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壬生屯所、八木邸。夜も更けたころ。 「こう暑い日が続くと、体がヘバっちゃうよねぇ。ギャタロウちゃん」 「おうよお。今日の昼間も、お医者先生のところへ担ぎこまれる平隊士が、けっこうな数いやギャったんだってなァ。若い組長どもは、軟弱者だの、鍛え方が足りねぇだのとピシャリとやるが、オイラはちょっとわかるわ。京の都の暑さ寒さは、よそから来た人間にゃめっぽうきつい。若けりゃナンボでも耐えられるギャ、歳いってくると骨身にしみて堪えるわ」 ギャタロウは、小さいがよく手入れされた庭の、灯篭のあたりでピカピカ光る蛍を眺めながら、鱧の湯引きを噛みしめる。 ──まじめに言うと、お寺によるんだよねぇ。 決して口にしない決まりの寺もあるし、自分で料理するのは殺生になるが、出先で人から出されたものには口をつけていいという寺もある。 ──肉を食することが生臭ってわけじゃないよって、お釈迦様も言ってたしねぇ。 ガリガリガリガリと骨をかじる口が、見れば耳まで裂けている。 そういえば先日、蒸し暑い夜にせめてもの涼をとろうとしてか、平隊士たちが怪談話をしていたな、と思い出す。 ──藤堂平助が、斎藤一の首を埋めていた。 そういう話であった。 キャッキャとはしゃぐ平隊士たちを尻目に、まあ怪談話やら噂ってやつはそんなもんだなあ、とギャタロウは考えながら通り過ぎた。 「平隊士といやぁよ……。八木サン家の世話になってるオイラたちはいいギャ、ほかの奴ら、ろくなもん食ってねぇだろな。もしかすっと逆に、白いおまんまのおにぎりを炊き出しやってるうちのガキどものほうが、いいもん食ってるかもしんねぇな」 「たしかに男ひとりだと、食生活が心配になってくるね。料理ができる人はあんまりいなさそうだし、毎日仕出しとなると懐が痛いよぉ。うちは体力勝負の仕事でしょ。ちゃんと食べなきゃ、刀振るのは大変よ」 「毎日腹いっぱい食っちゃ寝してても、刀振れない坊さんに言われちゃ、世話ねぇや。食べ盛りの若い男となりゃ、肉も魚も甘いもんも食べたいよなぁ。しょうがねぇ、一肌脱いでやりますかぁ」 「おっ? ギャタロウちゃん、やっちゃう? やっちゃう?」 「おうよお、おまえ」 「あいよお、あんた!」 阿吽の呼吸で、ギャタロウとスズランは手を叩きあわせる。 「なるほど。よい考えなのです。健康な体がなければ、新選組の仕事は立ちゆきません。健やかな体は栄養のある食事からというのは、理にかなっているのです。微力ながら小生もお手伝いをさせていただきましょう」 「いや先生ェ、大丈夫かよ。前に先生が作った漢方薬入りの豆大福を食ったボウと一番星が、口から葉っぱが生えてきたやら、尻から花が咲いたやらと聞いたんだがよ」 「すこし生命力が強すぎましたかね」 「そうはならんやろがい」 ギャタロウとソウゲンが不穏な話をしているあいだに、スズランは縁側に面した、文机のある部屋の箪笥をゴソゴソとあさっている。 屯所居酒屋「すずたろう屋」、まもなく開店である。 |
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−「壬生怪談・百物語…紫鈴堂・えしゅ
2023」−