……(目次にかえる


壬生怪談・百物語




〇八〇・「誤解」(羅生丸)


 なぜ、こんなことになっている。
 京の夜に行きかうは、百「気」夜行。
 ひとつま「ら」こに、つ「び」ぎつね。たぬきの「ま」らづつみに、「ぼぼ」め。
 浮世絵師・勝川春章の手になる、百物語をとにかく下品にもじった最悪な春本「百慕々語」。
 ……から飛び出してきた、有象無象の生殖器の化け物ども。

 あのお方はたいそう愉快だと笑われていたが、僕はこの手の下ネタはどうも好きになれないな。
 おじさんは好きそうですよねぇこういうの、だと。口を閉じておけ、下っ端。首を飛ばされたくなければ。
 おい、暑いからといって、面を上げて雑に扱うな。雑面だけに、だと? ンッフ……ゴホン、うるさい。もう黙れと言ってるだろ。

 あのお方が仰るには、これが平安の世の出来事であれば、どこぞの力ある陰陽師の挑戦だろうと受け取るが、この元治の世にそんな気骨と実力のある陰陽師など、すでに絶滅している。
 人の身で、これだけの数の式神を操るとは信じがたい。あのお方の血の源におわすお方にはとうてい及ばぬが、雑念を捨てて、ひとつの望みにすべての想いを乗せて解き放たれるは、神にも匹敵するほどに研ぎ澄まされた技である……ということだが。
 神にも匹敵するほどに研ぎ澄まされた助平心って何だよ。
 力のある妖術使いが、起きているときも寝てるときも、四六時中いかがわしいことを考えてた結果、こんなことになってしまった、というわけか。

 おそらく犯人は、意中の相手と恋仲になり、床入りしたくてウズウズしている陰陽師かその類の術を使う者であり、性欲旺盛な様子からまだ若者のはず。
 式神どもの制御がまるできいていないように見えるので、案外才能はあるものの修行をサボってばかりいるなまけの未熟者が、無意識にやらかしているのかも、と。
 あのお方が若いころには、たまにそういう者を見かけたそうだが……。
 そんな奇矯な人間が、この町にいるのか。

 あれは、やま「ら」のおろちか。クソデカチンポが八本連なって、うぞうぞと這いずり進んでいる。汚いな絵面。近寄りたくない。
 春本作者の勝川は、かの葛飾北斎の師匠だというが、コイツの頭のなかどうなってんだよ。
 あのお方は、情欲というものは長くは持続しないので、精を吐き出せばしおれて消えるから、放っておけばよいと仰っていたが、僕としては今すぐに消し去りたい。

 京の町で活動する妖術使いといえば、我々雑面ノ鬼であるということを、幕府も長州も、京の町の人間たちも、皆が名を知り噂し恐れている。
 つまり、僕たちの仕業にされているんだ。この珍事が。
 大将・羅生丸の号令のもと、雑面ノ鬼は助平な春本から下品な生殖器の妖怪を生み出し、京の町じゅうを歩かせ、マラ頭やぼぼ頭の化け物を人々にけしかけ追いかけまわさせている。そういう噂がたっている。
 謎のドスケベ陰陽師の正体が誰だか知らないが、本当にやめろ。
 この国の行く末をまじめに憂う雑面ノ鬼を、悪趣味な変態集団だと皆に誤解させたこと、絶対に許さないからな。
 必ず正体を暴いて、その粗末な童貞チンポを切り取ってやるぞ。




前の話にもどる ・ 次の話にすすむ ・ 目次にかえる

この小説は二次創作物であり、版権元様とは一切関係がありません。無断転載・引用はご容赦下さい。
−「壬生怪談・百物語…
紫鈴堂・えしゅ 2023」−