41:「いかれお茶会」




 ラビはまず空気に違和感を感じた。まるでゴミ溜めに放り込まれて鼻が馬鹿になってしまった時のようだった。臭いの問題じゃない、感覚的なものだった。ひどい殺意やら憐憫やら嘆きやら憤怒やらが空間のそこかしこに渦巻いているのは気取れたが、それらに対して思うことは何もなかった。麻痺してしまっているのだ。
 隣を見ると師はいつもと何も変わらなかった。食えない顔をしている。
 長いテーブルの上には繊細な刺繍の入ったクロスが敷かれていて、上にはアフタヌーン・ティーの準備が整えられていた。三段のティースタンドに乗っかっているのは、天辺にはクリーム・ケーキとチョコレートのタルト、それからフルーツ入りのカスタードパイ、中段にはクロテッド・クリームとグズベリージャム付きのスコーン、一番下はハムと胡瓜のサンドイッチと言った具合だった。
 見るからに美味そうだったが、味なんてろくに解らないだろう。食事なんか取っている気分じゃない。
 場所が場所だ。昼下がりなんてものじゃあない、辺りは真っ暗だ。蝋燭の明かりだけがほのかに灯っている。
 ブックマンの私用で出掛けると言うからいつものようにくっついてくればこれだった。ラビはいささかげっそりしながら、悟られないように嘆息した。
 今ラビがいるのはノアの聖域、千年伯爵の居城だった。すぐ後ろにメイドの格好をしたアクマが何体も突っ立っているが、どれも機械じみていて口説く気にすらなれない。
「お会いできて光栄でス、ブックマン。先日はウチの娘達がお世話になりましタ☆」
「こちらもお会いできて光栄だ。お招き感謝する」
「貴方のお話を常々聞かせていただきたいと思っていたのでス☆ 家族一同それはそれは楽しみニ……ッテティキぽんとアレれんはドコですカ? お茶会に遅刻するなんて悪いコ達ですネ……☆」
 千年伯爵が困ったふうに首を傾げた。
(……アレれんてアレンのことか?)
 そう言えばアレンの姿が見えない。彼……じゃなくて彼女もノアなのだからまた顔を合わせることになるのだろうが、何となく気分が塞いでしまう。一体どんな顔をすればいいっていうんだろう。後ろめたいのは両方に関してだった。アレンと、エクソシストとしての友人たちと、そのどちらにもだ。
(まぁ顔見れるってのは悪くないけどな)
 あまり期待せずにそんなことを考えてみた。アレンは来る様子がなかった。城の扉は固く閉ざされていて、ラビの隣の席が二つ空いている。
 ぼんやりと空席を眺めていると、遠くから微かに鈴が鳴るような音が聞こえてきた。
「おヤ?☆」
 千年伯爵がふっと顔を上げると、扉の前に立っているアクマのメイドの上にふわっと白い光が生まれた。それは急激に降下して、アクマにぶつかった。金属を煉瓦にぶつけたような甲高い音がした。それからいささか騒がしく、焦り混じりの少女の声が聞こえた。澄んでいて、まるで透明な鈴のようだ。
「ひゃっ、あっ、うわぁごめん……あ、千年公、アレン参りました。遅れてごめんなさい! ティキは仮病でお腹痛いので部屋で寝てるそうです。ほんとは昨日の夜お酒呑み過ぎて二日酔いです」
 何もない空間から急に現れたのは、アレン=ウォーカー……らしい。一瞬解らなかった。白髪をアップに結っていて、綺麗な項が露わになっていた。それから仕立ての良い、裾のゆったりした白いドレスを着ている。柔らかいレース越しには、例の分厚いスーツ姿じゃ確認できなかった胸の膨らみがささやかだが見て取れた。あの娘だ、ラビがダンスを申し込んだ少女。教団でいつも見ていたアレンにはあまり似ていなかった。
 彼女は困ったふうに眉を下げていた。まるで泣き出しそうな様子だったが、どうやらそいつが地の顔のようだった。表情に不自然なところがないからだ。
 千年伯爵がぱっと手を広げて彼女を迎えた。
「おやおヤ、アレンったらおてんばさン☆ ファッキンティキぽんはサボリですカ?☆」
「はい、もうやめてって止めたのに全然聞いてくれなかったんです」
 アレンは子供っぽい仕草でぷうっと頬を膨らませた。その様子は、親に言い付け口をする子供そのままだった。彼女がやってくると、凍て付いたようだった空気がふっと和らいだ。どうやら家族に可愛がられているみたいだ。良く解らないがちょっと安心した。
「しょうがないですネ、ロード☆ ティキぽん叩き起こしてきちゃって下さイ☆ 奇襲案Aを要請しまス☆」
 ぽんと手を打って千年伯爵が言った。彼の隣に行儀悪く座っていた黒髪のノアの少女――以前襲撃されたことがある。ロード=キャメロットと言った――がきょとんとして、「え、アレやっちゃっていいの?」と言った。
「ええ、バーンといっちゃって下さイ☆ アレはアレンがやるにはまだ早いですかラ☆」
「えへへぇ、りょーかい。アレーン、苛められたカタキ取ってきてやるからぁ」
 ロードがニヤニヤしながらアレンに手を振った。アレンの方は複雑そうな顔つきでいる。
「え……確かに最近のティキはちょっと調子に乗ってるところがありますが、さすがにあれは……」
「いいんでス☆ それよりアレン、ティキぽんの分もお菓子をお食べなさイ☆」
「え? いいんですか? じゃあいただきます」
 アレンはくるっと表情を変えて、どこかぽおっとした顔になった。あれだ、何か美味しい食べ物を前にした時のものだ。彼女が『アレックス=E=ウォーカー』を名乗っていた時にも見たものだ。彼は綺麗な顔と聡い性質をしているくせ、非常に食い意地が張っていた。実はすぐに餌付けできてしまうのだ。今のアレンからは不安や心配と言ったものがどこかへ飛んで行ってしまっていた。
「お茶が済んだらお話の間、お客様のお相手をしてあげなさイ☆ どうやら顔見知りのようですかラ☆ そうですネ、庭の薔薇を見せて差上げると良いでしょウ☆」
「はぅふ」
 アレンがスコーンを頬張りながら千年伯爵の言いつけに頷いたが、彼女の興味はどうやら今の所ティースタンドにのみあるようだった。その様子はなんだかでかいチーズの塊を与えられたネズミが必死に餌を頬張っているようにも見えた。あまり上品とは言えなかったが、奇妙なことに美しい少女がやっているとなんだか可愛く見えてしまうから不思議だ。








 千年伯爵の言い付け通り、ラビは中庭に案内された。今頃師はいくつかの知識を披露しているだろう。まさか何か伯爵の気に触ることをやらかして殺されはしないだろうが――師は狡猾さに掛けてはちょっと自慢できるくらいなのだ――だからと言って安心はできなかった。ノアもいるし、ちょっと触るだけでウィルスに感染して即死するアクマどもがその辺にごろごろ転がっているのだ。
 中庭と言っても屋外ではないだろう。でも夜空はあった。見たことがない星の配置だ。風もないし、生き物の気配もまるでない。
 花壇には無数の薔薇が植わっていた。赤が最も多く、黒、青いものもある。色とりどりの薔薇が華やかに咲き誇っていたが、その中に白薔薇の姿だけが無かった。
「綺麗だな。お前が育てたん? そう言えば前に園芸が趣味だつってたっけ」
「なんだ、貴方は覚えているんですか。さすがブックマンジュニアと呼ばれるだけのことはありますね」
 アレンの声には、いつものような少年らしいぴんと張った響きがなかった。柔らかく、優しげだ。
 でもひとつ気になったことがあった。ラビはアレンがいるはずの方をじっと見遣って首を傾げてしまった。
「……なんで隠れてるんさ?」
 アレンの姿は薔薇に埋れて見えない。まるで子供が隠れんぼをしているようなふうだった。
 顔を見せ辛いのかと思っていたら、アレンが歯切れ悪く言った。
「いや……その、そこにいてくださいね? 動かないで、ほんと駄目ですから。今ちょっとほんとまずいんです。貴方と顔合わせたりなんかしたら、僕間違いなく……」
「間違いなく?」
「泣きます」
「はあ?」
 ラビは訳がわからなくて、とりあえずアレンを探して薔薇の蔦を注意深く掻き分けた。棘だらけだ、こんな中にいちゃあ傷だらけになってしまう。
「何言ってんさ、お前怪我すっだろそんなトコいたら」
「し、しません! 大丈夫ですからちょっ、お願いこっち来ないで!」
 かなり傷付くことを言われてしまった。ラビが固まっている間にも、蔦の中からがさがさと移動する気配がする。アレンが逃げて行くのだ。
「ちょ……アレンアレン! どこ行くん?! おま、怪我するってば! とりあえずこっち来ぃさ! 落ち付いて話しよう、な?!」
「し、します! しますから、わかりましたからこっち来ないでえええ」
 アレンの声にはちょっと涙が混じりはじめていた。そこまで嫌われることをしたろうか。教団にいた頃は割合仲良くやれていたと思うし、立場的にもアレンを責められるわけじゃない。
 ラビは溜息を吐いて、とりあえずアレンを捕まえることにした。足音と気配を殺してそおっと花壇の裏に回り込んで、蔦の中からアレンが飛び出してくるのを待つ。じきに大きくがさっと薔薇が揺れて、さっきとおんなじ格好のアレンが飛び出してきた。白いドレスは髪も肌も真っ白の彼女が着込んでいると、なんだか羊か山羊みたいだった。色が無いのだ。
「ほい、捕まえたさレディ?」
「ひっ……」
 アレンの腕を取ってにっこり笑い掛けると、彼女の顔色がみるみる真っ赤に染まっていった。そして涙目――どころか泣き出してしまった。
「ぎゃあああああ! うあっ、男っ、兄さぁあん! ロードっ、カンダぁあ!!」
「へっ?! あ、アレンアレン! なんもしねーって! オレだってばラビ! わかんねぇ?!」
「わ、わ、わかりますうう! わかるからっ、ちょうっ、とりあえず離れて! 三メートル離れて!!」
「は?! お、オレそんなにお前に嫌われてたんさ?! すげーショック!!」
「ちが、お、お――
 かなり衝撃を受けていると、アレンは泣きながらぶるぶると首を振って悲鳴みたいな声で叫んだ。
「お、男の人が駄目なんです――!!」
「…………あ、うん。そう」
 ラビは呆けたままこくこくと頷いて、アレンの手を離し、とりあえず彼女の言うとおりに距離を取った。三メートルくらいだ。アレンは蹲ってその場でぶるぶる震えていたが、やがて胸元から小さなガラスの小瓶を取り出し、薄紫色のカプセルを摘み出して飲み込んだ。見た感じ鎮静剤のようだった。そして落ち付くとふうっと溜息を吐いて顔を上げた。
「あ、すみません、取り乱してしまってお恥ずかしい……」
「いや、ていうかお前、男が駄目とかってそんなん、今まで散々周りにいたじゃん。ユウとかコムイとか」
「うっ、なんか話すと長くなるのではしょりますが、僕実はすごく男の子が苦手で、その、僕も男の子の格好してたら全然平気なんですけど、ドレスとか着てるともうホントに駄目で」
「……はあ」
 ラビはまだ呆然としたまま頷いた。なんだか「アレン」と話しているという感触がさっきから全然ない。
 まず外見は可愛い女の子そのものだ。ふわっとした輪郭が際立っている。触るとすごく柔らかそうだ。自信が無さそうな表情やおどおどした目もラビが知っているアレンには――クロス元帥絡みのものを除いて――見られなかったものだ。
「……なぁアレン、お前って女の子だよな?」
 とりあえず確認してみた。いつものアレンならここで「ふざけないでください」と怒声が飛んでくるところだ。それから「ぼくは正真正銘混じりっけなしの紳士です」や「馬鹿にしてるんですか?」などもおまけに付いてくるはずだ。
 でもアレンは困ったように首を傾げただけだった。彼女は「すみません」とすごく後ろめたそうに言って俯いてしまった。
「……こ、こんな変な僕なんかが女の子のドレスなんか着ててすみません。僕には似合わないって自分でも思ってます。ほんとすみません、目に悪いですよね。笑いたければ笑ってください。生まれてきてすみません」
「い、いやいやいや、アレンちょっとなんでそんな卑屈なの? どうしちゃったの」
「僕なんかほんとにいるだけで人に迷惑を掛けてしまうんです。昔からそうでした。僕に優しくすると、何故か決まってみんな不幸になるんです。養父は病死してしまうし、子供のころ通っていた学校で、こんな気持ち悪い白髪と痣のせいで友達のいなかった僕に初めて話し掛けてくれた子は不幸にもその日のうちに切り裂き魔に襲われてしまいました。他にも他にもとりあえず関わった人は何故かみんな変死しちゃうんです。多分今頃マリアンおじさまにも何らかの不幸が襲いかかっているころだと思います」
「そ、そう。マリアンおじさまって誰?」
「……? クロス=マリアンおじさまのことは貴方も良く知っているでしょう? エクソシストの偉い人じゃあないのですか?」
「あ、うん。元帥か。て、どうしたん、今までさんざんあのヒモ野郎死にさらせとか言ってたのにおじさまって」
「初めてあの方にお会いした時に――大分僕が小さかった頃ですけれど――そう呼ぶように言い付けられたのですが」
「はぁ……なんかアレンいつもと全然別の奴みたいだなー」
 ラビが困惑混じりに空笑いをすると、アレンは更に俯き、花壇のへりに座り込んで、また「すみません」と言った。
「あの……気を損ねてしまったならすみません。僕なんか女の子らしくもないし男の子みたいに強くもないし、暗いし言いたいことも言えないし、気のきいたことのひとつも言えないし、毎日友達零人の記録を更新し続けているし、一緒にいてもつまんないだけですよね。ごめんなさい、ノアじゃなかったら誰かに不快な思いをさせる前に死んでしまえたのですけど」
「ア、アレンアレン、ちょ、なんか思考がやばい感じの方に傾いてるさ。ほんとに大丈夫か? 誰かに何か言われたのか? 苛められてないか?」
「苛められるのは僕ができそこないで変な色の駄目ノアだからだって毎日兄さんが言ってます」
「……アレン……」
 ラビは頭を抱えて溜息を吐いた。例のアレンの兄、あの砂漠で出会った軽薄そうな顔つきの黒い男だろう。アレンはラビと仲間を庇い、救ってくれたが、そのせいで彼女自身はひどく苛められてしまったようだった。見たところ、かなり調教されてしまっているようだった。ひどい目に遭ったのだろう。
「ごめんな、オレらを庇って苛められたんだな」
「……いいえ、僕にも解らないんです。なんであんなことしちゃったのか、家族の為なら何もかも無くなったって構わないって、もう覚悟はできていたんです。自分がこんなに意志の弱い人間だなんて思いませんでした」
「でもアレンには助けられたさ、ありがとな。オレこんな感じだからあんまり特別は作らないんだけどさ、それでもできちゃうもんは仕方ねーし」
「ラビはいい人ですね。すごく優しい人」
 アレンはふっと顔を上げ、少し微笑んだ。気後れして弱々しい笑顔ではあったが、その顔は確かに可愛かった。
「皆さんお元気ですか? リナリーは?」
「うん元気元気、相変わらず可愛い。ユウは――
 アレンと微妙に微笑ましい感触の仲だった(ように見えた)神田ユウの名前を出すと、途端に薔薇の蔦が絡まっていた鋼鉄のアーチがごりっと音を立てて、奇妙なかたちにへし曲ってしまった。どうやらアレンが拳を叩き込んだらしい。こういう人間じゃない腕力を見てしまうと、ああ彼女はノアなんだと思い出してしまう。
「……アレンってユウに何されたん? 何その過剰反応」
「へ? あ、す、すみません、ちょっと考え事を……嫌なことを思い出しちゃって」
 アレンは俯いて顔を真っ赤にしている。おや、とラビは訝しく首を傾げた。こんなストレートな反応が返ってくるとは思わなかった。アレンは頭を抱えて泣きそうになりながら言った。
「神田は悪くないんです。なんにもしてないって知ってます! 解ってるけど、頭では解ってるけどあんなの許せないいい……!」
 どうやらラビの知らないところで何かあったようだ。後で帰ったら当人にそれとなく訊いてみよう。








「じゃあまた」
 ラビは言った。アレンは困惑しているふうだったが、やがて控えめに頷いてくれた。
「……またね、ラビ」
「大丈夫、嘘にはなんねーさ。またアレンの顔見たいし、今度はとっときの面白い話を聞かせてやるからさ。次は逃げねーよな?」
「うっ……できれば、ちゃんとした格好をしている時にしていただきたいです。これすごく恥ずかしいんですよ」
「オレはすげえ似合ってると思うけどなぁ」
「そ、そんなことは……って、また来るんですか!?」
「え、イヤなん? なんか傷つくなぁ」
「じゃなくって! 駄目じゃないですか、貴方そんなことしてたらすごくお友達に怒られちゃいますよ!」
 アレンは幾分慌てた様子で、こんなのいいの?と言った。
「友達は大事にするべきだって父が言ってました。僕らの家に遊びに来たなんて、ぜったいばれないでくださいよ。リナリーがまた悲しみます」
「ん、気をつける。でもアレンも友達だもん。大事にしてやるからさ」
「へ? 僕?」
 アレンはぽかんと口を開けた。どうやら予想していなかったらしい。ラビは苦笑して、「そっけねえなー」と言った。
「オレもしかしてアレンに友達認定されてねえ?」
「え? い、いやいやいや、でも僕ノアですよ? すごく敵なんですけど」
「そーいうの別で。戦争なんさ、しゃーねえよ。ブックマンは中立だからさあ」
「……それすごく卑怯だと思いません?」
「うん、実は自覚ある。すごくある」
「……もうへんなひと」
 アレンは溜息を吐き、気だるげに肩を竦めた。その仕草はいつものアレンのものに良く似ていた。
「気を付けてお帰り下さいね、人間。貴方ちょっとの不注意で、その辺にゴロゴロしてるがらくたに触っただけで死んじゃうんですから。僕が送って差上げたいんですけど、兄に見つかるとまた厄介なことになりますから」
「うん」
「じゃあね、その……友達。……今度は手品を見せてあげます。……みんなの話、たくさん聞かせて下さい」
「うん、了解。元気でアレン」
「はい。死なないで下さいねラビ」
 アレンはぎこちなく笑って手を振ってくれた。
 その姿はすごく可愛かったが、ラビはなんだか背筋が薄寒くなった。なんだかやっちゃいけないことをやらかしてしまった後のような感触だった。後悔と諦めを混ぜこぜにした吐き気がこみ上げてくる。
 アレンは悪い子じゃない。汚れが見えない。世間知らずなところがあり、聞いたことをすぐ鵜呑みにしてしまった。
 もしかするとオレはすごくまずいことをやらかしちゃったのかもしれないとラビは思った。
 武器を持たずに笑顔で近付いていき、怖くないよと囁く。彼女は安堵して微笑む。でも本当は周りじゅう武装した兵隊だらけだ。囲まれている。
 彼女はノアだった。彼女は人間の敵で、人間は彼女の敵だ。
 アレンも戦争に身を置いている者だった。千年伯爵の兵隊だ。駒の一人なのだ。
 敵を殺せなくなってしまった兵士の末路は、これまでラビが記憶している記録上では例外なくすべて、――






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