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壬生怪談・百物語




〇九五・「山狐」(スズラン)


 ──土佐の高知のはりまや橋で、坊さんかんざし買うを見た。

 こん、こんっ。くわーい。

 こんにちはー。お兄さん、きれいな声で歌うのねぇ。なんだか懐かしい感じのする歌だ。
 ひとりでこんなお山の奥までやってきて、なにしてるの。
 お薬の草を探してるの? へえー。お医者さんなんだ。
 ねぇ、竹ザルのなか、見ていい? わはっ、たくさん集めたねぇ。
 こっちの雨傘に使えそうな葉っぱは、細辛っていって、解熱と鎮痛に使うのね。
 こっちは鈴蘭でしょ。え、ちがう?
 鳴子百合といって、お薬としての名前は黄精っていう。お酒に漬けて薬酒にすると、滋養強壮の効果がある。
 釣鐘がいっぱい垂れ下がってるように見えるけど、鈴蘭じゃないんだあ。似てるけどねぇ。
 こっちは紫のかわいいお花。えっあっ、触ったらダメなの? ごめーんね。
 附子の花は毒が強いから、へたに触ると死んじゃうかもしんないんだ。うひゃ、びっくりした。怖いね。
 毒なのにお薬になるの? 少量をほかの薬と組みあわせると、痛みをやわらげる効果がある。
 へー。とっても物知りなのねえ、お兄さん。

 金剛山に住むお歌が好きな狐の噂を聞いて、お兄さんはぜひ会いたくて、険しい山道をのぼってやってきた。
 この辺はけっこうあがりがキツいから、二本足のお人じゃ、ずいぶん難儀したでしょう。そんなに苦労してまで僕に会いたくなっちゃったんだね。
 なになに、魅惑の美声に惚れこんじゃったってやつ。
 いやー、僕ってば、罪つくりな狐だわ。こんっ。

 あっねぇ、今日はもう日が暮れちゃいそうだよ。
 人間は夜目がきかないでしょう。足元危ないから泊まっていきなよ。僕のおうち、すぐそこなんだ。
 それでよかったら、すこしお話したりしない?
 僕ねぇ、人間とお喋りしてみたいの。人間のことが好きなのよ。知りたいことがいっぱいある。
 お兄さん、お名前なんてーの?
 ソウゲンちゃん! いい名前だねぇ。よろしくね。
 僕はスズラン。見てのとおり、お山の狐だよ。こんっ。




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