12:「アレックス=E=ウォーカー」




「ロード=キャメロットの同級生、アレックス=E=ウォーカーですね?」
 彼は浮ついた夢の中で声を聞いた。酩酊の感触があった。頭が纏まらない。だが、いくつか知った名前を聞いた。まず一つは彼自身の名で、もう一つは同じクラスの友人の名だ。
 キャメロットはとても可愛い女の子で、授業の間中はいつも気だるそうにノートにラクガキをしている。でも優秀だった。話し掛けられた時には、なんで自分が、と訝ったものだった。彼は目立たないのだ。勉強は好きだが顔は平凡だったし、スポーツマンでもない。
 あの時彼女は何を言ったろうか? 確か、名前のことだったような気がする。とぉっても良い名前だねぇ、と彼女は言ったのだ。とりたてて平凡な名なのにどうしてだろうと思ったのだが。
「成績優秀、各国語を嗜む。学内では目立たない静かな生徒で、愛称は「アレン」。来月からエクソシスト総本部『黒の教団』総合管理班に勤務。実務内容は事務職。実技試験はパス済み、後は書類審査のみ――
 ベッド脇の椅子に誰かが座っている。まるで、病室に見舞いで訪れた客のようにだ。
 黒いスーツと白髪が見えた。老人だろうか。それにしては澄んだ声だ。聞くだけで、まるで深く冷たい底の見えない湖を覗き込んだような気分になってくる。
「結構。後はこちらで引き継ぎます。ご苦労でした」
 そう言えばなんで「黒の教団」なんて所に勤める羽目になったのだろう? 彼自身は洗礼も受けたカトリック教徒だったが、そう熱心な信者ではなかった。それが日曜の礼拝にかかさず出るようになったのは何でだったか。
(ああ――
 思い出した。あの子がいるからだ、ロード=キャメロット。彼女がどうやら熱心なキリスト信者らしいとどこかから聞いて、少しでも姿が見ていたくて教会に通ううちに、神父に紹介を受けたのだった。いろんな国の言葉を話せたし、計算も得意だったから、二つ返事で事務の仕事の斡旋を受けた。
 実技試験は通った。後は部屋のデスクの上に乗っかっている書類を出すだけだ。
 何故か最後まで写真を貼る気分にはなれなかったから、顔のないままの書類だ。
 隣の白髪が薄く笑ったようだった。ひどくおぞましい笑顔だった。耳まで口が裂け、まるで悪魔のようだ。
――誰だ……)
 声にならないまま口だけ動かすと、白髪は立ち上がり、綺麗に一礼した。
「はじめまして。『アレックス=E=ウォーカー』になる者です。今日から僕が貴方になります」
 黒が彼を覆った。





◆◇◆◇◆





 仄暗い水路を往くと、じきに船着場が見えた。前の白服の人間が身を乗り出すと、小船がゆらゆらと揺れた。
 「黒の教団」――最大の敵エクソシストの総本部は、地下水道が入口になっていた。新入隊員はアレンを含めて六人いる。ほぼ男だ。合流してから誰も口をきかないから名前も知らない。
 水路の周りは白く照らし出されていた。険しい階段が見える。やれやれとアレンは溜息を吐いた。体力を使う行為はあまり好きではないのだ。
(どうしたよ。大丈夫か? 顔色が悪いぞ)
 後ろから話し掛けられて、アレンは肩を竦めて受け流した。気持ち悪かった。人間、エクソシスト、敵、敵、敵――ここにはアレンの味方は誰一人いないのだ。
 船を下りると、白服の男が後ろ手を組んで立っていた。フードで顔は見えない。
「ようこそ、エクソシスト総本部「黒の教団」へ。まず自己紹介がわりに名前を、それから所属部署を聞かせてもらおうかな」
 男は束の書類を抱えて、ぱらぱら捲っている。貼り付けられた顔写真も見えた。
「まず……そうだな、君から。一番左の、白髪の君」
「……『アレックス=E=ウォーカー』です。総合管理班に勤務。実務内容は事務職」
「君は何故ここへ来ようと思ったのかね?」
「敵を倒す為です」
「……結構、やる気は認めるがね、我々の敵と戦えるのは実働派のエクソシストだけだ。君じゃ相手にならんよ。我々の敵というものは人間ではない。上へ上がればじきに解るよ。さて次」
 白服の男は苦笑して、アレンの隣にいる男に顔を向けた。知っていますよ、とアレンは胸の中で呟いた。敵を倒す為にこんなところへ来たのだ。彼らエクソシストと、それに与する人間どもを、すみやかに敵を排除するためにだ。その為に、少しでも多くの情報が必要だ。千年公もアレンに期待している。
「次、順々に頼む。あと理由も聞かせてくれ」
「アントン=チャールトン、同じく総合管理班に勤務。経理を担当させていただきます。自分の能力を高く買っていただいたからです」
「チャック=サリンジャー、科学班にお世話になります。メカいじりが大好きなんッス」
「レナルド=スチュアート、対外調整班に入隊しました。広い舞台で活躍したいと思ったので」
「マーゴ=グリーン、通信班オペレーターです。以前エクソシストに救われました。恩返しをしたいんです」
「フェリックス=ベーコン、探索班探索部隊です。兄が同じく探索部隊所属でして、私も同じようにお役に立ちたく思いました」
 最後の一人が済むと、白服は頷いて自分を指差した。
「スペンサーだ。総合管理班で新人をしごいている。ウォーカー、チャールトン、サリンジャー。君ら三人は私の管轄だ。残りはそれぞれの担当に説明を聞いてくれ。では、上がる」
 彼が指した先には、真っ暗な闇のずっと向こうまで続く階段があった。






「……ウォーカー? 大丈夫か?」
 同期の男――広い部屋に取り残された三人のうちの一人だ――が心配そうにアレンを覗き込んできている。アレンはかなう限り平坦な表情のまま頷いた。
「……ええ、当然です。何か問題でも?」
 階段は嫌いだ。これだから人間は嫌だ。何度レロを呼び付けてやろうと思ったことか、だがここは敵の本拠地なのだ。アクマに運んでもらう訳にはいかない。
「珍しい色の髪だな。初め見た時はじいさんかと思った。何人?」
「…………」
「言いたくないなら良いけど。オレ、さっきも名乗ったけどアントン=チャールトンって言うんだ。アントンでいいよ。そっちのお前は……」
 金髪の少年は、屈託なく笑ってアレンの肩を叩いた。アレンは黙ったままじっと蹲っていたが、相手はそれを疲労のせいだと取ったらしい。気にせずに残りの一人、栗毛の少年に話し掛けている。全員同じ位の年頃だ。
「チャック=サリンジャーだったよな。チャックって呼んでいい?」
「いいスよ。それにしても感激ッス、ずーっとメカをいじって過ごせるなんて!」
 男同士で和気藹々とやっている。アレンは溜息を吐いた。胃がむかついてたまらない。ただでさえ気分が悪いところに、無理な運動をさせられたのだ。
「ウォーカー? お前のこともアレックスって呼んで良いか? 同じ班だし、仲良くやろうぜ」
「アレン……」
「は?」
 息を荒げながらアレンは訂正した。
「アレン。そう呼んでください」
「は、あ、ああ。うん。よろしくなアレン」
 アントンが嬉しそうに笑った。邪険にされているわけじゃないと取ったらしく、ほっとしたような表情だ。
「お前、顔のそれ、刺青? 変わったかたちだな」
 アントンの手が、ふっと顔に伸ばされた。アレンは反射的に彼の腕を払った。
「触らないでもらえますか」
 空気が険悪に歪み掛けたところで、担当のスペンサーが帰ってきた。彼は新しい書類の束を抱えていた。
「三人、少しは仲良くなったか? さて、ここで色々説明しとかなきゃならんことがある。まずはチャック=サリンジャー」
「はい」
 チャックが頷いた。好奇心に目を輝かせている。子供っぽい仕草だが、彼らはまだ子供と言っても良い年齢なのだ。
「部屋は三人同室になるが、お前の勤務は科学班――室長の元で働くことになる。後で挨拶に行かなきゃならん。後の二人は総合管理班、それぞれ仕事をこなしてもらうが、まずは雑用だ。ジェリーには逆らうな。お前らは週明けに新入隊員全員纏めて室長の話を聞くことになる。後は――そうだ、レントゲン検査は受けたか?」
「ええ、受けましたけど」
 アントンが頷いた。アレンも何のことかは解らないまま頷いた。面倒な審査は、既に全て『アレックス=E=ウォーカー』が済ませてくれている。
「はい、問題ありません」
「そうか、ならいい。あれは定期的に受けることになるだろう。アクマになっちゃいないかどうかの検査だ。ここでは人がばたばた死んでいく。比喩じゃなくそうだ。お前らサポート派の中でも、教団内部で働く奴らはほとんど犠牲にならないが、探索部隊は死に鈍感になっちまうくらい良く死ぬ。ザラだ。覚えておけ」
「……そ、そんなに」
「はい」
 痛ましい顔つきになったアントンとは対照的に、アレンは無表情で頷いた。
 アントンは何か言いたげな顔でアレンを見たが、諦めたようで、口をぎゅっと結んでしまった。チャックは覗うようなオドオドした目を二人に交互に向けてくる。
「では、教団内部を案内しよう。とても広いから、まず間違いなく新入隊員は迷う。人気のないところで迷うと帰って来られなくてのたれ死んでしまうこともある。我々が入ってはいけないエリアも存在する。特に室長の実験――いや、ゴホッ、ゴホン! ともかく気をつけろ」






 内部は馬鹿に広かった。百年の歴史が朽ちた印象を与えはしたが、問題なく機能していた。外は結界で覆われていた。アクマ除けだ。ノア――人間――には痛くも痒くもなかったが、やはりどこか心地の悪いものだ。
(……結界を潰して地下から火で責めて、地上から襲えば。まずは手薄な場所を探すんだ。それに頭の顔も見てやろう)
 ぼんやりと考えながら、アレンは溜息を吐いた。その場合一番のネックが、アレンの極度の方向音痴だ。これじゃ地図も作れやしない。いい加減な情報は、みんなに迷惑を掛けるだけだ。
 アレンは手を挙げて、スペンサーを呼びとめた。
「スペンサーさん」
「スペンサー隊長と呼びなさい、ウォーカー」
「スペンサー隊長、教団内部の地図はないのですか」
「迷いそうかね」
「間違いありませんね」
 アレンが頷くと、スペンサーはにやっと笑った。
「私も何年もいるが、未だに迷うよ。階層ごとに案内板がある。だが地図はない。どうしてだと思うかね?」
「敵を警戒しているんですよね?」
 アントンが手を挙げて答えた。スペンサーが頷くと、彼は拳を握り締めて嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そんな訳だ。ウォーカー、迷ったら誰かに道を聞いてくれ。誰か迷わなさそうな奴についていくのもいい」
「……はい、わかりました」
「あの、アレン……さん? 君はその、方向……アレなんスか」
 チャックが恐る恐る聞いてきた。先ほどのアントンへの険悪な態度から、どうも怖がられてしまっているようだ。アレンは頷き、肩を竦めた。
「あいにく先天性のものです。僕のせいではない」
「……はは」
 アントンが堪え切れないように吹き出した。アレンは溜息を吐いた。しょうがない、方向音痴を笑われるのはもう慣れている。
「……いいかね? 君らが先ほどいた部屋が談話室。そしてこの先が修練場。まあ使うのはエクソシストが主だ。それに探索部隊の連中もな。他に療養所や書室もある。こちらは自由に使ってくれて構わない。後は君らの部屋だが……大浴場と一緒に、後で案内しよう。先に食堂だ。腹は減っているかね」
「マジですか! もうぺこぺこで……昨日の夜から汽車の中で、今まで何も食ってないんです」
「オレも腹減ったッスう〜……」
 二人がそれぞれとても嬉しそうな声を上げた。そしてアレンを見て、リアクション薄い奴だなあ、なんて言っている。
「お前食細いだろ、アレン。しっかり食わないからそんな痩せっぽち……」
「思うんッスけど、アレンさんを怒らせるのはアントンさんの不躾な物言いも悪いんじゃあないかと……」
「食べますよ。普通ですが」
 アレンは静かに言った。






 食堂の扉を開けると、怒声が響いてきた。
「ふざけんな! もっぺん言ってみやがれ!」
 腹の底から振り絞ったような大音量だった。食堂の真中に人間の群れができている。
「やめろってバズ……」
「殉職した同志に貴様……何てことを!!」
「飯食ってる後ろでくたばった奴らの追悼なんざ、辛気臭いことやってんじゃねぇよ、イノセンスに選ばれなかったハズレ者が」
「貴様あ……!!」
 ガシャン、と食器が床に叩き付けられ割れる音がした。アントンとチャックは顔を見合わせて眉を寄せている。初日からこれじゃあ無理もないだろう。スペンサーは額を押さえて、またか、と呟いている。
「……初日から運が無いな。良くあるんだ。とりあえず、また後で来――う、ウォーカー?」
 ドアの前で立ち尽くしているスペンサーの横を通り抜けて、アレンは喧騒の中心に向かった。懐かしい声を聞いたのだ。近寄ると見慣れた綺麗な黒髪が目に飛び込んできた。群がっている男達は、皆屈強で醜く、汗臭かった。その中で彼一人だけがとても綺麗に見えた。
「ウ、ウォーカー! こっちに来なさい! 彼らは気が立ってる、巻き込まれたら死ぬぞ?!」
「おい戻れってアレン!」
「ア、アレンさーん!」
 背後から制止の声がするが、そんなものはアレンの耳には入らなかった。
 スキンヘッドの大男の喉笛を掴んで、その細い腕で宙吊りにしている青年に後ろから近付き、





「ストップ」





 微笑を湛えながら、男の首を引き絞る手首を掴み、彼の耳元で囁いた。
 彼――神田は振り向いて、一瞬驚いたように目を見開いた。険が薄くなると、その顔は少し幼く見えた。
 だが、その顔は一瞬だけのことだった。次の瞬間には、彼は椅子を蹴って跳んでいた。アレンから飛び退き、素早く抜刀したイノセンスをアレンの首元に突き付けていた。
「貴様っ! どうやって潜り込んだ?!」
 険悪に歪んだ顔で神田が吼えた。彼の目はあからさまな敵意を映していた。探索部隊らしき男たちは、あっけに取られてぽかんとした顔をしている。アレンは微笑を崩さないまま、自分の胸を指差した。
「『アレックス=E=ウォーカー』、アレンと呼んで下さい。今日から総合管理班で事務の仕事を任せて貰うことになりました。イノセンスに選ばれないハズレ者で申し訳ないのですが、陰ながら貴方をサポートします。神田さん」
「アレン……ウォー、カー?」
 神田がふっと瞳の光を緩め、思案するようにアレンの名を反芻した。アレンはきょとんと目を開いて、首を傾げた。彼の記憶の向こうにその名前はまだ残っているのだろうか? 思い出してくれたのだろうか?
――誰だ……?」
 だが神田は疑いと訝しさだけの声音でそう言った。駄目だったようだ。アレンはすっと表情を消し、仏頂面になり、彼を睨んだ。機嫌は急下降していった。以前メイドがアレンのシャツを兄のパンツと一緒に洗濯してしまった時以来の不機嫌だ。
「……そんなことだろうと思いました。僕にここへ来いなんて昔貴方が言い出したことなのに、なんて忘れっぽい人なんだろう! 貴方の脳味噌は何で出来ているんですか? プリンですか? ワサビですか? さぞ刺激的な味がするんでしょうね。最悪です。貴方良い所は顔だけですね。もう死ねば良いのに。すごく苦しみながらくたばればいいのにポニーテール野郎」
「なんでろくに顔を合わせたこともねェテメーにそこまで無茶苦茶言われなきゃならねーんだ! このモヤシ野郎が、気色の悪い白髪頭が! 大体なんでお前がサポート派なんだよ!」
「モヤ……っ、――アレンです。貴方の質問になど、ひとつも答えたくありません。食事が済んだら出ていただけますか。いや今すぐ出ていけ。その長細いヒモみたいなものをトイレにでも篭って食ってろ。僕の食事がまずくなります。それとも何でしょう、貴方の目の前で大嫌いな追悼をしながら食べても良いんですよ。貴方自身のね」
「……表に出ろ。蕎麦を侮辱するな」
「嫌ですよ。僕は食事をするんです」
 どす黒い空気を纏いながら睨み合っていると、遠くから白衣の男が声を掛けてきた。
「お、神田ー! メシ終わった……みたいだな、すぐ司令室に来てくれ。任務だ!」
「…………」
 神田は依然アレンを睨んだままだったが、やがて舌打ちして離れた。そのまま背中を向け、
「……早死にしろ」
「お前が死ね」
 子供のような遣り取りの後、大股でずんずん歩いて行ってしまった。
 後にはアレンが残される。勝ったのか負けたのか難しいところだったが、アレンはなんとなく微妙な心地になってしまった。
(……何やってるんだろう僕)
 本当にそうだ。
 できるなら以前神田に接触したことが露見するのはまずい。彼はアレンがアクマを破壊できること、それを従えることを知っている。まず間違いなく怪しまれるだろう。手の込んだ仕込みも水泡だ。
 ふと、食堂が静まりかえっていることに気付いた。人間共の視線がアレンに注がれている。
(……まずった……か?)
 アレンは左手を意識した。いざとなれば、この位なら強引に突破できる。内部から建物を破壊して――
「うおおおおおっ!!」
 何故か、雄叫びが上がった。見遣るとさっき神田に首を絞められていたスキンヘッドの大男だ。
 背後の白服も一緒になって叫び始めた。拍手と口笛も混ざり始める。これは何というか――
(大喝采?)
 アレンはぽかんとした。わけがわからない。呆気に取られて突っ立っていると、スキンヘッドが感激したようにアレンの背中を叩いた。
「すげえ! あの神田の冷徹野郎に突っ掛かって負かしちまえるサポーターがいたぞ!」
「エクソシストじゃねえのかよ?!」
「名前は?」
「アレンとか言った!」
「お前仕事は!!」
 興奮した大男に顔を近付けられて、アレンは心持ち後ずさりながら答えた。
「事務員ですけど。今日から……」
「すげえ! あの冷血エクソシストを新人事務員が負かしちまったぞ?!」
「ざまあみろ神田! オレ達だって役に立ってるんだぞ!」
 神田に勝ったかどうかは微妙なところだが、アレンはなんとなく悟った。神田は仲間内で孤立しているのだ。同情はしなかった。あんな態度だと、敵も多いに違いない。
(……誘えばこっちにつくかな)
 一瞬考えて、それはないだろうと否定した。神田はエクソシストだ。根本的にアレン達と相容れない生き物だ。イノセンスを壊して、精神も壊してしまわなければ、彼は抗い続けるだろう。もしくは彼がアクマになるかだ。
「アレンに祝杯ー!」
「アレン様万歳ー! 神田のアホー!」
 わあ、と一際大きな歓声が上がった。いきなりぬっと伸びてきた手がアレンの腰に回り、担ぎ上げて、アレンが暴れる前に中空に放り投げた。敵に胴上げされてしまった。
(……なんかもう訳わかんないですよ、千年公)
 こっそり溜息を吐いて、アレンは兄弟の顔を思い浮かべた。イメージの千年伯爵はニコニコしながら、何故かアレンに向かって親指を立てている。グッジョブでス、アレン!!……彼の声が聞こえてきそうだ。
(本当に良いんですか、こんなので)
 みんな馬鹿ばっかりだ、とアレンは考えた。まあ何とか初日はしのげそうだ。






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