「黒田の日記(十一月)」
(主日記)
十一月十三日(金)
一夜の過ちを犯してしまった。もう死にたい。
朝起きると隣に裸の望月がいて、「昨晩は可愛かったよ」とかイイ笑顔で言われてしまった。尻が痛い。
僕も望月もまっとうな嗜好をしていると思っていたのに、これは一体どういうことだ。絶対おかしい。絶対おかしい。
きっとドッキリか何かに違いないと思っていたら、僕がなんにも覚えていなかったことが気に食わなかったのか、朝から身体に思い知らされてしまった。男に尻にちんこ突っ込まれて、なんで僕のクールフェイスなアイツが勃起するのか、本当に理解できない。誰か助けて欲しい。
中で出された上にイってしまった。
僕は人に言えない性癖を持っていたらしい。死にたい。
昨晩僕に迫られてしまったらしい望月には本当に申し訳ないことをした。なんでペルソナで人の記憶を消せないんだろう。
というか、必要に迫られたら男の相手までしてしまう望月は、なんかすごいやつだ。尊敬する。
十一月十四日(土)
できるだけ何でもないふりを装って一日を過ごすことにする。でも視界にチラチラあの黄色いマフラーが入って、なんにも手につかない。
望月は相変わらず女子にモテモテだ。今日も何人もの女の子とデートの約束をしているらしい。僕なんかその他大勢にすら入らないだろう、男だし。
「身体大丈夫?」って聞かれたので、「うんまあ」と適当に濁しておく。お前見てドキドキしてましたなんて言ったら絶対ヒかれるに決まってる。
「明日空いてる?」って訊かれたので「うんまあ」と曖昧に答える。どうせ僕はお前みたいに華やかにデートの約束なんかありやしないよ。ネットゲームで悪魔狩って終わるんだ。
とかなんとかひがみっぽいことを考えていたら、「会える?」って誘われてしまった。お前いいのかよ。僕は男に欲情してしまう変態なんだぞ。お前まで汚れるぞ。
十一月十五日(日)
朝一番から白河通りだった。地味に凹む。
ラブホにチェックインするために女装させられ、そのまま着衣プレイというなんだかマニアックなことになってしまった。まあ望月的には、視覚的にいろいろ折り合いを付けられてこっちのが良いのかもしれない。
生まれて初めて大人の玩具というものを見た。触った。突っ込まれた。新しい世界を見たくもないのに見てしまった。
着実に性奴隷としてのランクが上がっていく気がする。
望月には僕の変な嗜好に突き合わせて本当に申し訳ないと思っている。友人なら普通止めるところだろうが、こいつは全部受け止めてくれる。大らかすぎる。お前はまるで海のようだ。僕はお前の奴隷にならなってもいい。
十一月十七日(火)
修学旅行一日目。みんながいるから、変なことはできない。
でなくて、しっかりしろ僕。何えろいことばっかり考えてんだ。
十一月十八日(水)
二日目。歴史名所巡り。写経をやった。煩悩よ消え去れ。
十一月十九日(木)
三日目。もうだめだ からだあつい くるしい
十一月二十日(金)
最終日。夫が単身赴任で欲求不満の人妻の気分だ。いや、相手がすぐそばにいるだけ余計に辛い。
身体が熱くてぼーっとしていると、「黒田! オレを慰めてくれ!」「栄サマっ、そんな顔されちゃたまんねッス! 絶対気持ち良くするッス!」とか言われた。僕が苦しんでる時に変な冗談言うな。
「あれ、熱あるの? 風邪ひいちゃった? 大丈夫?」って望月が連れ出してくれたんだけど、優しくされると申し訳なくなってくる。病気とかそんなじゃなくて、ただの欲求不満です、すみません。
「身体熱いガマンできない」って泣き付くと、トイレに連れ込んで抱いてくれた。どうやら望月も溜まってたらしく、いっぱい中で出された。
正気に返ってから、僕はいつのまにか男に抱かれなきゃ生きていけない身体になってることに気付き、絶望する。僕はもうだめだ。
「みんないるとこであんな顔してちゃだめだよ!」って望月に怒られてしまった。良くわからないけどすみませんでした。
十一月二十一日(土)
放課後男に告られた。「修学旅行中の物憂げなあなたの瞳に欲情しましたッ! 絶対満足させるので抱かせてください! 僕のものになってください!」って押し倒されてちんこ擦り付けられた。
まあ変態は変態同士でじめじめとまさぐりあってればいいんじゃないか、望月もいつまでも僕に付き纏われちゃ迷惑だろうし、って頑張って考えてみたけど、やっぱりだめだった。
気持ち悪い。まず生理的に受け付けない。え、なんだこれ。僕は男が好きな変態じゃなかったのか。
やだやだ望月たすけてたすけてって泣いてたら、パイプ椅子を抱えた望月が颯爽と現れて助けてくれた。お前は僕のヒーローだ。
どうでもいいけど、僕に告ってきたこの男死んでるんじゃないか。パイプ椅子で殴られて動かないんだけど。
はいはいよしよし怖かったねって慰められて、また泣き付いてしまった。望月はいいやつ過ぎる。
僕はたぶんこいつのことがすごく好きなんだって思って、どさくさにまぎれて「好きだ」って告ってしまった。「うん僕もだよ」ってあっさり返された。
あっさり過ぎてなんか流された気分もするが。そう言えばこいつはたらしだった。無理もない。
十一月二十四日(火)
体験学習で段ボール箱を運び続けた。そしてオッサンに尻を触られ続けた。なんかもう社会に出たくない。
十一月二十八日(土)
寮に帰ったら岳羽に「最近綺麗になったね」って言われた。僕にどういう反応をしろと。
「最近お肌もすごい綺麗だね、なんか秘訣あんの?」って訊かれたけど、最近特にやってることって言ったらエッチしたり精液飲んだりしてるくらいだ。黙秘。
十一月三十日(月)
朝から教室で望月が真面目な顔をして何を読んでいるのかと思ったら、結婚情報誌だった。「指輪はどんなのがいいかな?」とか「子供はやっぱり野球チームが作れるくらい欲しいよね」とか、真顔で僕に言う。
僕は男だからたぶん子供できないぞって言っても、「君ならできるよ。そんな気がする」って自信満々に頷かれた。その根拠はどこから?
お腹に耳を当てられたり指のサイズをはかられたりしていると、クラスメイトの男子に「お前ら付き合ってんの?」と訊かれた。答えあぐねていると、望月がけろっとした顔で「今更でしょ」とか頷いている。お前女子に刺されるぞとひやひやしていたら、意外なことにそうでもなくて、「望月×黒田ー!!」と大喝采だ。
『かける』ってなんだ?って岳羽に聞いたら、「キミは知らなくていい」って言われた。
アイギスが今にも殺しそうな顔で望月を睨んでいる。一体どうしたって言うんだろう。
教室の後ろで友近と宮本がなんでか男泣きしていた。
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