突き刺されて、それで終わり、というわけではなかった。
具合を確めるように中を乱暴に擦られて、リュウは息を詰めた。
「……がっ、あっ!」
「もっと色っぽい声出しなよ、オリジン様。顔は可愛いんだからさ」
「や……ぐうっ、」
生きながら身体をめりめりとふたつに裂かれているような激痛が、腹の中まで襲ってくるのだ。
リュウは顔色をなくして真っ青になった。
いやな汗が額を伝った。
男は無造作にリュウの腰を抱えていた。
何の重さも感じていない様子で、また、リュウを抉った。奥まで、深く。
「……ああっ!!」
「いい声上げるね。ホントに死にそうな感じが、すごく出てるよ」
男は感心したように、片方手を空けてリュウの髪を撫でた。
リュウはおぞましく、離せ、と頭を振った。
「……おれに……さわるなっ!」
「オリジン、残念ながらご命令には従えません。どうしても嫌なら逃げたっていいけど。頑張ってみれば?」
どうでも良さそうにそう言って、男は次はリュウの頬に手を当てた。
リュウの神経を逆撫でして、それを楽しんでいるふうである。
乱暴に、力任せに、リュウの身体など知ったことではないとでも言うように、男はリュウのなかを擦った。
突き上げられ、奥のほうにぶち当たるたびに、本当にそのひとつひとつが致命傷にでもなるのではないか、という痛みがリュウを襲った。
加えて死ぬ程、いや死んだほうがましだというくらい、どうしようもなく気持ちが悪い。
男相手にこんなことをするなんて、尻を女性器の代わりに使って犯すなんて、その男のやることなすことすべてが信じられなかった。
そしてリュウは、抵抗もできずにそんなふうに男に犯されている自分というものも信じられなかった。
生理的嫌悪と恐怖が、極限までリュウを不安定にしていた。
「あああっ、やめろ、汚い、汚い……!」
リュウが悲鳴を上げても、男ははなから無視を決め込んでいた。
いや、楽しんでいる。リュウを見ながらにやにやしているのだ。
「なんで、こんなことするんだ……?!」
「俺がどういうつもりでもさ、オリジン様。オマエがどうにかなるって訳でもないだろ。 愛してるよって言ったら、喜んで脚開く? 憎くて仕方ないからって言ったら、オマエどうする? どっちにしても泣いてるだろ。どこの誰だかわかんない奴に犯されて何言われたって、汚い、やめろってさ。じゃあ変わりゃしないよ」
突っ込んだり、抜いたり、そういうことをずうっと繰り返されていた。
内臓を捏ね回すみたいなぐちゅぐちゅした音が、ひっきりなしに無理矢理繋がっている部位から零れている。
そこは粘液にまみれて、ねばねばとしている。
リュウは気がおかしくなりそうだった。
「……うあぁあ……」
痛み、痛み、どこまで行っても、それは痛みと不快さをリュウに植え付けて、身体を汚していた。
「……オマエ、中はすごくいいよ。ほんとにさ、男のくせにいい感じ。でも、さ……」
男は、そこで呆れ果てたようにリュウを見た。
リュウの縮こまっている性器を摘んだ。
指先で捏ねながら、彼は言った。
「おまえ、ちっちゃいままだね。不感症じゃないの? もうちょっと興奮してもいいんじゃないか?」
そして、男はまたわけのわからないことを言った。
「せっかく俺が触ってやってるのにさ」
リュウはもうほとんど何も聞いていなかった。
ただ頭の中、目の前、身体の芯が真っ赤に染まっていた。
それは血の色だった。
おれ、死ぬのかな、とリュウはぼんやりと思った。
男に犯し殺されるなんて、こんな汚い死に方をするなんて、まさか思いつかなかった。
抜き差しされるのがどんどん早くなっていって、ほどなくリュウの中でどろっとした、熱いものが生まれた。
「……あ……」
リュウは弛緩したまま、それを感じていた。
それは、きっとその男の精液だった。
腹のなかに注がれ、流し込まれていた。
沢山、中だけで収まりきらずに零れてくるくらい、それはリュウの中に放たれた。
リュウを中から汚した。取り返しがつかないくらい。
「……ああぁ」
リュウは震えていた。
恐ろしかった。
こんなふうに辱められ汚されるのが、そしてそうされても死ぬこともできないことが、リュウは怖くて仕方がなかった。
「そんなに怯えて震えるなよ。どうせデキるわけじゃなし」
その男の声はあっさりしていた。
そして、まだリュウを解放しなかった。
「オリジン様、憐れな男にお情けを。こんなんじゃ全然足りない。なあ、俺を気持ち良くして下さいよ。オマエの身体、すごくいいんだからさあ」
くすくす笑う声も、また硬く熱くなったリュウの中の他人の欲望も、もうどこか遠くにあった。
リュウは意識が白く濁っていくのを感じた。
だが、また奥を突かれて仰け反った。
男はどうやら、リュウの意識のあるなしは別にどうだって構わないようだった。
その辱めはまだしばらく続くようだった。
「……たす……けて……」
リュウは虚ろに呟いた。
彼には、この世界で縋るものはそれしかなかった。
「ボッシュ……きもちわるい、やだ、こんなの……」
もうリュウにも本当はそろそろわかっていた。
ボッシュは、リュウのことなんか本当はどうでも良かったのだ。
暗いリフトでもどこでも、泣いているリュウはいつもひとりきりだった。
そこにボッシュの姿はなかった。
それが、ほんとうの話だ。
捻じ曲げられていない真実だ。
ちっぽけなリュウなんか、本当は誰も見ていない。
だが、リュウはまだ縋っていた。
手を離さないで、と懇願する子供のように、ボッシュの腕に取りすがって、まだ。
「たすけて……おれの、」
その先はもう言葉にならなかった。
ぐんと突き上げられて、喉が詰まったのだ。
零れるものは、もう悲鳴しかなかった。
助けに来て、おれのヒーロー。おれたちのレンジャー。
街を守る、子供の頃から憧れたレンジャー。
助けて、おれの、ボッシュ。
だがもうリュウの目の前には、ボッシュの背中すらない。
心底侮蔑したような男の緑色の目だけが、嘲笑うように細くなって、ぎらぎらと輝いてリュウを見下ろしていた。
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