「ほんとは可愛い子なんです(下)」
(綾×主えろ)
「あ、うん? 君はこれから部活?」
「あれ、望月」
帰り際に廊下ですれ違って、ふと気になって僕は栄時くんを呼び止めた。
彼は毎日忙しい人で、運動部に出たり文化部に出たり生徒会に出たりと、すごくクルクル良く動いてる子だ。一時も止まっていない。止まると息が止まって死んじゃうんです、ってくらいの頑張りぶりだ。たまに無理し過ぎなんじゃないかって、ちょっと心配になっちゃうんだけど。
ともあれ今日は確か、運動部は稼動していないはずだ。彼(の一週間)を追っ掛けるようになってから、この学園の部活動のことには嫌でも詳しくなってしまったから知ってる。でも栄時くんは、人気のない渡り廊下の方へ向かっていく。
「いや、呼び出し……なんか後輩の男子が、今日の授業済んだら更衣室に来てくれって。何だろうな。部活無い日だけど」
首を傾げて「良く分からないんだけど」とか言っている。ああ、まただと僕は悟ってしまう。これだけ頻繁にやらかされると、嫌でも分かってしまうのだ。
(だあれもいない更衣室に呼び出して、この子にナニしようと思ってたのかな)
栄時くんもちょっと無防備過ぎるとは思ったけど、この妖精さんみたいなピュアさはむしろ良いところだと僕は思う。純粋で、このまま生きていくのはきっとすごく大変そうだと思うけど、そこは僕が守らなきゃならない。
まがりなりにも僕はこの子に恋をしていて、身体も心も赦してもらっているんだから(ちょっとのズレは確かにあるんだけれど!)、僕は綺麗なお花みたいな栄時くんに悪い虫が付かないようにちゃんと気を付けなきゃならない。この子は僕が守るのだ。頑張れ、僕。
「あ、僕もついてっていいかな。用事が済んだら一緒に帰ろうよ。君と甘いもの食べに行きたいなー」
僕は、にっこり笑って言った。
「あれ」
更衣室の扉を開けて、栄時くんが首を傾げる。
「帰っちゃったかな。ちょっと遅くなったし」
腕時計を見て、「悪いことしたな」とか言っている。僕はその時、ロッカーの傍に置き去りにされている鞄をこっそり認めていた。多分、栄時くんが来る前にやってきていて、遅いので探しに行ったってとこじゃないかなと見当を付ける。僕はそっと鞄を足で棚の陰に追いやる。
このまま「じゃ、もう帰ろうよ」って切り出しても良かったんだけど、僕はふと良いことを思い付いて、扉を閉めて、どうしたもんかなって顔をしている栄時くんを手招きする。
「ね、ちょっと、こっち」
「ん?」
彼は「どうした」って言いながら、ひょこひょこ僕についてくる。
この子はひどいことばっかりする僕を無心に信頼してくれているようで、ちょっと胸が痛む時がある。僕こそ一番悪い奴なんじゃないかとも思う。彼を大事にしているアイギスさんが僕を駄目だと言うのも理解できる気がする。
悪いことばっかりしてるとは分かってるんだけれど、いつも止まれない。どうしてもダメなのだ。僕は更衣室奥の壁にもたれて、彼にせがんだ。
「しゃがんで」
「?」
「ごめん、お相手願えないかな。なんか、変な気分になってきちゃって」
「え」
栄時くんは一瞬で真っ赤になって、びたっと固まってしまった。今までのクールな顔が嘘みたいに可愛い反応だ。
「……ここで?」
「うん、ここで」
「誰か来たら、」
「来ないんでしょ?」
「でも、」
「いやかな……」
「い、いやって訳じゃ……だって、僕、お前のペットだし」
「うん」
「でも誰かに見られたら、僕なんかとそんなことしてたって知られたらお前が」
「光栄だよ? 僕ホントはみんなに言いふらして回りたいんだもの。この可愛い黒田くんが僕の大事な人なんですって」
栄時くんは呆けた顔で「あ、そう」と頷いて、固まってしまった。彼は彼自身を尊重するような言葉にすごく弱いみたいなのだ。
結局真っ赤になって「うん」って頷いて、僕が望むとおりに更衣室の床に膝立ちになって、僕のズボンのジッパーを下ろしていく。
こういうことをしていると、ああこの子僕のものなんだって思って、すごく幸せな気分になる。
僕は栄時くんをすごく大事にして甘やかしたいと思っている。
でも大好きな子を、こうやって何でも好きにできるっていうのも、男としてすごく気持ちがいいことは確かだ。ごめんなさい、僕は意思が弱い駄目なやつなんです。
栄時くんが、僕の性器を口に含む。
躊躇いは見えない。そろそろこの子も何か吹っ切れちゃったのかなあって、ぼんやり考える。いつもは、初めのうちは「男同士なんて絶対おかしい!」って言いながら、天国のお父さんに謝ったり、「僕は変態だ」ってうずくまって絶望したりしてるのに。
「君、おちんちん舐めるの、好きだね」
笑いながら言うと、栄時くんがひどく恥ずかしそうな顔を上げて、ふるふる首を振る。
でも唇を付けて、僕の性器に愛おしそうにキスをする。素直じゃないなあって思ってると、「そうでもない」って返ってきた。
「……その、望月に触るなら、なんでも。だ、だからこれが特別ってわけじゃ……あ、でも嫌いってわけでも」
うん、すごいズレてる答え。僕は『ああもうこの子可愛いなあ』ってたまらなくなる。この子に全部を理解して欲しくて、やるせなくすらなってしまう。
僕は『クラスでも目立たない嫌われ者の黒田栄時くんの倒錯した嗜好すらも優しく受け止めて愛してあげてしまうご主人様望月綾時』なんかじゃ決してなくて、僕がこの子を抱くのは決して可哀想に思ったからとかじゃなくて、まるで世界中で一番綺麗に光り輝く宝石みたいなこの子に憧れて、どうしても触れ合いたいって焦がれるちっぽけな恋する男だってことに、どうか気付いて下さい。理解して下さい。なんでそんなに被害妄想王。
「望月……は、迷惑か?」
「え?」
「その、舐められるのとか」
「ま、まさか。大好きだよ。僕がして欲しいって言ったんだから、」
「……うん。ありがとう」
栄時くんがちょっと困ったように微笑む。ああ、またこの子は「望月が僕を気遣ってくれている。僕のご主人様はなんて優しい奴なんだろう」とか考えているに違いない。だから、そうじゃないんだって。
「ん……あ、君、けっこー、上手いね」
「……ん、」
頭を撫でてあげて、「すっごくきもちい」って言うと、栄時くんはぱっと頬を赤らめて、嬉しそうな顔になった。まるでご主人様に誉められた犬みたいに――いや、「まるで」はいらないのかもしれない。悲しいことに。
栄時くんはさすがに天才だけあって飲み込みの早い子で、僕が「きもちいな」って感じたところをちゃんとすぐに覚えてくれる。触れ合うたびに、どんどん僕を気持ち良くすることが上手くなっていく。
(……これって、でももしかしなくても、「調教」って言うんじゃないのかな)
げんなりしながら(そして同じくらいドキドキしながら)僕は考えた。ああ駄目だ。このままじゃ僕もその気になっちゃう。理性が限界だ。できるだけ優しくしようって思うのに、栄時くんの身体にいろんな悪戯がしたくてたまらないのだ。僕は紳士なんだから、そんなのは駄目で、ちゃんと優しくしないとって思うのに。
(あれ)
窓の外で、かたんって小さな物音がした。ほんの僅かな音だったけど、僕の耳は確かにそいつを捕らえていたのだ。
(鞄取りに来たのかな)
僕は他人事のように考える。更衣室の奥にいる僕らになんて、注意して探さなきゃそうそう気付くわけもないけど、なんだか視線を感じる。でも咎める気配もない。
(ノゾキとか)
悪趣味だなぁとは思うけど、まあ無理もないかなとも思う。僕は、多分どこの誰かも知らない男子生徒が勇気を振り絞って呼び出して、告白して、もしフラれてもせめて身体だけは手に入れようと画策してた(だってこんな、叫んだって誰も助けが来ないような場所を選んだんだんだから、そういうことだろう)『お相手』にご奉仕させているのだ。
(……あ。ちょっと、気分いいかも)
ざまーみろだって、僕はこっそり考える。綺麗で頭が良くて格好良くてクールで、あんまり凄過ぎて誰も手が出せないこの子は今、僕に跪いて服従してくれているのだ。
僕の言うことは何だって聞いてくれるし、僕だけにいろんな顔を見せてくれる。
この子は僕のものなんだ。もう他の誰のものにもなりやしない。
「――黒田くん、興奮してきちゃった?」
僕は優しく栄時くんに語り掛ける。彼は恥ずかしそうに、でも小さく頷く。僕はわざと、ちょっと意地悪してみる。
「どうして?」
「……どうして、って、そりゃ……望月、好きだから」
困ったふうな答えが返ってくる。ああもうこの子可愛いなあって、本当にたまらなくなってくる。彼の髪を梳きながら、僕は結構辛いのを我慢しながら(だって好きな子にお口でご奉仕なんかされて、たまらなくならない男なんているわけない)、栄時くんに『お願い』した。
「ね、辛いなら自分で触ってごらんよ。あ、おちんちん擦っちゃダメだよ? それ、後で僕がしてあげるから。後ろ、指挿れて。濡らして。できる?」
「ん、……やってみる」
かなり自信が無さそうな顔をしているけど、栄時くんは僕の言うことを従順に聞いてくれる。僕が彼の指を舐めて湿してあげると、ズボンのベルトを外して膝まで引き摺り下ろして、いつも僕がしてあげてるみたいにお尻を指で解し始める。
「あれ、ちゃんとできるの?」
「……いつも、……んっ、望月、やってくれてるから……っ」
「もしかして自分でもやったことある?」
「……え、……いや」
「嘘吐いちゃだぁめ」
「…………ん」
栄時くんはものすごく真っ赤になって、俯いてしまう。でも正直に頷いてくれる。え、ホントにあるんだ。予想外の展開。
「いつ?」って聞いてあげると、ほんとに泣き出しそうになりながらも、栄時くんはぽつぽつ教えてくれた。
「……しゅ、修学、旅行ん時。その……あ、お前、触ってくんなくて、っ……前だけじゃ、その、全然身体熱いの治らなくて、」
「後ろ触って治った?」
栄時くんがぎゅっと目を閉じてふるふる首を振る。うん、だろうと思った。修学旅行の時、ずーっと真っ赤な顔でぽーっとしてたよね。あからさまに「欲求不満です!」って顔に書いてあって、周りの生徒がもう大変だった。悶えたりトイレ行ったり。
「ごめんね……」
「……ん、望月、」
僕の性器にキスしながら、自分のお尻を弄りながら、栄時くんが僕の顔を見上げてくる。
すごく期待してる顔だ。目とか潤んでるし、顔真っ赤だし、身体が震えてるし、この破壊力は本当にすさまじいものがある。
でも僕はつい勢い良く襲いかかりそうになるのを必死に我慢しながら、「なんだい?」ってにこやかに訊く。栄時くんはぐっと詰まって、また泣きそうな顔になる。ごめんなさい、今すぐあやしてあげたいけど、僕は君からどうしてもおねだりされてみたいんです。
「――き、て」
「ガマンできない?」
「ん……」
「やらしいね」
「ご、め」
「こういうことするの、君、好きだよね。もしかして、僕じゃなくてもいいのかな?」
「ちが……! 望月、じゃなきゃ、やだ……」
まさかあの黒田くんにこんなこと言ってもらえるなんて、夢みたいだ。ほんとに夢かもしれない。あんまり可愛いから、苛めちゃってるみたいでごめんなさい。でも一生懸命僕が欲しいって言って、プルプルしてる君は、殺人的なくらい可愛いです。
僕は頷いて、「立てる?」って栄時くんに手を差し伸べる。彼の手を掴んで引っ張って、くるっと立ち位置を入れ替えて、栄時くんを壁に押し付ける。
剥き出しになっている綺麗な脚を片方抱えて、もう片方の腕で彼の腰を抱いて、腰を押し付ける。栄時くんが舐めてくれたおかげですごく張り詰めちゃっている性器を、彼のお尻に押し当てて、少しずつ中に挿入していく。
「あ……あ、ん、……んん、」
「君の、中って、やっぱりすごいね」
初めはちょっとびっくりしちゃったくらい、栄時くんの中はすごい。本当に男の子なのかな、僕が今挿れてるのは本当にお尻なのってくらい、壮絶に気持ち良くてどうにかなっちゃいそうだ。
この子、絶対普通の男の子じゃないと思う。間違いなくお腹の中に子宮があると思う。あったかくって、「おかえり、ずっと待ってたんだよ」って僕を歓迎してくれるふうにきゅうきゅう締め付けてきて、すぐにイっちゃいそうになる。
「お腹の奥まで、たくさん可愛がってあげるからね」
栄時くんがふわっと嬉しそうに笑って、目を閉じて、小さく頷いてくれる。がたん、と窓の外で物音がする。栄時くんがびくっと震えて、不安そうに僕を見上げてくる。彼は僕より幾分ちっちゃいので、僕と目を合わせようとすると自然上目遣いになっちゃうのだ。可愛過ぎる。
僕は「今日風強いからね」と穏やかに言う。
「外に積まれてる備品が落ちたんだね。気にしないで、僕を感じて。気持ちいいかい?」
「ん……お前、の……奥まで、きてて、」
栄時くんは、どうやら僕が腰を進めるちょっとの動きにも感じちゃうみたいで、ぴくっ、ぴくって小さく震えている。この子ほんとにエッチだなあって、胸がきゅんとする。もしかしなくても、これは僕が仕込んだんだって思ってもいいのかな。嬉しくてついニヤニヤしちゃいそうだ。
「き、きもちい……」
「良かった」
腰を動かすと、栄時くんの身体がびくっと跳ねて仰け反った。抜いて、もう一度突き上げる。大好きな人のお腹の奥まで入っていく。ひとつになる。
栄時くんが、バランスの悪い体勢でふらつきながら、僕の首に腕を回す。抱き付いてくれて、じっと期待するような眼差しを僕に向けてくれる。僕は頷く。この子のして欲しいことってのは、ずっと見てるからちゃんと分かるのだ。
唇を合わせて舌を絡めると、彼はたまんないふうに腰を摺り付けてきた。
そう言えばさっき、前は後でちゃんと触ってあげるからねって約束したんだった。辛い思いをさせてしまったなって、ちょっと反省する。
「――ん、んん……!」
言った通りに、キスしながらおちんちんを擦ってあげる。栄時くんは我慢できないって顔で、真っ赤になって眉を顰めている。
触られて余程気持ちいいみたいで、中に入っている僕のをぎゅーっと締め付けられる感触がある。
そんなにされるとすぐにイっちゃいそうなんですけど。
僕は栄時くんのもう片方の脚も抱えて、浮いた身体を抱え込んで壁に押し付ける格好で、強く揺さ振った。
唇がほどけて、彼が悲鳴みたいな声で喘ぐ。
「……っ、は、あ、ああ、ああぁあっ」
頭のてっぺんまで直撃しちゃうくらい色っぽい声だ。薄く開いた唇の端から涎が零れてて、目なんかとろんと熱っぽく潤んでて、この子がこんなすごく色っぽいエッチな顔をするなんて、きっと誰も知らないだろう。
僕だけだ。この子は僕だけのものなんだから、絶対誰にも、
「あ、あ、……ちづ、き、ぼく、を、……っあ、あぁ、」
僕を見てよ、僕を好きになってって栄時くんが一生懸命、すごく不安そうに言う。僕はあんまりこの子が可愛くて、嬉しくてたまらなくなる。
何度も何度も、彼の背中を壁に押し付けるちょっとばかり乱暴な体位で、あたたかい胎内を掻き混ぜる。
粘液が擦れるエッチな音がする。部屋中に響きわたって、栄時くんはいたたまれないような顔をしているけど、どうやら気持ちいいって感じる気持ちのほうが優先されたのか、必死に僕にしがみ付いて可愛い声で鳴いてる。
「あ、すご……っ、んっ、出して、い……?」
「うっ、あっ、ん、んっ、」
頷いて、目を閉じて、身体全部でぎゅーって強く抱き付いてきた栄時くんの中でイっちゃって、いっぱい精液を吐き出す。彼の中を僕でいっぱいに満たすことができるって、すごく幸せなことだと思う。
こないだ、今月はじめに誕生日だったんだって話をしてると、順平くんが誕生日プレゼントだって言って、コンドームを一箱プレゼントしてくれた。男としての約束事、らしい。
わあありがとーって喜んで受取ったもんだけど、僕は栄時くんの中に入る時は、ちゃんと素肌で触れ合って、中にいっぱい出したいと思う。
僕は多分この子を孕ませたいのだ。彼のお腹の中で僕の欠片を育んで欲しいんだと思う。
この子はまぎれもなく男の子だけど(おっぱいがない)(おちんちんだってちゃんとついているし、擦ると気持ちいいって泣いちゃう)(僕と繋がるのだってお尻でだし)、もしそのうちこの子のお腹がプクッと大きくなっちゃって、赤ちゃんがデキちゃったとしても、僕はきっと全然驚かないと思う。それがすごく自然なことだと感じる。何でだか分からない。
他の男子となんて手を触るって考えるだけでも気持ち悪いのに、僕にとってこの子は本当にいろんな意味で特別な人なのだ。
栄時くんもイッちゃって、僕にしがみついた格好で、お腹を、シャツを、僕の服を盛大に汚しながら、恍惚の表情でびくびく震えている。
ああたぶんこの子もすごく身体が寂しかったんだって思った。
僕らはなんというか、二人でこうして繋がっているのがデフォルトって感じがする。やらしい意味でじゃなくて、いややらしくない訳がないんだけど、そういうふうに感じる。
「きれいだね」
僕はしみじみ言う。栄時くんがふっと、笑っているのか泣いているのかわかんない顔になる。僕は彼の唇にキスをして、精一杯の愛しさを込めて笑い掛ける。
「愛してるよ、大好きだよ」
僕はこの子が好きで好きでたまらない。優しくして、我侭何でも聞いてあげて、大事に大事にしてあげたい。でもどこにも行って欲しくない。誰かと話したり、絆を深めたり、僕の知らない子に笑い掛けてあげたりして欲しくない。
僕はこの子が僕だけのものになってくれるように、首に可愛い赤い首輪を付けて、僕の部屋のベッドに繋いで、大事に大事に仕舞い込んでおきたい。僕だけ見て、僕だけに笑い掛けて、身体を赦して、僕だけのものになって欲しい。
僕はいつかこの子をペットみたいに部屋に閉じ込めるだろう。閉じられた狭い世界の中で、僕は彼を大事に大事に扱って、言うことを何でも聞いてあげて、何より優しくするだろう。
「今晩も、たくさん可愛がってあげるね」
栄時くんはまだまだぽーっとしているけど、うっすらはにかんで頷いてくれた。その顔はすごく可愛かった。
この子が僕だけのものになってくれるって言うんなら、僕はご主人様にでも皇様にでもなんにだってなるだろう。
ぐちょぐちょになっている身体を、なんとか外を歩けるくらい綺麗にして、僕はフラフラのぐだぐだになってる栄時くんを支えてあげながら帰途につく。
更衣室を出しなに窓の下、棚の陰に、血だまりのなかに倒れ込んでいる見知らない生徒とダイイングメッセージ(『望月殺す』と書かれていた)を見付けたけど、僕は知らないふりを決め込みながら、何気なく栄時くんに目隠ししつつ、すっと通り過ぎる。
「今日はいっぱい意地悪しちゃってごめんね」
僕は栄時くんに申し訳ない気分だった。身体だって無理をさせた。冷たい壁に押し付けたせいで、背中がすごく冷えちゃってた。棚に擦れて脚にも擦り傷ができていた。
でも栄時くんはふるふる首を振って、「いいよ」って言ってくれる。この子は僕が何をやったって怒らない、すごく優しい人だ。
僕は「君のこと、大事にするからね」って言いながら、栄時くんの手を両手でぎゅっと握って、そのまま手を繋いで、もう暗くなった空の下、少し肌寒い大気の中を歩いていく。
<< ◆ >>
|