてる。僕と同じで人の言葉を喋る。僕と同じで人のことを好きになった……最悪な口説き方はともかく。
似てるかも。きみが仏さまになる前に話が聞けたら、最近のお山に起こってる異変について、何かわかったかもなのに。
ちょっと生き返らない? 無理か。死んでるし。当たり前だよね。
あら? こんな時間に大名行列。生きてる人か死んでる人かわかりゃしない。
どうも生きてるっぽい?
お偉いさんかしら。女の子と遊ぶお店もないのに、変わってるわね。
なにか、唇が動いたのが見えた。
──あれがほしい?
えっ。なになに。誰きみら。
僕、あやしい人間じゃないんですけど。
いやあやしい人間か。夜中に女装して川べりで念仏唱えてる男。
大きな首無しの狒々を埋めてるのも、暗いところじゃ人間を埋めてるように見えるかもだし、あ、ダメだわ。言い訳できない。
むぐっ。口に布をかぶされて……。
これ知ってる、ソウゲンちゃんの使うお薬の匂いだ。
麻酔薬の匂い。
えっ。僕もしかして、眠らされてこのまま攫われちゃう?
助け呼ばなきゃ。あ、だめ、意識が。
おち
…………………………。