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ここまで読んで下さってありがとうございます。ヨハンさんと十代ちゃんと双子ちゃんのぬくぬく人外家族のお話<パーフェクト・ワールド・エンド>はこれにてお終いです。ちょっと長くなってしまいましたが、つたないテキストに最後までお付合い下さって、いくら感謝してもしたりません。ありがとうございます、お疲れ様でした。
毎週ワクワクを下さるアニメ様と、GXの最終回後放心しているところにゴッズのオモシロかっこよさと双子ちゃんの愛くるしさを知るきっかけを下さった、素敵なクロスオーバー親子の妄想をさせて下さった同人作家さん方に最大級のリスペクトを込めて、過ぎ去った貴重な時間、栄光の日々/@レッツタイヤキ
に思いを馳せざるを得ないレジェンドのジェネックスのヨハンさんと十代ちゃん夫婦と、ジェネックスのネクサスな双子さんの二次作品を諦めずに最後まで書き終えれて良かったです。作業中百回位もう駄目かと思いました。
寂しい幼少期を過ごしていた十代ちゃんが絶対にひとりぼっちにしなさそうな子供がテレビで「うちの両親いつも家にいないんだ」と当たり前のように言っている姿を見た時に、これは親御さんの身にきっと大変なことがあったのに違いないと心配になり、視聴を続けるうちにダグナー編の鬱展開(ゴッズで今のところOPとお話ともにかっこよくて熱くて泣けて最愛です。でもルチアーノたんも激しくすきです)で切なさを乱れ撃ちにされ、「鬼柳ゥウウウゥ」とか「カァリィイイイ」とか「みすちーさん…!」とかそんな感じの精神状態で大体のお話を考えていたので(書き出し終えるまでに大分時間が掛かってしまいましたが)、プチ鬱な気がする家族のお話ですが、なんかすみません。現実でも非現実でも引き摺られやすい性格です。
先日十代さんのご家族の妄想をした本を出したことがあったのですが、今回はヨハンさんのご家族(人間の方)の妄想もしたいなあと思い、そのおかげでアークティック文化に触れる良いきっかけをいただきました。アークティック料理があんなにおいしいとか、アークティック雑貨があんなに可愛いとかヨハンさんに出会っていなかったら知らず、私まだイ●アに行ったことが無かったのに違いないと思います。外ではおっぱいとかふたなりちゃんの妊娠ボテ腹がすきですとか言えない隠れオタクなので、オタクスメルを薄めてくれそうなオシャレアークティックに沢山出会えてありがたいことです。
これで! もうオタクには見えないはずだ!(※って満足さんもアキバ装備で言ってた)
あと、途中で十代ちゃんの性格が急に軽い方向へ変わっている所があるんですが、その辺りで最高にオモシロかっこよかった三主人公さんの映画を見たためです。パラさんのご冥福をこの場でお祈りさせていただきます。
とりとめのないあとがきになってしまいましたが、最後に原作様の劇中、特にGX三期末で救われた思いをさせていただいていた最後のアレを精一杯リスペクトして、ここに加えるのは少々蛇足かもしれませんが、もう少しだけお付合い下さると幸せです。
それから二次創作中に何度も助けて下さった作業用BGMという名前の素敵なフィールド魔法や、お話の中に出てきた音楽や、ヨハンさんのご実家の本なども下に挙げさせていただきます。お世話になりました。
―― <作業中フィールド魔法>
<Reset>-平原綾香
<凛として咲く花の如く>-紅色リトマス
<The Vanishing Sky>-「BULLET WITCH」ED
<mama I Love You>-B∀G
<スカイクラッドの観測者>-いとうかなこ
<il mare dei suoni>-KOKIA
<プレイヤー>-河井英里 (Prayer)
<雪の女王のテーマ>-ペルソナシリーズ
<DUEL VOCAL BEST 2>-サティスファクション・ガッチャ!(遊城十代/不動遊星)
―― <作中に出てきた音楽>
<Whole lotta love(胸いっぱいの愛を)>-Led
Zeppelin
<「こうもり」序曲>-ヨハン・シュトラウス
<七ツのヴェールの踊り(バレエ・サロメに依る)>-伊福部昭
<ピアノソナタ第14番(月光ソナタ)>-ベートーベン
<星めぐりの歌>-宮沢賢治
<Wake Up Your Heart>-遊城十代
<虹の彼方に>-ジュディ・ガーランド
<ゴンドラの唄>-吉井勇/作詞、中山晋平/作曲
―― <参考作品>
<絵のない絵本・新潮文庫版>-アンデルセン/著、矢崎源九郎/訳
<完訳アンデルセン童話集(1)〜(7)・岩波文庫版>-アンデルセン/著、大畑末吉/訳
<即興詩人>-アンデルセン/著、森鴎外/訳
<恐怖と狂気のクトゥルフ神話>-笹倉出版社
<よくわかる「魔性の女」大事典>-ペーパーバックス
<たのしいムーミン一家>-ヤンソン/著、山室静/訳
他攻略本全般
ここまでお付合い下さってありがとうございました。(2010年7月
_ 安住裕吏)
* * * * *
ここではないどこかの時空に、人と精霊が共存する次元がある。その世界を恐怖によって支配していた覇王が滅び、悪魔の呪いが解けた後、徹底的に打ち砕かれて火をかけられた村の廃墟には、消滅したはずの人々の姿が戻った。今は復興の途中にある。
村の外れで行き倒れていた男は、粗末な木のベッドの上で目を醒ました途端、水を汲んだ器を差し出した少年をひどく警戒する素振りを見せた。赤い逆毛の男だ。筋骨逞しく、ほつれたマントは砂と泥で汚れていた。
ひとときの間、眼鏡越しの目に疑惑と憎悪を浮かべていたが、ほどなくして溜息をついた。肩から力が抜ける。
「……失礼。君のその銀の目、人違いのようだ。とても苦手な知り合いによく似ていたものでね」
困惑している青い髪の少年に、男は頭を下げた。少年の背中の後ろに隠れていた子供が、男を見上げて緊張した声で言う。
「お水、どうぞ」
「ありがとう」
男は乾いた喉を鳴らして器を空にすると、人心地がついた様子で、少年を見上げてくる。
「君、同じ髪の色をした兄弟がいないか?」
「十七人います。十番目の姉さん以外は皆この色なんです。僕の所は兄弟が多くて。今はいろんな次元にばらばらになっちゃいましたけど」
「そうか。君は少し、この村の他の人々とは雰囲気が違うような気がする」
「あ、はい。この村のリーダーに魔物達から救ってもらって、帰り方も分からないから身を寄せさせてもらってるんです」
少年は、隣にいる子供に目配せをした。紺色の髪をうなじの後ろで一つに束ねていて、眼差しはあどけないが、まだ少年が上手く馴染めていない中世ヨーロッパ風の服をごく自然に着こなしている。戦士の息子であることを誇りにしている。彼がいつの時代を生きていた人間なのかは分からないけれど、仕草のひとつひとつにまで染み込んでいる生活習慣から、少年とは相容れない時空に存在するはずの人なのだろうと知っていた。
「リーダーは今村に? 礼を言いたいんだが」
「もうすぐ戦士の人達と一緒に魔物狩りから戻ってくると思います。深緑色のマントの男の人ですよ。金髪の。貴方も人探しですか? 旅人にはそういう人が多いから」
「ああ。とても大切な女性を見失ってしまった。彼女を探している途中なんだ。この世界のどこかにいる。そう信じている」
「僕もなんです。とても大切なひと。母のところへ帰る方法を探してる」
村の入口で、石畳をチューブレスタイヤが擦る甲高い音がした。腹の底に響いてくるエンジンの駆動音も、この世界には相応しくない。少年がガラスのない窓から覗くと、外に薄汚れたオートバイが停まっている。
サイドスタンドを立てて斜めになった車体に肘を置いて、見慣れた中年男が煙草をふかしているのが見えた。ゴーグル付きのヘルメットと、だらしなく着崩したセキュリティの制服姿で、視力が馬鹿に良い少年の目には特徴的な顎鬚と眉毛もはっきりと見える。ドアもないおんぼろ小屋を出て駆け寄っていくと、男は手を挙げてぶっきらぼうに言った。
「よう」
「おじさんも元の世界から飛ばされてきたんですか?」
「あの性悪は何でもかんでも俺を巻き込まないと気が済まないと見える」
しわがれ声でぼやく。少年は頷いた。
「おじさんなら大丈夫だって信頼してるんですよ。その、多少乱暴に扱っても壊れないとか」
「それは信頼とは言わねぇ」
少年は、初めて目にするオートバイを物珍しそうに眺めている子供に礼を言って、世話になった村のリーダーへの言付けを頼んでから、改造された後部のボックスの上に腰を落ち付けた。逆毛の旅人が外に出てきて、見送ってくれる。
「見つかるといいですね。旅人さんの大切な女性」
少年は言った。
「すぐに会えるさ」
男は答えた。
エンジンが回転してトルクが動き始め、オートバイが滑るように走り出す。焼けた街を抜け、石畳を過ぎて、十二の次元を繋ぐ巨大な扉をくぐって、彼らがあるべき時間への帰途につく。元は白塗りだったボディは、泥で汚れて黄色く染まってしまっていた。帰ったらきちんと磨いてやらなければならない。強い風に髪をなぶられながら、少年はぽつりと言った。
「子供の頃から、どこ行ってたんだって母に叱られるのが好きなんです、僕は」
相手は返事をしなかった。いつものことなので、少年は勝手に一人で喋り続ける。
「そうだ。この前、どこかのデュエル・アカデミアの生徒だと思うんですけど、赤い制服の子が収容所にいた僕を助け出しに来てくれたんです。一言お礼を言いたいんだけど、目が霞んでいて相手の顔も良く見えなかった。声が母に良く似ていたな。アカデミアのデータ・ベースでどこの制服かだけでも分かるといいんだけど、僕もう随分出席してないから留年は間違いないとして、放校されてないかちょっと心配です」
扉の先に続いていたトンネルを抜けると、急に明るい所へ出た。目が焼かれて、しばらく何も見えなかった。少しして、ようやく光に馴染んでくると、見慣れた形の太陽の姿が見えた。朝が来ても姿を現さなかったり、いくつもあったりするよりも、空の真ん中に唯一輝いている景色が一番好きだ。
農道を往く。左右には濃いピンク色のレンゲ畑が延々と続いている。これから緑肥になるのだろう。風に乗っていい匂いがしたが、少し蜂が多かった。湿り気のある土の一本道がどこまでも続いていて、危惧していた通り、途中でオートバイがガス欠になった。
運転手はレンゲソウに唾を吐いて、木影の岩に腰掛けて煙草をやりはじめた。少年は、運賃分の働きはするべきだと心得ていたから、後部ボックスを降りた。プラスチックの容器を手にぶらさけて、ガソリンを分けてもらう為に人家を探しにいく。
十分ほど歩いた辺りでレンゲ畑の風景は途切れて、整えられた土の上に赤いトラクターで種を撒いている男を見付けた。首からタオルを掛けて、つばの広い麦藁帽子を被っている。農場のオーナーらしく、頼み込むと快くガソリンを分けてくれた。
痩せた体格の壮年の男で、黒い長髪に混じって白髪が見える。頬にはマーカーが刻まれていて、農夫にしては目つきが鋭過ぎた。都会で不穏な事件に関わってしまって、ほとぼりが冷めるまで田舎に身を隠しているという所だろうなと、少年は想像する。
「今時ガソリンエンジンで動くバイクなんて使ってる奴は珍しいな。まだ随分若いのに」
「あ、おじさんのなんです」
少年は言った。
「モーメント式じゃないエンジンは、確かにトラブルが多いんですけど。でもおじさんは自分で理解出来ないものが自分の組み立てた機械に載っているのが我慢ならないらしいんです。頑固っていうか、負けず嫌いで」
オーナーの男は、しげしげと少年の顔を見て不思議そうに言った。
「あんた、俺の友達の旦那にそっくりだ」
「良く言われます。誰かにそっくりだって」
「兄弟がいないか?」
少年は頷いて、苦笑いをした。
* * * * *
黒板のディスプレイには、スタイラスチョークで今日の日付と曜日、それから日直のスライと龍可の名前が書かれている。長机が並んでいて、一台に三人ずつ、少し窮屈な姿勢で生徒が着いている。見慣れたデュエル・アカデミア・ネオ童実野校高等部の教室。良く磨かれたブラウンの床の上を、オレンジ色のスーツがゆったりとした動作で歩いていく。
「『一切の事、おもへば夢の如く、その夢は又怪しくも恐ろしからずや』」
マリアの柔らかい朗読に合わせて、生徒達は国語の電子教科書に映し出されている文字列を目で追いながら、タッチパネルでページを捲っていく。
約半年前に引き起こった謎の集団昏睡事件は、今でもまだ話題に上るけれど、当時程では無くなった。
蒸し暑い夏の夜に、人々は眠りの中で世界が滅びる悪夢を見た。世界中の人間が、同じ夢を見ていた。人類の深層心理の共有現象だとか、神が退廃しきった人類に下した警告に違いないだとか、もっともらしいことを言う大人達もいるけれど、誰も本当のことは知らない。本当のことは、きっと誰も信じない。
「『まぶたおのづから合ひ、いつとは知らず深き眠に入りて、終日復た覺むることなかりき』」
龍可の隣で、龍亞は頬杖をついて船を漕いでいる。退屈だったらしい。兄の電子教科書はタイトルページで止まっていた。森鴎外訳の<即興詩人>。著者欄には父方の祖父のペンネームが添えられている。
今年度も最後まで龍亞はこんな感じだったなと思う。この春にまたひとつ学年が上がる。二年生になっても同じ顔ぶれとクラスメイトになれるのだろうか。それとも離れてしまうのだろうか。
「……龍亞。起きた方がいいよ。マリア先生の溜息が聞こえる」
天兵が龍亞に耳打ちをした。天兵の気弱な印象は相変わらずだ。背が伸びたせいで、ひょろっとした体格が余計に目立っている。
龍可と龍亞が本校への留学期間を終えて家に帰っても、そこに両親の姿はない。いつものことだ。龍可は教科書から目を逸らして、窓の外の空を見上げた。この頃良く空を見上げる癖がついた。晴れ空でも、曇り空でも、台風でも、いないのは分かっているけれど、そこに誰かの面影を探してしまう。
なかなか帰って来ない両親を兄妹で待っているのは慣れている。視線を黒板へ移して、それからまた横目を空へ向ける。雲一つ無い青の中に、まだ夜の名残の白々とした月と、淡い金星の輝きが残っている。
開け放たれた窓から、まだ少し肌寒い風が吹き込んでくる。陽射しは暖かい。白い花びらが、空気の中を踊りながら運ばれてきて、居眠りをしている龍亞の鼻の頭にくっついた。
―― もう桜が咲く季節なんだ。
龍可はまばたきをして、目の縁を指で擦った。遠い旅路にあるあの人達は、空のずっと上の方から、一面の優しい色に染まった地上の光景を見ているだろうか。
気だるい心地の中で、奇妙なことに気が付く。空に浮かんだ金星は、いつものように昼間の太陽に追いやられることなく、どんどん自己主張を強くしていく。燃え上がる星が、こちらへ向かって墜ちてくるのだった。
金星なんかじゃない。流れ星だ。赤い隕石だ。
「な、なに? あれ」
窓際で気持ちの良い春の風景を眺めていたパティが、素っ頓狂な声を上げた。それを合図にして、クラスメイト達が席を立った。閉じている窓も全開し、窓枠に津波のように詰め寄って、身体を乗り出して空を見上げる。
「彗星だ。願い事、落ちるまでに三つ言ったら叶うぞ!」
「スーパーモデルのミスティと付き合えますように! ミスティと付き合えま痛っ舌噛んだ」
「行方不明のパパとママが家に帰って来ますように! 生きて帰って来ますように! 帰って来ますように!!」
「龍亞お前馬鹿だと思ってたら意外とヘビーな設定のキャラクターだったんだな。色々ごめん」
「隕石! こっちに向かって落ちてくる!」
教室はにわかに歓声と悲鳴で一杯になった。混乱している。龍可は勢い良く手を挙げて、叫んだ。
「―― マリア先生! 具合が悪いので、私、早退します!」
「えっと、龍可ちゃん、あなたとっても元気そうに見えるのだけれど……」
困惑しているマリアを置いて、龍可は教室を飛び出した。後ろからまだ鼻に桜の花びらをくっつけた龍亞が、寝起き顔で追い駆けてくる。他の教室でも騒ぎになっていて、誰も廊下を走っていく龍可を見咎める者はいない。
「ちょっと、どうしたんだよ、龍可!」
龍亞が怒鳴った。構わず、龍可は上履きを履き替えた。正面玄関を出しなに、ひどく慌てた様子の女教師が職員室から飛び出してくる。綺麗な女性だ。スーツ姿が見惚れるくらいに様になっている。長い金髪が、一纏まりになって揺れた。
明日香だ。分校へ職員会議に来ていたのだろう。歩きにくそうなヒールで龍可に追い付くと、一度肩を叩いた。
「行きましょ」
「はい!」
追走する。
「天上院先生! 龍亞くん、龍可ちゃん!」
マリアが教室の窓から顔を出して叫んだ。
「マリア先生! 後はお願いね!」
明日香が叫び返した。その後を、正装姿の二人の男性が続く。プロ・デュエリストのおジャ万丈目と翔だ。龍可が見ている限り、この二人のおじさんはいつも明日香の後ろを締まりのない顔で走っている。
「天上院君、待ってくれ! 夕食はぜひこの僕と!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。ボク、今すごい既視感なんだから!」
翔が叫んだ。
宇宙の彼方からこのネオ童実野シティへ、赤い流れ星がまっすぐに落ちて来る。トップスの一角が眩く光った。星の衝突と同時に地盤が揺れた。旧<NEX>研究開発ビル跡地、森林公園の中の慰霊碑が建っている辺りだ。ちょっとした空き地程のクレーターが生まれていた。駆け付けた後ろから、すぐに知った顔が現れる。
「あ。遊星」
「龍亞、龍可。お前達も来たのか」
いつものようにヒーローは赤いD・ホイールを駆って、仲間達と共にシティに墜落した隕石の様子を見に来たらしい。亮も、弟と後輩を追ってきた。
「お兄さんも来たんだ」
「奴に呼ばれたような気がしてな」
「奇遇だな。僕もだ」
リーグ会場に移動中だったエドの専用車も、公園に乗り付けている。本人はなんだか迷惑そうな表情をしていた。
クレーターから白い煙がたなびいている。風に流されて薄まり、ようやく視界がはっきりする。赤い影が佇んでいた。空から落っこちてきたその人が、穴の底から見上げてきていた。
龍可は怪訝に思った。隣にあるべき姿が見えない。不安になる。
「―― 世界に危機が迫ってるんだ」
口を開いた十代は、まず落ち付いた声で、静かに言った。表情は浮かない。
「この宇宙を破滅に導く光を統べる究極の神が、もうすぐ目覚めようとしている。ヨハンがあいつら光の宇宙人に攫われちまったんだ。<破滅の光>の軍勢に立ち向かうには、オレから分かたれた<優しき闇>の力が必要なんだ。ヨハンを助ける為に、オレに力を貸してくれないか。――
龍亞、龍可」
十代が言った。龍亞が一番に頷く。
「……あったりまえじゃん!」
龍可も微笑んだ。
「家族だもん」
すぐに十代の手を取った。十代はようやく安堵した様子で、唇の端を引き上げる。皮肉で、意地悪で、運命さえも翻弄する悪魔のように、笑った。力強くて、生きている表情だ。
それこそが父が命を懸けて恋をした、美しい母の素顔だった。
無敵の竜の爪が次元を切り裂き、どことも知れない宇宙の彼方へ飛び込んでいく。遊星が龍亞の袖を掴んで、叫んだ。
「オレも力になります、十代さん!」
「遊星が行くならもちろんこのジャック・アトラスも行こう!」
「私も!」
「だぁあっ、お前らホイホイ事件に巻き込まれすぎだってのっ!」
同じ竜の痣を持つ仲間達が後に続く。そして――
明日香が、少女のように、赤い背中を追い駆ける。
「……私も行くわ。置いていかないで、十代!」
明日香の尻を、目付きの悪い黒いスーツの男が追う。
「天上院くんを危険な目には遭わせられない。君は命に替えてもこの万丈目サンダーが守る。十代! 貴様ばかりにいい所は見せさせんぞ!」
「十代のアニキ! 待ってよ〜!」
弟分が情けない悲鳴を上げながら、兄貴分を追った。亮も弟に手を伸ばす。
「翔! デッキを忘れているぞ!」
「十代、<破滅の光>との闘いに僕を置いていくとはいい度胸だな!」
運命のダーク・ヒーローをも道連れにして、ヒーロー達は数珠繋ぎになって消えた。森林公園の真ん中にぽっかりと開いたクレーターの周りには、誰の姿も残らなかった。ただ満開の桜が、白々とした花を咲き誇り、春の陽射しに揺れている。太くてごつごつとしている幹の下へ、どこからともなく太った猫が現れて、ブラウンのツートン・カラーの背中を伸ばしてにゃあと鳴いた。空は濃い青。とてもいい天気だ。
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<パーフェクト・ワールド・エンド(完)>
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