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壬生怪談・百物語




〇七五・ひだる神(ボウ)


 ギャタ兄。なにか食べるもの残ってる?
 オデおなかすいて、目が覚めちゃった。

 昼間にねぇ、お山のほうで行き倒れの人を見つけて、もう死んじゃってたからソウゲンのところに運んだ。
 ソウゲンに調べてもらったら、死んだ人の身元がわかるかもしれないし、わからなくてもソウゲンは解剖が好きだから。

 その死んだ人ね、スズランは仏さまっていうんだっけ、仏さまはね。お山を超えてきたところで、おなかすいて死んじゃってた。
 でも昨日の夜に、ちゃんと晩ご飯を腹いっぱい食べてたんだよ。一日足らずで餓死するって変だと思う。

 そりゃ、ひだる神に逢っちまったんだなァ、って?
 ひだる神ってなに? へぇ、お山を歩いてる人にとり憑く悪いお化けのこと。
 ひだる神に憑かれた人は、お腹がすいて動けなくなって、そのまま死んじゃう。うへぇ、怖いねぇ……。
 ひだる神をやり過ごすには、なんでもいいから食い物を口に入れればいい。すると不思議と体が動くようになって助かる。
 だから山歩きをするときは、弁当箱の中身をいつでも一口残しておくもんだよって、よく孤児の炊き出しにくる、近所に住んでる口うるせぇババアがそう言ってたんだ、って。
 オデ、お腹減ったら、あるだけ全部食べちゃうから、弁当を一口残すのって難しいマァ。

 そう、お昼に行き倒れの仏さまを運んでから、オデずっとお腹すいちゃってて、食べても食べでも腹いっぱいになんない。どうしようギャタ兄。
 ひだる神ってのは……うんうん。山で餓死した行き倒れの魂が、他人も同じように苦しめて、自分がどれだけシンドい思いで死んでいったかってのを、わからせようとしてくる。
 ひだる神に憑かれた人は、山で同じように行き倒れて、同じようにひだる神になっちゃう。そうやってドンドン増えていく。
 すると行き倒れの仏さんに憑いてたひだる神が、今度はボウにとり憑いちまったのかもしんねぇ、むしろお山をさまよっていたひだる神たちが、大口あけてどんどんおまんまかっこんでいく、ボウのきっぷのいい食いっぷりに惚れちまったのかも、って?
 えぇ、オデ餓死はいやだ。ギャタ兄、どうしよう。

 ひだる神さんが満足すりゃあ、成仏するんじゃないのかい、オイラもボウがどこまで食えるか一回試してみたい気持ちはある……どゆこと?
 えっ、オデが食べられるだけ、おまんま食べていいの。本当!?
 ギャタ兄のお店の食べ物、ぜんぶ食べちゃうよ。
 そしたら屯所居酒屋すずたろう屋、これにて店じまいにござい、って?
 ありがとう、ギャタ兄。オデ、ひだる神になっちゃった人たちの分まで、腹いっぱいにおまんま食べるマァ。




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