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壬生怪談・百物語




〇六一・銭湯・三(藤堂)


 サクヤ。手を止めろ。なにか気配がせぬか。
 今、この湯屋には私とお主のふたりきりのはずなのだが、誰かに見られているような気がする。

 湯気のたつ空間。そちらに気を向けると、あやしい気配は掻き消える。
 なに? 誰かに見られているのなら、逆に見せつけてやればいい?
 そんな春本みたいな言葉を、どこで覚えてきた。
 スズランの持っている春本に書いてあったと。あの生臭坊主、本当そういうところ……。
 もしかしてそういうのを、ふたりで貸し借りしとるのか? 逆に仲良しか。
 黙って勝手に借りてきた? 持ち主にバレてはおらぬが、お気に入りの春本をなくしたと思って、意気消沈しておったと。
 それはいかんだろう。借りるなら、せめて一言言ってからにしろ。
 畜生が人間のまぐわう絵を見て、どのあたりで興奮するものなのか、私にはよくわからんが、物欲のないあやつが珍しく大事にしておるのだ。
 読むなとは言わぬのだな、と。
 まあ、仕事サボって春本読んでおるようなら、拳骨を落としているが。
 いまこうしてお主とまぐわっておきながら、風紀の乱れ云々を説けるほど、厚顔無恥な男ではない。

 それにしても、お主もまったく酔狂な男よな。
 市中見廻りに出れば、若い娘たちがこぞって黄色い声を上げるので気に食わんと、一番星が血の涙を流しながら手拭いを噛みしめていたのを思い出した。
 あやつは、スズランのように特別女人に興味がある、という感じにも見えんが……。
 自分を蚊帳の外において、サクヤだけがちやほやされているのが許せんのだな。難しい年頃だ。
 そんなお主が、このような体の欠けた男が良いと言って抱く。町の娘たちが知れば卒倒するぞ。

 お主の膝の上に座れと? たしかに、そちらのほうが安定するが……。
 幼子のように扱われているようで、少々気恥ずかしい。
 は? 自分も幼子を抱いている気分? 藤堂は小さい体でよくがんばっている?
 義手に義足を脱衣所に置いてこなければ、貴様のドタマを木の棒でぶん殴っているわ。

 こ、こら。私の体のちぎれたところを、そのようにしげしげと見るな。
 左の手も足も、先がひきつれていて、醜いだろう。
 なんだ、医者が診察をするときのように撫でくりまわしたりして。
 ここもちゃんと洗っておく、と。う、うむ。それは助かるが。
 肉を縫いつけて、すぼまった傷跡を撫でられるのは、何やらゾワゾワとして奇妙な感じが……。
 ああ、痛みはない。というか、感覚が薄いはずなのだが、お主にこうして撫でられている感触は、不思議とあたたかく感じるのだ。
 たしかにマラが立ち上がってきた、と。い、言うでない、わざわざ……ひっ、サクヤ、こらっ。
 指先で私のマラを、ぞうきんでもつまむようにして持ち上げるでない。
 握りこめば、つぶしてしまいそうだから、と。うむむ、怒りたいところだが、急所は、さすがに、優しく扱ってもらえると助かる。
 お主の手は、意外と細かい動きがうまい。暗器を使うからか。わからんが……。

 肩に頭をもたせかけて、右手足でしがみついておけ、と……うむ。たしかにこうすれば、私の左半身を支えてくれるお主の負担が軽くなる。
 それに、向かいあった恰好で背に手をまわされていると、胸のなかに強く抱きしめられているようで……まあ、悪くはないな。

 ぬめり薬を唾で溶いて……湯水ではダメなのか?
 ふむ、あまり長持ちしないと。やはり唾液のほうが良いのだな。
 しかしサクヤお主、用意のいいことだ。どこかの店に買いに行ったのか。いちぶのりの使い方にも、なかなか詳しいようだが。
 えっ。医者が作ったものだと。
 ソウゲンが作ったぬめり薬は、乾きにくいと評判で、塗ったところが感じやすくなり、興奮が何倍にも増す……それは。大丈夫か。なにかおかしなものが入っておらんか?
 そも、評判とはどういうことだ。
 ふむ、以前、町の者が質の悪いぬめり薬を使って、肌や局部がかぶれたと相談しにきたときに、ソウゲンが人体に安全なものをと作ってやったのが、たいそう良い薬だと評判を呼んだ。
 ボウがあまりにも米を食うので、たびたび新選組の財政が危うくなることがある。その折に、小遣い程度になればと売り始めたら、これがバカ売れ。ひと財産になった。
 誠印のぬめり薬のおかげで、屯所の米問題は解決。ソウゲンも欲しがっていた懐中時計を手に入れてホクホク顔、と。
 私のあずかり知らぬところで、そんなことが。お主ら、本当に自由よな……。
 町の者の悩みを解決し、まっとうな商売で得た金子であるし、資金調達の助力には感謝するが、このことは容保公には絶対にバレぬようにな。
 は? もうバレてる? むしろまじめな藤堂が知るところになると、恐縮させてしまいそうなので、この話はここまで、羽目を外さなければ好きにして良いと……。
 き、気をつかわれてしまっている。容保公に。嘘だろう……。

 ……ん。こら、もたもたと尻の穴のまわりを指でもてあそぶでない。
 うう。ぬちゃぬちゃと、耳をふさぎたくなるような音。
 今夜の湯屋は貸し切りとはいえ、誰かが入って来るやもしれぬというのに。
 さきほど感じた不気味な視線も、たまたま入ってきた客のものではなかろうな。

 うー……。なに? 口を吸いたい、のか。
 良いが、うん、口腔も尻の穴もまとめていじられるのは、なかなかに刺激が強い……。
 藤堂は前も後ろも、どちらの穴も小さい、と。馬鹿者、その小さいというのを……。んっ……。あ、軽口を叩くくせに、お主の舌も、指も、壊れ物を触るようではないか。
 ふふ、サクヤ。私の尻に、お主のマラが硬くなったのが触れてくる。やはり大きいな。
 よくもこんなモノが腹の奥深くまで入るものだと、自分でも驚く。

 どうした。挿れぬのか。かまわん。
 入り口は、まだやわらかいだろう。前に、お主のを受け入れてから、そう時間が経ってはおらぬので……。
 んっ、すこし、体を預けるぞ。左の手足も、先は欠けたが、こうしてお主の首に、腰に、組みつくことくらいはできる……。
 はぁ、私の右手を、このように元気に硬くなっているお主のマラに添えて……んくっ。ほら、たやすくとはいかぬが……入っていくぞ。
 おっ、奥のほうは、前にお主の出した精で、まだ濡れているかもしれぬな。んんっ。
 ふぅ、ふぅ。こう、はめてしまったほうが、体が安定するな。すまないが、あとは任せていいか。……そう、お主の好きにしていい。

 んっ、私の体を抱え込んで……おッ! 奥まで、ゆっくり、入ってきおった……。
 お主も、根気強いことだ。私の欠けた体を開いて、マラの形を覚えさせるほどに、何度もこうして開いて、届かせて……。
 ふぐっ! おッ、おッ、動きっ、まだ緩やかだが、腹の奥に、ずんずん響く……ッ。
 おッ、ン、ン……キ、キツくはないか、と?
 かまわん、続けろ、んっ。この、揺さぶられる感じ……っ。ふ、ふうっ。
 ふぅ、気遣うなと言っても、聞かぬだろうが、わ、悪くは、ないぞ。
 ん、んッ! あ、あ、なにか、あっ、湯屋のなかでは、声を殺そうが、肉を打ち合わせる音に、ぬめり薬が泡立つ音……大きく響いて、す、すごい音が、しているな……。
 おッ! ひんんっ! そこ、さくっ、さくやっ。
 今突いたところ、もう一度……あ、あっあっ、そ、そこっ、あっ!
 あっ!
 あっ……!

 ──あぁ〜……っ!

 ……あ、あ、ふぅ、ふううう。
 ふぐぐぅ、私のマラが、サクヤの腹にグチグチとこすられるのが、たまらなく……さ、さきに、出してしまった。
 我ながら、堪え性のない、マラで……っ。情けない……。

 尻の穴がゆるんで、奥のほうでぐぽぐぽと、とんでもない音を立てている。
 はぁ、この……っ、人をこうまでしておいて、きさまは相変わらず涼しい顔だな。
 お主もイけっ、んっん、私の体は、自由にとはいかぬが、膝をついて尻を振るくらいはできる……っ。どうだ、サクヤ……おッ!?
 お、お主ッ。そんなに深くで、小刻みに出し入れされひゃらっ、ン、またイくっ……!
 ほんとう、ほんとうに、負けず嫌いな男、だ……っ。〜〜〜ッ!!
 はひっ、あ、あ、しゃくっ、イっへるっ! イっへるから突くの止まへっ、おっ、お〜〜っ!!
 ひぎゅ、またひぎゅう、ひっ、ひっ──。

 ──ああああぁ〜〜っ!!

 ──…………。

 ──……はぁ……。

 はぁ、ふう……。
 頭の中が……熱っぽく、白い……。
 意識が、なにやら定まらぬ……。幾度達したか……。サクヤがブツブツと呟いているので、それだけイッたのだろう。数を数えることが好きな男だな。
 あと、涼しい顔してけっこうガツガツくるな……。精を吐く間際の突き方が、とにかくエグい……。
 ようよう、私の腹の中で、達している……。
 こちらの体を支える腕に、力がこもるのが、なにやら胸に染み入るものがある。
 よくもまあ、この不格好な傷跡を見ながら、抱ける……。

 あたたかい。こんなにたくさん、出しおってからに……。
 前のまぐわいから、間はあいていないが、もしかしてあの時は、満足しておらんかったのか。
 たしかに、普段はこうして、ゆっくりとむつみあうことは難しい。夜の屯所は、酔っ払いどもが笑うわ歌うわ、クソみたいな駄洒落垂れ流すわで、大体いつでもうるさいしな……。

 ん、なんだ……?
 耳元で、ゴソゴソと囁くな。背筋がゾワゾワする……。
 体は、平気かと。あ、ああ。
 尻の穴が、開きっぱなしで、中からドロドロとお主の出したのが垂れてくるのが、なんとも言えん心地だが。痛みなどはない。問題ない……。

 はぁ……ん、どうした、サクヤ。虫でも見つけたか……。
 石鹸なんぞ持って、どこへ行く。
 ……サクヤ?
 なにかゴソゴソしているかと思えば、先ほどの曲者の気配が消えた。もう何も感じぬ……。
 なにをやったのだ?
 ふむ。爪の先ほどの小さな目玉が、岩盤の表面にフジツボのように、いくつもはりついていた、と。なんだそれは、気色の悪い覗き魔だな……。
 開いていた目に石鹸水を流しいれると、音もなく悶え苦しんで消えた?
 そうか……たいそう染みたのだろうな……。

 男同士のまぐわいなど覗いて、なにが面白いのやら知れぬ……。酔狂な物の怪もいたことだな。
 交わるところを見られていい気はしないが、消えたというなら、まあなんでもいいか。
 見せつけてやればいい、と?
 なんなのだ。サクヤお主、それ、ちょっと気に入ってしまっておらんか。

 そういえば今しがた、どこかから若い女人の叫び声が聞こえたような。
 もしかすると、お主に熱をあげている町の娘たちが、生霊でも飛ばしていたのかもしれぬな。
 ……などと、最近はこういう話が冗談にもならぬな。忘れてくれ。




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