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壬生怪談・百物語




〇五一・雛鳥(一番星)


 なあ藤堂。俺、話がとっちらかるってよく言われるんだけど。
 さっきもアキラに言われた。藤堂もそう思う?
 そう思うかー。
 いやさ話ってのは、とっちらかるもんじゃね? 眉間にシワよせてしかめ面して、サクヤみてぇな四角四面の物言いじゃ、まともな井戸端会議なんてできやしねーって。
 近所のフサさんも同じこと言ってたし。そう、こういう調子よ。

 うんうん、なになに、ご婦人がたの話の進め方のなめらかさは、目を見張るものがあるので、参考にしたくもあり、したくないでもあり。
 うーん。俺ぁ、藤堂の話の進め方がギクシャクすんのは、仏頂面と怒鳴り声とゲンコツのせいだと思うぞ。そのまんまだといつかサクヤみてーになっちまうから、気をつけろな。
 あ、藤堂のが年上だっけ。いや、ちっちゃいって、あてこすったわけじゃなくて。
 若見えするって言ったら、おばちゃんたちは声三段階ぐらい高くなって喜ぶのに、男と女の感じ方の違いって謎だなぁ。

 そうそう、前にボウがさー。
 うん、ボウだよ、うちの。「貴様の話にさも知己のように出てくる、面識のない人間の数が多すぎて、うちの者の話だと気づくのに逆に時間がかかる」? あはは、面白いこというのな。
 ボウが、勝手口の脇でピーピー鳴いてる鳥のヒナを見つけたんだと。
 おおかた木の上から落っこちてきたんだろうって見上げてみたが、巣も親鳥の姿もねぇ。 
 じゃあこのヒナは、どっかにある巣を抜け出してヨチヨチ歩いてるうちに、迷子になっちまったんじゃねえか。生まれたばっかりのヒナの足だもんで、そう遠くから来たんじゃなさそうだが……。
 あちこち探してみたものの、けっきょく巣は見つからなくて、ボウのやつ、ヒナ鳥の面倒見ることに決めた。
 ボウは食う専門だから、ヒナの育て方なんか知らねー。そんで、俺んとこに来てさ。
 相方のギャタロウのところには、行かなかったのかって?
 俺もそう思ったけど、ギャタロウのやつが「焼き鳥にして食っちまおうぜ」って言い出すんじゃないかって、ボウは心配したらしい。相方のカンってやつ?
 しっかし、食いしん坊のボウに「ギャタ兄、食いしん坊だから」って言われてんの、ギャタロウ本人が聞いたらさ、どんな顔しただろな。

 食いしん坊といや、藤堂って甘いの平気だっけ。
 あ? なに慌ててるんだよ。いいだろべつに、一人前の侍の男が甘いのを好きでも。
 いやさ、マサさんの手伝いをしてたんだよ。八木さんとこの嫁さんな。マサさん。
 甘いもんの差し入れしてくれるっていうから、ちょうど手のあいてた奴らで。
 俺たちこうしてまとめて世話になってる身なわけだし。俺とアキラと、平隊士が何人かいたっけな。

 御所のそばに、甘いもんの店を出してる与平っつぁんいるだろ。知らねーって? そか。その与平っつぁんの作る「調布」ってふにゃふにゃした菓子があって、これが美味くてさー。
 カスだっけ、クズだっけ、スズランが好きなやつ……そう、カステイラの生地だ。それを薄くのばして焼いて、求肥をクルリとくるんであんの。
 じゃあ、いっちょ真似て作ってみるかってんで、いっぱいできたんだよ。
 いくつか破れたり、焼くとき焦げちゃったやつが出てさ、見た目はまずいけど味は変わんないし、もったいないから部屋に来たやつに出してんだけど、藤堂食う? 大体アキラの作ったやつだけど。
 優しくくるむってのが、難しいんだよな。求肥ってトリモチみたいにネバネバしてっから、かすていらの皮やら手やらに、べちょーっとくっついちまう。
 最後のほうはみんなコツがつかめてきて、きれいなもんだったけどさ。飯を作るのと、お菓子を作るのは、また違う流派って感じがする。うん。

 おっ、そのいちばん不細工なやつ。取ってくれんの藤堂。
 それ、アキラが最初のほうに作ったやつだ。それでもまだマシなほう。ソウゲンの爆弾でぶっとばされたみてぇな面白い形になっちゃったやつは、アキラが自分で食っちゃったから。
 今さっき庭で素振りしてたろ。食いすぎたんを、気にしてんだよ。
 いっぱい食ってなにが悪いんだよ、なあ。
 どう、藤堂。うまいって? そりゃそうだよな、味はみんな変わんなくて、うまいんだよ。
 誰も食ってくれねえだろうから横に置いとけって、けっこう気にしてたからさ、アキラ。あいつ、藤堂に食ってもらえてよかったなあ。

 なんの話だっけ。そうそう、ヒナ。鳥のヒナの話。
 ボウが、面倒見たいけどどうすりゃいいんだって、俺んとこに聞きに来たんだけど、俺だってわかんねえよ。鳥のヒナとか育てたことねぇし。
 そもそも、なんて名前の鳥かわかんねえ。じゃあ何食うんだって話だよな。
 この辺はハトがけっこういるけど、ハトじゃねえ。ヒナだが、もうスズメよりでかい。ふくろうか。鷹か。なんか肉食う顔してんだよな。クチバシが、こうキュッとトンガってるってか。脚もやたらしっかりしてる。
 ぱかっと口開けっ放しで、目がまんまるくて、まだなんにもわかってねぇ間抜け顔して、それに胸毛ふわふわでさあ。
 かわいい、ってボウがうれしそうに言うもんだから、俺もなんとかしてやりてぇって思ったんだ。

 するとそこに、物知りふたり組が通りかかった。ソウゲンとスズランだ。
 ソウゲンがヒナを一目見るなり、これはハヤブサなのです、って教えてくれた。
 俺とボウが、さすがお医者さんは物知りだなって感心してたらよ、隣でスズランが変な顔して首かしげてる。すぐに「何でもない」って言ってごまかしてたけど。
 スズランあいつ、いらんことはよくしゃべるのに、今それ言えよってこと言わねーときあんだろ。こまけぇこたぁいいか、みたいな感じでさ。いやよくねぇよ、って話も多いんだけど。

 ほら、あれ、この前。あのときの話、藤堂にしなかったっけ。
 うちの屯所の勝手口の前に、知らねぇ女が立ってるのを、何人かの隊士が見たって報告が入ってた。
 話聞いてからしばらくして、俺も見たんだよ。宴会がお開きになったあと、小便しに行った帰りだったっけ。
 こんな夜中に知らねえ女が屯所にいるわけねえだろ、って二度見したらもう消えてる。さては幽霊だな、坊主が念仏でも唱えてやれば、成仏しねえかってことで、スズランに声かけてみたが。
 あいつはまた、いつもみたいに面倒がって、のらくらかわして動かない。
 そのうち気が済むでしょ、とか言ってたっけな。

 で、急に女の幽霊を見なくなった。
 女幽霊が消えた前の晩にさ、もうみんな酒飲んで寝てたからだいぶ遅くだな、水飲みにいくときに俺、スズランが勝手口の横に座って、誰もいない壁に向かってコショコショ内緒話みたいのしてんの見たんだよ。念仏でも祝詞でもなかったな、あれは。
 女幽霊の悩みでも聞いてやってたのかもしんね。
 朝になって、昨日の晩なにやってたんだって聞いても、のらくらフラフラしながら、「知らなーい」って言う。
 あいつが何やってんのか、俺全然わかんないんだけど、相方のソウゲンには、そういう話もしてんのかな。
 いや、付き合ってるやつらって、色っぽい話とかするもんなんじゃねえのか。よくわかんねーけど、あいつらならヒソヒソと色っぽく不気味な怪談話してても、ないとは言えないっていうか。
 あのふたりのヒソヒソ会話、俺たまに横で聞くときあるけどさ、何言ってるのか全然わかんねーもん。どっちも頭がいいんだよな。スズランのほうは、頭よさそうに見えないんだけどな。うさんくささが先にくるっていうか。

 そんなで、ボウがヒナを育ててたんだよ。
 ハヤブサって、昔から鷹狩のときに使ったりする鳥だっていうじゃん。兎とか、狐とか捕まえてこさせるやつ。
 あのヒナ、遊びでスズランの毛をむしるのが好きでさあ。紫色の頭に飛びかかってって、トガったクチバシでツンツンやんの。
 鷹狩の才能のある、将来有望なやつだったんだよ。スズランは頭にまるいハゲができて、ソウゲンに治してくれって泣きついてたけど。

 観察してたソウゲンがいうには、どうもスズランがクソつまんねー駄洒落をいうと、襲い掛かっていく。ドスベリクソ駄洒落を聞かされたときに、血の気が引いた周りの奴ら見て、それがよからぬ攻撃だと思ったらしい、ってよ。
 俺らのこと守ろうとしてくれたんだな。なんだかくすぐったくなっちまうじゃねーか。
 こりゃ一安心だと俺たちみんな思ったが、スズランは「これじゃ面白いことを言って、みんなを楽しませてあげられない」って本気でしょげててさ。どっからきたその自信。
 こいつマジかよって、思わず二度見したわ俺。ソウゲンもしてたわ。あのふたりって付き合ってるんだよな。うん。よくわかんね。

 そんなこんなでスクスク育ってたハヤブサのヒナが、ある日いなくなった。
 どこ探してもいねえ。飛べるようになってひとり立ちしたのか、それとも誰かにつかまって焼き鳥に……。
 と、親がわりのボウのやつ、心配しすぎてしおれちまって、食欲もなく……なるわけないよな、いつもより食べる量多かったくらいだ。
 心配事があると、むしろ食欲が増すんだ、あいつって。

 いや、心配はいらねーよ。あのヒナ、いやもうヒナじゃねーけどさ、見つかったから。
 何人かで見廻りしてるときだったなあ。
 ウチの近所に神社があるだろ。そこの境内のご神木にとまってるのを見かけたんだよ。
 あいつ全身の羽が不思議な色に光ってて、俺がまぶしくて目を閉じたらもういなくてさ。そう、女幽霊みたいにフッと消えちまった。
 そうそう、神社の名前だが、「隼神社」ってんだ。隼大神てえ、ハヤブサの神さんを祀るところだってよ。
 あいつ、神さんだったんじゃねーかなあ。どうりでいつでも誇らしそうに、そっくりかえってたわけだ。

 ふつうのハヤブサじゃなかったもんで、だからスズランがヒナ見たときに、なんか一瞬微妙な顔してたのかもな。
 迷子のヒナを神社に届けてやらなかったのは、ちょうど夏越の祓だ茅の輪だ蘇民将来だと、忙しくバタバタしてる時期だから、気の優しいボウが預かってくれるってなら安心だと、親鳥の神さんと話つけてたのかもしんねー。
 スズランあいつは本当に、肝心なことをこそ言わねーんだ。

 神社といえば、そうそうこの前、神社の近くの用水路で人面魚を見たやつの話なんだけどさ。
 ん、なに藤堂。本当に貴様は話がとっちらかるな、って? だからそう言ってるじゃん。




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