彼には帰るべき場所なんてものは存在しなかった。それは現在も昔も変わらないことだった。 どこにいたって、彼は違和感を感じていた。 それは僅かばかりのずれのようだった。 入るべき部屋をひとつ間違えたような、居心地の悪い、ここにいるべきではないという漠然とした不安のようなものだったかもしれない。 彼はそれを、現状置かれている彼の立場が分不相応なせいだと考えていた。ずっとだ。曖昧な具合の悪さを感じるたびに、彼はもっと偉くなるべきだと考えた。 統治学を修得し、剣の訓練に打ち込んだ。強くもなった。だが変わるべきところは何一つとしてなく、例によって奇妙な不安が漠然と彼を覆っていた。 それが何なのかを、彼は具体的に思考したことはなかった。 その気持ちの悪いずれは、十何年も彼を蝕み続けた。物心ついた頃からずっとだ。 いつのまにか慣れて、それはふとした拍子に思い出され、また思考の底のほうへ深く沈めやられてしまう種類のものになった。 正体は相変わらず知れなかったが、青年の兆しを迎えた頃になると、彼にはそんなことはどうでも良くなっていた。 「なあにやってんの」 気だるく、埃まみれの壁に寄りかかって膝に頬杖をつき、ボッシュはアルター・エゴを観察していた。 竜は気まぐれを起こしたのか、例によって現在よりも少し幼いリュウの姿を形作って、しきりに首を傾げていた。 ボッシュが声を掛けると、アルター・エゴは膝を抱えて座った格好で、顔を上げた。目は閉じられたままでいる。 『ね、なにするつもりなの。おれ、きみのことってさっぱりわからないんだ。 昔から、ほんとにぜんぜん。 ヒトはほんとにわけわかんないなあってことはわかったけど、敵の適格者なんて連れて来てさ、どうするつもり? アジーンに嫌がらせでもするつもりなら、あれも持ってくれば良かったんだ』 「アジーンとか、もうどうでもいいよ。俺が用あるのはそいつだけ。ずうっとそうだ」 『わけわかんない』 「オマエに簡単に理解なんてされてやるつもりない。それよりその格好やめろ。虫唾が走る」 ボッシュに咎められても、アルター・エゴはけろりとした顔をしていた。まったくこたえていないとでもいうふうだ。 竜は未だ昏睡の中にいるリュウの顔をじいっと覗き込み、おれこれ似てるかなあと言った。 『おかしなものだねえ。たった二年だよ。それだけの間で、これだけ変化してしまうんだ。ボッシュ、おれとこれ、全然似てないよ。そう思わない? おれの方がすごくリュウだ』 「何が言いたいのかぜんぜんわかんない」 『ボッシュを見てもこれ、ぜんぜんきみのことわかんなかったのに、ほんとにヘンだね。きみのほうは、ものすごくリュウを見付けるのが上手かった』 「何が言いたいの」 まわりくどい言いかただ。リュウらしくはないが、チェトレらしくはあった。これは持って回った言い方をするのだ。 『ボッシュは嘘吐く時に、ちょっと真面目な顔になるよね。天邪鬼だから』 チェトレが言った。その声には、咎めている調子も、悪意もなにもなかった。ただ言っただけという感じだった。 それってどういうことと訊いてやったって良かったが、そんな気分にもなれない。竜との対話はあまり好きにはなれなかった。 チェトレは生きているのか死んでいるのかわからないリュウの鼻をきゅっと摘んで、頭だけボッシュに向けた。 『憎んでるのかなんなのかわかんないや。ヒトってわかんない。でもねえボッシュ、リュウはきみのこと、わりかし、少なくともきみよりも、どうだって良いみたいだよ』 「うるさいチェトレ」 ボッシュは言った。 「黙ってろ」 チェトレはボッシュの神経を逆撫ですることが好きなようだった。 いや、ボッシュの前にリュウの話題を引っ張り出してくることが。ボッシュの怒りを純粋に好むようだった。 憎しみを食らって偏在するとそれは言った。 あの時、ライフラインから墜落し、ばらばらの散り散りになっているボッシュに訊いたのだ。憎めるかと。 『リュウが憎いだろう? やっつけたいでしょ。だからおれはきみを選んであげた。うーん、こういうの何て言うんだっけ……詐欺? 悪徳商法? うまいこと言って利用するだけ利用して、ポイってされちゃうんだ。ああ、おれって可哀想』 「少し静かにしてなよ。それと、その格好、喋りかたも、気持ち悪いからやめたら」 『はい、はあい、静かにしてるよう。まったくもう、ボッシュって変』 チェトレは口を尖らせて、子供っぽい仕草で頭を振った。 そうして静かになった。 チェトレが対話を打ち切ると、辺りは急に静かになった。 旧世界のシェルターの中にいる。前時代の遺跡だ。比較的保存状態は良く、ヒトがかつて生活した跡が鮮やかに残っていた。その生活の匂いすら、まだ生きているようだった。だが彼らは死に絶えてしまったのだ。負け組、とボッシュは思った。 世界に点在する遺跡群――――地下シェルターに逃げ隠れたヒトたちは原初の竜の粛清に遭い、もう今は遺物にその名残を留めるだけの幽霊になってしまった。 幽霊。ボッシュと同じだ。 千年前の粛清の生き残り、勝利者の血に連なるものたちが、今や巣穴から這い出してきて、空に群がりはじめている。 静寂の中では、対話の相手は自分の思考だけだ。ボッシュは溜息を吐いて、黙り込んでしまったチェトレに話し掛けた。 「おい、何か喋れよ。オマエがその格好で黙ったままだと、余計気持ち悪いよ」 結局、その後返事が返ってくることはなかった。 ちらっと目をやる。リュウは変わらず眠っている。 ◆◇◆◇◆ ヒトの意識の気配のようなものが生まれた。そういうのは匂いで解るのだ。 くぐもったかすれ声が聞こえて、それまで空が落書きされた壁に寄りかかってリュウを観察していたボッシュは、ゆっくりと頭を振って視線を逸らした。 何故そうしたのかは知らない。俺はオマエなんか見ちゃあいないよと、後付けの言い訳じみたことでもしたかったのかもしれない。 リュウが目を覚ましたのだ。 彼はどうやら暗がりに目が上手く適応していないようだった。覚醒すると、どこを見るともなく、ふらふらと頭を揺らした。 リンクが切断されたせいで、夜目がきかないのだろう。 ボッシュには彼の、今は少し眠たげに眇められている透明な眼差しもはっきりと見とることができたが、リュウの視界は暗転したままのようだった。焦点が合っていない。 「……ボッシュ……?」 リュウが名前を呼んで、ボッシュは思わず、なに、と返事をしそうになった。 それは何年もの間、彼らの間で繰り返されてきた習性だったからだ。 しばらく沈黙が落ちた。リュウは辛抱強く暗がりの中で目を凝らしながら、じっと待っていた。 そのさまは、主人に置き去りにされた労働用ディクを彷彿とさせた。廃棄されたのを理解することができず、迎えがくることを信じていつまでも待っている。 どれだけ経っても返事が返ってこないことを知ると、にわかにリュウは落ち付きをなくしはじめた。 目線をふらふらと揺らして、なんとか闇の中で探し物を見つけだそうと目を凝らした。だが彼には何も見えないのだ。 リュウとアジーンのリンクは既に、切断に近い状態にまでほつけていた――――アジーンは炭焼きになって、今頃はもう死に掛けているかもしれない。 寄生する肉体がなければ、竜はそう長くは持たないことを、ボッシュはチェトレと共有している知識ぶんだけだが知っていた。 やがて腐り始める。だが死ぬこともできない。竜は不死のプログラムなのだ。 腐肉と骨だけになって、動かなくなる。身体は動かないが、意識だけは残留している。 そしてまどろみながら朽ちて土に還るのを待つ。世界に溶けて生きるのだ。 それが、擬似的なものではあったが、ヒトよりも大分ややっこしい、竜の死だった。 リュウは竜を宿してはいない。 その意味するところは明快で、それがボッシュに余裕と安堵を与えてくれていた。少なくとも今は火を吹かないのだ。 リュウは、暗闇を怖れているようだった。 彼の青い目は、今はぼわっと輪郭をなくし、焦点が合っていない。 ヒトの視力では、この闇に慣れるには大分時間が掛かるだろう。今のリュウはおそらく何にも見えちゃいない。 それにしたって地下深くで生きてきたローディである、暗闇への適応能力は大分進化しているはずだ。二年間オリジンなんてやっていたとは言え、彼の性根はローディなのだ。D値の低い、蔑まれる対象として生まれ落ちた、下賎な。 衣擦れの音がした。 それから、がちっという金属を引っ張る音。 身じろぎしたリュウは、自分の身体が置かれている状況を、曖昧にだが把握したようだった。 自分の手のひらも見えない闇の中で、腕に枷をはめられ、枷を鎖で繋がれている。 リュウの腕にはめられた枷の淡い発光は消えていた。 それが何を意味するのかは知れないが、少なくともリュウにとって面白いものではないことは確かだった。 観察にも飽きて、近付くと、リュウは気配だけは敏感に感じ取って、ざわっと毛を逆立てた。 「……誰だ?」 ボッシュは答えない。 リュウは少し気後れしたように口篭もって、小さな声で、呼んだ。 「ボッシュ……? きみ? そこにいるの?」 だが彼はすぐに、気配に馴染みがないことを気取って、身体を強張らせた。 何にも見えやしないくせに、目を一杯に見開いている。 そしてようよう慣れてきた目で、すぐ目の前にいるボッシュを捉えると、彼の目つきはにわかに鋭くなった。 今しがたまで、甘ったれた声で相棒を呼んでいた男とは別人のような、僅かに懐かしい感触を帯びた眼差しだった。 例の敵を見る目だ。あの裏切り者の顔を見せていた。 (そんな顔されると、何だか妙にぞくぞくするんだけど) 考えながら、ボッシュはにやっと口の端を上げて、地べたに這いつくばっているリュウを見下ろした。 「よお、お目覚め? オリジン様。良く寝てたみたい。寝不足じゃないの?」 リュウはボッシュの軽口には反応せず、すうっと目を細めた。 そうすると、彼の顔から表情が抜け落ちてしまった。 まるでリュウじゃあないみたいな顔だ。感情の見て取れない顔だ。 先代オリジンも、確かこんなふうな感じだった。もうほとんど顔も覚えていないが。 「ここは」 「俺んち。旧世界のシェルターん中。埃っぽくてじめじめしてるってのを除けば、わりといいところだよ。雨にも降られないしさあ」 「おれが訊いているのは、そんなことじゃない。何が目的でおれをここへ連れてきた? おまえは誰だ」 「偉そうな口を訊くじゃあないか?」 ボッシュはにやにやと笑った。リュウは無表情のままで、顔を顰めた。 見慣れない表情だ。 なんとなくしっくりこない種類の具合の悪さが、ボッシュに訪れた。 ボッシュが知っているリュウのこんな顔は、見たことがなかったのだ。 「ローディのくせに、生意気。ボッシュがいないとなんにもできないくせに」 「……! ボッシュ!」 その名前を口にすると、一瞬で、リュウのマットな眼差しに光が戻った。彼は焦燥を浮かべて、素早く周りに目をやった。 だがそこにあるのは暗闇だけだった。 彼にとっての『ボッシュ』はどこにもいない。 「……ボッシュは……」 「オマエのご想像のとおり。死んじゃった。割と、思ったよりも、ぜんぜん弱っちかったね。興醒めってやつ」 「嘘だ!!」 リュウが叫んだ。 その顔には、あからさまな怒りと狼狽が見て取れた。僅かに恐怖も見えた。 なにもかも全く理解していないリュウを見ているのは、もどかしくはあったが、愉快でもだった。 彼はボッシュの名前ひとつに感情を左右されている。 今しがた見せたあのいけすかないオリジン面なんてものも、ボッシュの名前ひとつですぐにどこかへやってしまった。 彼はボッシュを見付けることも、理解することもしないくせに、忘れてはいなかった。 「ていうかオマエ、ボッシュのことしか考えてないの」 笑ってやると、もう少し乗ってくるかと思ったが、リュウはそっけなく目を閉じて、おまえには関係ないと言った。 「それより、気安くボッシュの名前なんて呼ぶな」 大真面目な顔をして、リュウが言った。彼は真剣で、冗談を言っているふうでもなかった。 ボッシュは少しの間、何を言われたのか理解することができずにぽかんとしていたが、やがて意味を知ると、おかしくてくすくすと笑い出してしまった。 案の定、リュウはそれが気に入らないようだった。ばっと半身だけを挑みかかるようにもたげ、ボッシュをきっと睨んだ。 「笑うな! 何がおかしい?!」 「――――はっ、ははは、オマエ、なに? その言葉、そっくり返してやるよ! オマエがその名前を口にするなんて千年早いんだよ、裏切り者のローディ様! それに、オマエはもう棄てられちゃってんの。早く気付きなよ、ボッシュ=1/64は、とっくの昔にオマエのことなんかさっさと見捨てちゃってるんだよ」 「うるさい! おまえが、ボッシュを語るな……彼の、敵だ」 「あのさあ、『ボッシュ』、どこにもいないだろ? オマエ、見付けられる?」 ボッシュはにやにやしながら、噛みつきそうな顔をしているリュウの頭を、ブーツのつま先で小突いてやった。 リュウはなんにも解ろうとはせず、ただじいっとボッシュを睨みつけていた。 その目には、いつもの穏やかな静けさは見て取れなかった。 敵を見るリュウはこんなに暗い目をするのだと、ボッシュは内心少しばかり驚いていた。知らなかった。 あの能天気で頭が悪く、あまりものを考えない男だと思っていたリュウも、こんな顔をするのだ。 まるでリュウへの憎しみだけで偏在するボッシュのような顔を、親愛なる相棒の『ボッシュ』の敵へ、こんなふうに。 それから、髪を掴んで頭を引き上げて、じろじろとリュウの顔を無遠慮に見た。 彼には怯えの色はなかった。 ただ怒りと、嫌悪があった。彼のそんな顔を見てやるのは、実の所、ボッシュにとっては初めてのことだった。 リュウはいつだって、少し俯きがちでいて、激昂するところなんて見たこともない。 少しの困惑と気後れの顔でもって、ボッシュの少し後ろにいる。 竜に侵された彼ですら、こんなあからさまな怒りは見せやしなかった。 やはりいつものあの困惑の目でもって、ボッシュを見ていた。 困惑の理由は、なんで怒ってるんだろう、それとももしくは、なんで邪魔するんだろう、おそらくそのどちらかだったろう。そこに怒りはなかった。リュウは怒らない。いつも困ってばかりいる。 そのはずだった。 「わりと、いい顔するね。そういうのも悪くない」 「最悪だ」 「はは、オマエにそこまで不機嫌な顔されるのって、そう言えば初めてだね。新鮮でいいよ」 「……おれはおまえなんか知らない。離せ。触るな」 刺々しいものが、ずうっと空気に浸蝕している。ぴりぴりと肌を焼く種類のものだ。 リュウの敵意が心地良かった。 ボッシュは掴んだリュウの頭を無造作に放り棄てて、地面に打ち付け、ブーツの踵で踏み付けた。 リュウはくぐもった息を吐きはしたが、悲鳴は上げなかった。 彼は妙なところで強情な癖があるのだ。物理的にもたらされる痛みなんかじゃ声も上げない。 痛みに対する耐性が特に見て取れた。 昔から階級差がある居住区民や上官に虐げられ続けて、慣れているのかもしれない。 尖ったつま先を腹にぶつけてやると、リュウはうつ伏せのまま身体を折って、少し咳込んだ。 「なんだよ、泣き喚けよつまんないな。ほら、『ボッシュたすけて』は? もしかしたらさあ、呼べば少しはお情けを掛けてくれるかもしれないぜ」 リュウは返事もせず、ただじいっとボッシュを睨んでいた。 ボッシュは顔を顰め、リュウの額にブーツの底を叩き込んでから、ぶすっとして言った。 「オマエ、なにその目」 「…………」 「助けは? 呼ばなくていいの?」 「誰が呼ぶもんか。おまえなんかの前で」 「あっそ。じゃあいいけど」 ボッシュはリュウの首筋に手をやり、ほつれたロングコートの襟を無造作に掴んで、引き倒した。 彼は軽かった。 ヒトの重みにしては、それは軽過ぎた。 ボッシュはぼんやりと、ああこいつもしかして俺と一緒で、もうホントは死んじゃってるんじゃあないのか、と考えた。 「……殺すのか?」 リュウが静かに呟いた。ボッシュに訊いたというよりも、ただ言っただけという感じだった。答えを期待しているふうではなかった。 ボッシュは答えず、リュウの首元をはだけて、喉のラインをつと指で辿った。 顎の少し後ろまでをぴったり覆っている布地の材質は、良く知れなかったが、つるつるとして、光沢がある。今は発光していない。 触れると、思ったとおり、リュウは不審の目を見せた。 「なにをしてる」 さっきから質問ばっかりだねとからかってやろうともしたが、結局は何も言わないままでいた。言葉なんかどうだって良いのだ。今更どうなるものでもない、役立たずだ。 もしリュウが理詰めでボッシュを理解することができる人種なら、つまり頭が良ければ、彼は裏切らなかった。空も開けなかった。今も地下1000メートル、空気の汚れきった下層区街できっとサードレンジャーをやっている。 ロング・コートの前をはだけきって、枷付きの両手を頭の上で固めてしまい、上に圧し掛かってやると、リュウはあきらかに顔色をなくした。 「は……な、何を、しているんだ」 リュウは動揺し、狼狽していたが、彼の顔には不理解はなかった。 つまりは、そういうことなのだろう。 誰、とボッシュは短く訊いてやった。 だがリュウには意味が知れなかったらしく、彼はそうなってようやく訝しげな不理解の目を見せた。 例によって頭の悪そうなものだ。ローディに特有のものだ。 ボッシュは小さく溜息を零して、オマエが馬鹿なのは知ってるけど、と口の中だけで呟いた。 「どいつの相手してやったの。オマエ、何にも興味なさそうな顔してるくせに、一人前にこーいうの知ってるんだ」 「は……? ちょっと待て、こういうのって……な、何を考えてるんだ?!」 「オマエのこと」 ボッシュはにっと人懐っこく笑った。嘘は言っていない。 ずうっと追い掛けてきたよ、とボッシュは言ってやろうとした。 やっと届いた。 前を歩く背中に手を伸ばして、肩を掴んで、引き倒してやることができた。 あるいは、とボッシュは考えた。 こうしてやることが目的だったのかもしれないとすら思えてきた。 床と呼んでやるには粗末過ぎる、土埃まみれの岩盤の上にリュウを横たえて、覆い被さって、それから好きに苛めてやることが。 「ずうっと見てたよオリジン様。オマエのことなら何だってわかるし、知ってる。何をしたらオマエが一番嫌がるかとか、どうやったら泣かせてやれるかってのを、ずうっと考えて、ここまで来た。この二年間で――――」 ボッシュはそこで言葉を切って、苦笑を漏らした。 「でも俺のことわかんないんだよねオマエ、残念……」 「おれを、馬鹿にしてるのか……?!」 リュウはさすがに頭に来たらしく、瞳を赤く輝かせた。 竜の支配下にはないはずだったが、彼の激昂はあからさまに表面化していた。 どういうことだろう? まだリンクが保たれているせいだろうか? |
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