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壬生怪談・百物語




〇六五・銀蛸(スズラン)


 あららっ。ちょいとそこ行くすてきなお兄ーさん。とーおーどーおちゃんっ。
 ウチ、寄ってかない?
 なによお、うさんくさいもの見る目で見て。いかがわしい呼びこみなんかじゃないわよう。
 今ね、ギャタロウちゃんと水ようかん仕込んでるの。竹筒に詰めてね、片側から息をプッと吹き入れると、ようかんがツルッと出てくるわけ。いいでしょこれ〜。
 味見してみる? どう? おいしい?
 甘すぎるって? いいのよお。みんな疲れて帰ってくるんだからさ。
 何日か前に水無月を出したとき、平隊士の子たち喜んでくれたじゃない?
 甘いものなんか食べたのいつぶりだろうって。意外にお酒にも合うのよ、これが。

 こんなに大量の竹筒を、いったいどこから調達したかって?
 いただきものなのよ。前にボウちゃんの十番隊が、嵐山のあたりを荒らしてた竹泥棒を捕まえたの覚えてるかしら。地味な事件だったから、忘れちゃってるかもだけど。
 被害にあってた竹売りの人が喜んで、いっぱいくれたの。竹。
 竹細工を色々作って、屯所に差し入れしてくれたりもしてるのよ。ざるや盛籠、なんでもござれで、ボウちゃんとギャタちゃんはよくしなる釣り竿をこしらえてもらってたっけ。
 僕もかわいい扇子を作ってもらっちゃった。ソウゲンちゃんとお揃いなんだ。うふふ。

 その竹売りさん、近頃は流行り病でしばらく寝ついちゃっててねぇ。
 命に大事はないっていうから安心だけど、自慢の竹林がさ、ほったらかしだから荒れ果てちゃって。竹はよく育つものねえ。
 このままじゃ、そのうちいろんなものが藪の中に棲みつきそうだから心配だって、竹売りさん言う。隠れてるのが鹿や猪ならまだいいけど、盗賊やら不逞浪士やらだと物騒だし、怖いでしょ。

 で、昨日、ボウちゃんが竹売りさんの竹林を刈りにいったのね。
 こういうときに頼りにされる力持ちっていうと、町の人はみんな彼のまんまるな顔を思い浮かべるみたい。ふふ。
 ボウちゃんのほうも日ごろから、お米洗うざるに、大きいお口にピッタリなしゃもじ、すてきなものをたくさん作ってもらってお世話になってるからって、気合い入ってたよお。

 おべんとばこに、竹の皮で包んだおにぎり詰めて、ボウちゃんせっせと竹を切ってたの。
 気づけば日が暮れていて、竹林のなかは真っ暗だった。うっかり灯りを持ってくるの忘れたせいで、なんにも見えなくなって、困ったなあって思ってたら。

 ──藪の奥のほうに、光るものが見える。

 ボウちゃんが、吸い寄せられるように明るいほうへ向かうと、どんつきに一本だけ、ピカピカと銀色に光る竹が生えてたそうだよ。
 光る竹なんて、かぐや姫みたいで幻想的だねえ。

 ボウちゃん、さっそく銀色に輝く竹を切って、光る節の部分をとりだしてみた。
 すると竹林に、磯のかおりがぷうんと漂ってくる。
 竹の筒のなかは、なんでかわかんないけど海水で満ちていて、ちゃぷん、と水面が揺れた。まだら色した、吸盤のついた細長い腕が、竹筒の底からスルスルと伸びてくる。
 タコだよ。
 銀色に光る不思議な体をしたタコ。
 お山の竹の節のなかに、海の生き物が閉じこめられていた。どっから入ったのかしらね。案外、筒の底が海につながっていたりして。
 タコは竹筒のなかから顔を出して、うらみがましいような目で、ボウちゃんのこと見てたんだって。

 かぐや姫はさぁ、竹に入ってたのがかわいらしい女の子だったから、いい感じのお話になったわけでしょ。
 おじいさんもおばあさんも、小さなかぐや姫をかわいいと思って、拾って帰ってくれたり、年頃になるまで蝶よ花よと大事に育ててくれたわけじゃない。
 タコはねえ、ちょっと難しいんじゃないかしら。だって、おいしそうなんだもの。
 ボウちゃんもそう思ったのね。タコだ、って喜んで、竹の枯葉を集めて火を起こして、光る不思議なタコを炙って食べちゃった。よっぽどお腹すいてたのねぇ。
 すると、この世のものとも思えないほどおいしくて、今まで食べた中で、いちばんうまいタコだったっていうのよ。
 そんなに味がいいのなら、僕も一口食べてみたかったかも。

 得体のしれないタコなんか食べて、ボウちゃんはおなかを壊したりしなかったか、って?
 うん、いつもどおりに元気だったよ。
 ただ、暗いところへいくと、竹の中で輝いてた銀色のタコみたいに、体がピカピカ光っちゃうみたい。
 まあ面白いし、いいんじゃない。しばらくすれば消えるでしょ。




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