24:「北へ」




 リナリーが起き出して、彼女が部屋に篭って本を読みふけっていたブックマンを連れて食堂車にやってくるまでの数時間ほど、神田とラビ、アレンは暇を持て余しきっていた。移り往く景色や見慣れない汽車内にはじめは好奇の目を向けていたアレンも、今は疲れたようで、ティムを頭に乗せてうつらうつらとしている。ラビは椅子にもたれかかってぼんやりとしている。目の焦点が曖昧だ。こういう時のこのブックマンジュニアという男は、頭の中に無数に詰まった知識や本を引っ張り出してきて、脳味噌の中に意識を篭らせて記録を読みふけっているのだ。暇つぶしの上手い男なのだ。
 神田はやぶにらみに目を細め、ぼやいた。
「……おい、テメエらなんてザマだ。ちっとは警戒しとけ」
「そう言いますけど、神田も退屈なんですよね。こんな狭いところじゃあ趣味の修練もできないもの。オリの中に入れられっぱなしの猛獣みたいになっていますよ」
「うーん、あの石碑、腹から上が風化しちまってて読めなかったんだよな〜……うう、やっぱ気になるー」
 ただの人間の男たちなら年齢相応と言っても良いくらいにぐだっとなっていたが、彼らはエクソシストだった。常時の任務はハードだった。いつも死と密接に抱き合っていると言っても良い。こんなふうに気だるい空気が漂うのは、単に種類の問題だった。任務と責任の種類。
 神田をはじめ部隊の仲間はほぼクロスという男が見つかる可能性というものを信じられなかったし、アレンはどう見積もっても任務そのものに乗り気ではなかった。彼にとっての天敵だ。小柄な蛙が馬鹿でかい蛇の化け物を探して旅をしているようなものだ。
「モヤシ野郎、お前クロスに会いたくねえからって後ろ向きに進んじゃいねえだろうな」
「僕は知りませんよ。ティムに聞いて下さい。彼なら知ってるんでしょう」
「この間から北を向いたまま動かねぇぞ」
「じゃ、地図の上の方にいるんでしょうよ」
 投げやりに肩を竦めてアレンが言った。彼の目は天井に貼り付けられている色褪せた世界地図に向いていた。さして興味も無さそうなふうだったが、汽車のレールが記された赤い線を恨めしげに睨んで溜息を吐いた。
「……何だ、辛気臭え」
「貴方に辛気臭いなんて言われるとは。いえ、ただの好き嫌いの問題ですよ。僕は寒いところが大嫌いなんです。雪なんてもってのほかだ。何で人間って言うのは、あんなところにまで生活範囲を広げているのか理解出来ません」
「お前俺に食い物の好き嫌いが激しいとか抜かしやがったくせに、アレが嫌いだの何だの、ガキが」
「アレンです。ガキでもモヤシでもない」
「ふん」
 暇つぶしに棘々した遣り合いに付き合ってやったが、ふと奇妙な心地がして、神田は顔を顰めた。気持ちの悪いものだった。まるでいつか昔どこかで彼、アレンと同じ遣り取りをして、今また同じことを繰り返したような感触だった。本部でだったろうか。そう言えば、彼とは何度か衝突していたような気がする。例によって彼の名前に関してのことでだ。
 もう馴染んだ感のある険悪な空気を纏っていると、ラビが口を出してきた。
「はいはい喧嘩しないの。ユウもアレンいじめてやらない。ん、雪かあ、オレは割とキライじゃないけどなぁ〜。雪ダルマ作れっぞアレン、とびっきりおっきいの。世界じゅう真っ白ってなんかすごくね? アレンみたいで綺麗だと思うんだけどなー」
 ラビは冗談を言っているふうでもない。この奇妙なモヤシ相手に「綺麗」ときた。情報の積め込み過ぎでそろそろ脳味噌にガタがきたのかもしれないと神田は真面目に考えた。彼はここ最近、何かにつけて問題発言が多い。
 アレンの方はといえば、全く気にも留めていないようだった。女性に向けられるはずの賞賛の言葉を聞いても怒り出しもしない。まあ根性はひねくれているが、確かに顔だけは整ってはいるのだ。幼い頃から言われ慣れているのかもしれない。
「ラビはロマンチストなんですねえ。雪遊びなんて冷たいだけですよ。僕は虚弱体質ですので遠慮しておきます。いつも間違いなく風邪をひいて――
 アレンが「あ」という顔をして口を噤んだ。彼はごまかすように、まあそういうことです、と言った。そこには後暗い感触があったが、ラビには何のことだか解らなかったようだ。
 神田が知ったことではないが、クロス元帥がらみで僅かに聞いた情報から察する所、おそらく思い出したくもない過去でもあるのだろう。
「およよ。もしかしてアレン、雪国生まれ? なんかそーじゃないかって思ってたさあ。真っ白だもん。アレンなら可愛い雪の精だって言われてもオレは信じ――
「ジュニア、そういう気色の悪いことを素で言うなボケ。なんだ、このモヤシ野郎に一人前に故郷なんてものがあるはずねえだろ。どうせ中を開けたらアクマより凶悪な機械でも入ってるに決まってる」
 吐き捨てるように、神田は言った。ラビは「またそういうこと言うし」という顔を向けてきた。アレンはきょとんとして、それから唇を緩め、少し微笑んだ。
「……貴方って、気を遣ってくれてるのか、それとも単に僕を苛めてくれているのか、どっちなのか判断が難しいですね。別に特別に気にしてるってことでもないです。大丈夫ですよ、ありがとう」
「……はあ? わけわかんねえよ」
 神田はすっとアレンから目を逸らして、仏頂面になって舌打ちをした。ラビは「あ」という顔つきになり、アレンに向直り、ぺこっと頭を下げた。
「わり、変なこと聞いた。ごめんなアレン」
「ふふ、構いませんよ、特になんてことないです。それより、気を遣ってくれる神田なんて珍しいものが見れた方が良い気分ですよ」
「うん、確かに珍しい」
 アレンとラビ二人共が、変な顔をして神田をじっと見つめてきた。咎めるでもないし、特に何を言う訳でもない。それが余計に居心地の悪さを神田にもたらした。一体こいつらは何だというのか!
「……な、何好き勝手なこと言ってんだ。俺は知らねーからな!」
「神田は優しいですね。そういうところは好きですよ」
「ああ?!」
「もう少し紳士に振舞うように心掛けてみてはいかがです? ほら、僕のようにね。とりあえずいきなり人に刀を突き付けるようなところは大分減点です。もし――そうですね、『もし、僕が女の子なら』……かなり幻滅しますね」
「あっはっは。アレンー、そりゃ無理ってもんさ。ユウは気高き孤高の獣……――を、気取りたいお年頃なの。でも昔っから全然変わらないんさ。ガキの頃だって、お化けの扮装したティエドール元帥に脅かされた時もあのいじっぱりの顔のままちび」
「ラビ!!」
 神田が真っ青になって怒鳴っても、ラビは屈託なく笑ったままだ。たちが悪い。幼馴染なんてろくなものでもない。今すぐ記憶から消し去りたい過去を共有しているのだ。ラビにつられるようにして、アレンも笑った。彼も彼で、神田の凄んだ顔に怯える訳でもない。掴みどころのない男だった。
「ははは、神田格好悪い」
「ユウちゃんかっこわるうい」
「お前らそこに並べ! 首を刎ねてやる!!」
 神田は怒りと羞恥に引き攣った顔で、六幻を二人の男に突き付けた。彼らは抜き身の刀を目の前にしても特に動じることなく、芝居がかった仕草で非難の眼差しを向けてきた。
「なんさー、怒んなよ。ホントのことじゃーん」
「乱暴は良くありませんよ。またこんな刃物なんか人に向けて――痛」
 六幻を左手で押しやるようにしたアレンが、ふいに小さくうめいてぱっと手を離した。ぱちっと何かがはぜる音がした。それが何なのかは解らない。単純に静電気の類なのかもしれない。だが違うものなのかもしれない。一瞬耳鳴りのような甲高い音が聞こえたような気がしたが、そいつはすぐになりを顰めてしまった。
「あいたた……イノセンス兵器なんて人に向けないで下さい。貴方がたはエクソシストだから良いけど、僕は人間なのですよ、もう」
 アレンはぼやいて、今度は何事も無かったように六幻を押しやった。気のせいだったのか?
 具合の悪い沈黙が訪れる前に、ラビがぽんと手を打ち、喧嘩しないんさ、と言った。
「ユウは六幻しまう、アレンも気にしない。こいつがこんななのは誰に対してもいつもそうなんさ。な? んじゃまここは景気付けに一杯――
「任務中だ。自制しろ」
「僕お酒駄目なんですよ、ラビ」
「……ありゃりゃ。アレン、お前もアルコール駄目なの? せっかく泥酔して面白いユウちゃん見せてやろうと思ったのに、アレンも潰れちゃったらしょうがないじゃん」
「……お前な」
「うわあ、とても残念だ。家族に禁止されてるんですよ、人前で酒は呑むなって」
「酒癖悪いのアレン。なんか意外さ、おとなしい子ほど酔うと変わるってぇ奴かなー」
 アレンは首を傾げ、そういう訳でも無いのですが、と言った。
「以前兄にお土産のワインを勧められたことがあったのですが、二口ほどかな、呑んだ後すぐに意識がなくなって――
「うん」
「気がついたら兄のベッドで裸で寝てました」
「………は?」
 神田とラビはぽかんと口を開けてアレンを凝視した。彼にはまずいことを言ったという気配も見当たらない。ごく自然で、当たり前のことを言ったというような感触があった。
「お兄さん……の?」
「ええ」
「……お兄さん……は?」
「床に座り込んで、必死に神へ節制を誓う祈りを唱えていましたが。そう言えばちょっと泣いてたかな」
「はあ」
 あまり突き詰めないほうが良いと判断したのだろう、ラビは空笑いして、
「ま、まあ何でもいいさ。何しようか、アレン。何かやりたいこと――
「先ほどの方々から巻き上げたトランプがあるのですが、ポーカーでもやりますか?」
『絶対やらない』
 神田とラビは、声を合わせて拒否した。
「あれ、そうですか」
 アレンは首を傾げて、良く解らないと言った顔をしている。解らないのはこっちの方だ。アレンという男は何から何まで怪しげな謎で構成されている。





◇◆◇◆◇





 ようやく到着した駅は一面の雪で覆われていた。曇り空からはたえず雪が降り落ちてきていた。空気は凍て付いていて澄んではいたが、降りしきる雪のせいで、どこか居心地の悪い息苦しさを孕んでいた。汽車が煙を吐いて行ってしまうと、後には静寂が残った。しんとした静かな世界が。
「この街なのか? その、クロス元帥が向かったての」
「さあ、多分……さっきティムが体の向きを変えたの。方向はこっちで良いはずだけど」
「行ってみるしかなかろう」
 ラビはマフラーをぎゅうっと強く首に巻き付けて震えている。リナリーはブックマンのそばでティムを抱いて、きょろきょろと辺りを見回している。アレンは、見当たらないと思えば少し離れた場所で、ぼんやりと空を見ていた。降り落ちてくる雪を見上げて、馬鹿みたいにぽかんと口を開けている。
「アホ面晒してなにやってんだ、モヤシ野郎。お前はそのまま雪に埋まってろ」
「…………」
 アレンは神田の軽口に反応もせず、ただぼんやりとしていたが、やがてふっと目の色を取り戻して、柄にもなく慌てた様子で顔を上げた。
「あ……すみません、何ですか?」
「……何でも無ぇよ。チッ、役立たずかてめえは。探索部隊なら荷物持ちくらいやりやがれ」
「あ……ああ、そうだ。そうでした。リナリー、お荷物お持ちします――
 アレンはどこかよそよそしい仕草でリナリーの元へ駆けて行った。またクロス絡みで塞ぎ込んでいるのだろうか。だがこんな時でも彼の信念は曲げられないようだった。レディ・ファースト。考えてみれば、不器用な男と言えるのかもしれない。







 手配した宿は小さく、中は狭かったが、暖房が良く効いていた。大きな暖炉にくべられた火は冷えきった体を暖めてくれた。支配人は白髪の初老の男性で、彼は珍しい時期に客が来たものだと笑い、出迎えてくれた。
「狭いところで申し訳ない。どこから来なすったね? 見るものもろくにない街だが、まあゆっくりして行ってくれ」
「ありがとう支配人。時に、最近この街に赤毛の大男が来なかったかね?」
「ん、ああ。見たような気がするな。うちには泊まってかなかったがね、この辺じゃ見ないくらいの色男だったな」
「じいさん、その人俺らとおんなじ十字架付けてなかった? ここ、胸にさ」
「ん? ああ、さあ、そうだったような気もするなあ。何せ顔にくっ付けてた妙な仮面の方に目が行っててな、すまんな」
「……クロス元帥だな。逃げんなよモヤシ」
「…………」
「おいモヤシ」
「……は? ああ、……どうしたんです? 神田」
 どうもアレンはぼんやりしているようだ。時折目の焦点がぼやっとぼやけてしまっている。
 さすがに皆彼の様子に気付いたようだった。リナリーが心配そうにアレンの顔を覗き込み、だいじょうぶ、と訊いた。
「具合悪いの? アレンくん、先に部屋で休んでなよ。元帥は私たちが探しておくから」
「いえ……平気です。なんとも――
 アレンは一目で作り笑いだと解る微笑みを浮かべ掛けて、そのまますっと目を閉じ、ふらっと身体のバランスを崩した。
 そのまま静かに倒れた。まともに音らしい音も無かった。
「アレンくん?!」
 リナリーが慌ててアレンの肩を抱いて、彼の頬に触った。彼は見た感じ、完全に昏倒していた。脱力しきっている。彼女は唇の端をぎゅっと引き結び、緊張した顔つきになった。その顔がただならないことが起こったのだと告げていた。
「熱……ラビ、アレンくんを運ぶの手伝って。神田は水差しとタオル。ブックマン、すみませんがドクターを呼んで下さい」
「あいわかった」
「アレン、大丈夫か? ……じいさん、部屋は?」
「一階の奥、廊下を突き当たったところだ。ドクターはこっちに任してくれ。すぐに呼び付けるから」
 静かな宿の中は急に騒々しくなった。ラビがアレンを抱きかかえて廊下の奥へ駆けていく。リナリーもそれを追おうとして、
「神田、早くよ! よろしくね!」
 しっかり釘を刺していくことを忘れなかった。信用ないことだ。神田は舌打ちをして、忌々しくぼやいた。
「チッ……大げさなんだよ、あんなモヤシの一人や二人――
 探索部隊は取り替えが効く部品のようなものだ。それが最も合理的な物の考え方だと神田は思っていた。情に流されている暇はないのだ。効率良く動かなければならない。だが他の仲間たちはどうやら、ただの部品のアレンを気遣っているようだった。彼らは本心から心配している。あの怪しい男をだ。
「甘ぇんだよ、どいつもこいつも――
 苦々しく顔を顰めながらも、神田は支配人の男に水差しを借りようと彼を探しに向かい掛けた。だが、そこで足を止めた。いつの間に入ってきたのか、見慣れない子供がいる。ホールの隅の観葉植物の陰に隠れるようにして、まだ年端もいかない赤毛の子供がじっと佇んでいた。
 支配人の口振りから、今は神田たちの他に客はいないようだ。この宿の子供だろうか。
「おいお前、水差しを貸せ。タオルもだ。どこだ?」
 無遠慮に訊いたところで、子供がぱっと神田を見た。いや、顔を向けた。
 神田は眉を顰めた。そいつはとても奇妙だったのだ。
 子供の顔はつるりとした真っ白の、凹凸も、目も鼻も口も何もない仮面に覆われていた。サーカスのピエロが着るようなぶかぶかの赤と白のチェックのコートを着込んでいる。子供はしばらく神田をじっと見つめた後、何も言わずに走り出して、今しがたアレンが運ばれていった廊下の先の闇に消えていった。






◇◆◇◆◇






――すみません、迷惑を掛けてしまって」
 ベッドの上のアレンが申し訳無さそうにぺこっと頭を下げた。彼は渡されたホットミルクのカップを両手で包み込むようにして、相変わらずどこかぼんやりしたように言った。顔つきに生気が無いのはいつものことだったが、少し目が潤んでいる。熱っぽい顔だった。
 面倒見の良いリナリーが甲斐甲斐しく世話を焼いている。教団本部の人間はほぼ彼女の家族と言っても良かった。身近に年下の少年は少なかったから、彼女はアレンを弟のように感じているのかもしれない。暑苦しい気障なアプローチを繰り返しているアレンにとっては不憫なことだが。
「いいのよ、疲れちゃったのね。アレンくんまだ教団に来て少ししか経ってないのに、急に色んなことがあったもの。今はゆっくりして。ね?」
「……ありがとうリナリー」
 アレンは少し微笑み、そして急に咳込んだ。リナリーが慌てて彼の背中をさすった。まるっきり仲の良い姉弟の風体だ。ドアの横で壁に凭れ、腕を組んで静かに神田はそれらを観察していた。ラビも心配そうな顔つきをして、何かと世話を焼いている。ブックマンは神田と同じように、黙って彼らを観察している。
 胸を抑えて大きく息を吸って、アレンはようやく落ち付いたようだった。そう言えば彼はいつも何かと衰弱しているような気がする。いつかは吐き出した血まみれになって廊下に転がっていたこともあった。この分だと、殉職する前に何かの重い病気でくたばりそうだ。
「スーツも苦しいでしょ、ボタン緩めて……後でちゃんと着替えるのよ、わかった?」
「はい……」
「薬はまだ飲まないで。後でドクターに貰ったものを、言われた分量だけ飲むの。強い薬に頼っちゃ駄目よ。いつか壊れちゃうわ」
「……あれ、知ってたんですか。どうして」
「いいわね、ちゃんと言うこと聞ける?」
「はい、大丈夫です。僕は平気ですから、貴方がたは任務を優先して下さい。僕はサポーターです。エクソシストの任務遂行の邪魔にはなりたくない」
 アレンが静かに言った。リナリーは頷かなかったが、立ち上がり、支度を整え始めた。彼女もするべきことは解っているのだ。
「……ちゃんと寝ててよ」
「了解しました」
 アレンが大人しく頷いた。彼はリナリーには弱い。皮肉も嫌味もなく、素直過ぎるくらいだ。リナリーはなおも心配そうにアレンを見ていたが、やがて今まで静かに彼らを観察していたブックマンが進み出て、彼女に頷いて見せた。
「リナ嬢、ここは私が看ていよう。なに、見たところ疲労から来る体力の低下で軽い風邪を貰ってしまったようだ。この程度ならしばらく休めば回復するだろう」
「良かった……ありがとうございますブックマン。アレンくん、ちゃんと休んでね」
「うし、オレもじじいと一緒にアレンの看病……」
「お前は外で働いてこい馬鹿者」
「テメパンダジジイ、自分だけあったかいトコでのんびりくつろぎやがって――
「さっさと行ってこい」
 ブックマン師弟が不毛な言い争いをしているが、大したことじゃあない。傍観していると、ぽんと肩を叩かれた。ラビがやれやれと肩を竦め、行くさあ、と言った。
「やっとか。役立たずのモヤシのせいで余計な時間を食った」
「神田、今のはアレンくんに謝るところだわ」
「いいえリナリー」
 弱々しいアレンの声に振り返ると、彼は薄く唇を開けて、感謝しています、と言った。
「ありがとう。面倒嫌いの貴方が水差しを運んで下さったのですよね? とても嬉しかった」
「は? な、何言ってんだ。リナリーが言ったから、誰が好きこのんでお前みたいなモヤシ野郎の世話なんかするか」
「すぐに体調を整えますから、もしあの男を見つけた時には僕のかわりに思いきりぶん殴ってやって下さい」
「チッ。――減らず口が叩けるようなら上等だ」
 乱暴に靴を踏み鳴らしながら部屋を出ると、後から追い掛けてきたリナリーとラビが、気に食わない温い笑みを浮かべながらぽんと神田の肩を叩いた。
「良かったじゃない神田、アレンくんと仲良くなれて。もう仲良しのお友達って言っても良いんじゃないかしら? 神田もちゃんと優しくしてあげなきゃ駄目よ。じゃないとそのうち絶交なんて言われちゃうよ」
「なあユウ、ここだけの話アレンお前のこと好きなんじゃねぇのさ? なんか寂しい気もするけど、うんうん、お前ら二人ならお兄さんは笑顔で祝福してやれるさ」
「くだらねぇこと言ってねーでさっさと行くぞ!!」
 神田は不機嫌を隠しもせずに吐き捨てた。





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