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壬生怪談・百物語




〇五三・小豆(ボウ)


 あれっ。あれぇ。スズラン。お土産にくれたこのまんじゅう、どこのお店で買ってきたの。
 オデ、知ってる味だったから、びっくりしたオマ。
 あ、よくわかんないって顔してる……。ええっと、うーん。うまく説明できないんだけど。
 気になっちゃうから、お茶でも飲みながらお話ししてよ、って? うん、わかった。
 その前に、もうひとつおまんじゅうもらっていい? 好きな味マァ。

 モグモグ、まんじゅうおいしいねぇ。お茶もおいしい。
 最近、オデが市中見廻りしてるとき、変な事件あった。
 オデが任されてるあたりは、まんじゅうとか、お団子とか売ってる店が多い。いろんなお店のまんじゅうを、歩きながら食べるの楽しみにしてるんだ。

 いつからかな。お店の人、困った顔してることが多くなった。
 よくわかんないけど、そういう日は、お店で売ってるまんじゅうがいつもよりおいしい。
 オマ、おいしいまんじゅう作るのを、頑張りすぎて疲れちゃったのかなって思ってた。でも、そうじゃなかったみたい。

 このごろオデたち新選組、京の町の人に、頼ってもらえること多くなった。困ったことがあったら、声をかけて相談してくれるときもある。
 オデ、人にそんなこと、今までされたことなかったから、最初はどきどきしたんだよ。うまく役に立てるかなあって心配だったけど、そのあとでみんながオデにありがとうって言って喜んでくれる顔見たら、オデもうれしくなっちゃったから、なんでも頑張れるんだ。

 うちのと違うんだ、っていう。

 朝、お店で売るまんじゅうを作るために仕込んでたあんこが、いつの間にか自分で作った味じゃなくなってる、っていうオマ。
 ひとつのお店だけじゃないよ。日によって違うお店で、同じこと起こった。

 妖怪小豆洗いが、つむじ風みたいにお店に現れて、自分がといだ小豆をたいたのを、お店のあんこと取り替えてった……。
 そんな噂、されるようになった。
 でもね、お客さんが気味悪がって近づかなくなった……とかじゃなくて。
 逆だったオマ。そういうことがあったお店のまんじゅうは、いつもよりおいしいって評判になった。

 得体のしれないあんこをお客さんには出せないって、お店の人は店を閉めちゃったんだけど。
 お客さんのひとりが、「今日はどうしたの」って声かけをして、「実は……」ってお店の人が相談すると、お客さんは怖いもの見たさで、「それなら」ってひょいっと食べちゃった。
 すると、すーーっごくおいしい。ほっぺたが落っこちそうだったオマ。オデもお店の人に相談されたときに食べたことあるから、本当だよ。
 毒じゃないみたいだし、そんなにおいしいんならって、ほかの人も恐る恐る食べてみた。みんなでおいしい、おいしいって言い始めて……。

 その噂が広まって、あの「替え玉のあんこ」じゃなきゃやだっていう人も出てきはじめた。
 朝になって急に閉めてるお店の前には、人が行列になる。替え玉あんこを出せ出せって、大声あげて戸を叩く。
 町のみんな、今日はどこどこのお店に「替え玉のあんこ」がでたらしいって聞くと、そのお店に押し寄せるようになった。
 今日は誰の店にでたかっていう話が、みんなの間で売り買いされるようにまでなったオマ。
 
 出所のわからないあやしいあんこのほうが、自分がまじめに作ったあんこよりおいしいって言われ続けて、お店の人たち、しょんぼり落ちこんじゃって……。
 とうとう、休む店も出てきちゃった。
 このままどんどん閉めちゃうところが増えちゃったら、大変だよ。おいしいまんじゅうが、町から消えちゃうオマ。
 オデそう思って藤堂に相談したら、藤堂、「それはけしからん」って怒り出した。
 たまたまいっしょにいたアキラも、「それは聞き捨てならん」って言って、犯人捜しを手伝ってくれたオマ。

「あそこの筋のまんじゅう屋が潰れてはかなわん。夏になると、うまいあんみつを出すようになるのだ。地図に被害にあった店の印をつけてみたが、どうやら犯行に規則性がある。目星をつけて張りこむか」

「拙者の行きつけの店も、もう何日も閉めたままなのだ。目にもとまらぬ早業だというから、本当に妖怪ではないかと疑いたくなるが、退路を経ち、罠を仕掛けるのはアリなのではないか。身のこなしの素早い者でも、気取らずかかるような斬新な仕掛けが、何かないものか……」

「今、呼ばれた気がしたのですが」

「ソウゲン」

「なんか来た」

 ……とか、オデはよくわかんないこと、藤堂とアキラが難しい話してた。あとソウゲンが、呼ばれてないけどふらっとやって来て、ふたりのたてた作戦のお手伝いしてたマァ。

 そんでつかまえたよ。犯人。すぐだった。
 お店のあずきが入った鍋に手をかけると、スズランの錫杖から出るみたいなビリビリが流れる罠にかかって、黒焦げになってた。
 小豆洗いじゃないかっていわれてたけど、ふつうのお爺さんに見えたよ。
 でも、どうやってお店の人に気づかれずに桶をすりかえたのかは、結局わかんなかった。若いころに泥棒でもやってたのかな。

 なんでも、あんこ作るのは自信があるけど、ひとりでお店を出す勇気が出なくて、ほかのお店に忍びこんであんこを取り替えれば、自分のあんこをお客さんが食べてくれるだろうって考えたらしいんだけど……。
 うん、スズラン、そんな顔するのわかるよ。オデも、ぜんぜん意味わかんないって思ったから。藤堂とアキラも呆れてた。

 すると犯人のお爺さん、これだけ町中で評判になっているのだから、自分のあんこはどこの店よりもおいしいということだ、むしろ自分はほかの店を助けてやったって、居直っちゃって……。

 オデ、聞いてるうちになんだか、むかーっときちゃった。
 おいしいあんこを作れる人はすごいけど、そのせいでほかのお店の人は迷惑してて、店を締めちゃう人まで出た。
 自分が誰かを困らせたのに、「ごめんなさい」ってしない。困ってる人のほうが悪いって言う。
 思わずオデ、お爺さんのこと、ギュッとしてブワッと持ち上げて、ドーンってした。
 「あ、首の骨折れるやつね」……さすがに死んじゃうから、首の骨は折らないマァ。

 お爺さんは「もう替え玉あんこはコリゴリだ」って叫んで、とつぜんフッと姿が消えちゃった。
 身のこなしが軽いから、オデたちの隙をついて逃げたのかもしんない。
 でも見てたオデには、ほんとうに急にいなくなっちゃったように見えたし……。手足を縛られて藤堂とアキラに挟まれてるところから、煙みたいに消えて逃げちゃうなんて、サクヤでもちょっと難しいかも。
 だから、やっぱり本当に妖怪小豆洗いだったのかもしれないオマ。

 新選組が犯人をこらしめたから、もうあんこが替え玉にされちゃうことはないって知らせたら、お店の人たち喜んでくれたマァ。
 閉めてたお店も再開するって。あの替え玉あんこより、おいしいあんこを作るって意気ごんでたから、オデも藤堂もアキラも一安心だよ。

 犯人のお爺さんは、とってもおいしいあんこを作れるんだから、ちゃんと反省して心を入れ替えて、どこかで自分の店を開いたらいいのになって、オデ思ってた。
 だからスズランのお土産のおまんじゅうのこの味、食べて嬉しかった。
 あのお爺さん、替え玉のあんこをやめて、勇気を出してお店を持ったんだね。よかったマァ。

 へえ、いつもじゃないけど夜に店を出してるときがあって、運が良ければ会えるんだね。
 なんだか、前にギャタ兄とスズランが引いてた屋台みたいだね。
 どのあたりだった?
 あわわの辻。昔、大内裏の裏鬼門があったあたり……。ふーん……? 夜中にそぞろ歩く行列が、ちょっと疲れて甘いもの欲しくなったあたりで通りかかる、絶妙な位置に店をかまえてる、って。
 よくわかんないけど、お店は繁盛してるんだね。よかったオマ。

 あのお爺さん、小豆洗いかどうかはわからないけど、やっぱりなにかの妖怪とかだったんじゃないかなって、オデ思う。
 でも、おいしいまんじゅう作れるなら、なんでもいいマァ。これからがんばってほしいな。
 オデ、応援してるよ。




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