ギャタ兄。なにか食べるもの残ってる?
オデおなかすいて、目が覚めちゃった。
昼間にねぇ、お山のほうで行き倒れの人を見つけて、もう死んじゃってたからソウゲンのところに運んだ。
ソウゲンに調べてもらったら、死んだ人の身元がわかるかもしれないし、わからなくてもソウゲンは解剖が好きだから。
その死んだ人ね、スズランは仏さまっていうんだっけ、仏さまはね。お山を超えてきたところで、おなかすいて死んじゃってた。
でも昨日の夜に、ちゃんと晩ご飯を腹いっぱい食べてたんだよ。一日足らずで餓死するって変だと思う。
そりゃ、ひだる神に逢っちまったんだなァ、って?
ひだる神ってなに? へぇ、お山を歩いてる人にとり憑く悪いお化けのこと。
ひだる神に憑かれた人は、お腹がすいて動けなくなって、そのまま死んじゃう。うへぇ、怖いねぇ……。
ひだる神をやり過ごすには、なんでもいいから食い物を口に入れればいい。すると不思議と体が動くようになって助かる。
だから山歩きをするときは、弁当箱の中身をいつでも一口残しておくもんだよって、よく孤児の炊き出しにくる、近所に住んでる口うるせぇババアがそう言ってたんだ、って。
オデ、お腹減ったら、あるだけ全部食べちゃうから、弁当を一口残すのって難しいマァ。
そう、お昼に行き倒れの仏さまを運んでから、オデずっとお腹すいちゃってて、食べても食べでも腹いっぱいになんない。どうしようギャタ兄。
ひだる神ってのは……うんうん。山で餓死した行き倒れの魂が、他人も同じように苦しめて、自分がどれだけシンドい思いで死んでいったかってのを、わからせようとしてくる。
ひだる神に憑かれた人は、山で同じように行き倒れて、同じようにひだる神になっちゃう。そうやってドンドン増えていく。
すると行き倒れの仏さんに憑いてたひだる神が、今度はボウにとり憑いちまったのかもしんねぇ、むしろお山をさまよっていたひだる神たちが、大口あけてどんどんおまんまかっこんでいく、ボウのきっぷのいい食いっぷりに惚れちまったのかも、って?
えぇ、オデ餓死はいやだ。ギャタ兄、どうしよう。
ひだる神さんが満足すりゃあ、成仏するんじゃないのかい、オイラもボウがどこまで食えるか一回試してみたい気持ちはある……どゆこと?
えっ、オデが食べられるだけ、おまんま食べていいの。本当!?
ギャタ兄のお店の食べ物、ぜんぶ食べちゃうよ。
そしたら屯所居酒屋すずたろう屋、これにて店じまいにござい、って?
ありがとう、ギャタ兄。オデ、ひだる神になっちゃった人たちの分まで、腹いっぱいにおまんま食べるマァ。