ょっとだけずれた日々(7)




 検査結果は相変わらずひどいものだったけど、僕はとても元気だった。ごく普通。ドクターがたは、僕はもう普通に歩いたり喋ったりできるはずがないのにとみんな首を傾げていた。
 今日はクリスマスイヴだ。僕は外出許可を貰って、学校の授業が終わるまで病室でごろごろしていた。二度寝なんかは大好きなのだが、こうも寝かされてばかりだとさすがに飽きてくる。
 綾時は、最近また毎日僕を訪ねてきてくれる。今日も放課後病院まで迎えにきてくれるそうだ。嫌になるくらいに女子にもてる彼が、デートの約束を全部断わって僕の面倒を見てくれるってのはひどく申し訳ないんだけど、まあ嬉しいと思う。とても。





 巌戸台分寮に戻るのは、二週間ぶりくらいだったと思う。カウンターの上で名簿に名前を書くのもすごく久し振りだ。
 そう言えば冬休みからは綾時もこの寮で暮らすことになるんだなと思うと、なんとなくくすぐったい気分になる。彼はきっと僕の部屋を宛がわれて過ごすことになると思う。僕がこんな妙なことにならなきゃ冬休みは大分楽しいものだったろうに、残念だ。
 ラウンジでは山岸と天田が輪飾りを作っていた。結構本格的にやるんだなと僕は感心してしまった。ツリーも出してある。
「あ、おかえりなさい二人とも」
「ただいま、風花さん。……って言っても良いのかな? ちょっとフライングだけど」
「いいんじゃないのか。ただいま、久し振り」
「なんだ、リーダー元気そうじゃないですか。美鶴さんが深刻な顔をしてるからどうなっちゃうんだろうって心配してたんですよ」
「ああ、うん」
 僕は頷いて、「そうなんだけど」と言う。桐条先輩は、どうやら誰にも僕の身体のことを知らせてはいないらしい。僕がS.E.E.Sを辞めたことも、もうリーダーなんかじゃないことも。山岸はもしかしたらなんとなく悟っているのかもしれないが、彼女も天田と一緒に微笑んでいる。
「他のみんなは?」
「順平くんは買い出しです。真田さんは走り込みに……いつものアレですね。桐条先輩は、まだ帰ってきてないです。ゆかりちゃんは奥でケーキ作ってますよ、クリスマスケーキ」
「ゆかりさんの手作りケーキ! 素晴らしいね。僕ここの寮生になれたらなって夢にまで見てたんだよ」
「叶って良かったじゃないか」
「うん。一番の夢は君をお嫁さんにすることなんだけどね」
 綾時はたまにさらっとすごいことを言うから困る。僕が固まっていると、天田がにこやかに「じゃああなたの息の根を止めて、もう二度と夢も見れなくして差上げましょうか?」と言った。彼もさらっとすごいことを言うから困る。
「帰ったぞ」
「ああ、おかえりなさい。あれ、順平も一緒ですか」
「途中で拾った。しかし、チキンか……俺としては牛丼が良かったんだが……」
「真田先輩、チキンを食べると素早さが上がるそうですよ。牛肉は攻撃力で豚肉は耐久です。野菜はSP」
「なんだと!? それではまんべんなく食わなきゃならんじゃないか」
「まんべんなく食って下さい。順平、悪い。買い出し手伝えなくて」
「病人はおとなしくしてろって。オレっちいまだにお前が本当に病気だってのが信じらんねんだけど。おお、これで全員揃った? って、桐条先輩がまだか」
 それから間もなく、桐条先輩も帰ってくる。どうやら生徒会の仕事を片付けていたらしい。僕も一応生徒会役員なので、「手伝えなくてすみません」と謝る。「いや」と先輩は首を振る。ちょっとよそよそしかったかもしれない。
「久し振りに全員揃ったな」
「ほんとッスね。一人妙に存在感ないようである奴がいなかったから、最近締まらなかったしなー」
 順平が僕の腕を引っ張り、肩を組んで、拳の骨をぐりぐりこめかみに押し付けてきた。「やめろよ」と僕は言う。「ほんと、やめなよ」と綾時も笑って言う。順平はなんでか引き攣った笑顔で「すみません」と謝る。
 それからノンアルコールシャンパンで乾杯して、久し振りに顔を合わせたメンバーと楽しい時間を過ごす。




◆◇◆◇◆




 「置いてかないで」と僕は必死に言う。綾時がそばにいなきゃいやだ。ペルソナもシャドウもS.E.E.Sもストレガも、世界の存続も滅びも、記憶の有無もどうでもいい。「全部あげるから」と僕は言って、泣きじゃくる。
 十二月二日、僕の普通は壊れた。それまで行儀良く誰かの言うことを聞いて、やりたくもないことをやってきた。十年間ずっとだ。それが僕の日常だった。楽しいとか悲しいとか考えたことは無かった。
 でも、もう一度綾時に会えた。記憶が還ってきた瞬間に、僕の十年は罅割れ、砕け散った。
 まったく無意味な人生だった。生きている意味なんか無かった。
 大好きなお父さんもお母さんも僕のせいで死んで、なんで僕は生きていられたんだろう。
 記憶さえ奪われなければ、僕の人生なんてものは、もう十年前に終わっていたはずだ。きっと何でもない顔をして生きてはいけなかっただろう。
 だって僕がお父さんを殺した。
 僕はお母さんを守れなかった。
 全部僕のせいだった。
 今は、また綾時とアイギスにひどいことをしている。
 僕は綾時を探していた。「僕も一緒に連れてってよ」と言いたかった。
 それがどこだって構わなかった。死者の国でも、タルタロスでも。僕はそれで死んでしまったって、シャドウになったって、構わなかった。元はと言えば全部僕のせいなんだから、僕はこんなところで普通に人間やって生きてちゃいけないような気がする。
 僕はもう一度あのムーンライトブリッジへやってきていた。何度も僕の世界を終わらせたこの場所は、冷たく空気を凍て付かせ、夜の闇の中に佇んでいた。
 遠い海を覗き込む。そして手摺りに足を掛ける。
 今の綾時が死神なら、死んだらもう一度会えるんだろうか。僕は今まで、死んだらなにも残らず、灰になって消えるもんだと思ってた。まさか死神なんてものがほんとにいるなんて思わなかったのだ。
――おいなにやってんだ馬鹿、降りろって、落ち着けよ!」
 順平の声が聞こえる。どうやら僕を追い掛けてきたらしい。さっき僕を罵ったことを、彼なりに気にしてのことなのかもしれない。
 僕は彼に「ごめんな」と謝った。なんだか滑稽で、笑えてきた。
 僕は何なんだ。なんでこうもやることなすこと裏目に出ちゃうんだろう。なんでいつもいつも綾時を泣かせちゃうんだろう。
 「お前の言う通りだよ。全部俺のせいなんだ」と僕は言う。
 「十年前に死んでれば良かったんだ」と僕は言う。
 そして腕を広げて、なんにもない背後の闇に向かって倒れこむ。遠くの海は真っ暗で見えない。
 あいつらは海に飛び込んでも生きてたけど、僕はここで終われますようにと考えた。
「綾時、ごめん」
 足が手摺りを離れ、僕の身体は一瞬ふわっと滞空する。
「僕なんかがあなたの子供で、ほんとにごめんなさい」
 順平が僕の名前を呼んで、手摺りから身を乗り出し、腕を伸ばす姿が見えた。





『本当に、君はそれでいいの?』





 綾時の声が聞こえる。僕は頷く。
 だって全部僕が悪いのだ。僕なんかいなくなればいい。最期に一瞬だけでももう一度綾時に会えるなら、それで良かった。
 僕のせいで死んで、今はひどい役割を与えられてしまった綾時はもう、僕なんかの顔も見たくないかもしれないけど。
 綾時は僕を置いて消えてしまった。
 僕は、たぶん棄てられたのだ。





『君は、本当にそんなことを望むの? 君が欲しがっている最期の時間ってのは、ほんとにそんなものなのかい?』





 僕は、自分が望むことなんて良く分からない。
 多分、僕は世界中で一番ひどい死に方をしなきゃならないんだと思う。綾時を不幸せにした。彼を悲しませた。





『僕じゃない、君のことを考えるんだ。君自身のことだよ。まだ時間はあるんだ』





 腕を掴まれる感触がある。





『何もかもが痛いなら、全部忘れさせてあげる。君は幸せにならなきゃいけない。それが僕の望みだ。僕のことを愛してくれるなら、もう泣かないで。笑って。最期の日までに、一度でいいんだ。生きてて良かったって、僕の子供で良かったって言って』





 僕は貌のない死神を見た。仮面の目も口も、がらんどうの空洞だった。でもすごく悲しそうだった。きっと泣いてるんだろうって、僕には分かった。





『もうやめなさい、ちびくん。ごめんね。パパは君を世界中で一番愛してるから』





 綾時が僕の頬を指で擦り、涙を拭う。





『君のいつもどおりを返してあげるから、また明日も僕に笑って』





◆◇◆◇◆






 二週間もほったらかしておいたから、随分埃が積もってることだろうと思っていたが、僕の部屋は綺麗なものだった。相変わらず物がない。
「もしかして、掃除……」
「うん、したよ。君の部屋、ほんとにまっさら。エッチな本とかないよね」
「探すなよ。別に、順平がなんか押し付けに来るくらいで」
「君も抜いたりするの?」
「そりゃ、子供じゃないし」
 僕はちょっと居心地悪くなりながら、頷く。
 綾時は僕の部屋に泊まる気満々らしい。「君に何かあったら心配だからね、ずっとついてる」と言う。彼は、ちょっと過保護だ。悪い気はしないけど。
「サンタさん来るといいね」
「どうかな。寝たふりしとかないと首を狩られるから気を付けろよ」
「……それどこのサンタさん? うーん」
 綾時は首を傾げながら、「まあ座ってよ」と僕をベッドに座らせた。まるで綾時の方がこの部屋の主みたいだ。僕は苦笑しながら、おとなしく頷いておいた。
「冬休みに越してくるって?」
「うん。ここにね。君の部屋に。前に言ってたよね、僕君と一緒に暮らしたいんだって。こんなに早く叶うとは思ってなかった。ほんとなら喜ばなきゃなんないんだろうけど」
 綾時は困ったように微笑み、僕を抱き締めた。彼は、僕の身体についての話をあんまりしない。やっぱり誤診だって思ってるのかもしれない。だって僕はこんなに元気なのだ。普通なのだ。
「影時間とかシャドウとかペルソナとか、いきなり言われて大丈夫だったか? 不安になったりはしてないか?」
「ああ、うん。なんだかね、僕良くわかんないんだよ。この街に来てから不思議なことは結構あったんだ。夜中に気がつくと知らない場所にいたりね。だから僕、もしかしたら夢遊病か何かなのかなってちょっと心配だったんだけど……」
「俺それ知らない」
「だ、だって君に変な奴だって思われたくなかったんだもの。そんなの僕、お終いだ、君に嫌われたら。で、でもなんていうか、そうじゃないって分かって良かった。実はね、影時間……って言うの? その間のことって、僕覚えてないんだ。そういうのがあるって聞かされて、ああそうなんだあって思って、それだけ。適応初期の記憶障害と混乱だって言われたんだけど……えーと難しくて良くわかんないんだけど」
「うん。順平が、妙に貫禄あるって言ってた」
「貫禄かあ……君に格好良いって言ってもらえるかな」
「無理だろ。お前はお前な訳だし」
「ほらもう、君はいっつも僕をそうやって馬鹿みたいに言う。ぼ、僕だって格好良いんだよ? ほんとだよ」
「はいはい」
 僕は綾時の頭を抱き締めてあやしてやった。彼は「もう」とふてくされたような声を出して、僕をベッドに押し倒した。
「あのね、鍵掛けたから」
「うちの部屋、監視カメラ付いてんだけど」
「ああ、あれね。掃除してる時につい手が滑って」
「……桐条先輩に怒られるぞ」
「美人に怒られるなら、大歓迎だよ」
 綾時はにこにこ笑って言う。こいつって、もしかしたら結構我侭な奴なのかもしれないなと僕は考えた。金持ちの一人っ子だし、そんなもんなのかもな、と思った。
「栄時、エッチしたい」
「うん……いいんじゃないか」
 僕は頷く。結構良い所まで行っておいて、誰かに乱入されて邪魔されることが多かったから、今日くらいは何にもないといいな、と考えた。
「服、脱いでくれる?」
「うん」
 僕は頷く。僕がジャケットを脱いで、セーターをたくしあげていくところを、綾時はすごく幸せそうな顔でにこにこしながら、じいっと見つめている。正座している。彼はほんとに良く分からない。
「脱がしてあげたいんだけど、君が僕のために服を脱いでくれるっていうのも、すごくいいなあ……」
「べ、別に服くらいいくらでも脱ぐけど」
「触るよ。いい?」
 僕は頷く。綾時が、パンツまで脱いで裸の僕を、ベッドの上でぎゅうっと抱き締める。少し震えている。こいつはいつもなんだかプルプルしているなと僕は思った。風呂に入れられたコロマルみたいだ。
「君の心臓の音を聞くとすごく怖くなるよ。すごく危なっかしくって、今にも止まりそうで」
「まだ動いてるよ」
「うん」
 綾時は頷く。そして顔を顰めて泣きそうになる。「ごめんね」と言う。
「辛くない?」
「うん。お前も服脱げって」
 綾時のマフラーを解いて、シャツのボタンを外してやる。彼の服は脱がせにくい。めんどくさい。
 そうして二人でベッドに倒れ込んで、裸で抱き合った。綾時のやつは、相変わらず体温が低い。前は僕とおんなじくらいだったのに、僕は訳の分からない寂しさを感じた。
 キスされながら胸とか腹とか触られて、すごく気持ち良いと思う。僕は触られるのが好きだ。まあ綾時限定だと思うけど。昔は、誰かとちょっと肩が触れるだけでもすごく嫌だったのだ。
 綾時の触りかたはすごく優しい。初めて僕を抱いた時よりも、もっと穏やかな感じ。大丈夫かな、壊れないかなっておっかなびっくり触っているみたいだ。
 僕は苦笑して、「大丈夫だよ」と言う。でも綾時は「うん」と頷いておきながら、その触りかたを止める気配はない。くすぐったい奴だ。
 胸を舐められて、変な気分になってくる。この辺りから、ただじゃれてるって感じじゃなくなってくる。息の仕方が分からなくなってくる。たまに呼吸が詰まって、「ひ」とか「ん」とか変な声が出る。
 それも綾時が僕の性器をきゅっと握る頃になると、そんな控えめなものでは済まなくなる。
「ふ、あぁっ、りょ……」
 親指で、先っぽをくるくる円を描くように擦られる。竿の部分を扱かれる。
 そうすると、身体が仰け反る。綾時はすごく真剣な顔をして、僕を見ている。
「気持ち良いんだね」
「んん……っ、いい、って言うか、きつい、これ」
「苦しいかい?」
「りょ……じ、なんか、僕の気持ち良いとこばっか、触るからっ」
 綾時がちょっと笑って、「君可愛い」と言う。なんか腹が立ってきた。なんでこういう時だけそんなに余裕があるんだ。いつもは情けない男代表のくせに。
「ん」
 細くて、白い冷たい指が、僕の腹の中へゆっくり入ってくる。僕は息を詰める。
「息、ちゃんと吐いて。硬くならないで。大丈夫だから」
「……ん」
「栄時、手、貸して?」
 僕は頷いて、身体が震えるのが情けなかったけど、綾時に腕を差し出した。彼は僕の中を広げながら、僕の手を取って、「君も自分の身体のなかを触ってみて」と言った。
「え」
「僕と一緒にね、指挿れて。君のなかのどこがきもちいかって知って」
「ちょ、綾時っ」
 僕は真っ赤になって、そりゃないと言おうとした。でも綾時は真面目な顔をしているから、ここで恥ずかしがってる僕の方がおかしいみたいな気分になってきた。僕は頷く。
「……ん」
 綾時の手が、僕の手を導く。一緒になかに指を挿れる。
 なんだか温かくてとろとろしてて、変な感じだった。綾時はここに挿れると気持ちがいいのかなと思い当たって、僕は真っ赤になった。あんまり恥ずかしくて死にたくなる。
「指、動かすよ」
 指をくっと曲げられる。途端に、くちゅ、って濡れた音がして、背中がぞわっとした。
「君も一緒に」
「んっ、ん」
 僕は頷いて、綾時の言う通りにする。きついけど気持ち良くて、性器に血が集まっていく。硬くなる。
 尻の中を二人で触って前を大きくしてるってのは、正直なところどうなんだろうって思ったけど、僕は何と言うか綾時とならどんな恥ずかしいことでも大丈夫って、根拠もなく思うのだ。一月ちょっと前の僕が知ったら、多分グーで殴られる。
「おちんちん大きくなってきた。気持ちいい?」
「うう、りょ、触って……」
「あ……う、うん。そうだね」
 綾時が空いた手で、僕のもう片方の手も取って、一緒に性器を掴む。擦る。あんまり気持ち良くて、僕は口を大きく開けて空気を呑み込んだ。息が上手くできない。
「あ、あっ、りょおじ」
「うん。もっと強く触っても平気?」
「ん、あっ、あ、あぁ」
 片手で性器を擦りながら、もう片方の手で尻の中を弄って、それがあんまり気持ち良くて、僕はじきにイッて、精液を吐き出してしまう。
 そこでふと気付いた。綾時は僕を組み敷く格好で、ベッドにぺたんと座り、ぽーっとした顔で僕をじっと見つめている。いつのまにか彼は僕から手を離していた。
 僕は赤くなる。ということは、僕はちょっとやりすぎなくらいに激しい自慰を綾時に見られてたってことになるんじゃないだろうか。
 そりゃ途中までは一緒に触ってくれてたけど、一人で尻の中と性器を弄りながら喘いでイッちゃうところを、一部始終彼に見られていたのだ。死にたい。
「ひどい……」
「すごい……君、すごい、綺麗」
「みじめすぎる……あんまりだ……」
 げっそりしていると、軽く片足を抱えられた。尻に硬い感触が当たる。綾時の性器もすごく張り詰めていて、大きくなっている。あれ尻に挿れられるんだと思ったら、緊張だか欲情だかでこくっと喉が鳴った。
「すぐにもっと気持ち良くしてあげるから」
 僕は頷いて、震えながら息を吐いた。綾時が僕の中に入ってくる。
 身体が軋む。ベッドカバーに爪を立てて、シーツに噛みついて、痛みをやり過ごす。
「う……あ、うぐ、っ、ひ……」
「ごめんね、きついよね。ちょっとだけ我慢して」
「ん……へいき、だ、から、っ」
 彼は僕の太腿を片方脇に抱えて、何度か腰を動かした。初めは大分きついけど、じきに馴染んでくると、痛みはなくなる。身体中がとろとろ潤んでくる。融けそうになる。
「あ、あ、りょうじ、」
「よくなってきたの?」
「ん、痛く、なくなって、きた……あっ」
「良かった。いっぱい、声出して。聞かせて」
 綾時は無茶を言う。ここは僕の部屋で、寮の中なのだ。ラブホテルなんかでは決してない。変な声なんか聞かれたらたまらない。
 だから頭を振ってダメだって言うんだけど、綾時は全然遠慮なく僕を貫いて、突いて、気持ち良くするものだから、どうしてもよがって喘いでしまう。ばれたらどうしよう。みんなの記憶を消せるペルソナが欲しい。
「りょうっ……ふ、ぁっ、きもち、いい、っ」
「ん、僕もっ、きもちいよ。君のなかって、なんでこんな、たまんなくなるんだろ……」
 綾時は僕の気持ちが良いところばっかり突いてくれるから、なんだかおかしくなりそうだ。
 股を開いて、手の指を絡めて、僕が気持ち良いって感じてるところを全部見られながら、何度も何度も腹の中を擦られる。綾時の性器が僕の中へ呑み込まれていくところを見る。
 これはちょっとやりきれない。恥ずかしい。でもいつしか、恥ずかしいなんて言ってられないくらいに気持ち良くなってきて、勝手に腰が揺れはじめる。
「いい、のっ?」
「あぁ、あん、りょ……っ、いい、のっ、きもちいのっ」
 舌が回らなくてまともに喋れない。今の僕はほんとにぐだぐだでどうしようもないと思うんだけど、「かわいい」と綾時は言う。
「あ……!」
 うつ伏せにされて、後ろから貫かれる。一緒に性器も擦られて、僕は背中を逸らせて喘いだ。またイッてしまう。僕はちょっとさっきからイカされてばかりだと思うんだけど、綾時が動き出すと、また感じて勃起してしまう。グダグダだ。
「あ、あ……!」
 僕の腹の中で、綾時が射精する。あったかくて気持ちが良くて、僕は震える。
「孕んで」
「んっ」
「僕を、君のお腹の中に入れて」
「りょおじ……っ、もっと、なか、出して」
「僕の赤ちゃん産んで、栄時」
 僕は頷く。僕は男だから大分難しいと思うんだけど、できるなら綾時の子供なら産みたいと思う。
 ぐっと腰を抱かれて、向かい合わせに座らされた。綾時がほっとしたように、にこっと笑った。僕もおんなじように笑う。
 それから彼の腹に跨って、胸に手をついて、一生懸命腰を動かした。何度も何度も何度も、彼の子供を腹の中に植え付けてもらう。
 ああほんとに妊娠しそうだと、僕は思った。





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